祝福を
そして行われたパーティーには、たくさんの人が参加した。
国内外問わず重鎮たちが集まるその会場では、リリィとノア、そしてキースとアシュリーにお祝いの言葉が降り注いでいた。
「ノア殿下、リリアナさま、おめでとうございます! 素敵な結婚式でしたわ!」
「お似合いのお二人の結婚式、ご令嬢たちが羨ましそうに見てましたよ」
「ありがとうございます」
「キース殿下、アシュリーさま。ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
皇太子と皇子の結婚と婚約。
めでたいことが重なりお祝いは豪華に、多くの人たちが拍手を送る。
そんな会場だ。
もちろん件の人たちもいる。
「――リリィ! 結婚おめでとう!」
「……エラ」
薄黄色のドレスを着たエラは、マルクとともにやってきた。
楽しそうなエラとは真逆に、マルクの表情は硬い。
同じように二人を前にしたリリィとノアも、軽く眉間に皺を寄せている。
「とっても素敵よ! ぜひわたしたちみたいにしあわせな夫婦になってね! ね、マルク?」
「……そう、だな」
それは離婚しろという意味か?
とはさすがに言えなかった。
あのエラのことだ。
きっと本心で言っているのだろう。
未だマルクの気持ちは自分にあると思っているのだ。
まだここの関係はなんとかなると。
どこまでポジティブなのだろうかとため息を吐きかけた時、リリィが思っていた言葉がなぜか耳に届いたのだ。
「それって離婚しろって意味? それともお姉さまに浮気しろって言ってるの?」
「――オーロラ……」
「どっちにしろ新婚に吐く言葉じゃないわ。あなたが言うべきはこうよ。『わたしたちのような夫婦にはならないようにね』」
やはりこうなるかと、現れたオーロラに呆れた視線を向ける。
だが彼女の目にはエラしか写っていないようで、瞳の奥を燃やしながら歩み寄ってきた。
「もう離婚間近ってうわさになってるわ。……どうやら真実みたいだし」
「――なんですって!?」
「エラ! やめないか。ここは祝いの場だぞ」
「マルク!? あなた……わたしの味方をしてくれないの!?」
目を赤く染めながらエラが金切り声を出す。
そんな彼女の腕を掴んだマルクは、その場から引き剥がそうと力を込めて引っ張った。
「とにかくここではダメだ。一旦離れよう」
「いやよ! それじゃあ負けたみたいに――」
「これ以上騒ぐようなら双方ともに追い出すがどうする?」
「――」
聞くに耐えないと首を振ったノアが放った一言に、さすがのエラも黙り込んだ。
その隙にとマルクが会場の外へと連れ出すのを目撃した。
まったく困ったものだとオーロラを見れば、彼女はにやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
「あれじゃあ本当に離婚間近ね。ザマァみろってのよ!」
「オーロラ。ここは皇宮よ」
「……はいはい。ムカつく女の面白い顔も見れたし、今日はこれだけにしといてあげるわ」
ふんっと鼻を鳴らしたオーロラは、その場を後にした。
あの二人が顔を合わすと面白いくらい反発する。
はたから見ている分には痛快なので、結婚式でなければ好きなだけやらせていたかもしれない。
「俺たちの結婚式じゃなければ好きなだけやらせてたんだがな……」
「……同じことを思っていました」
「そうか。俺たちは似たもの同士の夫婦になりそうだな。――さ、面倒だが挨拶に行こうか」
なんだか嬉しそうなノアに肩を抱かれて、リリィは彼とともに貴賓たちへの挨拶回りに勤しんだ。
――とはいえ数が数だ。
近隣諸国からも集まってくれた人々全てに挨拶をするのは不可能である。
だからこそ主要人物だけ、とはいえそれでも数が多い。
だんだんと疲弊してきたリリィに気づいたノアが、こっそりと耳打ちしてくれた。
「少し休憩してくるといい。俺が相手をしておくから」
「ですが……」
「いいから。今日は花嫁がいちばん輝く日だろう? そんな日に君の疲れた顔は見たくない」
「……わかりました。ありがとうございます」
ノアだって疲れたはずだが、その優しさに甘えることにした。
そろ……っと会場から抜け出したリリィは、皇宮へと続く外廊下に出た。
会場の熱気とは逆に夜風が涼しい。
思ったよりも火照っていたのだなと、赤くなった頰を冷まそうと手で仰いでいると、不意に後ろから声がかけられた。
「――リリアナ?」
「――キース殿下……」
まさかこんなところで出会うなんて。
彼は今ごろ会場でアシュリーとともに、婚約を祝われているはずなのに。
驚き固まるリリィに、キースは悲しげに微笑む。
「身構えないでくれ。……いつから、私の気持ちに気づいていたんだ?」
「えっ……と…………」
まさかそんなふうに聞かれるとは思わなかった。
どう答えるべきか悩んでいると、キースは静かに首を振る。
「いや、愚問だったね。いいんだ、気にしないで」
「…………」
気にしないで、と言われても気にするだろうこれは。
どうにか話題を逸せないものかと必死に頭を回していたリリィの耳に、またしても嫌な声が届いた。
「あ――! リリィ! ねぇちょっと、あなたの妹……あら……?」
「――エラ……」
最悪の登場に、リリィは思わず額を押さえたのだった……。




