「トオルとコウセイ」その2
昼休みは、透君と中庭にある花壇のレンガに座って昼ご飯を食べるのが日課になっていた。
「コウセイ、お前ミスコン誰に入れるか決めた?」
「ううん、まだ。まだみんな事わからないし」
「本当つまんねえ奴だよな」
透君が誘ってくれるのは、僕に気を遣ってくれているからだ。
「大門と結城ぐらいは知ってんだろ?」
「名前は聞いた事あるくらいかな」
「マジで言ってる? 集会とかで見た事あるだろ。結城って生徒会長やってたから」
「あんまりちゃんと見てないかも」
「お前さ、そもそもミスコンに興味ある?」
「あんまり」
「あのな、冷めた感じでいるとアゲ高だと敬遠されるぜ? 俺もそういうの好きじゃないけどさ。それがこの学校の伝統だから」
「僕は変わらないかな」
「は。お前らしいわ」
学校に興味を持たないのは僕の基本性能だ。
透君は鼻で笑いながらパンをかじった。
「あ、コウセイ。あそこ歩いてる子わかる?」
「どこ?」
「そこ。男子の後ろ歩いている子」
中庭の花壇からは正面の渡り廊下がよく見える。背の高い男子の後ろを、少し小柄で綺麗な黒髪をした女の子が歩いていた。
「あれが結城な」
「へーあの子が結城さんなんだ。凄く可愛い人だね」
「そ。ルックスだけじゃなくて頭も良くてさ。1番でこの学校入ったから」
「そうなんだ」
「性格もよくてさ、話すと面白いし結構キャラもいいんだぜ」
少し得意気に話す透君は結城さんと話した事があるようだった。
「よくさ、テレビで流行ってるモノマネとかあんじゃん? そういうのアイツやったりすんの。ああ見えて周りを楽しませようとする所があってさ。で、そういうのってウケたりすると色んな奴からやってって言われるじゃん? けどいちいち答えたりしてたら面倒だろ。けど結城って人がいいからさ、振られたら絶対やんの。次こっちーとか言われても笑顔でやってんの」
「いい人なんだね」
「俺、結城が何か頼まれて断わってるの見た事ないもん。だからお前も結城と話してみたらいいよ。すぐ仲良くなれるから」
透くんは僕が知らない事だと嬉しそうに話す。僕に興味があるかないかは気にしてないらしい。
「けど絶対好きになるなよ。結城がいい奴だから勘違いする奴多いんだけどさ、絶対結城とは付き合えないから」
「そうなんだ」
「あっ見てみ。戻ってきた」
結城さんが渡り廊下を歩いていて、さっき一緒に居た背の高い男子はもういなかった。
「どうせまた告られたんだろ」
「そうなの?」
「さっき男と一緒に歩いてたろ? 結城が男と2人でいる時って大体告白されてる時だから」
そう言えば最初2人で歩いていったのは体育館がある方向だった。告白は体育館裏というのはどこの学校でも同じらしい。
「結城って友達多いからさ、大体誰かと一緒にいるわけ。だから中々1人になる事なくてさ、取り巻きみたいな女子がいっつもくっついてんの。そんな結城が男と2人でいるって事は呼び出されたって事だから。呼び出すって事はそういう事じゃん? だから男と2人でいる時は大体それ。で、色んな奴に告白されんだけど全部断んの。誰にもOK出さない。さっきの奴もどうせダメだったんだろ」
「凄いモテるんだね」
「誰とでも話すし、態度変えないからな結城は。それで勘違いしちゃうんだろな」
「断るって事はもう付き合ってる人がいるのかな?」
「今は誰とも付き合う気ないって言ってるらしい」
「そうなんだ。結城さんは好きな人とかいないのかな?」
「さあ? どうなんだろうな」
透君は何か知っているようだった。
結城さんの話はそれで終わって、弁当を食べているとまた透くんが渡り廊下を指差した。見ると女子3人が歩いていて、その中に一際目立つ女子生徒がいた。聞かなくても透君が指さしたのはこの人だとわかった。
「あれが大門」
ここから渡り廊下は少し離れていて見えたのは横顔だけだったけど、その美貌は充分わかった。
「そっか。あれが大門さんか」
「な? 断トツだろ?」
「うん。クラスでも話してる人がいたから名前は聞いた事あったけど。凄く綺麗な人だね。モデルさんみたい」
「大門は何もしなくてもいい女だからな。高校生には見えねーよ」
大門さんを見たのはこの時が初めてじゃないような気がした。
「大門ってクールな感じに見えるけどキャラもいいんだぜ。結城とはタイプ違うけどスッキリしてるって言うか、何か格好いいんだよな」
「気軽に話しかけられない感じするね」
「実際気も強いしな」
大門さんは何かそういう空気を纏っている。
「けど大門って案外ドMなんだぜ」
「そうは見えないけど」
「ああいう気が強そうなのに限ってそうなんだよ。それって結構常識だぜ? そう見えない奴がそうなのってよくあるじゃん」
透君と大門さんの関係性はよくわからないけど、透君が誰かの事を勝手に分析して話すのが好きな事は昔からなので気にしなかった。
「お前はどっち? 大門と結城」
「うーん。わからないけど、どちらかと言えば結城さんかな」
「まあ、妥当だな」
「なんとなくだけどね。2人とも話した事ないし、話せるとしたら結城さんかなって。大門さんとはあんまり話せる気しない。透君は?」
「俺は断然大門。大門の方が色気あるから。結城は可愛いんだけど子供っぽいっていうか、女に見えないんだよね。そもそも俺はあんまいいとは思わない」
「そうなんだ」
「ま、2人共人気者だから。男子の中でも大門派と結城派に別れんだよ。可愛らしい感じが好きな奴は結城で、大人っぽくてエロいのが好きな奴は大門。妹タイプかお姉さんタイプかって事だな」
「大門さんは付き合っている人とかいるの?」
「わかんない。大門はマジでわかんない。大学生とか社会人と付き合ってるって言われたりしてるけど本当かどうかわかんないし。本当でも変じゃないし。誰も居ないって言われてもそれはそれでって感じだし。よくわかんねーんだよ大門は」
「結城さんみたいに、みんなに告白されたりとかはしないの?」
「ないな。中には告った奴もいるんだろうけど。結城は単純に言いやすいんだよ。それに大門に告る奴って相当だぜ? 結城と違って敷居高いし、寄せ付けないし。なんつうのかな、大門って存在自体が冷たいんだよ」
それだけ聞くと嫌な人のように聞こえる。大門さんの事を知らない僕は何のフォローも出来ない。
「大門に告ったって話はあんまり聞いた事ないな」
「あれだけ美人だと理想とかも高くなるのかな?」
「どうなんだろうな」
透君は相変わらずおしゃべりで僕は聞き上手だった。
昼休みが終わりに近づいて2人して立ち上がった。
「コウセイってE組だよな?」
「うん」
「じゃあ、新田いるだろ?」
「うん。新田さんいるよ」
「よかったな。新田も人気あるから。大門と結城がいなけりゃ、ミスコン取ってもおかしくないからな」
「そうなんだ」
「新田って男女関係なく友達多いから。同じクラスになると新田きっかけで女子とも仲良くなりやすいんだよ。そういうのって何か楽しいじゃん。だから新田と同じクラスになりたい奴って結構いるんだよな。新田のクラスって毎回楽しそうだから」
「ムードメーカーってやつだね」
「才能だよな。一種の」
新田さんの事は同じクラスの事もあってよく知っていた。たまたま同じクラスになっただけだけど、人柄は接してみてよくわかったし、僕の経験上こんなに気さくに接してくれる人は初めてだった。
だから僕にとっては大門さんや結城さんよりもずっと身近な存在で。透くんにはミスコンに興味ないと言ったけど、ミスコンの話を聞いた時、最初に頭に浮かんだのは新田さんだった。




