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【完結】許されるとおもうなよ〜夫とその恋人に殺された令嬢は復讐を誓う〜  作者: あまNatu


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作戦成功

「ご招待ありがとう! とっても素敵なお茶会ね!」


 満遍の笑みを浮かべたエラは、出された紅茶をごくごくと飲む。

 飾るように置かれたお菓子もパクパクと食べて、とても満足しているように見える。

 そんなエラの前に腰を下ろしているリリィは、口元に薄く笑みを浮かべたまま目を細めた。


「喜んでくれてよかったわ。……来てくれてありがとう」


「大親友からのご招待だもの! 絶対に来るに決まってるわ」


 パッと見は友人に招待されて喜んでいるだけに見えるだろう。

 けれど対面しているリリィにはわかっている。

 エラの視線がリリィに釘付けになっていることが。

 行動や表情の変化をつぶさに観察しているのだ。

 きっとリリィが落ち込んでいることを期待しているのだろう。

 ならそのとおりにしてやろうと、悲しげに視線を落とした。


「……聞いたかしら? あなたのところの侍女が亡くなったの」


「――……ええ。とっても悲しいわ」


 嘘つき。

 悲しいと言葉にするのなら、悲しい表情をするべきだ。

 だというのにエラの口元は薄く笑みさえ浮かべている。


「急死だったんでしょう? なら仕方ないわよね?」


「……そうね」


「病気じゃあどうすることもできないわ。かわいそうな子」


 おや?

 とリリィはエラの様子から違和感を覚えた。

 もちろんアメリアを殺せた高揚感はあるのだろうが、彼女は致命的なミスを犯している。


 ――それは毒の小瓶だ。


 エラは地下牢に毒の小瓶を忘れていった。

 だからこそアメリアの死が他殺だと裏付けられたのだ。

 それを置いていってしまったことを、少しは気にしているかと思ったのだが……。

 その様子が全くないのを見て、リリィはふと気がついた。

 エラはそもそも、毒瓶のゆくえを知らないのだ。

 騎士に処分を任せたのか、どこかに捨てたと思い込んでいるのか……。

 どちらにしろ、エラは気づいていないのだ。

 自分が追い込まれていることに。


「……」


 なら本当に今、エラはなに一つ不安も苦しみもない。

 晴々とした気分なのだろう。

 それは――。


 ――本当に不愉快だ。


「ねぇ、エラ? あの子のお墓参りは行った? アメリアはあなたを慕っていたでしょう?」


 リリィの問いかけに、エラはきょとんとした。


「なんで? そんなめんどうなことしたくないわ。あの子のせいで迷惑かけられたのに、どうしてわたしがわざわざ?」


「…………そう……」


 殺した相手の墓参りなんて行くはずないかと、リリィは静かに紅茶を喉に流す。

 これだけでもエラの冷たさは感じられるだろうが、恋に盲目となっている騎士には少し弱い。

 メキーラとともにこの光景を見ているだろうあの騎士のためにも、もっと決定的なものを見せつけなくては。

 彼の目を、覚まさせるために。


「……そういえば、最近マルクとはどうなの? あれから……」


「――もういいわ! マルクなんてわたしの言うことちょっとも聞いてくれないし! わたしを大切にしてくれない人なんてこっちから願い下げよ!」


 怒りに任せてクッキーやケーキを手にとると、次々と口に運んでいく。

 礼儀作法なんてまるでなっていない。

 醜くも甘いものを食べ続けるエラは、気分が良くなってきたのか口も軽くなっていく。


「それでね、大親友のリリィにお願いがあるの。誰か他にいい人を紹介してくれないかしら? できれば皇族がいいわ! そうしたら今よりももっと贅沢できるもの!」


 なんて傲慢。

 皇族に選ばれるのではなく、選べると思っているのだ。

 そんなはずないのに……。


「皇族は難しいけれど……。そういえばこの間あなたを案内した騎士と親しげだったけれど……」


「騎士? ああ、あいつ?」


 ぷっ、とエラは吹き出すと、ケタケタと笑い出す。

 手でテーブルを叩き、お腹を押さえる。


「あんな男と結婚なんてするわけないじゃない! 皇室の騎士とはいえ庶民よ? わたしに似合うわけないわ!」


 心底おかしいと楽しげに笑うエラに、リリィもまた静かに微笑んだ。

 それでいい。

 それがいいのだ。

 ありのままのエラ。

 あなたはそうやって、自分で自分の墓を掘っていくのだから……。


「皇宮の騎士なら仕事としてはいいものだけれど……」


「ダメよダメ。わたしの相手は身分も仕事もしっかりしてないと! あとはわたしを一番にしてくれる人。……あーあ。マルクもいいと思ってたんだけど……まさかあんなふうになるなんて」


 唇を尖らせたエラは、指についていた生クリームを舐めとる。

 それを見ていた侍女の数名が眉間に皺を寄せたが、もちろんエラは気づかない。


「ほら! 誰だっけ? 皇太子殿下のお兄様、結婚してないんでしょう? リリィの伝手で会わせてちょうだい。そうしたらきっと、わたしのこと好きになってくれるはずだから!」


「…………」


 もう十分だろう。

 これ以上は聞くに耐えないと、少し大きめに音を立てつつカップをテーブルに置いた。


「残念だけれど、キース殿下の結婚は皇后陛下が手配されているわ。それ以外の皇族の方も、よ」


「えー! リリィだけズルイわ! いい思いしちゃって……」


 ぶつぶつとなにか恨み言を呟いているようだが、これ以上は聞く必要はない。

 リリィは立ち上がると、エラのそばに向かいその肩を優しく掴んだ。


「ごめんなさい。そろそろ行かなくちゃ」


「え!? 行くってどこへ……」


「皇太子妃として勉強しないといけないのよ。お菓子は好きなだけ食べていっていいわ。――メキーラ」


「――はい」


 名前を呼べばメキーラはすぐに現れた。

 彼女が動けるということは、つまり作戦は成功したというわけだ。


「最後にエラをお見送りしてあげて」


「かしこまりました」


「えー! わかったけど……皇族じゃなくてもいいから、いい人紹介してちょうだいね!」


 それには曖昧な笑顔を返すだけで、リリィはその場を後にした。

 いい人を紹介する前に、マルクと離婚する方が先だろうと突っ込みたかったけれどもちろんしない。

 彼女に道理を問うたところで無駄なのはわかっているからだ。


「……とはいえ、うまくいったみたいね」


 作戦成功と、リリィは一人静かに微笑んだ。

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