最悪な展開
まさかのエラの登場に固まったリリィ。
結婚式の日に、旦那以外と一緒にいるところを見られたからだ。
「…………っ」
最悪である。
いくらキースが身内になったとはいえ、エラのことだ。
あれこれ言ってくるに違いない。
これを弱味にされるのは避けたいと、なんとか気を逸らそうとした時だ。
「あなた……キース殿下?」
「え? ええ。そうです」
「まあ――! なんて素敵な皇子様……!」
どうやらそもそもリリィなんて目に入ってないようだ。
エラは頰を赤く染め、瞳をうるうると潤ませると、リリィを押し退けキースの前を陣取った。
「はじめまして。エラ・マクラーレンと申します」
「はじめまして。キース・ゼノグラアです」
「知ってます! 今大親友のリリィを探してたら……まさかあなたに会えるなんて……! これって運命だと思いませんか?」
エラの気を逸らせたのはいい。
そこはとてもありがたいのだが、これは一体どういうことだろうか?
リリィの目には、エラが全力でキースに媚を売っているようにしか見えない。
これはもしかして、本気でキースを狙いにいっている……?
つい先ほど婚約発表したばかりの人にすり寄るなんて、とリリィは大きく目を見開いてエラを見つめる。
「キース殿下とお話がしたいわ。ね? リリィ、いいでしょう?」
遠回しに邪魔だからどこかへ行けと言われた気がした。
多分間違いではない。
気持ち的には好きにしてくれていいのだが、残念ながらキースはもう婚約者のいる身。
そんな人とエラを二人っきりになんてできないと、エラの腕を掴んで小声で耳打ちした。
「キース殿下は婚約したのよ?」
「知ってるわ。でも別に結婚と恋愛は自由でしょう?」
「そんなわけ――!」
「リリィには関係ないからいいじゃない。それにキース殿下だってあんな冴えない女より、わたしのほうがずーっとお似合いよ」
本当にこの夫婦は人の話を聞かない。
エラとマルクと話していると、頭が痛くなってくる。
思わず額を押さえようとしたリリィとエラの間に、キースが手を差し出してきた。
そのままリリィを庇うように背中に庇う。
「失礼。リリアナが困っているようだったので」
「――」
大きく見開かれたエラの目は、一瞬でキースの背中に庇われるリリィを射抜いた。
責めるような視線を向けられて驚いて固まっていると、エラが一歩前に歩み出る。
「リリィはきっとキース殿下がとられると思って怖がってたんですよぉ。そんなことないのに、ね?」
本当にそんなことないのに、有無を言わさぬエラの視線に思わずたじろいでしまった。
人によっては無礼だと罰せられてもおかしくはない。
だがキースは優しいからか、エラの言葉に完璧な微笑みを返した。
「本当にそんなことはないよ。リリアナは私なんて眼中にないからね」
同意を得られたのが嬉しいのか、エラは上目遣いでキースを見つめた。
「ありえません! キース殿下に好き……なんて言ってもらえたら、どんな女の子だってイチコロですよ」
「……それこそありえないよ」
「いいえ! だって今……キース殿下に見つめられているわたしの胸は高鳴っているんですもの」
ほら、とエラがキースの手首を掴み、己の胸元を触れさせようとする。
だがキースはそれに気づいたのか、いち早く腕を振り払うと困ったように微笑む。
「そう褒めてもらえるのはうれしいよ。ありがとう」
「――そうじゃなくて……!」
いまいち自分に靡かないキースに、エラは焦りを感じているようだ。
とにかく彼を逃さまいとその腕に擦り寄ろうとするが、キースはさらりとかわした。
「とりあえず会場に戻ろうか。そろそろ心配する人も出てくるだろう」
「――あ、はい! そうですね」
よかった。
これでなんとかエラから離れられると、足早に向かおうとした時だ。
キースに相手にされていないことに気づいたのだろう。
ギラリと瞳を光らせたエラが、リリィに向かって指をさした。
「というかなんでリリィはここでキース殿下と二人でいたの? ノア殿下との結婚式なのに……。まさか――!」
なんで今さらそこを突っ込んでくるのだと、思わず苦虫を潰したような顔をしてしまう。
せっかくこのまま無事に帰れると思ったのに。
どうすればいい?
エラは自分の考えが正しいかどうかもわからず、他人にペラペラ喋ってしまう。
せっかくの結婚式、婚約式の日にそんな噂を流されたら最悪だ。
エラの興味を逸らさなくては。
だがどうやって?
そんな考えが頭の中をぐるぐる回っていた時だ。
キースが爆弾を投下した。
「私がリリアナに会いたくてきただけのことだ。――彼女は私のことをなんとも思っていない」
「……それって…………」
ちょっと待て、とリリィはキースを見る。
驚いた顔をするエラと同じくらい、リリィも目を見開いていた。
そんな話を今したら、キースがリリアナをどう思ってるかエラに勘繰られてしまう。
なんて余計なことを――!
と慌てて弁解しようとした時だ。
「――それって、どういう意味でしょうか……?」
がさりと音を立てて、三人の前にアシュリーが現れた。
まさかすぎる登場に、リリィは心の中で叫んだ。
(どうしてみんなここにくるの――!?)




