手紙
「準備に時間がかかるということは、それだけ長期的に続けられるということだ。……君の思うがままにやってみるといい」
リリィの提案にノアはそう答えてくれた。
それはつまり人材貸し出しの件を進めてもいいというわけだ。
確かにノアの言うとおり、一人前に育て上げるのには時間がかかるだろう。
特に貴族たちの元へ向かえるくらいになるには、かなり時間と労力を使うはずだ。
しかもその間金銭的にはプラスにならない。
だから苦い顔をされるかと思ったのに、ノアはそんな心配を軽く笑って否定した。
「ありがたいことに俺には勝利の女神がついてくれているようでな。私的に金を稼いでいて、それを孤児院に使うくらいわけない。だから君は今ではなく将来を見据えてくれ」
なんて頼もしいんだと感心しつつ、とはいえ甘えてばかりもいられない。
ありがたいことにリリィの指先は器用で、刺繍や編み物は得意だ。
そしてなんと、クレアもプロ並みに上手だった。
二人で合わせて教えれば、そうそう時間もかからないのではと思っている。
子どもたちに教えつつ、売れるものはどんどん売っていくつもりだ。
少しでも孤児院の足しになるならばと、部屋で編み物をしていた時だ。
「リリアナ様。お手紙が届いております」
「ありがとう。置いておいてちょうだい」
「かしこまりました」
侍女が手紙を置いて部屋を出ていく。
それを見送ってから、テーブルの上に置かれた手紙をじっ……と見つめた。
まさか、もしかして。
そんな思いで恐る恐る手紙を手にとれば、そこには予想通り『エラ・マクラーレン』の文字。
大きめなため息をつきつつ、手紙を読むことにした。
『大親友 リリィへ。
実はあのパーティー以来、すっごく大変なことになってるの!
リリィなら助けてくれると信じてるわ!
明後日の午後、伯爵家に来て。
たくさんお話ししたいことがあるの!
よろしくね。
大親友 エラより』
「……なにこれ」
手紙の内容があまりにもすぎて、思わずつぶやいてしまった。
内容がなさすぎるし、なにより身勝手すぎる。
リリィにだって都合があるのに、それをまるっと無視しているところが流石だなと思う。
こんな手紙は無視しようと捨てようとした時、ふと孤児院にきたマルクのことを思い出す。
エラが浮気をしたその腹いせに、彼女に使っていた金額を丸々寄付しようとしてきた。
あのエラに夢中だった男がそんなことをするなんて、伯爵家は一体どうなっているのか。
「――気にならないわけがないわね」
エラ様エラ様と称えていた使用人たちは、果たしてマルクとエラどちらについているのか。
きっと伯爵家は最悪な雰囲気だろうと思うと、見てみたい気持ちが沸々と湧き上がってきた。
「今エラがどうなっているかも聞いておきたいわね」
そうとなればと机に向かうと、さらさらと返事を書き始める。
『エラへ。
次からはいつなら大丈夫か複数日候補をあげてから、手紙を送ることをお勧めするわ。
明後日の午後伺います。
そのようにマクラーレン伯爵にも伝えておいてちょうだい
リリアナ・ウィンバート』
さて、と書いた手紙を侍女へと渡す。
マクラーレン伯爵家に送るよう指示を出し、改めてソファに腰を下ろした。
孤児院のことも進めたいが、エラたちのほうも気になる。
皇女のパーティーまではまだ時間があるため、その間にエラたちには立ち直ってもらわなくては。
絶望に落ちるのなら、二人揃ってでないと面白くない。
とはいえ二人の中をとり持つことなんて意地でもしたくはない。
だからこそ傍観を決め込もうとしているのだが……。
「それじゃあ面白くないのよね」
どう立ち回るべきか。
彼らを最高のタイミングで貶めるにはどうしたらいいのか。
「考えないといけないわね」
それに……。
「――クレアの仇もとらないと」
思い浮かべるのは、まるで武勇伝のように語る伯爵家侍女―アメリア―のことだ。
直接手を下したのはエラだが、嘘偽りを述べてクレアをはめたのはほかでもないアメリアである。
だというのに彼女にだけお咎めがないなんて、そんなこと許されるはずがない。
昔のリリィへの行いも合わせて、きっちりと罰を償わせなくては。
「そちらも考えないと」
彼女に最高の罰を与えなくては。
想像しろ。
クレアがしたように、泣いて土下座するアメリアの姿を。
「――…………」
リリィは一人静かに微笑んだ。
復讐相手はエラとマルクだけではない。
リリィ・マクラーレンを傷つけた全ての人たちへ。
「次のターゲットは、――アメリア……ね」




