告白
「エラ・マクラーレンの部屋から空の小瓶が見つかっています。……これはあなたが扱っている小瓶ね?」
「特注品だ! そういう綺麗なもんに毒が入ってるなんて思わねぇ馬鹿が多いから、意外と簡単に飲んでくれるんだぜ」
「――その小瓶は皇室の騎士が見つけた。じゅうぶんな証拠になるだろう」
ノアの言葉に、皇后は深く頷いた。
情報に信憑性があると思ったのだろう。
「ちなみにですが、エラは毒を一つだけ買いましたか?」
「いいや、予備にと二つ買っていった。どちらも同じ相手を想定した調合だったがな」
アメリアとリリィの体型は近い。
だからどちらにも効果があったのだろう。
特にリリィは妊婦だった。
そこすら考慮されていたなんて……。
本当に許し難い。
「――我々は、エラ・マクラーレンの部屋に残されていた小瓶の毒を、リリィ・マクラーレンに使ったのではと考えています」
「リリィに使ったなんて証拠はないわ!」
エラが叫ぶ。
事実、彼女がリリィに使ったと言う確固たる証拠はない。
アメリア殺害は問えても、リリィの件は不問とされるかもしれない。
だがそんなこと許せるはずがない。
リリィはまっすぐにエラと対峙した。
「――あなたは、罪悪感というものがないの? 人を殺したのよ?」
「あなたがわたしを人殺しにしたいだけじゃない!」
「あなたのせいで全てを奪われた人がいるのよ。それを……なんとも思わないの?」
「知らない! 知らない知らない! わたしは関係ないわ!」
エラには良心というものがないのだろうか?
いや、あったらこんなことになっていないかと冷めた笑みを浮かべた。
いつだって太陽のように微笑むことができるのだ。
人を殺した後でも。
そう思うと、自分は悪くないと言い張るエラに無性に腹が立った。
だからリリィは眉間に皺を寄せ、力強く言い放つ。
「否定したからって許されるとでも? あなたはリリィだけじゃない! お腹の子まで殺したのよ!?」
「だからわたしは――!」
「罪もない命を奪ったこと。――絶対に許さないから……!」
自分のことはなんともなかったのに。
子どものことを口にすると、怒りや悲しみが押し寄せてくる。
罪もないあの子を殺めたこと。
それだけは許してなるものか。
「あなたが認めなくても構わない。絶対……絶対に罪を贖わせてやるわ」
「…………なんで、そんなに必死なの? あなたには関係ないじゃない!?」
「…………関係あるのよ。――私は!」
リリィが言いかけた時だ。
「――俺たちが殺した」
今まで沈黙を貫いてきたマルクが、そう呟いたのだ。
大きく見開かれたリリィとエラの瞳は、同時にマルクを見つめた。
マルクは顔を伏せたまま、まるで独り言のように呟く。
「……別邸に行ってから、エラが作った毒入りのスープを飲ませた。苦しみ出したリリィを、池に沈めた」
ひゅっと、どこからともなく息を呑む音が聞こえた。
まさかの自白に驚きが隠せなかったが、これを逃す手はない。
リリィは一歩、マルクに向かって足を進めた。
「あなたも知っていて、飲ませたんでしょう!?」
「そうだ。腹の子が邪魔だった。……エラは体が弱く、子どもを成すことはできないと言われていた。だから別の妻を娶った。だが……」
「エラがそれを許さなかった」
「違うわ! マルク――あなたなにを言っているの!?」
エラの必死の叫びも虚しく、マルクは涙に濡れる顔を上げた。
「――俺だけか? リリィが死んだ日から、毎日のように夢を見る。彼女の死に顔が……悲痛な叫び声が……頭から離れないんだよ」
まるで悪夢を振り払おうとするように首を振ったマルクは、怒りをあらわにするエラを悲しげな瞳で見つめた。
「エラがやった。……だが俺も知っていてなにも言わなかった。リリィを愛していなかったんだ。……邪魔だった」
「違う! 違う違う違う! わたしは――!」
「俺は――! 俺は……もう、解放されたい……」
ボロボロと、まるで子どものように涙を溢れさせたマルクは、なぜかリリィに向かって口を開く。
「もう、悪夢から解放されたい……。リリィから……許されたいんだよ…………」
「――」
(――ああ……)
この男はなにもわかっていないのだ。
自分がつらくて悲しくて、だから全てを終わらせたいだけ。
そこにリリィへの贖罪は含まれていない。
彼のおかげでエラとマルクを断罪するにたる証拠は揃った。
だがこれでは……。
これではリリィは報われない。
それに……、子どものことはなんとも思っていないというのか?
――そんなこと、許されるはずがない。
許されたいなんて、マルクの口から紡がれていい言葉ではないのだ。
だって許さないから。
リリィは一生、彼を許すつもりなんてない。
罪を告白して死ねば許される?
そんなわけない。
そんなの――。
「許されると――」
「許されると思うなよ――っ!」
リリィが口にしようとした言葉は、別のところから投げつけられた。
悲痛な叫び。
声を震わせ泣き叫ぶように届けられたその声は。
「…………お父様」
リリィ・マクラーレンの父からのものであった……。




