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【完結】許されるとおもうなよ〜夫とその恋人に殺された令嬢は復讐を誓う〜  作者: あまNatu


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80/90

夢見る少女の独白

『女の子はみんな、かわいいかわいい夢見るお姫様なのよ』


 それが母の口癖だった。

 だからそうなんだと思っていた。

 ふわふわのドレス。

 リボンのついた髪。

 キラキラの宝石。

 あまいお菓子。

 にこにこ笑顔でいれば、いつか白馬になった王子様が会いにきてくれるって。

 本気で信じてた。

 だってお母様がそう言うのだから。

 けれどそんなお母様はお姫様じゃない。

 ただの使用人だった。

 伯爵家で働くだけの人。

 情けなくて吐き気がした。

 だからああはなりたくないって、いつもにこにこ笑顔で愛想よく。

 そうすれば誰だってエラという少女を好きになった。


 ――マルクだってそう。


 夢見る王子様には遠く及ばないけれど、でもエラを愛して大切にしてくれた。

 だから彼にならその場所をあげてもいいと思っていた。

 なのに――。

 お姫様を夢見たこの体は、本当に脆く儚かった。


「――赤ちゃんが……産めない?」


「ええ。……残念ながら」


 未来の伯爵夫人になれると本気で思っていたのに。

 現実は残酷だった。

 でも大丈夫。

 お姫様はどんな窮地だって、華麗に脱してみせるのだから。

 そんな時にマルクのお嫁さんになった女。

 エラの代わり。

 子どもを産むためだけの存在。


 ――なのにとっても目障り!


 エラよりも可愛くなくて、エラよりも美しくなくて。

 なのに見ただけでわかった。

 彼女はお姫様なのだと。

 ただ歩くだけでも様になって、ただ話すだけでも高貴さを感じる。


 ――それはお姫様にだけ許されたものなのに。


「……でも大丈夫」


 マルクはエラだけを愛していたから。

 あんな女に目もくれない。

 伯爵家ではエラだけがお姫様。


 ――だったのに。


「……妊娠?」


 あの女が妊娠した。

 エラが欲しくて欲しくてたまらなかったものを、あの女が簡単に奪ったのだ。

 あの女は泥棒。

 物語での悪役。

 ならそれに相応しい最後にしないと。

 悪役の最後は惨めに終わらせないと。

 つらくて苦しい、見ている人がスカッとするようなものでないと。

 だからこの手で終わらせた。

 ちゃんと最後を見たかったし、なによりお姫様には試練がつきものだから。


 ――それで全てが終わったと思った。


 夢の伯爵夫人にもなれた。

 みんなに愛された。

 誰よりも誰よりもお姫様だったのに。


 ――その夢はいつから、壊れたのだろうか?



「リリィ……! リリィ……っ! すまない、すまないぃぃ――!」


「うるさいわよ! いい加減にして――!」


 王子様だと思っていた男は、エラではない別の女に謝り続けていた。

 リリアナが実はリリィだった。

 そんなわけのわからない妄言を信じて謝り続ける男を、エラは力強く睨みつけた。


「バカじゃないの!? あんなの嘘に決まってるのに……!」


「……君にはわからないんだ。――でもあれは、間違いなくリリィだった……! 俺にはわかる!」


「はぁ!? 名前も覚えてなかった元嫁に今更なに執着してんのよ!」


「今更だからだ! ――もう、俺の元に戻ってくることがないとわかっているから……、だから――っ!」


 意味がわからない。

 どうしてあんな女の言うことを信じるのか。

 なぜ捨てた女に執着するのか。

 全く、理解ができなかった。


「アホらし。そんなことうだうだ言ってる暇があるなら、さっさとここから出る方法探しなさいよ!」


 いつまでもこんなところにいられない。

 そのうちエラを救い出す王子様が現れるだろう。

 ずーっと夢見た王子様。

 たとえばそう……、キースのような人が救いに来てくれるはずだ。

 かわいそうにと手を差し伸べて、この地獄から白亜の城に連れて行ってくれる。

 ……とはいえ自分からなにもしないわけにはいかない。

 お姫様は自分からも行動しなくては。

 どうにか出る方法は……と考えていると、マルクが震える手で小瓶を握りしめる。


「――君はどうして……そんなに残忍なんだ……」


「…………はあ?」


 誰が残忍だ?

 エラはいつだって可愛らしいお姫様なのに。

 意味がわからないとマルクを睨みつけるが、彼の目にエラが映ることはない。


「――もう疲れた……。もう、終わらせたい……」


「――ちょ! まさかそれ飲む気じゃ……!」


「さようなら……。許されるなんて……思ってない」


 マルクはそれだけいうと、小瓶の中身を飲み干した。




 マルクが死んだ。

 そのことが、思ったよりもエラにダメージを与えていた。

 愛していたと思う。

 愛されていたと思う。

 それなのに、一体いつから壊れ始めた?


「出して! 出して出して出して出して出してぇぇぇっ!」


 喉が枯れるまで叫ぶ。

 けれど誰も見てくれない。

 誰も会いにきてくれない。

 

 ――ううん。

 

 そんなはずない。

 エラはお姫様なのだから。


「誰か! 誰かわたしを……ここから連れ出して――!」


 どうして誰も助けてくれないの?

 ここにエラがいるのに。

 どうして誰もわたしを見てくれないの?

 どうして。

 どうして。

 どうして。

 マルクは死んだの――?


「………………つかれた。あまいものがたべたい。……皇宮で食べたみたいな、あまいもの……」


 うとうとと微睡む。

 思い出すのはリリィに招待された、皇宮でのお茶会だ。

 美味しいお菓子に紅茶。

 素敵な花々が咲き誇る庭園で行われたお茶会は、エラの理想が詰まっていた。

 あれこそ夢見たお姫様の姿だ。

 もう一度あれをやりたい。

 あれをやるべきなのは、エラなのだから。


「のど、かわいた……」


 ふと、可愛らしい小瓶に入った飲み物を見つけた。

 花と蝶があしらわれたそれは、お姫様にふさわしいものだった。


「……こうちゃ」

 

 それが、とても美味しそうに見えた。

 だから手にとった。

 つるりとしたガラスの小瓶が、ガサガサにひび割れた唇に優しく当たる。


「――」


 顎を上げる。

 喉を水が伝う感覚が心地よくて、エラはゆっくりと嚥下した。

 乾いた大地に雨が降るように、エラの体にその『毒』は染み渡っていく。


「…………」


 ガラスが割れる音がする。

 なにかが倒れる音がする。

 けれど最後まで、それを見てくれる人はいない。


 かわいいかわいいお姫様。

 エラ・マクラーレンはどこまでいっても、自分が一番お姫様なのだ――。

 

 

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― 新着の感想 ―
何かあっけなさすぎてちょっと物足りなさが…。 この二人は鞭打ちした後、死なないけど激痛に襲われる毒を飲ませてから最後はリリィを殺した池に連れてって突き落として溺死にしても良いくらいのクズ。 二人とも自…
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