「チュージと武一」
朝、チャリに乗って学校に向かっていると後ろから「チュージ」と呼ばれて振り返ると、立ち漕ぎしながら武一が近づいて来た。武一は珍しく浮かない顔をしていて、理由を聞くとミスコンの事らしく「やっぱやろうって言わなきゃよかった」とボヤいていた。普段何かあっても動じる事の少ない武一が考え込んでいる様子は、武一を知ってる者からすると少し珍しくも感じるが、まあそんなもんかとも思ったりもする。
「チュージさ、ちょっと変わってくんない」
「嫌だよ。めんどくせー」
中山の「中」と哲二の「二」をくっつけて、いつからか「チュージ」と呼ばれるようになった。
「お前、そういうの得意じゃん」
そう言うと、武一は「全然」と言って首を振った。
「本当苦手だわ。こういうの」
そう言って仕切ってみせるのが武一だった。
武一は俺達3年の間ではリーダー格で、男子からも女子からも一目置かれている。
落ち着いていて頼り甲斐がある。たまにバカもやるが、やり過ぎない。男子の中で一番大人なのが武一だった。だから本人の意向とは関係なく、周りに担がれて前に出される事が多かった。けど本人はそういう扱いが苦手らしく。まあ目立つ奴が目立つ事を嫌がるのはそう珍しい事でもない。周りが担いでるだけで、自分にはリーダーや纏め役に向いてないという自覚があるんだと思う。けど本人の評価と周りの評価が一致しないのも珍しい事じゃない。誰が見ても、集団を纏めたり引っ張っていくのは武一が一番適していた。だからこんな風に武一が考え込んでるのを見ると、そういやこういう奴だったっけ?と思い出す。武一が自信なさげに言うのは責任感が強く、人一倍真面目だからなんだという事は武一を知ってる奴ならみんな知っている事だ。なんだかんだ言いながらきっちりこなすし、出来もいい。武一はボヤいているが、端から見れば全然大した事なくて。今考えてる事もきっとそうだろう。考え込むのはちゃんと考えるからで、それが武一のいつものスタイルだった。




