役者たち
「失礼致します」
リリィの言葉にハッとしたメキーラが、カップの底を確認する。
だが目視ではわかりにくいのだろう。
難しそうな顔をしていたので、ティースプーンを手渡した。
「これを使って」
「ありがとうございます」
受けとったティースプーンで底をかき、茶葉とともに砂を取りだした。
それを指先で擦り、感触や指に残る汚れを見てメキーラは眉間に深い皺を寄せる。
「――砂が入っています。ティーポットも調べても?」
「お願い」
すぐにメキーラは動き出し、ティーポットも確認する。
しかしそちらには砂は入っていなかったようで、やはりリリィにだけ飲ませようとしていたのがわかった。
そのことに眉間の皺をさらに深くしたメキーラは、視線だけをハルへと向ける。
その視線を受けたハルは、瞬時にアメリアの服をまさぐり砂の入った小瓶を探り当てた。
「――砂です」
「ほ、ほら言ったじゃない! 別に毒なんて入れて――」
アメリアがなにかを言おうとする前に、ハルが彼女の頭を床へと叩きつけた。
「テメェは今なにが起こってるか理解できてねぇみたいだなぁ?」
「ちょ、ちょっと待って! なにが起きているの!?」
さすがにあわて出したエラが止めようとするが、それに首を振って見せる。
「彼女は私の飲み物に砂を入れていたのよ? 罰を受けなくちゃいけないわ」
「――砂……? なんで……そんなこと…………」
一瞬苦い顔をしたエラだったが、すぐにいつも通りの無邪気な顔をしてみせる。
「で、でも砂ならちょっとした悪ふざけ――」
「悪ふざけで済む話ではないわ。――あなたは皇太子殿下のカップに砂を入れても悪ふざけで済ませられると思うの?」
「――こ、皇太子殿下は関係ないでしょう?」
「あるわよ。私は未来の皇太子妃よ? 私を侮辱するということは皇太子殿下を侮辱しているのと同じよ。……たかが侍女がそんなことして、許されるとでも?」
ここまで説明してあげたのに、エラはいまいち理解できていないようだ。
ムッと唇を歪めると、でもでもと言い出した。
「リリィは皇太子殿下じゃないわ。だからあなたが許してくれさえすれば……」
「なぜ私が許さなくてはならないの? 話したこともない侍女にこんな仕打ちをされて……」
「そ……それは……」
エラもわかっているのだろう。
アメリアがなぜこんなことをしたのかを。
だからこそ気まずいのだろう。
黙り込んだエラから視線を離し、リリィはアメリアと向き合った。
「なぜこんなことをしたの? ――私が誰だかわかっててやったんでしょう……?」
「――…………っ」
「リリアナ様から直々にお声がけいただいたんだ。答えるのが礼儀ってもんだろ?」
ハルに髪を掴まれて、アメリアは顔を上げさせられる。
悔しさが痛みからか、唇を強く噛み締めながらもリリィを睨みつけてきた。
「――あ、あんたがあの女と同じ名前で……、エラ様に迷惑をかけたから……!」
「……エラの命令だったってこと?」
「――ち、違うわ! わたしそんなこと言ってないわ!」
エラが何度も首を振る。
さすがに分が悪いと思ったのか、エラはアメリアを蔑むように見つめた。
「なんでその子がそんなことしたのかわからないけれど……わたしにはなに一つ関係ないわ!」
「――………………エラさま……」
もしかしてなにがあってもエラが助けてくれるとでも思ったのだろうか?
絶望を瞳に滲ませたアメリアは、呆然とエラを見つめている。
「…………馬鹿ね」
ぼそりとつぶやいた言葉は、きっと誰にも届かなかったはずだ。
どうして誰も彼もがエラを信じ崇めるのだろうか?
盲目的というか盲信的というか……。
とにかくエラの周りは全て信じているのだろう。
エラは女神だと。
彼女は慈愛を持って、慈悲を与えてくれると。
だが実際はただわがままで自分が可愛いだけの子どもだというのに。
「それじゃあこれはエラが望んだことじゃないと?」
「当たり前じゃない! この子が勝手にやったことで、わたしにはなに一つ関係ないわ!」
「……そう。じゃあこの子が勝手にやったことなのね?」
「そうよ! 本当に……最悪な子」
その一言が決定打になったのか、アメリアが涙を流しながら顔を伏せた。
信じていたものに裏切られる悲しさは知っている。
だからと言ってアメリアがしてきたことが許されるわけではないが。
さてこのあとどうしてくれようかと考えていた時、扉が開き中に焦った顔をしたマルクが入ってきた。
「――なにがあった……」
どうやら役者は揃ったようだ。




