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【完結】許されるとおもうなよ〜夫とその恋人に殺された令嬢は復讐を誓う〜  作者: あまNatu


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罪滅ぼし

「……寄付って、どういうことですか?」


「なぜ君がここにいるんだ?」


「ここの手伝いをしているんです。それで……どういったご用件ですか?」


「手伝い? ……皇太子の婚約者である君が?」


「質問しているのはこちらです」


 本当に人の話を聞かないなと、大きくため息をついた。

 リリィは手伝いをしていると答えたのだから、次はマルクが応える番だろう。

 だというのにマルクは眉間に皺を寄せた。


「…………寄付をしにきたと言っただろう。ここは孤児院なんだろう?」


「そうですけど……」


「なら寄付を。ひとまずこれくらいでどうだろうか?」


 そう言って渡された小切手には、庶民たちの三年分の給金を上回る金額が書かれていた。

 ここ最近経済の勉強もしているため、これが普通の寄付ではないことはわかる。

 これほどの大金を突然なんなのだと眉間に皺を寄せれば、なにを勘違いしたのかもう一枚小切手を取り出してきた。


「足りないか? ならこれでどうだ?」


 いったいなんなのだ?

 ひとまずリリィは二枚目の小切手に関しては断りを入れた。


「一枚だけでじゅうぶんです。……ですがいったいなぜですか?」


「遠慮する必要はない。見たところ生活に困っているんだろう?」


 どうしてこの男はこう、上からものを言ってくるのだろうか。

 そのことに若干苛立ちを覚えながらも、こういう時こそ冷静になれと己を律した。


「ひとまず、理由をお聞かせください。このような大金を急に持ってこられても困ります」


「……大金。…………そうだな、これは大金だったな」


 なにが言いたいのか全くもってわからない。

 理由を早く言ってくれと視線で急かせば、マルクはゆっくりと口を開いた。


「……子どもたちによい暮らしをしてほしい。……それだけだ」


「…………子どもがお好きなんですか?」


 子どもたちにいい暮らしを?

 そんなはずがない。

 彼が他人の子どもに一切の興味がないことは知っている。

 ゆえに怪しい。

 なぜこれほどのお金を寄付するのか。

 訝しむリリィに気付いたのか、マルクは深く眉間に皺を寄せた。


「……どうも信用がないようだ。…………昔、俺にも子どもがいた」


「――」


 ひゅっと喉が小さくなったのは、マルクには気づかれなかったようだ。

 いったいなにを言おうというのか。

 心臓がうるさいくらい高鳴ってくる。


「生まれてくることはなかったが……」


 この男の口からあの子のことを聞くなんて。

 目の前が真っ赤になりそうなほど、頭に血が登ったのがわかる。

 だがそれを表に出してはいけない。

 マルクに正体がバレるわけにはいかないのだから。


「――それは前妻との間のお子ですか? エラからは庭師との子どもだと聞きましたが?」


 言葉に棘がなければいいのだが。

 だがどうしたって苛立ちは滲んでしまう。

 強く告げたその言葉に、マルクはさらに眉間に皺を寄せた。


「……俺の子だ。間違いない」


「――っ!」


 わかってて。

 わかっててそんな噂を流していたのか。

 マルク自身が流していなかったとしても、それをペラペラと喋るエラを止めなかった時点で、彼もまた同罪だ。

 だというのになぜ、彼が被害者のような顔で今ここに立っているのだ?

 怒りのあまり泣きそうになるのをギュッと力を入れて耐える。


「ここにはあの子くらいの年齢の子もいるだろう。……罪滅ぼしではないが、なにかできたらと思って……」


 はっ、と鼻で笑いそうになった。

 罪滅ぼし?

 あの子を殺したのは他でもないマルクだというのに。

 その罪を滅ぼす?

 なくなるはずがない。

 あの時の恨みは今もこの胸にあるのだから。

 リリィは受け取っていた小切手をマルクの胸に強く押し付けると、もう我慢ならないと力強く睨みつけた。


「お金を払ったから罪が滅ぼせると……? 確かに寄付という行為は尊いものです。――ですがあなたのそれは……あまりにも傲慢です」


「――急になんだ。君には関係ないだろう。それにこのお金があれば……」


「いりません。今すぐお帰りください」


 困惑するマルクの胸元を押して、リリィは彼を門の外へと出した。


「あなたがすべきことは寄付ではなく懺悔です。己の罪を滅ぼすなんて傲慢なこと……許されるはずがない」


「…………君は……いったいなんなんだ……?」


「――……」


 古びた門。

 塗装はとうの昔に剥がれ落ち、触れるだけで錆が手につく。

 だがそんなことを気にすることもなく、門の外へとマルクが出たのを確認してから、力の限り締め出した。


「私が何者かなんて気にしてないで、お子さんのお墓にでも手を合わせたらどうですか? ……もちろん、あればの話ですが」


「――あるに決まっているだろう。俺がどれだけあの事件に心を痛めたか、君にはわからないだろう!」


「――わかりたくもないっ!」


 ついに叫んでしまった。

 瞳に涙の膜を浮かべながらも、必死にそれをこぼさないよう努める。

 こんな男の前で、泣きたくなんてない。

 弱いところを見せたくないのだ。


「――あなたは最低です。前妻の不貞が嘘であると知っていながら、エラを止めることをしないのですから」


「そ――それは……!」


「お帰りください。……ここはあなたのような方がくる場所ではありません。どうぞそのお金で、今の奥様に豪華なドレスでも買って差し上げてください」


「――…………っ」


 悔しそうに唇を噛み締めるマルクを一瞥し、すぐに踵を返した。

 胸に渦巻くのはなんの感情だろうか?

 怒り、憎しみ、悔しさ、嫌悪……。

 たくさんの負の感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、気付いた時には瞳からぼたぼたと涙がこぼれ落ちていた。

 それでも絶対にマルクにだけはバレたくなくて、必死に口元を押さえる。

 早く、早くマルクから離れたい。

 彼の視界に入りたくない。

 そう思った時、リリィの頭にふわりとなにかが乗った。


「――え?」


「失礼します。……大丈夫ですか?」


 まるでリリィの姿を隠すように、真っ白なシーツが頭から被せられた。

 それをしてくれたであろうバリーは、リリィと目が合うとにっこりと微笑む。


「大丈夫ですか? 落ち着いて呼吸に意識を向けてください」


「あ、ありがとうございます。……すいません、せっかくの寄付だったのに」


 あれだけの金額があれば、ここの子どもたちに美味しいご飯も新しい洋服も買ってあげられたのに。

 自分の感情だけで動いてしまったことを恥じていると、バリーは何度も頭を振った。


「かまいません。……我々にとって、大切なのは苦しい時に手を差し伸べてくださった殿下と、リリィ様です。そのリリィ様がお決めになったことを、尊重いたします」


「バリーさん……。ありがとうございます……」


「さ! 子どもたちが待っています。……落ち着いたら、ご飯にしましょう」


「……はい」


 バリーに案内されるがまま、建物の中へと向かう。

 だがその前にと、少しだけ振り返って見る。

 そこにマルクの姿はもうなくて、安堵のため息をこぼす。


「……お墓、あるんだ……」


 ないと思っていた。

 だがマルクの言葉が真実なら……。


「――行きたい……」


 あの子に会いたいと、願ってしまう。

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