責めるような目
「――アシュリー……どうしてここに?」
「キース殿下を探して。……そうしたら……」
アシュリーは驚いた顔をしたまま、その瞳を一心にリリィへと向けてくる。
「……キース殿下は、その……。リリアナ様のことを…………」
傷ついたアシュリーの顔。
当たり前だ。
自分の婚約者が別の女性を好きだなんて、そんなの想像もしていなかったのだろう。
不安そうだったアシュリーの瞳には、やがて攻めるような力強さが宿っていく。
本当に最悪だ。
こんなタイミングでアシュリーがキースの気持ちを知ることになるなんて。
どう言い訳をすればいい?
いや、言い訳をするほうが事態を悪化させるかもしれない。
ここは黙っているほうが得策なのではないかと悩んでいた時だ。
「みんな、会場に戻れ。――客人たちが気づき始めてる」
ノアが険しい顔でそういうと、困惑した表情のリリィの元へときてくれる。
彼の顔を見ることができて、ほっと息を吐き出した。
「殿下……」
「すまない、遅れた。……大丈夫か?」
「はい……」
大丈夫じゃないが心配をかけたくないと頷けば、無理してることがわかったのだろう。
ノアの表情が険しくなる。
彼はリリィを背に庇うと、他の三人に鋭い視線を向けた。
「兄上。あなたがリリアナに特別な感情を持っていることは知っています。ですがあなたも皇族なのですから……然るべき対応をしてください」
「…………ノア」
傷ついたような顔をするキースを無視して、ノアはアシュリーを見る。
「アシュリー。……君の気持ちは察するが、リリィを責めることはしないでくれ。彼女に非はない」
「………………」
アシュリーはなにも言わない。
つらそうな顔をしているのが見ていられなくて、リリィは彼女から目を逸らしてしまった。
「それから君」
「わたしは――!」
「もうこれ以上惨めな姿を晒すな。――吐き気がする」
凍てついたノアの瞳を向けられて、さすがのエラもピタリと動きを止める。
「余計なことしかできないのなら、ただ息をしているだけにしろ。次に一言でも口を開くようなら会場から追い出す」
「――……」
青ざめたエラがこくこくと頷くのを見ることもなく、ノアはリリィの腕を掴むとさっさとその場を後にする。
会場とは反対側に進み、周りに誰もいないことを確認してからリリィと目を合わせた。
「ここまでくればいいだろう。……面倒なことに巻き込まれたな」
「本当に……。ありがとうございます。殿下のおかげで逃げ出せました……」
まさかあんな展開になるなんて思わなかった。
エラはこの際いい。
彼女の行動は読めないし、問題を起こす達人だからだ。
だかアシュリーのあの責めるような瞳。
「……仲良くなれるかと思ったんですが……」
「君のせいじゃない。兄上が悪い」
「そうですが……。アシュリーの気持ちもわかるんです」
アシュリーはいわば昔のリリィだ。
夫がほかの女性を愛しているという現実を受け入れられずにいる。
その気持ちがわかるからこそ、あの瞳を真っ向から受けて少し心にダメージを負ってしまったのだ。
落ち込むリリィの肩を優しく抱くと、ノアはゆっくりと歩み出した。
「ならこればかりはどうすることもできないってことも、君はわかっているんだろう? 兄上たちが考え、話し合い、解決することだ」
「…………そうですね」
確かにリリィからなにかできるわけではない。
むしろ余計なことをしないほうがいいまであるだろう。
これはアシュリーとキース、二人が解決することだ。
「それに俺たちにはこの後のほうが大切だろう?」
「――はい。そうですね」
この結婚式のちょうど二週間後。
例の皇女の誕生パーティーが開催される。
事前の情報では、そこで皇女はそれはそれは見事な宝石を数多身につけるらしい。
もちろん、マルクのところから買い付けたものを、だ。
「根回しは完璧だ。騎士の中でも信頼のおけるものを会場の警備にしているし、その後のことももろもろ手配済みだ」
「ありがとうございます。……これでようやく終わるのですね」
「まだ気は許せないが……。大丈夫。君ならうまくやれるさ」
ついにその日がやってくるのだ。
エラとマルクの罪を、白日の下に晒せる日。
もちろんそれも氷山の一角ではあるが、それをきっかけにしてやるのだ。
彼らの罪は全て、必ず償わせてやる。
「まずは宝石の件……ですね」
「そこが始まりになる」
皇女のパーティーでどんな大騒ぎになるか、楽しみだ。
二人の驚愕に歪む顔を想像するだけで、胸が大きく高鳴る。
「とはいえ、今は俺たちの結婚式だ。そろそろ戻らないと母上にお小言をもらうことになる」
「――それはいけません! 急いで戻りましょう!」
そうだった。
今日はリリィとノアにとって晴れの舞台。
これ以上嫌な思いはしたくないと、二人は手をとり歩みを早める。
「まあ俺としては早く式が終わってくれたほうがありがたい。――君と二人っきりになりたいからな」
「ならなおのこと早く行かないと。お小言で時間を潰したくはないですから」




