表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武一、ミスコンを企画する。  作者: よしの
3年C組 中山哲二
14/29

「ミスコンのチラシと浜崎とクジラちゃん」


 廊下を歩いてると太一を見つけた。

 太一とは1年の時同じクラスで、そこには武一と亮平も居て、女子は大門、結城、新田も居たりして今思えばなかなかに最強のクラスだった。


 太一は珍しく難しい顔をしているようだったので、後ろから勢いよく飛びついてやった。


「なに?バカ、苦しいって」


 腕をタップしたので放してやった。羽交い締めにしてる間も太一は持っていた紙を放さなかった。


「なにそれ?」

「ミスコンのチラシだって。奥村に貰った」


 なるほど。そりゃ熱心な訳だ。


「これ見ると結城が一番可愛く見えない?」


 太一が指した結城の写真には、大きな字で『聖母』と書かれてあった。キャッチコピー的な物らしい。


「なにコレ?てか、誰が作ったの?」

「だから奥村」

「大丈夫なの?奥村って学祭のオープニングも作ってなかった?」

「そう。俺はいいと思うけど」


 映像に詳しい奥村が、その知識を活かしてミスコン用の映像を作っている事は知っていた。


「なあ、こうやって写真だけ見たら結城の方がよく見えない?」

「そう?大門もそこそこだと思うけど」

「俺は結城かな」

「でもお前、大門にも入れるだろ?」

「オレ?俺、大門には入れないよ」

「そうなの?」

「だって、ほっといても大門には票入るだろうし。どうせならクラスの子に入れようかなって。チュージは?」

「まだ決めてないけど、大門と結城は多分入れるだろうな。後はそうだな、クラスの子に入れるかも」


 少しだけ嘘を付いた。その時まだ誰に入れるかちゃんと決めていなかったのは本当だ。

 チラシにはK組の上澤ひら()も載っていた。人一倍清楚な見た目をしている。


「一応、上澤も載ってんだ」

「うん。K組では1番だしな。上澤って朝ドラだと、ヒロインの友達役とかで出てきそうな感じしない?」


 太一は朝ドラにハマっていて、家族で見ているらしい。


「活発なヒロインを影で支える親友みたいな。妹でもいいかもしんないな。ちょっと健気な感じ?結城は完全ヒロイン顔だもんな。大門はちょっと作品によるかな。ライバルとかがいいかも。ちょっと気の強そうなさ。で、最初は冷たい感じだけど段々友達になるっていう…」


 太一の話はほとんど耳を通り過ぎていた。そんな太一の朝ドラ話より気になる事があった。


「上澤ってさ、俺らの事知ってると思う?」

「さあ?顔ぐらいはわかんじゃない」

「そうかな?俺、知らないと思うよ」

「そんな事ないだろ?一応、同じ学校に通ってる訳だし」

「いや。わかんないと思う。外ですれ違ったとしても無視される。声かけたら絶対『誰?』って顔されると思うぜ」


 悲観して言ってる訳じゃなくそれが事実だと思った。

 前、学校で上澤を見かけた事があって、珍しさついでに何となく眺めていた事がある。見てたらそのこちらを見るかと思っていたが上澤は一瞥もする事なく通り過ぎて行った。俺の存在すら気づいてない感じだった。


「そういうタイプには見えないけどな。俺もすれ違った女子の顔なんていちいち見ないし」

「それはそうなんだけどさ、何か上澤の場合違うんだよな」

「なにが?」

「なんかナチュラルに見下してる感じ?そういう感じするんだよな」


 上澤には大門とは違う敷居の高さというか寄せ付けない感じがあった。もちろんそれは良い意味ではない。


「例えばさ、でっかい交差点ですれ違ったとすんじゃん?大勢とすれ違うんだけど個人としては認識しないじゃん。なんかそれに似てる。学校以外で会っても絶対気づかないと思う」

「そんなもんかな」


 そんなもんだ。「あとさ」と前置きして言った。


「朝ドラで例えるのやめてくんない?俺見てねーし、わかんないから」

「え?そうなの?」


 不思議そうに見るのはやめてほしい。


「そもそも朝ドラっておじいちゃんおばあちゃんが見るもんだろ?俺らの歳で見てる奴なんていねーから」

「そんな事ないって。みんな結構見てるって」

「聞いた事ねーよ」

「見た方がいいよマジで。幸せになるから」


 この意味のないやりとりに本当に意味はなくて。そんな時間が後々何かの役に立つかどうかはそいつ次第だ。みたいな事を誰かが偉そうに言ってたのを思い出した。


「あとさ、このチラシ見て気づいたんだけどさ、今回のミスコンって3年だけでやるんじゃないんだな。俺てっきり3年だけでやるもんだと思ってて。でもチラシ見たら1、2年の子も載ってるしさ。で、よくよく考えたら学祭なんだから当たり前かって。そういや武一も女子全員が対象だって言ってたなって」


 太一がさっき難しい顔をしていたのはそれが理由だったようだ。見ると確かに大門や結城、その他3年の女子以外にも1、2年の子が載っていた。


「そもそも1、2年に目ぼしい子っていんの?」

「ほら、2年には浜崎がいんじゃん」


 浜崎結衣(はまさき ゆい)。目がパッチリとした、プライド高そうなお嬢様。写真を見るだけでキツそうな性格が伝わってくる。そう思った所で見た事がある子だと思い出した。


「あー。浜崎ってあの子か?」

「そう。俺らが2年になった時すげえ可愛い子が入ってきたって話題になった事あったじゃん?それが浜崎」


 確かにそんな事もあった。その顔を見ようと1年の教室に通った事があった。「マジ可愛い」「大した事ねーな」など口々に言ってた事を思い出した。写真を見ると1年の頃より少し大人っぽくはなってるようだが、使われてる写真も「私、可愛いでしょ?」が全面に溢れていて、こういうのが好きな奴も居るんだろうが俺はハッキリと苦手だった。その浜崎には『小悪魔』というキャッチコピーが付けられていた。『性悪』の方が合ってるような気がする。


「で、2年は浜崎で、1年はこの子」


 太一が指差したのは浜崎の隣の枠に写っている子。『久白 愛(くじら あい)』と名前が書かれていた。


「マジ?こんな子いたっけ」


 飛び抜けている。ズバ抜けた透明感が写真を見ただけでもよくわかった。今年の1年については何も知らなくて、噂で聞いた事もない。大門と結城の扱いが大きいので目立ちはしないが、よく見るととんでもなく可愛い。ショートカットがよく似合っていて、笑顔も可愛い。弾ける笑顔とはこういう事を言うんだろう。その透明感は写真からでも十分伝わった。その子には『天使』というコピーがついていて、奥村のセンスは疑わしいが、まあ言わんとしている事はわかる。


「な?すげえ可愛いだろ?俺もコレ見て知ったんだけどさ。アイドルとかにいてもおかしくないよな?」

「確かに。不思議じゃないかも」

「1年はこの子がダントツだろうな。久白くじらちゃん」

「くじらって読むんだ?名前も変わってんな」

「何で今まで話題になんなかったんだろ」

「他にもこのくらいのレベルの子っていんの?」

「いや、ここに載ってるので全部だと思う。1、2年は浜崎と久白ちゃんしか載ってないし、学年で人気ナンバー1って書いてあるから」

「そういうのもちゃんと調べてんだな」

「うん。奥村も武一に頼まれたって言ってたし。実行委員に1、2年もいるから。そいつらにも聞いたんじゃない」


 そのままチラシを見ていると、ある事に気づいた。


「これヤバいかもな」

「うん。この可愛いさはヤバいと思う」

「いや、じゃなくてミスコン。下手したら大門と結城食われるぜ?」

「それはないだろ?確かに浜崎も久白ちゃんもレベル高いけどさ、大門と結城程じゃなくない?そんな知られてもないだろうしさ。知らない?大門と結城って1、2年にも人気あんだぜ」

「じゃなくてさ、3年は2人いるからヤバいんだよ。同じ学年に可愛い子が2人いたら票が割れるだろ?それに新田とかもいるしさ」

「あーそういう事か」

「同じ学年に対抗馬いないなら、この2人ガッツリ票持ってくぜ」

「1、2年はそうか。同じ学年だったら絶対入れるだろうな」

「だろ?しかも1人三票だぜ。3年は絶対票割れるだろうし。このルールでやると優勝持ってかれるぜ」


 うーんと頭を掻いた後で太一が言った。


「いや。でもやっぱないよ。今のアゲ高で大門と結城に勝てる奴いないと思うよ。武一も言ってただろ。あの2人はバケモノだって」

「そうだっけ?」

「そう。特に大門。ここにも書いてあんじゃん」


 ミスコンのチラシには堂々とした出立ちで笑顔の全くない大門が載っている。どちらかという無愛想な表情でピースした大門の写真には『圧倒的』というキャッチコピーが付けられている。


「大門抑えてトップになるなんてありえないって」


 太一は何か確信めいたようにそう言った。「でもお前は大門には入れないんだよな?」と突っ込めばよかったと後で少し後悔した。


 その後、奥村が作ったチラシは量産されたらしく、あちこちで見かけるようになった。そこには大門、結城以外にも新田や上澤、その他にヘッドも小さく載っていたりして、新田達はともかくヘッドに目を付けたのはさすがだなと少し奥村を見直したりもしたが、明らかに有力者とそうじゃない奴とで写真の大小が異なるので、チラシの段階で順位付けすんのはどうなんだ?という思いがよぎった。


「それさ、女子のいる前で絶対見んなよ」

「なんで?」

「だってあからさまじゃん?しかもさ女子全員が対象って言ってんのに、結局いつものメンバーじゃん」

「そっか」


 太一はチラシを丁寧に折るとポケットの中に締まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ