エピローグ
その日は国中が賑わっていた。
人々は美味しいものを食べ、お酒を飲み、祝いの言葉を述べる。
当たり前だ。
今日はこの国の新たな皇太子が誕生するのだから。
「いやあ、先代皇帝がひどかったからどうなるかと思ったが、いい国になった」
「それもこれも全て皇后様のおかげよ。あのかたのおかげで、孤児たちが路頭に迷わずにすんでいるんですもの」
「あの孤児院から出た子どもたちは仕事熱心でいい子ばかりだ。今や人材の取り合いになっているようだぞ?」
「あのお店のレース、今じゃ半年待ちだとか。早く買えるといいのだけれど」
たくさんの声がする。
そんな楽しげな声は、ここ皇宮にまで届いていた。
「あーあ。私が皇太子になりたかったなぁ」
「無茶言うな。双子の僕がなるんだから、実質お前がなったようなもんだろう?」
「まあいいけど。私は最高にかっこいい私だけの王子様を見つけるんだから!」
自身の片割れ、夢見る少女―エメ―を見ながら、今日皇太子となる―レオ―は軽く肩をあげた。
この妹であるエメは、容姿は母にそっくりであるのに夢見がちなところがある。
その名の通り愛されるために生まれてきたと言わんばかりに、恋に恋する乙女だった。
「宰相の息子はどうだったんだ? 会ったんだろう?」
「ダメよ! 私をお嫁さんにする人は、お母様やお父様、それにレオより私を愛してくれないと!」
「そりゃまた難しいな」
世の中の兄妹とは、もう少し殺伐とした関係だと聞くが、残念ながらこの兄妹は違った。
兄であるレオはエメを愛している。
――もちろん、妹として。
そしてそれは両親もだった。
「お前が結婚する時は……父上は荒れるだろうな」
「愛されてますから!」
「知ってる」
もうじゅうぶん愛されているだろうエメは、しかしそれだけでは足りないらしい。
「私だけを愛してくれる王子様。必ず捕まえてみせるわ!」
「まあ……頑張れ」
まるで獣を狙うハンターのようだ。
少なくともお姫様ではない。
だがきっと彼女は狩人が如く、最高の相手を射止めることだろう。
なんとなくそんな気がするのだ。
「ま、それは一旦置いといて。……がんばりなさいよ」
「ああ。またあとで」
バイバイと手を振ったエメを見送り、レオは大きな扉を見上げる。
この扉が開き、中へと入ればレオは皇太子となる。
それは次の皇帝を意味する。
果たして自分に務まるだろうか?
父のように民のために生きれるだろうか?
「――いいや」
なれるに決まっている。
いや、父をも越える最高の君主となるのだ。
その自信なら、生まれた時から持っている。
「レオ殿下。――お時間です」
「…………開けてくれ」
扉が開く。
眩いばかりの光があふれて、思わず目を閉じそうになりながらも必死に我慢した。
この光景を、目に焼き付けるのだ。
「――行くぞっ」
かくして、少年レオは皇太子となり十年後。
父の後を継ぎ、皇帝となる。
そのころには彼の名声は世界中に知れ渡っていた。
隣国を束ね同盟を結び、戦争をなくした平和の明君として――。
完
完結しました!
ここまでお読みくださりありがとうございます。
次回作もがんばりますのでよろしくお願いいたします!




