尋問
尋問は厳かに、しかし人々の注目の中始められた。
あえて、である。
訴えられたのは今、令嬢たちに流行りの宝石を扱っているマクラーレン伯爵だ。
皇室を馬鹿にしたくさんの人を騙した。
同じことをしないよう、見せしめにしなくてはならない。
エラとマルクの行く末を見届けようと、謁見の間にはたくさんの貴族たちが集まった。
そんな中、手枷をつけた状態でエラとマルクがやってくる。
彼らは膝を折らされると、沙汰を下す皇后を見上げた。
「――こんな時まで陛下はこられないんですね」
「自分の私腹を肥やす以外のことはしない。娘が侮辱されたくらいじゃなんとも思わないんだ。……腐ったやつだからな」
以前なら不敬だと慌てたが、ここまでくるともはやなにも言えない。
皇后がいつも尻拭いをしているのを見ているからこそ、皇帝に対する敬意は薄れてゆく。
「とはいえ異例な場ではあるな。皇室が侮辱されたとなれば、皇后も黙ってられない。……それよりはじまるな。――大丈夫か?」
「…………はい。やっとはじまり、終わります――」
今から、彼らの断罪がはじまるのだ――。
「あれだけの騒ぎになった。見物客も多いが……今日はただ沙汰を下すだけだ。あいつらが偽の宝石を売っていたことは間違いないからな」
「はい。――ですがもちろん、それで終わらせるつもりはありません」
「そう。殺人の罪も認めさせる。……絶好の機会だ。心ゆくまでやってやれ」
ノアの言葉に、リリィは深く頷いた。
本来なら今日は彼らに罪を告げるだけの場。
だがもちろんそれだけで終わらせるつもりはない。
その準備も根回しも、全て済んでいる。
「静粛に! ……マルク・マクラーレン。エラ・マクラーレン。偽の宝石を売ったこと、認めますか?」
「いいえ! わたしは知らなかったんです! 全部全部マルクが勝手にやったことです!」
エラが騒ぐ。
なんども首を振って否定するが、皇后はそれを冷ややかに見下した。
マクラーレン伯爵家は皇族に偽物を売った。
皇族を侮辱したことになる。
だからこそ皇后は見物人にも聞こえるように、しっかりとした口調で述べた。
「宝石の件は調べがついています。嘘を言ったところで無駄です」
「嘘じゃないです! わたしは――」
「認めないのなら、あなたはもっと罪を重ねることになりますがいいですね?」
「――…………っ!」
騒いでも無駄なことがわかったのだろう。
強く唇を噛んで黙り込んだエラに、皇后は大きなため息をついた。
「結構です。……マルク・マクラーレン。あなたは罪を認めますか?」
「……お、俺は…………っ」
マルクも認めることはせず、唇を噛み締めて顔を伏せた。
一向に進まない尋問に、皇后は首を振る。
「もう結構です。あなたたちへの罰をこの場で伝えます」
どうやら自白は諦めたらしい。
皇后が詐欺についての罰を告げようとした時だ。
リリィとノアは揃って前へと出ていった。
「皇后陛下。その前に少しだけ私たちの話を聞いていただけますか?」
「彼らにはまだ、明かしていない罪があります。全てを白日の下に晒すべきだと思います」
「――わかりました。では二人とも前へ」
もちろん皇后には事前に話をしてある。
二人には殺人の罪もあることを。
だからこそスムーズに、ことを運ぶことができた。
リリィは皇后に深くお辞儀をした後、エラとマルクを見つめる。
涙に濡れた瞳。
土に汚れた真っ白なほお。
ボサボサの髪に、ところどころ裂けてしまっているドレス。
数日前までの美しさはどこへやら。
けれどこちらを睨みつけてくるその目だけは変わらないのだなと、リリィはゆっくりと口を開いた。
「――彼らには殺害の容疑もあります。そちらもまた、真実を明かさなくてはならないことです」
「知らないわよ! わたしは殺害なんてしてないわ!」
「いいえ。あなたは殺したのよ」
声が震えないよう努めたせいか、体に力が入ってしまった。
ぎゅっと両手を握りしめつつ胸を張った。
ここで負けるわけにはいかない。
リリアナ・ウィンバートとして生まれ変わったあの日に、誓ったのだから。
かならず復讐を成し遂げてみせると。
この場を用意してくれたノアのためにも。
生きてまた会いたいと言ってくれたお腹の子のためにも。
ここで終わらせなくては。
リリィは深く息を吸うと、ゆっくりと吐き出した。
焦りも不安も恐怖も、全て今は吐き出してしまおう。
ここから先は、正念場だ――。
「あなたが殺したのはマルク・マクラーレンの前妻。リリィ・マクラーレン。彼女に毒を飲ませて池に沈めたの。……そうでしょう?」
会場内がざわめき出す。
人々が口々にあれこれ言っているようだが、リリィの耳には入らなかった。
今のリリィの目や耳は、全てエラへと注がれている。
彼女の行動ひとつも、見逃すつもりはない。
「だから知らないって言ってるでしょう!? それともなに? わたしがリリィを殺した証拠でもあるって言うの!?」
証拠がないとたかを括っているようだ。
もちろんリリィを殺したという決定的な証拠はない。
しかしそこへと繋げる道ならある。
リリィは懐から小瓶を取り出すと、わかりやすく持ち上げた。
「先日、伯爵家の侍女が皇室への侮辱罪で捕まりました。そしてその侍女は皇宮の中にある牢屋の中で殺された。――遺体のそばにはこの、毒の入った小瓶が落ちていました」
決定的な証拠である小瓶を見せても、エラの表情は余裕そうだ。
自分につながるとは思っていないのだろう。
だが残念ながら、エラを逃すつもりはない。
リリィは扉のほうへと、手を差し出した。
「我々はこの毒で、エラが侍女を殺したという証拠を持っています」
「嘘よ! そんなのありえないわ!」
「ありえるわ。――アーサー・グレイヴ。元皇室の騎士であり……エラが侍女を殺すのを手助けした者を、証人としてこちらに呼びました」
扉が開く。
そこから現れたのは、騎士服を身にまとったアーサーだ。
彼はこれから話すことは嘘偽りがないと証明するために、騎士服を着るという選択をしたらしい。
アーサーは会場の中を進み、リリィの隣までくると膝を折り皇后に頭を下げた。
「アーサー・グレイヴ。真実を伝えることを、ここに誓います」
その時だ。
今までは余裕そうだったエラの顔が、アーサーを見た時。
やっと歪んだのだ――。




