証人たち
「いいでしょう。この場での発言権を与えます」
「ありがとうございます」
皇后から許可を得た。
それはつまり、今この場においてアーサーの言葉には力が生まれたということだ。
リリィはまっすぐにアーサーの目を見つめる。
愛したエラのこの悲惨な姿を見て、アーサーの心が変わってしまうのではと恐れた。
彼女を守ろうと、嘘偽りを口にされては困る。
――だがどうやらそれは杞憂だったようだ。
アーサーの目には、エラは映っていない。
「――私は、エラと同じ故郷の出身でした。ゆえに彼女が皇宮にきた時……身体検査を怠りました」
「待って! アーサー……あなた……っ!」
「エラに喋らせないでください」
「っ――!」
騎士がエラの口に布を噛ませた。
彼女に余計なチャチャを入れられるのは困る。
アーサーは一度大きく息を吸うと、深く吐き出した。
「……エラがリリアナ様に会いに皇宮へやってきた帰り道、彼女に懇願されて伯爵家の侍女に会いに行きました。……エラは侍女が心配だと泣いていたので」
「しかしその侍女はノア殿下の命令で、面会を禁じていました」
「………………はい。なので見張りが交代のタイミングで、エラを連れて行きました」
騎士としてあるまじき行為だ。
これを告白するのは、アーサーにとってとてもつらいだろう。
けれど彼はまっすぐに前を見て話してくれている。
「侍女が取り乱し……助けてくれと泣き叫び始めました。そこでエラが……懐からあの小瓶を取り出したんです」
アーサーの目がリリィの持つ小瓶へと向けられたので、それを見やすいように掲げた。
「その小瓶を見た侍女ははじめ、とても怯えていました。しかしエラが『これは痛み止めよ』『つらい思いをしなくてすむようになる』と伝えると、侍女はそれをエラから奪い、飲みました」
伯爵家侍女―アメリア―。
彼女はその毒のことを知っていたはずだ。
リリィから聞かされていたこともあるし、なによりあの小瓶をエラの元に持っていったのはアメリアだ。
だからそれが毒であると知っていたはずなのに、彼女はそれを飲んだ。
痛み止めだと言うエラを信じたのか、はたまたあの地獄から救われたかったのか……。
答えはわからない。
「小瓶の中身を飲んですぐ、侍女は突然苦しみ出して……。私はわけがわからずエラを問い詰めましたが、彼女はただ笑っているだけで……。その時になって自分はとんでもないことをしたのだと気づき、怖くなってその場から彼女を連れて逃げました。……侍女が死んだと知ったのは、エラと離れた後でした」
アーサーは震える手を力強く握りしめ、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
数秒瞳を閉じると、覚悟を決めたように目を開けた。
「騎士としてあるまじき行為です。私は騎士を辞めましたが、それだけですむとは思っていません。人の命を奪うことを手助けした。……その償いをするために、今この場で真実を話しました」
「…………ありがとうございます。それが真実ならとんでもないことです」
皇后は頭を押さえつつも、ちらりとエラを拘束している騎士に視線を送る。
彼女の口元から布がとられると、叫ぶような金切り声が会場内にこだました。
「嘘よ! うそ、うそ、うそっ! 全部うそよ!」
「いいえ、真実です。実はもう一人、毒薬を作り販売した者を連れて参りました。彼の証言もお聞きください」
「入れてください」
許可を得て、二人目の証人を会場の中へと入れる。
ハルに連れられてやってきた男は、頰は腫れ上がり歯が何本か折れていた。
よほど酷い目にあったようで、隣にいるハルをチラチラ見てはビクついている。
男はハルを気にしつつも、ふと視線をこちらに向けた。
「――ああ! 間違いねぇ! あの時の女だ!」
そう言って指をさした先にいたのはエラだった。
男はハルに向かってなんども頷いた。
「あんたの言ってたとおりだ! えらい別嬪だったから覚えてんだ! あの女が毒を依頼しに来た。とりにきたのが別人だったからガッカリしたのまでしっかり覚えてる」
男の言葉を聞いて、エラの顔が徐々に青ざめはじめてくる。
だがまだだ。
まだ甘い。
もっと徹底的にやらなくては。
「質問いいですか?」
「おお、こっちも別嬪さんだなぁ! やっぱりいいもん食ってるやつってのは綺麗になるもんなんかなぁ?」
「無駄口叩いてねぇで、リリアナ様の質問に答えろドブ野郎」
「は、ハル。抑えてね……?」
流石に公共の場である。
リリィがそう伝えれば、ハルはハッと口元を手で隠した。
「失礼致しました」
「大丈夫よ。……それより、質問だけれど……。エラがこの毒を買ったのね?」
「間違いねぇっす。独特な客だったから覚えてんだ! 俺は毒の調合にはこだわりを持っててな、使いてぇ相手の体格を理解して、それにあう毒をつくりあげるんだ」
「…………エラが頼んだ時、相手のことはなんて言っていた?」
男はしばし考えるように斜め上を見た後、人差し指を伸ばしくるくると回した。
「恋人? のストーカーだとかなんとか。相手は女でまだ若く、身長も体重もそうねぇって」
「他には? なにか覚えている?」
もう一手、毒殺を考えていた相手がリリィであるという確固たる証拠が欲しい。
神に祈るような気持ちでそう問うと、男はもちろん! っと頷いた。
「さすがに忘れねぇよ。相手は妊婦だってんだから、こいつぁ綺麗な顔してとんでもねぇバケモンだと思ったぜ」
これでやっと、エラの化けの皮を剥がすことができそうだ……。




