似たもの同士
「なにやら面白いものを拾ってきたらしいな」
「……面白い……でしょうか?」
「とても」
皇宮にあるリリィの部屋で、やってきたノアと話をしていた。
内容は孤児院のことだ。
まだまだ保護されるべき子どもは多い。
まずは数を増やそうと作戦を練っていたところ、そんな話をされたのだ。
「……ちょうどいい人間がいたから雇っただけです。孤児院を増やすのに人手は必要でしょう?」
「――まあ、そういうことにしておこう」
まずは体力をつけなくてはと、リリィはクレアを皇宮に連れてきた。
もちろんノアの許可を得てだ。
痩せ細り傷ついているクレアを養生させなくては。
ゆえに連れてきたリリィ自ら消化によい食事などを作り食べさせている。
さすがに勝手に連れてきた手前、皇宮の侍女たちに世話をさせるのはどうかと思ったのだ。
もちろんノアはそんなこと気にしないだろうが、一応の配慮というやつである。
「孤児院の件も、早く国の取り組みになれば話は早いんだがな……」
「……皇帝陛下はそんなに、お金稼ぎに夢中なのですか?」
「ああ。私腹を肥やすことにしか興味がない豚のような男だ。――あれと血が繋がっていると思うと、鳥肌が立つほどにな」
現皇帝の噂は聞いたことがある。
若い女に目がなく、側室の数は十を超えている。
子どもも二十三人おり、誰が皇太子になるのだと一時期話題になっていた。
結局皇后の第一子であるノアがその座についているが、それも安泰ではない。
彼の地位を狙うものはたくさんいるからだ。
皇位継承争いは過熱の一途をたどっているらしいが、今のところそんな様子は見られない。
ただの噂だったのだろうか?
「金と女にしか興味のない皇帝などいないほうがいい。――許されるのならあの男を殺してその座を奪いたいほどだ」
あのノアがここまでいうのだから、よほど無能な王なのだろう。
だというのにここまで国が安定しているのは、ひとえにノアの力だ。
国を思い民を思い、動かす力のある皇太子。
優秀であり未来ある彼の隣に立つことを許されたとあれば、リリィがやることは一つだけだ。
「殿下が皇帝となられた際、速やかに動けるよう、今のうちに準備しておきます」
「…………」
「――しばらくは資金源も確保しないと……ですよね。増やすとしても殿下の私財から動かし続けるのは厳しいものがあります。どこか別に金策をした方がいいかと。……殿下? どうかされましたか……?」
なにやらノアに見られていた。
ついつい熱く語ってしまっていたかと反省していたのだが、ノアは穏やかな表情でリリィを見つめてくる。
「いや。俺の婚約者は素晴らしい女性だと感心していただけだ。……孤児院の件は君に任せる。もちろん、必要な支援はするし不安なところがあったら遠慮なく相談してくれ」
「……ありがとうございます」
「礼を言うのは俺のほうだ」
ますますやる気が出てきたと、リリィはいろいろ考えた。
学ばなければならないことは多い。
経営についてもだが、目下の問題は金策だろう。
ここさえうまくできれば、早くことを進めることだってできるはずだ。
だが残念ながらリリィは自らの力でお金を手にしたことがなく、ここらへんのやりかたに疎い。
どうするべきかと考えていると、ふとノアが思い出したように顔を上げた。
「そういえば、君の復讐相手……」
「――エラですか?」
「面白いことになっているようだぞ」
本当にノアは耳が早い。
いや、もしかしたらリリィのために伯爵家に密偵でも送っているのかもしれない。
そう思えるほど彼が情報を手に入れる速度は速かった。
「どうやら夫との仲がだいぶギクシャクしているようでな。……あの男、自分は平然と浮気していたというのに、相手にされるのは許されないらしい」
それはつまり、あの現場を見てしまったマルクがエラを許せずにいるということだろうか。
エラが浮気していると前々から疑っていたが、決定的な証拠を見てしまったと思っているのだろう。
その程度のことでギクシャクしているのかと、リリィは笑ってしまいそうになる。
「そのうち君宛に手紙でも届くんじゃないか? かわいそうなわたしを慰めて! なんて」
「……ありえそうでゾッとするのでやめてください」
容易に想像できた内容に青ざめていると、ノアがくつくつと笑う。
「届いたら見せてくれ。怖いもの見たさというものだな」
「……楽しんでます?」
「とても」
楽しげなノアに手招きされて、リリィは彼の隣へと腰を下ろした。
すぐに肩を抱かれて囁かれる。
「本気で嫌なら門前払いもできる。……けれど君はそうしないんだろう?」
「……そうですね」
エラとマルク。
愛を語り邪魔者まで排除して結ばれた二人。
幸せだったはずだ。
なのにそれを自らの過ちで壊そうとしているなんて。
「このまま自然消滅……なんて、つまらないでしょう?」
やるなら徹底的に。
もっともっともっと……。
不幸の絶頂に誘わなくては。
離婚してはいさようなら、なんてそんな終わりかたは許さない。
「……そう思うと、手紙も少し楽しみです」
「さすが俺の花嫁だ」
そう言って笑う二人の表情は、とてもよく似ていた――。




