「大門莉華」
大門とは1年の時、同じクラスだった。
初めて見たのは入学式で、同じクラスの女子の列に一際背が高くてスタイルのいいポニーテールの子を見つけた。『育ちがいい』が最初の印象。例えば結城なら、結城も確かに可愛いが結城の可愛さは雑種の可愛さで、言うなら普通の可愛いさ。もの凄く目立つ普通の子。それが結城。大門の場合は少し違って、血統の良さ、少し浮き世離れした存在に見えた。大きな家に住んでそうな、きっと親は金持ちで、母親はとんでもなく美人だろう。
そんな大門に距離を感じた事と、元々の取っ付き憎さもあって、クラスは同じだったが大門と話す事はなかった。そんな大門を意識するようになったのは、それから暫く経った後だ。
休みの日、少し遠出して行った大型書店で大門を見かけた。学校以外で見る大門はそれが初めてで、大門はTシャツに短パンというかなりラフな格好で、寝巻でそのまま出て来たような感じだった。人の出入りの多い書店で大門のその格好は少し浮いて見えて、何というか、少し際どくも見えた。白いTシャツは下着が透けそうで、履いてるパンツもすごく短い。整った顔立ちと細い手足が、より際立って見えた。美少女とはこういう事を言うんだろう。そんな事を思いながら、無防備な危うさに思わず見とれていた。そんな大門に声を掛けるなんてとてもじゃないけど出来なくて、ただ遠くから見つめていた。それから俺はハッキリと大門を意識するようになった。
普段クールな印象が強い大門は、意外にイベント事に熱心だったりする。体育祭のリレーとかでも全力で走る。そういう事がちゃんと出来る奴。素直に好感を持ったし興味が湧いた。どんな子なのか話したくなる。学祭が終わった後にクラスの中でちょっとした打ち上げがあって、その時初めて話しかけた。
「大門、めちゃ頑張ってたじゃん」
「ありがと。なんか恥ずかしいな。けど、後もうちょっとだったんだけどな。凄い悔しい」
話してみてわかる事だけど、意外に話しやすい。というか他の女子よりも全然話しやすい。何というか凄くサッパリとしている。気を遣わなくていいし、どこか男前。思ってたイメージと違う。普段の寄せ付けない感じは、少しシャイな性格が影響しているんだとわかった。いつもニコニコしてる訳じゃなくて、どちらかという人見知り。
そんな俺はたまにボーっと大門を見ている時があって、簡単に言うと見惚れてしまって、それで何度か大門に突っ込まれた事がある。
「あのさ、あんまり見ないでくれる?恥ずかしいから」
「見てねーよ」
このやりとりが俺と大門の挨拶みたいになった。大門といると楽しかった。
そんな大門の人気が爆発したのは2年になってからで、それまではちょっと綺麗な子というぐらいで、特別目立つ存在じゃなかった。それまでは結城やK組の上澤の方が男子の中では人気があったと思う。そんな大門が、確か夏休み開けだったと思うが、久々に見た大門は髪が短くなっていた。それまでロングのポニーテールだった髪をバッサリと切っていた。ワンレンに揃えたショートボブで、それがキマり過ぎる程キマっていて。それまでどこか幼さが残っていたのが消え去って。それまで少女だったその子は完全な「女」になっていた。
大門の変化にはほとんどの奴が喰いついて。今まで気にかけてなかった女子が、ある日突然その本領を発揮したもんだから当然男子の間では話題になった。
そして見た目スーパーな大門は、話してみると意外とキャラもいい。大門にしたら普通に返しただけでも「あれ、こんな子だったんだ」と周りは思う。親しみがわく。そういうトコも大門の人気を後押しした。
大門自身が何か変わった訳じゃない。髪を切った事で何かしら心境の変化はあったのかもしれない。けど話しやすいのは前からだし、見た目がいいのも元からだ。人見知りな所も変わらないし、相変わらず寄せ付けない雰囲気はあった。イメチェンしたのがハマっただけ。変わったのは周りの扱いだ。だから大門自体は何も変わらない。けど俺は、自分が知っている大門が居なくなってしまった様な気がして。周りの評価が上がるのとは逆に、それから俺は大門を遠ざけるようになった。
大門はアゲ高の中では知らない奴がいないくらい人気がある。けど友達が多い訳じゃない。独特な空気を持った子で、普段連るむ人間も限られている。敬遠されているというより、周りが遠慮して近づこうとしない。普段大門と絡みがない奴とか、特に男子からすると大門はかなりクールに見えるようで、黙っていると怒ってるみたいに見えるし、その整い過ぎた見た目もあって話しかけるのには少し勇気が必要だった。現に俺も大門と話すまでは似たようなイメージを持っていて何か話しかけてもつまんなさそう、な感じ。けど話してみると印象が変わった。というか、ある意味予想通りで簡単にいうと大門は凄く大人で、そして余裕があり過ぎた。とても同じ時間を生きて来た同い歳の人間とは思えない。確かにちょっとビビる感覚はわかる気がする。それぐらい大門は完成していた。
そんな大人過ぎる大門に、特に男子は気後れしてしまうようで。けどそんな空気が大門を大門足らしめている要因でもあり、また今回のミスコンの筆頭に上げられる理由でもあった。もし大門に結城や新田のような気安さがあれば、そもそもミスコンなんてやろうなんて言い出さなかったかもしれない。それぐらいその存在は圧倒的だった。
大門とは2年になってクラスが変わった事もあって話す機会は減っていった。でも今とは違って、顔を会わせば話すぐらいの仲ではあった。いつからかすれ違っても声を掛ける事はなくなって、目が合う事もなくなった。それが段々と当たり前になっていった。もしかしたら大門から話しかけようとしてくれた事はあったかもしれない。多分、そんな気配を感じた時、俺はいつも避けてしまった。見た目の華やかさにビビっていた。レベルの違いを感じた。
そんな大門の高2の夏デビューがあって、それから女子の話題になった時、必ず大門の名前が上がるようになった。俺は生粋の大門派。けどそこに友人の意味は含まれてない。テレビで見る芸能人と同じだ。俺の中での大門はそうやって段々と消えていった。




