ヘッド その5「スイスイニンジャ」
「話すと結構面白いぜ」
武一にそう言われて納得した。やっぱりそうか。
大人しく見えるが、自分の意見をちゃんと持ってそうだし、芯の強さは何となく想像出来た。
・授業が終わるとヘッドホンをつける。
・話している所は滅多に見ない。
・何考えてるかわかんない。
・謎。
それがヘッドのイメージ。どれだけ仲がいいかはわからないが、武一は俺の知る限りヘッドと話せる唯一の男子だ。その武一が言う『面白い』には納得がいった。今だってそうだ。体育の時間、輪の中心から外れた端っこで1人行儀良く体育座りしているヘッドは無性に可愛いく見える。そんな事今まで気にした事ないし、思った事もなかったが、今はハッキリと言える。ヘッドはちょっと可愛い。「どこが?」と言う奴がいたら小1時間は説教出来る。
今なに考えてんだろう? 話しかけたら何て言うかな?
授業中に大声で喋っている女子がいても、ヘッドは我関せずでいるが本当は「うるせーんだよブス共が。下民は黙ってろ」と頭の中でディスっているかもしれない。いきなり肩パンしたらヘッドはどんな反応するんだろう。そんな事を試してみたくなった。
「普段はすげえ静かだけど、結構逞しいんだ」
武一はこうも言っていて、ヘッドがキレたら恐いというのは何となく想像出来た。1年の時の跳び蹴り事件の事もあるし、普段大人しいからこそ、そう見られるんだろう。
「ま、そんな事ほとんどないけどな」
まあそうだろ。
「ヘッドに嫌われるって相当だぜ」
それは最もだと思った。
ヘッドを怒らせる事はないだろうけど、今の感じだと何かやらかしてしまいそうだ。けど感情をむき出しにしたヘッドを見てみたいという気持ちもある。
それから少し経った後。授業が終わってヘッドが立ち上がった。教室を出て行くと廊下に出てそのまま歩いていった。ヘッドはとても丁寧に歩く。というか、すり抜け方が凄く上手い。前を塞ぐ障害物(ダベってる連中)をスイスイとすり抜けて行く。まるでスケートリンクを滑っているみたい。連中は一歩も動く事なくヘッドが綺麗に避けて通る。多分連中はヘッドが通り過ぎた事にも気づいていない。ヘッドはそのまま廊下を歩いて行って、、、そもそもどこ行くんだ? トイレか? イヤ、もう通り過ぎた。
見ると別の教室のクラスの前に、ヘッドを待ってるらしき女子がいる。歩いてきたヘッドに気づくと軽く手を振って、そのまま喋り出した。
あれ? ヘッドホンはしたままだ。あ、外した。そうだよな。
少し話すとバイバイしてその子は教室に入っていった。ヘッドはその子を見送るとヘッドホンを付けて、またスイスイと滑る様にして忍者のようにD組の教室へと戻って来ると、そのまま自分の席に着地した。
「……」
何だろう。見てて飽きない。ずっと見てられる。
俺は完全にヘッドにハマってしまった。




