結婚式
そこからは結婚式の準備でドタバタだった。
特にリリィは主役として、さらには未来の皇太子妃として人々の視線を集めることになる。
美しさに美しさを重ねるためにも、美容にはとても気をつかった。
当日できものなんてできたら終わりだ。
油物は避けて、保湿も完璧に。
さらにはダイエットもしなくてはならなかった。
リリアナは出るとこ出た素晴らしいスタイルではあるが、もう少しだけ体重を落とさねばならない。
美味しい食事もデザートも、結婚式の日までおあずけだ。
それがとてもつらかったけれど、しかし式当日のリリアナの美しさを見て、その苦労も無駄ではなかったことを知った。
「……美しい以外のほかの言葉が思い浮かばない。すまない、もっと考えておけばよかった」
「殿下に気に入っていただけたのなら……嬉しいです」
「こんなに美しく気高い女性が妻になってくれるなんて、俺は前世でどれだけ徳を積んだんだろうな?」
少し緊張しているリリィを和ませるためのノアの言葉は、ありがたいことにとても効いた。
ふっと肩から力が抜けて、くすりと笑うことができた。
「なら私はもっと徳を積みましたね。……あなたに会えたのだから」
「……会えただけじゃない。――一生ともにいよう。最後の時まで隣にいてほしい」
「…………はい!」
雲ひとつない晴れ渡った青空の元。
リリィは未来の国民たちの前にその姿を現した。
金色の長い髪は結い上げ、純白のベールの下へ。
肩を出す形のウェディングドレスは、ピッタリと体のラインを出している。
刺繍は金色で国の紋章であるライオンが象られ、きらりと輝くのは惜しげもなく使われたダイヤモンドだ。
まるで自らが光り輝いているかのような、美しくも幻想的なその佇まいに誰もが息を呑む。
――なんでお似合いの二人。
そんな声が至る所から上がる。
仲睦まじく寄り添う二人。
ノアの腕に身を寄せるリリィを見て、誰もが彼女はしあわせな花嫁であることを悟る。
ほんのりと赤く色づく頰に、何度も何度も確かめるようにノアを見るその瞳。
そんな花嫁の頭上には、色とりどりの花びらが舞い落ちる。
花嫁の頭についたそれを花婿がとると、優しく彼女に手渡した。
そんななんてことない行動ですらしあわせそうで、二人を見守る国民たちはこぞって声を上げた。
「おしあわせにー!」
「皇太子殿下、皇太子妃殿下、ばんざーい!」
「この国の未来に幸あれー!」
ノアと二人手を振って答えれば、大きな歓声に包まれる。
まさかこんなにたくさんの人に祝福してもらえるとは思わなかった。
この人たちがこれからは守るべき民であり、救うべき人たちであることをよく理解する。
この賛美の声は期待だ。
これからのこの国をよくしてくれという、民たちからの想い。
それは切実であり、彼らが心から望むことなのだろう。
現皇帝の政治は褒められたものではない。
私利私欲に溺れて酒池肉林を貪る皇帝。
それに苦しめられているからこそ、みなノアとリリィに期待するのだ。
よき君主であれ、と。
「……責任重大ですね」
「気負う必要はない。君はもう、じゅうぶん皇太子妃として動いてくれている」
そうだといいのだが。
自分にできることをもっと考えなくては。
そんなことを思っていた時だ。
「おめでとうございます!」
「とってもきれい!」
「花嫁さまかわいいねぇ!」
聞き覚えのある声に振り返れば、孤児院の子どもたちが手を振ってくれていた。
もちろんそばにはバリーやクレア、そしてアーサーもいる。
子どもたちとともに手を振って祝福の言葉を伝えてくれる彼らに、リリィもまた手を振り返した。
「君に救われたものたちがいる。……それでじゅうぶんだろう?」
「……じゅうぶん、かはわかりませんが、自信にはつながりました」
「それでいい。……君は最高の皇太子妃だ。――リリィ」
名前を呼ばれノアを見れば、彼は真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「君を愛してる。――俺とともにいる未来を、選んでくれてありがとう」
「…………こちらこそ。ノア、あなたを愛してます」
差し出された手に己の手を乗せて、そっと体を寄せ合う。
目を閉じれば、知ったぬくもりが唇に触れる。
わあっと大きな歓声が挙げられて、二人は同時に目を開けた。
「……さて、次は面倒なパーティーに出なきゃな」
「勢ぞろいですから。……侯爵家も、伯爵家もみんな」
「化け物勢ぞろいか……。楽しいことになりそうだな」
エラにマルク。
母、父、オーロラ。
そして婚約した、キースとアシュリーも。
無事に終わるわけがないパーティーを想像して、少しだけ気分が滅入りそうになるが、すぐに考え直した。
せっかくの晴れの日だ。
楽しまなくては損である。
「それでは、化け物たちの戦い第二段を見に行くとしましょうか?」
「俺たちの結婚式の見せ物としては最高の催しだな」




