「三月芽衣」
学祭でのクラスの企画が焼き鳥のテナントと決まって、なぜかクラスの代表に決まってしまった俺は場所取りの事で実行委員に話に行った。そこで仕切っていたのが三月だった。
「自分のクラスばっかじゃなくてさ、もっと全体の事考えなよ」
場所取りについてほんの少し希望しただけで強烈な釘を刺されてしまった。結局は三月の考えた配置に収まり、これまた何故かクラスの代表にされていた太一と帰りがてらに反省会を行った。
「なんで三月ってああなのかな?可愛げがないっていうか」
「生意気過ぎんだよ。黙ってりゃ普通なのにな」
そう言った後すぐに「可愛いとは言ってないよ、可愛いと思った事は一度もないよ」と太一は付け加えた。
「言い方とかもさ、いっつも上からじゃん?もっと普通に言やいいのにさ」
「それは本当思う」
そう言った後である事を思い出した。
「太一ってさ、三月に告白された事ある?」
「ないよ。ある訳ないじゃん」
「俺、あるんだよね」
「え?あるの?告白されたの?三月に?いつ?いつの話それ?」
「1年の時かな」
「マジで?初めて聞いたけどそんな話」
「三月に呼び出されてさ、私の事好きなら付き合って上げてもいいけど、って言われた」
「何それ?超上からじゃん。それ告白って言うか?チュージが三月の事好きな前提で言ってんじゃん」
「そう。だから言ったよ。俺、お前のこと別に好きじゃないけどって。道に吐かれたゲロ見るような感じで」
「うん。んで?」
「終わり。あっそうって」
「は?なにそれ?」
「後になって気づいたんだけど。あれって三月なりの告白だったんだなって。その時はいきなりだったし三月の事好きじゃないし。そもそも告白されるなんて思ってなかったし。三月の質問に答えただけで。で、後でもしかしてと思って、で三月と仲いい女子に聞いてみたら俺の事マジで好きだったらしくて」
「うわー。何か引くわ」
「だからさ、三月ってそういう奴なんだよ」
「頭おかしいって事?」
「じゃなくて。なんつうんだろ上手くないだよね。つーかすげえ下手なんだよ。人との、特にその異性というか男との接し方がよくわかんないんだと思う」
「ツンデレって事?」
「そんな可愛いもんじゃないと思うけど。相手が男ってだけで構えるんだと思う」
「でもアイツ上級生の男子とは普通に話してたりするぜ」
「それはアレだろうな、リスペクトがあるんだろうな。一目置いてる奴なら普通に話せんじゃない?」
「じゃあなに?俺らは三月に見下されてるって事?」
「上には見てないだろ」
「じゃあなんで見下してんのに告白すんの?」
「だから葛藤があったんだと思うよ。だからあんな言い方しか出来なかったんんだと思う」
太一と窓から見える夏の空を見上げた。入道雲が勇ましい
「何なんだろう。普段三月の事考える事なんてないけど、そんな面倒くさい奴だったんだな」
「うん。だからそもそも俺らに手に負える相手じゃないんだよ。相当大人っていうか、包容力ある奴じゃないと相手出来ないだろうな」
「とてつもなくどうでもいいな」
「うん」
「けど三月がチュージの事好きだったのには驚いたな。今の感じ見てても想像つかねーもん」
「な」
「その後、何か言ってきたりしたの?」
「何も」
「わかんねー」
笑っている太一の横顔を見ていると少し殴りたくなる。完全に他人事な反応だ。
「夜祭でまた告られたるするんじゃないの?」
「ないって。それ1年の時の話だし」
「いやいや、ないって事はないって」
「なんで?夜祭ってそういう感じなの?」
「うん。夜だし全然あるでしょ。ていうか夜祭のメインってそれでしょ?」
「メンドクセー。そういうの俺、嫌なんだよね。学生っぽくて」
鼻で笑う太一を軽く殴った。
それからも学祭の関係で三月と会う機会がちょくちょくあった。少し俺たちの中でも三月に対する扱いが変わっていった。
「あの後さ三月と話す事あって、でチュージの話思いだしてちょっと笑ってたらさ『なに笑ってんの?』って三月が絡んできてさ。今までだと『うるせー笑ってねえよ』って返すんだけど、何かそう出来なくてさ。いや何もないって言って。俺が突っかかって来ないから三月も調子狂ったみたいで何か不思議そうな顔しててさ」
太一は楽しそうに話し続ける。
「なんかちょっと今は可愛いなって思ったりもしてさ。自分のプライド守るのに必死なんだと思うとさ。じゃないとあんな告白の仕方しねーだろ?超ダサいじゃん。自分の事傷つけまいと必死なんだろうな。そう思うと三月にキツく当たるのヤメとこうと思って」
「それって、三月の事見下してない?」
「ちょっとはあるかもしんないけど」
「けど?」
「なんだろ。三月の事すげえ強いとか思ってた訳じゃないんだけど、けどいっつも強がってんじゃん?そうしてるとそういうの意識しづらいじゃん。けどそういう話聞くとさ、なんかダセーし。弱いところがわかったって言うか、三月も女なんだなって思ってさ。それを見下してるって言われたらそうなのかもしんないけど。なんつーかな、もう少し優しくしようって思ったんだよね」
「じゃあお前、ミスコンで三月に入れんの?」
「ない。それは絶対ない」
そう言い切った太一はここ最近みた中で一番男らしく見えた。
「だって三月だぜ?それに1人三票までしか入れられないのにさ。3年だけでも色々いんのに浜崎や久白ちゃんだっているんだぜ?悪いけど割り込む余地ねえよ」
「相手が悪いか」
「うん。悪くなくても入れないと思うけど」
「三月のいいとこって何か思いつく?」
そう言うと太一は顎に手をあてて首を傾げたまま暫く動かなくなったが、やがて顔を上げた。
「胸がデカイ」
「それな」
「どんなにムカついてても、三月のおっぱい見るたびにコイツも女なんだなって思う」
「それな」
「絶対に付き合いたくはないけど、1回見てみたい」
太一と一緒にいて、こんなに頷いたのは初めてだった。




