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【完結】許されるとおもうなよ〜夫とその恋人に殺された令嬢は復讐を誓う〜  作者: あまNatu


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6/90

そんなわけない

 妊娠してから、伯爵家での生活は一変した。


「奥様。本日はお食事とれそうですか……?」


「いえ……。それは」


「なら料理長にスープを作ってもらうよう伝えてきます! 少しでも食べられませんと、お腹のお子さまに栄養を送れませんから」


「ありがとう」


 年若い侍女―クレア―が慌てて厨房へと向かう。

 それを見送りながら、ソファに腰掛けふと肩から力を抜く。

 つわりがつらくて、あまり食事がとれていない。

 それを心配して侍女があれこれ動いてくれていて、とても申し訳なくなってしまう。

 だがクレアの言うことは正しい。

 お腹の子のためにも、食べれる時に食べれるものを食べておかなくては。

 よし、とソファに改めて座り直した時だ。


「偉そうに。ただ妊娠しただけじゃない」


 そう呟くのはアメリアだ。

 彼女のように古くからいる使用人たちは、リリィが妊娠しようともその態度を改めることはない。

 今までどおりリリィを見下し、エラを持ちあげる。


「…………」


 まあそれはいい。

 無理やり考えかたを変えることなんてできないのだから。

 リリィの今後の行動をもって、関係値を改善していければいいと思っている。

 だから問題はそこではない。


「なんでこんな奴に……。エラ様のところに行きたいわ……」


 そう。

 あのお茶会の日からエラが寝込んでいるのだ。

 風邪を引いたとかで寝込んでいるのだが、元々エラは体が弱い。

 普通の人にはただの風邪でも、彼女にとっては命の危険が付きまとう。

 ゆえにマルクもエラにべったりなのだ。

 さらには風邪をリリィに移すわけにはいかないと、マルクとは妊娠発覚から一週間以上会っていない。

 確かにエラも心配だが、リリィのことももう少し考えてくれてもいいのではという考えが浮かび、慌てて首を振る。

 妊娠が発覚した際に見せてくれたマルクの優しさ。

 あれのせいでわがままになってしまっているようだ。

 彼がエラを差し置いてリリィの元に来るわけがない。

 それにあちらは生死に関わるのだ。

 心配してそばにいるのは当たり前。

 そう思う方が、心がずっと楽だった。


「奥様。スープをお持ちしました。……ゆっくりとお飲みください」


「ありがとう」


 スープの香りにぐっと吐き気が起こるが、それを我慢して喉に流し込む。

 具材をすりつぶし、噛まずとも飲めるようにしてくれているのがありがたい。

 口の中に長く食材がいると、吐き気が強くなる気がしたのだ。

 だからさらっと喉に流し込み、戻しそうになるのをグッと堪える。

 子どものためだ。

 子どものためにも飲まなくては。

 ただその一心でスープを飲み干し、リリィはハンカチで口元を押さえた。


「素晴らしいです! 奥様がんばりましたね!」


「…………ありがとう」


 そう伝えるのが精一杯で、すぐにソファにもたれかかった。

 あらい息を繰り返しながら、吐き気が治るのを待ち続ける。

 妊娠がこんなにつらいとは思わなかった。

 吐き気で食事もほとんどとれず、ある日は一日中吐いていた。

 まとめて眠ることもできず、毎日うつらとろりとしている日々。

 体力はほとんどなくなっているし体もつらいけれど、それでも今の状況を嫌だと思うことはない。

 だってこれは全て、お腹の子のためなのだから。

 そう思うとがんばれるのだ。


「――ふぅ……」


「奥様、お水をご用意いたしました」


「ありがとう」


 やっと吐き気が少しおさまってきて、出された水で口の中をスッキリさせた。

 味が残っているとそれだけで気持ち悪くなることもあるのだ。

 水すらなんとか飲み込んで、リリィはソファに寝転ぶ。


「ぐうたら寝てばっかりでいいご身分よね」


「あなた――!」


「いいわ。放っておいて」


 アメリアの呟きにクレアが噛みつこうとしたが、それを止めた。

 そんなことで喧嘩をしても意味がないことはわかっている。

 アメリアがその程度で考えを改めるのなら、こんなに苦労はしていない。

 だから止めたのだが、クレアは不服そうに唇を尖らせた。


「奥様は妊娠されてるんですよ? 休まれることも大切なことです」


「ありがとう。あなたがそう思ってくれているだけでじゅうぶんだわ」


「……はい」


 しぶしぶ頷いたクレアに声をかけて目を閉じた。

 彼女の言うとおり、今は休むことも肝心だ。

 体力を温存しておかなければ、いざという時に行動できない。

 だからこそ、眠れる時に眠らなくては。

 そう思って睡魔に誘われようとしたその時だ。


「――なんでこんな女が……。エラ様が妊娠されればよかったのに……」


「――」


 その言葉に眠気は一瞬で吹っ飛んだ。

 頭に熱が上がるのがわかり、目を開けるとソファから起き上がった。


「――今、なんて言ったかしら?」


「……なんですか? ただの独り言ですよ。お、く、さ、まはお気になさらないでくださーい」


 アメリアはそういうとさっさと部屋から出ていく。

 その後ろ姿を見つめつつも、最悪な考えに慌てて頭を振った。

 そんなわけがない。

 確かにおかしいと思うことはあるけれど、二人は兄妹のように思い合っているだけ。

 そこに劣情なんて存在していない。


「……そうよ。大丈夫…………大丈夫」


 そんなわけがないと、不安になる気持ちはきっと妊娠によるものだろう。

 今リリィにできることは、マルクを信じることだけだ。

 眠気は吹っ飛んでしまったけれど、もう一度横になって目を閉じる。

 この子のためにも、気持ちも落ち着かせないと。


「元気に産まれてきてね。――私の赤ちゃん」

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