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武一、ミスコンを企画する。  作者: よしの
3年E組 和泉晃征
36/70

「アゲ女、キタ女、ナン女」


「お前アゲ高なの?」


 通っている塾で、隣に座った人に話しかけられた。そうだよ、と答えたものの実はまだこの呼ばれ方に慣れていない。


 『アゲ高』というのは通称で正式には上利あがり高校という。そう呼ばれるようになったのは理由があって、まず県内には上利と冠する高校が三校あり、上利高校、上利北高校、上利南高校といってこの三校は『上利三校』と言われ、いずれも県内では名門校として知られていた。アゲ高と呼ばれるようになったのは運動部が対外試合をする時の名称から来ていて、上利高校はそのまま『上利』と表記されるだけだったが、残り二校は『上利北』『上利南』と表記されるか、それすらも縮められ『上北』『上南』と表記されるようになって「アゲ北 (あげきた)」「アゲ南 (あげなん)」と呼ばれるようになり、その流れで上利高校も『あげ』だけ取って『アゲ高』と呼ばれるようになった。『あが』が『あげ』になった理由はわからないが、言い安さからそうなったんだと思う。


 その『アゲ高』は上利三校の中でも特に人気のある高校だった。理由はいくつかあるが、可愛い子が多いというのが理由として一番大きかった。


 三校にはそれぞれ特徴があって、まず進学率が一番高いのがアゲ北、スポーツが強いのがアゲ南、まあまあ頭がよくてスポーツもそこそこなのがアゲ高。地元の中学生達はそれぞれの特性にあった高校へ進学するが、上利三校の中で一番平均的なのがアゲ高だった。その事もあって受験者数は三校の中でも一番多い。一番生徒が集まるという事は可愛い子の数も必然的に多くなる。次第にそれがアゲ高の特徴の1つになった。以上が僕が透君から聞いた話だ。


「楽しそうでいいよな、アゲ高って」


 話しかけてきたのは上利北高校の生徒だった。


「アゲ北もいいんじゃないの?」


 地元民のフリをして通称を使ってみた。


「アゲ高に比べると全然だよ。ずっと勉強ばっかでさ。本当嫌になるよ。知ってる? 自称進学校って一番質悪いんだぜ」


 それを知ってて選んだのでは? と強く思ったけど、口には出さなかった。


「聞いたよ。ミスコンやるんだってな?」


 凄い。学祭の企画の一つでしかないミスコンが既に他校に知れ渡っている。


「この塾、上利三校の奴が全部集まるからすぐわかんだよね」


 なるほど。興味深い。


「そりゃやりたくなるよな。可愛い子多いし」


 あからさまに否定はしないけど肯定もしない。


「昔からアゲ女、北女キタジョ南女ナンジョって序列は変わんないからな」

「何それ?」

「知らない? それぞれ序列があんだよ。同じくらいのレベルの学校があるとさ、そういうの勝手に出来んじゃん」


 アゲ女はアゲ高の女子生徒の事。アゲ北がキタ女、アゲ南がナン女。

 ちなみにコレは団体名で個人を指す時はまた変わる。


 最初に定着したのはナオコだ。南の女の子という事で最初は南子ナンコと呼ばれていたが語呂の悪さから『ナオコ』になった。アゲ高もそれに習いアゲ高の女の子という意味で『アコ』に。本来ならアゲ北もそれに習うべきだが当てはめた時の語呂の悪さだったり「頭がいい」=「育ちがいい」というイメージから『お嬢』に落ち着いた。


 そしてそこにさらにヒエラルキーが加わって、可愛い子には『』が足されて、アコはアミ、ナオコはナオミとなった。例外なのはアゲ北だけで、お嬢に対して『姫』と呼ばれた。で、男子は女子からの派生でアゲ高は『アアオ』になり(男子とわかりやすくする為に君付けされる事が多い)アゲ南はナオト。アゲ北は女子が『お嬢』なので、それに対して『坊ちゃん』となった。


 また男子も女子と同じく階級があって、カッコいい男子、所謂イケメンは『手』と評される。これはハンサム(handsome)のハンドだけ取ったもので、使われ方はアゲ高のイケメンと付き合った場合は「アオ君の手を握る」または「捕まえた」と評された。


 ヒエラルキーの順位は上からアコ(アゲ高)、お嬢(アゲ北)、ナオコ(アゲ南)。男子はナオト(アゲ南)、アオ君(アゲ高)、坊ちゃん(アゲ北)となる。   


 組み合わせで理想的なのはアコとナオトが付き合った場合。それがさらにアミでナオトの手を握っていたとしたら、それは上利市内の高校生にとっては神懸かり的事象となる。


こういうのを言い出すのは大体女子で、しかも上利三校に属さない他校の女子が発祥らしい。地元民だけにしか通じない呼称は、仲間意識を共有するには丁度よく。当然透君も知っているし、他の子も知っている。そういう意味でもやはり僕は部外者だった。


「けどさ、実際学力だけで言うと総合ではウチ(アゲ北)かもしんないけどアゲ高も頭いい奴いるもんな。ほら、冨田とかさ」


 冨田涼順(とみた りょうじゅん)。アゲ高の特進クラス(通称K組)の男子生徒で、この塾に通っている事は最近知った。


「冨田ってココでも1番だからな。アゲ高の特進組はバカに出来ないよ」


 この前張り出されていた模試でも学年トップの成績で、上利三校の生徒が集まるこの塾でもトップという事は、県内でもトップという事だろう。


 なる程。県内トップの学力を誇るアゲ北より、アゲ高にいる生徒の方が頭がいいんだ。おそるべしアゲ高。


「俺もさ、本当は進学する時アゲ高がいいって言ったんだけど親がアゲ北出身でさ。妙なライバル心みたいなのがあるみたいで。そんなの俺には関係ないのにさ。それで結局アゲ北に入らされたんだよな」


 彼には彼の事情があったらしい。現にアゲ北に入れたという事はそこそこ頭がいいという事だ。そして僕には何の関係もない話だった。


「でもさ、やっぱ可愛い子が多い学校の方がいいよな。勉強はやろうと思えばどこだって出来るからさ」


 それは彼の言う通りだと思う。けどそんな事より気になるには、この話がいつまで続くのかという事だ。講師はいつ来るんだろう? 彼は一体誰なんだろう? ただ残念な事に僕は聞き上手だった。


「アゲ北にも可愛い人いるんじゃないの?」

「いる事はいるんだけど、そんなでもないかな。やっぱアゲ高が1番だと思う」


 彼に何と言ってやればいいのか。まあどこの学校でも楽しい事はあるよとでも言ってあげればいいんだろうか。そもそも彼は誰なんだろう?


「けどさ、ウチの学校も学祭は盛り上がるんだぜ。3年は今年で最後だし、それだけは楽しみにしてんだ」


 よかった。彼にも楽しみがあるらしい。楽しい事がある事はいい事だ。彼は少し愚痴りたくて、それを誰かに聞いて欲しかったようだ。ただその相手は別に僕じゃなくてもよかった気がするが、人見知りなクセに話しかけられやすいキャラクターを僕自身反省する必要があった。


 彼の話を聞いて、なぜ冨田君はアゲ北に行かなかったんだろうと思った。冨田君の学力なら当然入れただろう。


 教わりたい先生がいたから? 家が近かったから?


 そんな事を考えながら、もし冨田君がアゲ高を選んだ理由が、可愛い子が多い事だったしたら面白いなと思った。中身は結構男なんだと思うと可笑しかった。


「なに1人で笑ってんの? 気持ち悪いな」


 彼が誰なのかは最後までわからなかったけど、少し透君に似ているなと思った。


○ヒエラルキー


男子 アゲ南→アゲ高→アゲ北

女子 アゲ高→アゲ北→アゲ南


○名称


アコ=アゲ高女子

アミ=アゲ高女子の可愛い子

アオ君=アゲ高男子


ナオコ=アゲ南女子

ナオミ=アゲ南女子の可愛い子

ナオト=アゲ南男子


お嬢=アゲ北女子

姫=アゲ北女子の可愛い子

坊ちゃん=アゲ北男子

王子=アゲ北男子のカッコいい子


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