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【完結】許されるとおもうなよ〜夫とその恋人に殺された令嬢は復讐を誓う〜  作者: あまNatu


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未来への夢

「驚いたわ。クレアがこんなに器用だったなんて……」


「そ、そうですか? まあ私も体動かすほうが好きだからあまりやらないんですが……。リリアナ様のためですから!」


 そう言いながらも、クレアの手は迷うことなく針を進める。

 チクチクと縫っているのは翼を大きく広げた美しい鳥だ。

 ひとまず腕前を見ようとお願いしたにしてはあまりにも出来がよくて、これは売り物になるのではと考え始める。


「――ちなみにこれを売り物にするって言ったらどうかしら?」


「孤児院の資金ですよね? そういうことなら喜んで! たくさん縫います」


 本当に素晴らしい技術だ。

 薬指がないとはいえ、これなら引く手数多だろう。

 とはいえクレアだけが上手でも意味がない。

 リリィはちらりと周りを見回し、同じように刺繍に夢中になっている子どもたちの手元を見つめる。


「…………ふむ」

 

 本当に色々な子どもがいる。

 刺繍が上手い子下手な子。

 そもそもじっとしていられない子。

 集中力がすぐに切れてしまう子など、多種多様だ。

 いくら上手に縫えたとしても、長続きしないなら意味はない。

 適材適所を見抜くのも必要だなと見つめていると、一人の子どもの手元に目が奪われた。

 まだまだ荒いところは目立つけれど、一針一針がとても丁寧だ。

 それに集中力もすごいのか、黙々と縫い続けている。

 これは素晴らしい実力だと手元から顔を上げた時、思わず体の動きが止まってしまった。


「――……」


 そこにいたのは男の子だ。

 黙々と、しかし瞳をキラキラさせながら縫い物をする姿にリリィはしばし黙り込む。

 針子は女性の仕事だ。

 淑女の肌に触れるものを、男性が縫うというのはあまり好まれない。

 けれど……とリリィはその男の子と目を合わせた。


「……刺繍、楽しい?」


「……………………うん」


 恥ずかしいのか、男の子は控えめに頷いた。

 それを見ながらそうか、そうなのかと腕を組む。

 これはとても難しい道だろう。

 けれど本当に楽しそうな子どもの顔に、ダメだとは言えない。

 なんとかこの子にその道を示してあげる術はないかと考えていると、リリィの隣にノアがやってきた。

 彼は男の子の手元を見ると、その子の頭を優しく撫でる。


「上手いな。……君はこの作業が好きか?」


「………………うん」


「――そうか」


 ノアから視線を送られて、リリィは彼と共にその場を少し離れる。

 子どもたちに声が届かないところまで行くと、ノアが顎に手を当てた。


「どうにかあの子が刺繍で食べていけるようにはできないか?」


「私もそれを考えていました。あの実力、集中力。それに好きなことを仕事にできるなら……そうしたほうがいいです」


「とはいえ、貸し出しとなると難しい顔をするものもいるだろうな……」


 さすがにノアもわかっているのか、難しい顔をしている。

 男はこうあるべき。

 女はこうあるべきという考えが根深くあるこの時代、あの男の子に刺繍をさせるのは難しい。

 だがあれだけの実力、熱意をみすみす逃すのはもったいない。

 

「…………いっそ店を作るというのも手かもしれませんね」


「店?」


「ええ。貸し出しが難しいようなら、店に立ってもらうんです。人員貸し出しと一緒に、仕立て屋もお店として立ててしまう……とか」


 難しいことを言っているのはわかる。

 さらにいうなら夢物語のようなことなのも。

 けれどあの男の子が刺繍を仕事にするとなると、そういった偏見を持たない場所が必要だ。


「店……か。難しい話にはなるな。先行投資にしてもまとまった金銭も必要になる」


「そこなんですよね……」


 どうしたものかと頭を悩ませていると、不意にノアがあ、と声を上げた。


「どうせなら君が雇ったらどうだ?」


「……私が、ですか?」


「あの子どもが働けるようになる頃には、君は皇太子妃。もしくは皇后になっているだろう。そんな君が着れば人々の注目を集められるし、なにより世論を変えられるかもしれない」


「世論を……?」


 自分が人々の考えを変える存在になる。

 そんなふうに考えたことがなかった。

 だが確かにノアの言うとおり、皇太子妃とは淑女の憧れの的ではある。

 実際この間ノアとお揃いの黒いドレスを身にまとってパーティーに出て以降、黒いドレスが流行りとなっていると聞く。


「私が着れば……みんなの考えを変えられる……?」


「だがそのためにも、彼には最高の腕前になってもらわないとな。――君が着るんだ。全て一流でないとな」


 ノアの言うとおり、孤児院の子どもたちが仕事をするのにはまだまだ時間がかかるだろう。

 その間に孤児院の経営が国に移ろうとも、どこまでしてあげられるかもわからない。

 それに手に職をつけておけば、彼らが孤児院を出て行ったあとにも役立つはずだ。

 ならすべきことは一つ。


「その時のためにも、そして今孤児院の力になるためにも。彼らの成長を見届けましょう」


「素晴らしい教師がいるんだ。きっとうまくいくさ」


「――はい!」

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