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【完結】許されるとおもうなよ〜夫とその恋人に殺された令嬢は復讐を誓う〜  作者: あまNatu


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33/90

あの子のこと

 パーティーは人々の戸惑いとともに進んでいく。

 食事は大皿にこれでもかと盛られたものをとり、ワインはそこそこのもの。

 音楽も素晴らしい腕前とはいえぬもので、リリィとノアは最低限の一曲を踊るだけにとどめた。

 会場が眩いばかりの宝石で飾られているというのに、内容はあまりにお粗末である。

 そのチグハグさを皆も気づいているのだろう。

 会場にいる人たちは困惑気味だ。

 これでは早くに帰ってしまう人たちも多いだろう。

 さっそく動いたほうがよさそうだと、楽しげに踊るエラを見つめた。

 彼女はパーティーを楽しむことに夢中で、こちらの行動なんて気にしていない。

 リリィは隣にいるノアに近寄ると、こっそりと声をかけた。


「今のうちにオーロラに会いに行ってきます」


「わかった。……無理はしないように」


 こくりと頷いたリリィは、エラにバレぬようそっと会場を後にする。

 オーロラがどこに向かったかはわからないが、伯爵家の構造なら理解していた。

 さらにはパーティーの時に開放される場所もわかっている。

 今のオーロラは怒りに顔を真っ赤にしているはず。

 それを冷ますためにも、夜風に当たる可能性が高い。

 ちょうど庭園が開放されているはずなのでそちらへ向かおうと足を進めていると、不意に使用人たちの声が聞こえてきた。


「それにしてもあの客……。ほら、あのできそこないと同じ名前の」


「ああ、リリィ様?」


「やめてよ。もうその不愉快な名前を聞くことないと思ってたのに!」


 聞き覚えのある声に足を止める。

 ちょうど庭園へと続く廊下で、元リリィ付きの侍女であったアメリアは他の使用人と無駄話に花を咲かせているのだ。

 そっと柱の影に隠れると、彼女たちの会話を盗み聞く。


「ほんっと不愉快。せっかくあの女も消えてエラ様がこの屋敷の女主人になってくれたっていうのに!」


「けれどそのエラ様がご友人だって……」


「あなたは新しくきたから知らないでしょうけどね? あの女は本当に最悪だったのよ」


 腕を組んだアメリアは、うんうんと頷く。


「旦那様に愛されてエラ様にいつも嫉妬してて……。なのにいつだってかわいそうな私、みたいな顔して。本当に嫌いだったのよ」


 アメリアはなにかを思い出しているのか、鼻の頭に皺を寄せた。


「だからいなくなってスッキリしたわ! それにほら、あの侍女も」


「ああ、前奥様についてたっていう侍女のこと?」


 ハッとした。

 もしかしてそれは、あの唯一よくしてくれたクレアのことだろうか?

 妊娠しているリリィをよく気遣ってくれて、アメリアにも苦言を呈していた。


「そうよ! あの子生意気に私に向かってあれこれ言ってきて……!」


 アメリアは怒りを顔に浮かべていたが、すぐににやりと歪なほど口端をあげた。


「だからエラ様に告げ口したのよ。この侍女はあの女の手先で、エラ様の大切なものを盗みました……って!」


「それで解雇されたの?」


「そうよ。エラ様が旦那さまからいただいた大切な指輪を盗んだ罪で、伯爵家を追放! しかもその時に右手の薬指を切断されたんだって。盗んだ指輪を、エラ様が右手の薬指に付けてたから」


 ドクンっと大きく胸が跳ねた。

 耳の奥をドクドクと音が鳴る。

 思わずあふれ出そうになる声を堪えるため、必死に己の口元を押さえていた。


(――なんてひどいことを……!)


 ただ少しリリィに優しくしてくれただけなのに。

 そんな小さなことすら許せないのか?

 じわりと目の奥が熱く、そして痛み出す。

 つわりで苦しむリリィを心配してくれたクレアの顔を思い浮かべる。


「それって本当に盗んだの?」


「まさか! 私がこっそりあの女の部屋に置いてきたのよ。でも大丈夫! エラ様からの命令だもの! この屋敷にあの女の味方なんていらないのよ」


 ベェっと舌を出したアメリアの顔を、生涯忘れることはないだろう。

 楽しげな声をあげながら去る彼女たちに気づかれぬよう、血が滲みそうになるほど唇を噛み締めながら耐えた。


「――っ!」


 これは激しい怒りだ。

 ただリリィに優しくしてくれただけ。

 たったそれだけで罪もない人を痛めつけたのだ。

 こんなこと、許されていいはずがない。


「…………」


 頭が真っ白になりそうだ。

 怒りのままにアメリアの髪を掴み、エラの前へと連れていきたい。

 そこでリリィの真実を語り、彼女を地獄へ叩き落としてやりたくなる。


「――だめよ」


 衝動的になりそうになる己を律した。

 今はまだその時ではないのだ。

 エラとマルクの悪事は、必ず罰しなくてはならない。

 そのためにも今はまだ、準備を進めなくてはならないのだ。


「……ごめんなさい」


 今すぐにクレアの仇をとってあげられなくて。

 彼女の無実を叫べなくて。

 まさかそんな扱いを受けていたなんて思いもしなかった。


「……いきましょう」


 膝から力が抜けそうになるのを必死に耐えて、リリィは歩き出した。

 今はまだこのくらいの報復しかできないけれど、必ず罪を償わせてみせる。

 そのためにもオーロラを探さなくては。

 リリィは赤く染まる目元に力を入れ、一歩一歩踏みして目前へと進む。

 胸に大きな、怒りを抱いて――。

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