愛を込めて、リリィより
「お前……お前たちが……っ! リリィを――!」
思い出よりもずっと白髪が多くなった。
小皺も増えて、痩せ細っていた。
リリィが亡くなってから、どれだけ悲しんだのだろうか?
どれほど苦しめられたのだろうか?
その姿を見ただけで、父の悲しみが手にとるように伝わってきた。
マルクとエラの元へ走ってこようとする父を、騎士たちが止める。
「丁重に扱え! ……彼は被害者女性の父親だ。――権利はある」
ノアの命令に従い、騎士たちは父に手荒なことはしなかった。
ただ彼の肩を掴み、今にも殴りかかろうとする父を止める。
父は騎士に止められてもなお前に進もうと、もがき足掻いていた。
「あの子になにをした!? ただ……ただしあわせになって欲しいと送り出しただけなのに……っ!」
「…………っ」
「お前たちは悪魔だ! 人殺しが! 許されたいだと!? ふざけるな!」
めまいがした。
この場に父がいたことにも驚いたが、それよりも彼がここまで苦しんでいたことにもだ。
考えてみればそうだ。
リリィがお腹の子を亡くしたことでこれだけ苦しんでいたのだから、父だって同じくらいつらかったはず。
それに気づかなかったなんて、と思わず手で顔を覆った。
「許されるはずがないだろう! 地獄に堕ちろ! あの子の何倍も苦しめ! 俺はお前たちを許さない……! 俺は……っ!」
ボロボロと泣き出した父は、騎士に支えられながら力なく崩れ落ちた。
床を何度も叩きながら、エラとマルクに恨み言を言い続ける。
「一生呪ってやる! ――許されるとおもうなよ!」
呪いの言葉を吐き出す父を見て、リリィもまた崩れ落ちそうになった。
見ていられない。
あまりにもつらすぎるのだ。
けれどここでリリィが泣くわけにはいかない。
リリアナとは無関係なのだから。
しかしどうしても胸が苦しくて。
唇から血が出そうなほど強く噛み締め耐えていると、そんなリリィの手をノアが握ってくれた。
温かなその温もりに、ゆっくりと息をすることができる。
「……優しい人だったんです。あんな……あんなふうに怒鳴っているところなんて……見たことがなかった……」
「…………君を愛しているんだ。今も、ずっと」
ああ、やめてほしい。
そんなふうに言われてしまうと、せっかく必死に止めた涙がまた溢れてしまいそうになる。
リリィはぐっと目に力を込めて、涙を流さないよう耐えた。
「……皇后陛下。どうか、彼らに厳罰をお与えください。――彼らが人々から奪った分、どうぞ……!」
未来を奪った。
命を奪った。
希望を奪った。
――愛する人を奪った。
あまりにも多くのものを奪いすぎた彼らに、同じだけの苦しみを。
リリィからの願いに、皇后は深く頷いた。
「――侯爵。私も人の親です。……あなたの気持ちは、よくわかります」
「……皇后陛下――! わたしは……っ!」
「だからこそ、これだけの証拠がそろった今、あなたたちには厳罰を下さねばなりません」
皇后のその言葉に焦ったのはエラだ。
「待ってください! わたしは関係ない!」
「もはやあなたの言葉にはなんの意味もありません」
皇后が腕を上げる。
エラとマルクに沙汰を下すためだ。
その様子がまるでスローモーションのように見えて、ただ静かにその光景を眺めた。
――やっと終わるよ。
あなたを傷つけたものたちを、やっと追い詰め破滅させることができた。
出会うことはできなかったけれど、あなたのことを信じて今は待ちます。
だからどうかまた、会いましょう。
この世界に生まれ落ち、産声をあげ、この腕に抱かれるその日まで。
どうか、安らかに――。
――リリアナ。
全てあなたのおかげです。
あなたが諦めた人生を私にくれたから、私は今こうして、自らの手で彼らに復讐することができた。
だからどうか、もし次に生まれてくることがあったなら……たくさん愛されてください。
私の愛する人。
あなたにたくさんの愛が降り注ぎますように。
――リリィ。
全て終わった。
あなたの無念も苦しみも悲しみも、決して忘れることはありません。
けれどもう、前を向いて生きていこう。
あなたは愛されていました。
そしてこれからも、たくさんの愛に包まれる。
それだけでもう、じゅうぶんだ。
「――マルク・マクラーレン。エラ・マクラーレン。リリィ・マクラーレン及び侍女殺害の罪、そして詐欺を行った罪、皇室を侮辱した罪。これらをふまえ……」
そっとお腹に手を当てる。
もう片方の手は、いつまでもノアと繋がっていた。
リリィが崩れ落ちないように、ずっと支えてくれていたのだ。
本当に優しい人。
そんな彼のぬくもりに、知らず知らずのうちに涙が頬を伝った。
涙は何度も何度も、床へと落ちる。
それでも前を向くのはやめない。
この目に彼の顔を、焼きつけるのだ。
「――死刑を言い渡します」




