デートと呼ぶには
「どこか見たいところはあるか?」
「……そう、ですね」
あたりを見回せば、そこかしこに店があった。
露天のようなものもあるし、少し行けば高級なドレスやアクセサリーを取り扱うお店も。
どちらを見ようか束の間悩んで、露店など庶民が集まる方に行くことにした。
ここらへんはきたことがない。
ならこの機会にいろいろ見ておきたいのだ。
孤児院を運営する上で、金策をしなくてはならないリリィにとって、ここは最高の勉強の場となるだろう。
「でん……ノア。ここを見てもいいですか?」
「……もちろん。好きに見るといい」
優しい笑顔に見守られながら、露店に売られている品物を眺める。
金策といってもなにをどうすればいいのかあまりわかっていない。
商売相手を貴族にするのか、それとも庶民にするのか。
どのような形にするかもなに一つ決められていないのだ。
だからこそここでいい手を見つけられればいいのだが……と、足を進めながら忙しなくあたりを確認する。
食べ物系は種類が豊富だ。
サンドイッチも野菜サンドに肉サンド、チーズたっぷりなものまで多種多様。
漁港があるからか新鮮な魚も売られており、見ているだけで楽しい。
「とはいえ、食品系で利益を出すのは難しいですよね……」
「なんだ、そんなことを考えていたのか? どおりでデートにしては眉間に皺がよっていると思った」
ノアの指がリリィの眉間に触れる。
そこでこれがデートだったことを思い出し、慌てて頭を下げた。
「失礼致しました! ついつい……孤児院のために何かできないかと考えてしまいまして……」
「謝ることじゃない。君のその熱心さには感服する」
ノアは笑って許してくれると、そうだな……と顎に手を当てた。
「商売系なら飲食じゃないほうがいいかもな。……少し考えていることがある」
「考えていること、ですか?」
「孤児院の子どもたちの未来のことだ」
ノアのそばを走り抜ける子どもの姿があった。
大きな笑い声が耳に届き、その姿に孤児院の子どもたちを思い出す。
ここにいる子たちも、孤児院の子たちも、みんなに等しく未来がある。
それをノアは、考えていたのだ。
「孤児院の出というだけで、職に就けないものも出てくるだろう。だから……子どもたちになにか未来につながることを教えたいと思っている」
未来につながるなにか。
それはとても突拍子のないことで、かつ、とても難しいことだろう。
孤児院の子どもたちの今ですら大変だというのに、そこに加えて未来まで考えないといけないなんて。
途方もない。
そうは思いながらも、リリィは今のノラの言葉になにかとっかかりを見いだせそうな気がしたのだ。
先ほどのノアと同じように、顎に手を当て考える。
未来につながるなにか。
さらには孤児院のために理にもなることだ。
そんなものあるのだろうかと考えた時――。
「――あるかもしれません」
「どうした?」
「いい答えが、あるかもしれません」
そう口にするリリィの瞳には、露天に並ぶたくさんの布が映る。
「我が国は交易が盛んで、他国の素敵な布がたくさん集まります。だからこそ貴族女性たちは各々、思い思いのドレスを身に纏うことができます」
「確かにそうだな」
「そんなドレスですが、昔から人気の装飾があるのをご存知ですか?」
「……すまない。あまりそういったことには詳しくないんだ」
「それは刺繍です。令嬢たちはお気に入りのお針子を見つけて、そこに自分のドレスをお願いするんです」
正確にはお気に入りの針子のいる店を見つけて、だが。
兎にも角にも、年頃の令嬢は社交界という場所に人生を賭けている。
そこで結婚相手を見つけられなければ売れ残りと言われ、家族からも恥晒しと罵られるだろう。
そんな思いをしたくない令嬢たちは、こぞって美しく身を飾るのだ。
男性が剣や銃を持って戦場を駆けるなら……。
「令嬢たちはドレスと言う武器を持って社交界という名の戦場に出ます」
「……言い得ているな。令嬢たちの社交界に対する想いは、しょうじき恐ろしいものがある」
若干青ざめた顔をするノアは、多分その被害者だからこそいろいろわかるのだろう。
歳若く美しい皇太子。
さらにはその婚約者とも不仲となれば、令嬢たちにとっては格好の獲物だ。
「ドレス被りなんてもっての外。色ですら被りたくないと思うもの。――そこを、利用するのはどうでしょうか?」
「利用……?」
「子どもたちに刺繍を学ばせるのです。もちろん望んだ子だけですが」
望まない子にまで強要するつもりはない。
しかし孤児院の子どもたちはつらい現実を生き抜いてきた。
明日食べるものもない恐怖を知っている彼らが、未来につながるものを教えてもらえるとなれば、否とは言わないだろう。
「そこで令嬢専属のお針子として、貸し出しをするんです。シーズン丸々、その人だけの針子として仕事をするとなれば、よそと被ることもなく安心できる」
「――ほう。面白い、続けて」
ノアから後押しをされて、リリィは胸を張ってこの案を口にした。
「針子だけじゃありません。庭の手入れや掃除、洗濯。――人材貸し出し。それを、孤児院からするんです」




