奪われる
「リリアナ。あなたお友だちから素敵なプレゼントをされたそうね?」
「――どうしてそれをっ」
「まさか独り占めしようなんて、そんな卑怯なこと言わないわよね?」
「あたしが欲しがってるの知ってたでしょう!? お姉さまだけ使うなんてずるいわ!」
母と妹のオーロラは、ずかずかとリリィの部屋に入ってくる。
彼女たちの目的はわかっていたので、事前にテーブルの上にエラからもらった装飾品たちを置いておいたのだが、あっという間に食らいついてきた。
「こんなに……!」
「これ! 絶対あたしのほうが似合うわよね!?」
「まあオーロラ! あなたは本当に天使のようね……!」
リリィがもらったものを身につけてくるくると回るオーロラに、母が拍手を送る。
「お姉さまこれちょうだい。お姉さまには似合わないしいいでしょう?」
「でもそれはもらいもので……」
「あなたがもらったのならそれをオーロラにあげたっていいでしょう! まったく……姉としての自覚がないのかしら?」
姉だからって全てを妹にあげなくてはならない、なんてことはない。
だがオーロラはもう自分のものだと思っているのか、姿鏡に向かってイヤリングやネックレス、ブレスレットまでつけ始める。
それに拍手を送る母の後ろで、リリィは眉間に皺を寄せた。
「それは私がもらったもので……」
「うるさいわね。どうせ似合わないんだからいいじゃない! これでやっと友だちに自慢できるわー!」
嬉しそうにくるくると回るオーロラを見て、リリィは静かに顔を伏せる。
その下で口端をあげていることに気づかれぬように。
「品薄で手に入らなかっただけなのに、持ってる子が自慢ばっかりしてきて……。でもあの子が持ってるものよりずーっと大きくて綺麗! これならあたしが一番目立つわ!」
自慢したければ自慢すればいい。
いつかその宝石が偽物だとわかった時に、恥ずかしい思いをするのは彼女らだ。
きっと怒り狂うに違いない。
そうなったら必ず、マクラーレン伯爵家を糾弾するはず。
仮にも侯爵家という高い地位があるのだから、有効活用しない手はない。
ウィンバート家が前に立てば勝手に同調してくる人たちも現れるだろう。
馬鹿にされる役も、面倒ごとを担う役も、全て彼女たちにくれてやるのだ。
偽物の宝石と共に――。
「他にも隠してないでしょうね!?」
「……残ってるのは殿下からいただいたものだけです」
「――……さすがに殿下からのプレゼントに手をつけるのはマズいわね。もういいわ。オーロラ! そのアクセサリーに似合うドレスを作りにいきましょう」
「――ええ! やっぱりピンクがいいと思うの! うんと可愛いやつを作らせないと!」
バタンッ!
大きな音を立てて扉が閉まり、オーロラたちの足音が聞こえなくなってからリリィは顔を上げた。
「はあ。演技って疲れるのね。……エラはよくできるわ」
長い髪をかきあげてから、リリィは踵を返した。
ソファへと腰を下ろすと、冷め始めている紅茶で喉を潤す。
「本当に全部持っていくなんて……。なんて扱いやすい人たちなのかしら」
テーブルの上に置かれていた装飾品は全て持って行かれた。
がめついというかめざといというか……。
まあリリィには似合わないものだし、なによりいらないものだったのでありがたく持って行かせた。
いつか宝石が偽物だとバレた時、散々自慢しまくるであろうオーロラは、周りからどんな反応をされるだろうか?
想像するだけで面白いことになりそうだと、リリィは細く笑んだ。
「どうせオーロラは、あのアクセサリーを侯爵家主催のパーティーでつけるだろうから……。そこでエラに見せつけることができるわね」
家族に疎まれものを奪われる哀れな女を、エラはどんなふうに見てくるのだろうか?
自分よりもかわいそうな存在に、彼女は聖母の如く手を差し伸べるのか。
それとも……。
「――どう出てくるか。見ものね」
そう呟くと、新しい紅茶を淹れるよう侍女に声をかけたのだった。




