アメリア
「はぁ……?」
ぽかんとするアメリアに向かって、にっこりと微笑んでみせる。
そんな反応をされることはわかっていた。
だからこそこの後の対応も、想像通りにすればいいだけだ。
「信じられないわよね?」
「いえ、なにを言っているのかわからないんですけれど……」
「そのままの意味なのだけれど……まあいいわ」
さてどれから話そうかと、視線を少しだけ斜め上へと向けた。
「そうね……。あなたが私に冷めた具のないスープを渡していたことは? カチカチのパンも。それをあなたは早く食べろと私を罵ったわね?」
「――そ、それは……」
「お腹に赤ちゃんができた時も『ぐうたら寝てばっかりでいいご身分よね』『なんでこんな女が。エラ様が妊娠されればよかったのに』って言ってきたわね」
「………………」
アメリアの顔が青を通り越して真っ白になっていく。
それが面白くて、リリィはさらに追い討ちをかけることにした。
「あなたは私に優しくしてくれたクレアを嵌めたわね? 彼女を見つけて、もう保護してあるわ」
「――それは……だから……っ!」
「ほかにもあなたの悪行を伝えましょうか? 伯爵家で受けてきた仕打ちの数々、他人の体に乗り移ろうとも、忘れられるわけがないじゃない」
リリィはそっと手を伸ばし、呆然とするアメリアの頰に触れた。
冷たく氷のようなその温度に、彼女の心境が手にとるようにわかる。
信じられるはずがないのだ、こんな話を。
けれど疑問には思っているはずだ。
なぜそんなことまで知っているのかと。
「あなたならわかるでしょう? 一応私付きの侍女だったんだから。……リリィ・マクラーレンにこんな話ができる友人はいなかったと」
いつだってどんな時だって、アメリアはリリィを監視していた。
余計なことをしようものならそれをネタに、いじめるつもりだったのだ。
だから彼女は知っているはず。
リリィが伯爵家でのことを、外の人に話しているわけがないと。
「だからあなたは私にひどいことをできたのよね? マルクとエラが必ず守ってくれるから。『――義姉様ひどいです! 使用人たちは一生懸命やっているのに……!』って」
「………………ほんとうに? 本当に……あなたが……?」
「――まさかこの話で信じる気になられるとは思わなかったけれど……。まあ、信じるも信じないもあなたに任せるわ」
大切なのはそこではないのだから。
呆然とこちらを見てくるアメリアに、リリィは静かに告げる。
「あなたからされたこと、私は忘れるつもりがないわ」
「――ちがっ、私は……!」
「馬鹿女、ですものね? まさか死んでもなお、辱めを受けるとは思わなかったわ」
思い出すだけで腹が立つ。
売女とリリィを笑うアメリアを、許すはずがないのだ。
彼女の頰を撫でた手で、そのまま彼女の頰を掴む。
先ほどノアがやっていたように。
そしてそのまままっすぐに、アメリアの瞳を見つめた。
「……あなたもまた、罰を受けるべきよ」
「――そんな! 話せば助けてくれるって……!」
「私は処遇を考えると言ったのよ。……あなたを助ける気なんてないわ」
「…………そんな……それじゃあ私は…………っ」
床に両手をついたアメリアは、ボロボロと涙を流す。
未来に絶望したらしいアメリアを見下しながら、リリィは立ち上がった。
「――けれどあなたにチャンスをあげるわ」
「え……?」
「今の話を公式の場でしなさい。包み隠さず、伯爵家で私の受けた仕打ちを全て」
「そ、それで許していただけるんですか!?」
アメリアの瞳に希望が滲んだ。
キラキラと輝かせ、見上げるようにリリィをその瞳に映した。
まるで神に祈るかのように両手を組んだアメリアに、リリィは冷たい視線を投げる。
「許す? そんなわけないでしょう。命だけはとらないであげる。……あなたは一生牢獄で暮らすのよ」
「――そんな!」
「ねぇ。どうしてあなたは許されると思うの? 自分たちがなにをしたか、なにを言ったか、忘れたわけじゃないわよね?」
もう一度しゃがみ込み、アメリアの顔を眺める。
この顔を覚えておこう。
きっといつか、同じような顔をエラも見せてくれるはずだ。
絶望に歪んだ顔。
それを見るために今、リリィは生きているのだから。
「――許されると思うなよ」
それだけ言うとリリィは立ち上がり、ノアとともに地下牢を出ようとする。
だがその前に思い出したように振り返り、呆然としているアメリアを最後に見た。
「ちなみに公式の場で発言しないなら……命の保証はないから。よく考えなさい」
もう用はないと、アメリアが口を開く前にその場を後にする。
薄暗い牢獄から出て、やっと陽の光の元へ来れたことにホッと息をつく。
「――本当に殺さないのか?」
「…………」
どうやらまだ苛立ちがおさまらないらしい。
今にも腰に携えた剣を抜きそうなノアに、静かに首を振った。
「アメリアだけ死んでしまっても意味がありません。エラとマルクを巻き添えにしてもらわないと」
「……そうだった。君の本命はアレだったな。あまりにも腹が立ったから忘れていた」
「…………ありがとうございます。殿下が怒ってくださったおかげで、冷静になれました」
「……まあ、君の役に立てたのならいいが」
まだ不服そうなノアの腕に手を回して、二人はその場から歩み出す。
やっと証拠が手に入った。
これで宝石の件とともに、あの二人を断罪できるはずだ。
「――殿下。アメリアですが、誰にも会えないようにしてください。……エラはなにをしてくるかわかりませんから」
「それならもうしている。あそこに入れるのは限られたものだけだ」
「さすがです。……ありがとうございます」




