悔い改めよ
「ノア!」
「リリィ。怪我は?」
「大丈夫です! ですがどうしてここが……?」
「地下はハルの庭のようなものだからな」
ドンっと大きめな打撲音が聞こえそちらを見れば、二人ほどの男が倒れ込んだ。
そしてその後ろからハルとメキーラが現れ、リリィを見るとホッと息をついた。
「リリアナ様もう大丈夫ですよぉ。ゴミはちょっと痛めつければペラペラしゃべりますから。ここも簡単にわれましたぁ」
「ご無事でなによりです。……お守りできず、申し訳ございません!」
「ハル……メキーラ……!」
二人も助けにきてくれたのかと、その心強さに安心してしまう。
ふぅ、と息を吐いたリリィの前で、ノアが腰から剣を抜いた。
「リリィ、君は目をつぶっていろ。すぐに終わらせる」
「ですがノア! 危険です……!」
「大丈夫ですよぉ。ノア殿下は剣の腕前はピカイチだって、リリアナ様もご存知でしょう?」
そうだっただろうかと記憶を探れば、確かにノアが剣術を得意としていたことは思い出した。
しかしリリアナの時もリリィの時も、彼が剣を握ることがほとんどなく忘れていたのだ。
とはいえ心配なものは変わらない。
だからやめてくれと言おうとして、その口は別の意味でポカンと開いたままになった。
「――っ!」
ノアは地面を蹴った。
小さな擦れるような音がしたかと思えば彼はもうそこにはいなくて、巨漢の男の目の前に風の如く速さで到達すると、刃を男の首を滑らせるように切り裂いた。
まさに一瞬だ。
一人男を倒したと思えば、ノアはその場で右足を軸に回り、そのままもう一人の男の腹部を切り付ける。
ほんの数秒。
その間に決着がついてしまった。
「――…………すごい。一瞬でした……」
「言っただろう? 君を守ると。というか見てて大丈夫か? 気分のいいものじゃないだろう?」
「大丈夫です」
ノアに支えられて立ち上がれば、なんだか立ちくらみがした。
慌ててノアの腕に捕まりつつ、ふぅ、と大きく息を吐き出す。
「本当に大丈夫なのか? 具合は?」
「大丈夫だと思います。少し立ちくらみを起こしただけですから」
とはいえ、なんだか体が重い気がする。
だがそれも当たり前か。
身重の身であれこれやったのだから。
とはいえまた倒れでもしたらことだ。
リリィはノアに支えられながらも、呆然と立ち尽くすアシュリーの元へと向かった。
「アシュリー。君は皇族の命を危険に晒した。……生きていられると思わないほうがいい」
「……どうせ死んだも同然です。どうぞお好きになさってください」
生きる気力すらなさそうなアシュリーに、リリィは静かに語りかけた。
「やり直す気はないの?」
「やり直す? ……親にも見放された私が、どうやって?」
もはや生にも執着していないのか、ポロポロと涙をこぼし続けるアシュリー。
彼女自身の間違った選択ゆえに、全てを失ってしまった。
だがその一端をリリィが担っていると言っても過言ではないだろう。
ゆえに。
「――殿下……。私は」
「わかってる。君なら助けるという選択をとると思った」
ノアは懐から一枚の手紙をとりだすと、アシュリーへと手渡した。
「キース兄上からだ。……君への謝罪と、皇后宮での仕事を斡旋してある」
「……皇后宮?」
「……兄上からの手紙に書いてあるが、君さえよければ一からやり直そうと。そしてお互い気持ちの準備ができたら……その時はまた婚約者になって欲しいと」
大きく見開かれたアシュリーの瞳。
同じくらいリリィも目を見開き、ノアを見つめた。
「どういうことですか? なぜ急に……」
「急じゃない。本当なら兄上が伝えるはずだったのに、アシュリーが出立を早めたせいで会えなかったんだ」
「あ、なるほど……!」
ノアは大きなため息をつくと、呆れたように頭を振った。
「もっと早く言えばいいのに、兄上はギリギリまで悩んでいたらしい。……そのせいでこうなったんだから、きっちり責任は取らせるべきだな」
「それは……そうですね」
キースがもっと早くアシュリーに伝えていれば、こうはならなかったはずだ。
なんてことだと、リリィもノアと同じように頭を振る。
「……アシュリー。あなたが思っているよりも、キース殿下はあなたを大切にしているようですよ」
「――わ、私は……! なんてことを――っ!」
「君がリリィを殺していたら、本当に全てを失っていた。言っただろう? リリィを責めるようなことをするなと」
アシュリーは手紙を胸に抱きながら膝から崩れ落ちた。
嗚咽を混じらせながらも涙する彼女を、リリィは静かに見つめる。
「あなたはまだ全てを失ったわけじゃありません。……だから幸せになるのを諦めないで」
「リリアナ様――! わ、わたしはなんてことを……っ!」
「とはいえ全ての罪がなかったことになるわけじゃない。ちゃんと償って……それから心を改めろ。今の君があるのはリリィのおかげだと知れ。彼女に奪われたんじゃない。むしろ与えられたんだ」
「……っ、はいっ! 本当に、本当に申し訳ございませんでした……!」
地面に額を擦り付けながら、泣いて謝るアシュリー。
彼女の全てを奪ってしまったのだと思った時もあったけれど、どうやらそうではなかったようだ。
ひとまずアシュリーも前へ進める。
その先がどうか、キースと交わるようにとも願う。
「……よかった」
ひとまず解決したらしいとホッと息をついた、その時だ。
「――…………の、のあ……」
「どうした?」
リリィの顔は真っ青に青ざめ、体がカタカタと震え出す。
これはまずい。
とってもまずいことになった。
明らかに様子のおかしいリリィに、メキーラとハルも近づいてくる。
リリィはノアの腕をギュッと掴んだまま、恐る恐る顔を上げた。
「――産まれます……」
「……………………………………はあ!?」




