愛が降り注ぎます
聞いた話によれば、あの時すでに破水をしていたらしい。
いろいろごたついていて気づかなかったが、思い当たる節はある。
ノアが全力で皇宮まで連れて行ってくれて、なんとか部屋の一室で出産に至ることができた。
ちなみにここら辺の記憶はほとんどない。
ごたごただった上にあまりの痛みに、リリィはなんどか意識を飛ばした。
その度に叩き起こされて……。
地獄の苦しみとはまさにこのことだ。
「リリアナ様、力んでくださいっ!」
「――っ! ――ぅぅぅ゛!」
けれど不思議と後悔はない。
ここに至るまでのこともそうだが、なにより死んでも産んでみせるという覚悟があるのだ。
だからこの痛みにだって耐えてみせる。
やっと会えるのだ。
我が子に。
この腕に抱ける。
ただその瞬間だけを夢見て、耐えて耐えて耐えて……。
――そして。
「リリアナ様! 元気な皇子様と皇女様です!」
「お二人ともとってもお元気ですよ!」
「……あ、あかちゃん……わたしの……っ」
「こちらに」
真っ白な布に包まれた二つの小さな命。
汗だくで呆然としていたリリィは、胸元に持ってこられた小さなそれを、優しく抱いた。
「…………」
産声が聞こえる。
元気に、そして大きく泣く声。
まるでここにいるよと、知らせてくれているみたいだ。
今この瞬間、確かに産まれてくれたのだ。
真っ白な布から見えるその顔に、リリィはポロリと涙をこぼした。
「……ありがとう。――やっと会えたわね。ずっとずっと……あなたに会いたかったの」
見てすぐにわかった。
小さな小さな皇子様。
この子があの時、リリィの元に来てくれた子だ。
産んであげられなかった命。
リリィの元に産まれたいと願ってくれた命。
「あ、ありがとう――っ! ありがとう……! あなたに会えて、本当によかった」
そっと赤子の手に触れれば、あまりにも小さな指でギュッと掴んでくれる。
その力強さに、本当に産まれてきてくれたのだと実感できて、また涙が溢れた。
もう全身ボロボロだと思わず笑ってしまいつつも、ちらりと隣を見る。
皇女だという赤ちゃんにも、同じように祝福の言葉を贈りたい。
リリィを選んで産まれてきてくれたのだから、たくさんの愛情を持って接していこう。
女の子なら大きくなったら一緒に買い物に行ってくれるかもしれない。
ドレスを選んだりアクセサリーを選んだりして、そのあとはカフェに行くのだ。
そこで恋愛の話なんか聞いたりして……。
きっととても楽しいはずだ。
「はじめまして。あなたは――」
皇女の顔を見た時、リリィはピタリと止まってしまった。
「…………」
「リリィ! 無事に産まれたと聞いた。君も無事だな? 体調は? とにかく今は安静に――どうした!?」
「ぅ――ぅぅっ……」
我慢できなかった。
だってそんなこと、あるはずないと思っていたから。
嗚咽混じりに泣きながらも、リリィは女の子を抱きしめてその頰に己の頰を当てた。
まさかこんなことが起きるなんて。
あの子に会えた。
あの子を産むことができた。
それだけでもしあわせなのに……。
「あなたなのね……! リリアナ……っ!」
「――まさか……」
ノアが女の子を見る。
今のリリィそっくりなその容姿に、ノアはそっと手を伸ばした。
「そうか……。そうか。君なんだな……」
嬉しい。
嬉しくて嬉しくてたまらない。
まさかリリアナが、自分の子どもとして産まれてきてくれるなんて。
「ありがとう。ありがとう……! 私の元に産まれてきてくれて……本当に!」
女の子の顔を見つめつつ、リリィは優しく微笑む。
「――決めたわ。あなたの名前は……エメ」
「エメ……。【愛してる】か。いい名前だ」
「私の全てをかけて、あなたを愛し続ける。――たくさんの愛が、あなたに降り注ぎますように……」
エメと名付けた皇女を抱きしめつつ、もう片方の腕にも皇子を抱える。
そして涙に濡れる顔でノアに微笑み、男の子の顔を見せた。
「この子にはノア……あなたが名前をつけてあげてください」
「俺が? ……そうだな」
ノアは男の子の頭を優しく撫でながら、しばし沈黙ののち口を開いた。
「レオ。強く元気な男の子に育ってほしいからな」
「レオ……エメ……。私たちの子どもです」
「ああ。たくさん愛してあげよう。……俺たちで」
「――はい!」
産まれてきた命に、たくさんの愛が降り注ぎますように――。




