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【完結】許されるとおもうなよ〜夫とその恋人に殺された令嬢は復讐を誓う〜  作者: あまNatu


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許されるとおもうなよ

 地下牢にて。

 エラとマルクは牢屋に入れられている。

 その時がくるまで、暗闇の中で待ち続けているのだ。


 ――そして今日。


 その時がやってきた。

 エラとマルクの刑執行の日は、皮肉なほどに晴れ渡った青空だった。


「――本当にいいのか?」


「……はい」


 リリィは二つの小さな小瓶を持って、地下牢へと向かっていた。

 隣にはもちろん、ノアがいる。

 彼は心配そうに眉間に皺を寄せており、その目は常にリリィが持つ例の小瓶に向けられていた。

 これは毒だ。

 二人に飲ませるその毒を、リリィが手に持っている。

 これは望んだことだ。

 自らが望み、皇后に願い出た。

 彼らの最後を見届けるためのものだが、ノアはあまりいい気がしないらしい。


「……君が奴らの死を背負ってしまわないか不安なだけだ。――君は君が思っているより、優しく慈悲深い」


「……ありがとうございます。ですが大丈夫です」


 彼らの最後を見届けることは、ずっと前から決めていた。

 そしてそれを背負うことも。

 これは前に進むために必要なことだと思っているから。


「背負うことが全て悪いわけではありませんから」


「背負っても押しつぶされることはない……か。君は強いな」


 強くはない。

 ただ自分が前に進むために必要なことなのだ。

 小さな小瓶を握りしめて向かった地下牢にて、リリィはエラとマルクと対峙した。

 疲弊しきった二人は、汚れ痩せ細っている。

 しかしリリィを見たエラだけは、涙に濡れる瞳で睨みつけてきた。


「リリィ……! あんた、どうしてくれるのよ!? なんでわたしにこんなことをするの!? わたしが……あなたになにをしたって言うのよ!」


 エラはギャーギャーと騒ぎ立て、マルクは黙ってリリィを見つめている。

 両極端な二人に、リリィはいたって冷静に話しかけた。


「あなたは私にたくさんのことをしたわ。私を利用して社交界での地位を確かなものにしようとした。偽の宝石を与え馬鹿にした。……他にもいろいろ」


「それだけじゃない! それだけで……命まで奪われるっていうの!?」


 そんなのひどいと泣き叫ぶエラ。

 人の話を聞かないところも、いつまでも被害者意識なのも最後まで変わらない。

 でもそれでよかった。

 これで心置きなく終わりを迎えさせられる。


「あなたは奪ったじゃない。たくさんの命を」


「――だから! わたしはやって……」


「いいえ。あなたが殺したのよ」


 やっとだ。

 やっと伝えられる。

 ずっとずっと、言いたくてたまらなかったことを――。


「――あなた、私の名前を覚えてくれたのね。……昔は覚える気すらなかったのに」


「はあ? なに言って――」


「義姉さまって呼んでたじゃない。……名前すら覚えるのがめんどうで」


「……なに、言ってるの?」


 わけがわからないと言いたげなエラに、リリィはそっと胸に手を当てる。

 ここにいるよと、伝えるために。


「苦しかったわ。あなたに毒を飲まされて、血を吐き、冷たい池に蹴り落とされて。……知ってる? 水を吸ったドレスってとても重たいの。もがくこともできずに、ゆっくりと落ちていったわ」


「リリィ……あなた……」


「言ったでしょう? ――楽に死ねると思うなよ。って」


 エラの目が大きく見開かれた。

 ここでやっと、違和感に気づいたのだろう。

 小刻みに震え始めると、小さく首を振る。


「い、意味がわからないわ。だって……」


「いいえ。あなたはもうわかっているはずよ。――私が、リリィ・マクラーレンだって」


 ひゅっと、息をのむ音が牢屋内に響いた。

 それはエラがマルクか、どちらのものかはわからない。

 しかし二人とも大きく目を見開いて、こちらを見つめていることはわかった。

 驚愕?

 絶望?

 恐怖?

 いろいろな感情が入り混じった表情。


 ――きっとその表情をリリィもしたはずだ。


 あの別荘で。

 最後のあの時に。

 だからこそ。

 その表情を見たかったのだ。


「あなたたちに執着する理由なんて言うまでもないわよね? ずっとずーっと……この時を待ちわびていたの」


 リリィは小瓶を取り出すと、鉄格子の隙間から一つ中へと置いた。


「これは毒よ。あなたのための毒」


「――そんなもの! 飲むわけないじゃない!」


「ならずっとここにいるだけよ。老いて朽ち果てるその日まで、日の目を見ることもできない。……気が狂うまでずーっとね」


 リリィはエラの前から離れると、今度はマルクのところへと向かった。

 同じように毒を中に置けば、マルクは涙に濡れる瞳を向けてくる。


「リリィ――! 君は本当にリリィだったんだな……! 俺は!」


「あなたに伝えないといけないことがあったの」


 少し離れたところにいるマルクのために、小瓶を指で弾いて転がした。

 擦り切れ穴の空いたズボンの上から、彼の膝にコツンと当たる。


「愛してくれなくてありがとう。あなたと過ごした時間は地獄のようでした」


「…………りりぃ……」


「どうか死んで終わりなんて思わないで。地獄の底にいたって呪ってあげるわ。――解放なんてさせない」


 だからこそ、今ここでもこの言葉を送るのだ。

 いついつまでも縛られればいい。


「――許されると思うなよ」

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