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【完結】許されるとおもうなよ〜夫とその恋人に殺された令嬢は復讐を誓う〜  作者: あまNatu


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23/90

第一歩

「すさまじいな。嘘を嘘とも思わない女か……。恐ろしいものだ」


「……本当に。背筋が震えました」


 侯爵家にて。

 あれからずるずると関係を続けているノアが、ベッドに寝転びながらそんなことを言ってきた。

 真っ白なシーツのみをかけている、乱れ髪のノアは正直目の毒だ。

 細身だと思っていたのに割れた腹筋も、枕代わりの腕にできる力こぶも、どれもこれもが予想外だ。

 さらにはそんなノアの腕の中で微睡む自分がいるのだから、さらに予想外すぎた。

 しょうじきこんな関係になるとは思っていなかった。

 リリィにとってこの行為はただ苦痛なだけ。

 我慢しなければならないものだと思っていたのに。

 ノアに触れられることが心地よくて、ダラダラと続けてしまっている。

 あまりにも自堕落。

 それはわかっているのに抜け出せない沼のように、気づいたらノアの腕の中にいることを望んでしまう。


「それにしてもよく我慢できたな。俺だったらその場で首を落としていただろう」


「そのようにできたら、どれほど楽だったでしょうか? ……でもそうですね。怒りよりもさきに恐ろしさのほうがきました」


 あんなデタラメを真実だと話すエラに、おかしなところは一つもなかった。


「でもあんな嘘を広められてると思うと……あとから腹が立ってきます」


「復讐心は強ければ強いほどいい」


 ノアは寝転んだまま、リリィの髪先に唇を落とした。

 彼がよくやる行動で、これをされると最近は心が落ち着くのだ。

 愛されているのだとわかるから。


「だからこそ慎重に動きます。……彼らの信用が失墜すれば、その言葉にすら疑いがかかるはず。――その時に、リリィ・マクラーレンの死の真相を打ち明けます」


「素晴らしい。……それで? 押し付けられた装飾品をどうするつもりだ?」


 ノアはリリィの髪先で遊びつつ、視線を化粧台の方へと向ける。

 そこには無造作に置かれた装飾品たちが置かれており、リリィもまたそれを見て大きくため息をついた。


「私がつけるわけにはいきませんから……。これが偽物だって知ってしまった以上は」


「逆に考えれば、皇太子妃に偽物をつけさせた侮辱罪で首を切り落とせるかもしれないが……?」


「そんなことで首を落としたところでなにも面白くないのでは?」


 それに下手をすれば、違いのわからない女だと馬鹿にされる可能性もある。

 わかっているのに悪手を選ぶ必要はないだろう。


「ではどうする? あの女のことだ。なぜつけないのだと詰め寄られるぞ?」


 たった一度、短い逢瀬だったのにそこまでわかるのかと、ノアの観察眼には驚いてしまう。


「うまいこと言いくるめないと面倒なことになりそうだが……君のことだ。そこらへん、もう考えているんだろう?」


 ノアからの問いに、リリィは静かに振り返る。

 一糸纏わぬその体を、青白い月の光が照らし出す。

 天女の如き美しきその美貌を惜しげもなくさらすリリィに、ノアはそっと瞳を細めた。


「君は眩しいな。美しさでは月にすら勝てる」


「――馬鹿なことを言わないでください。……考えならあります」


 髪で遊んでいた手をお腹に回されて、リリィはその手をはたき落とした。

 リリアナはスタイルがいいとはいえ、座ればすこしお腹も出てしまう。

 そこに触れられるのは恥ずかしいと拒否したのだが、ノアは気にせずまた腕を回してくる。


「その考えとやらを聞かせてくれ」


「……お腹を触るのはやめてください」


「無理だな。ほら、早く」


 話の先を急かされて、リリィは大きなため息をつく。

 まあ触れているノアが本当に気にしていないようなので、それならいいかと話を続けた。


「今あの宝石は話題になってます。品薄にもなりつつあるそれを、欲しがる人はたくさんいますから」


「――まさか売り払うつもりか?」


「まさか」


 そんなことをしては、エラに不信感を抱かせてしまう。

 まだ彼女には無垢な女性を演じてもらわねば困る。


「この家には馬鹿な人たちがたくさんいるんです」


「――あの妹か」


「母も、です」


 これだけ話題になっているのなら、必ず二人の耳に入っているはず。

 しかし高価ではあるから、早々手にも入れられないはずだ。

 そんなものをエラからプレゼントされたと知れば、彼女たちは必ず奪いにくるはず。


 ――偽物とも知らずに。


「だがそれであの女が納得するか?」


「エラから言ってくれたんです。リリィにいつも私物を盗まれてたって……」


 だからこちらが物を盗まれたからといって、あれこれ不満をいうことはできないだろう。

 リリィを悪者にするための発言が、まさかこんなことで足を引っ張ることになるなんて思ってもいないはずだ。


「だから私が家族からものを盗まれたって知ったら、彼女は同情するしかないんです」


 下手に上から目線であれこれ言ってきたとしても、それは全て彼女自身に返ってしまうことになる。

 だから文句も言われないだろうと伝えれば、ノアは楽しそうに笑い声を上げた。


「なるほど。自業自得ゆえのことなら、確かにあの女にはどうすることもできなさそうだな」


 ノアはそっとリリィの腰に口付けをすると、やっとベッドから起き上がった。


「復讐への第一歩だ。――手を間違えるなよ?」


「……もちろんです。絶対にミスしたりしません」


 やっと復讐がはじまるのだ。

 じわりじわりと抱え込みつつ、必ず堕としてやる。

 リリィが見た、あの地獄へと。

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