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【完結】許されるとおもうなよ〜夫とその恋人に殺された令嬢は復讐を誓う〜  作者: あまNatu


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関係性

 リリィ・マクラーレンの人生はきっと、幸せだったのだと思う。

 だって愛する人と結婚することができたのだから。


「マルク? どこに行ったの?」


 伯爵家。

 二人の愛の巣ともいえる屋敷を、リリィは好きになれなかった。

 淡い桃色のカーテンも、ふわふわの絨毯も、可愛らしい花が彫られた家具たちも。

 本当は落ち着いた色合いの絨毯やカーテンが好きだ。

 けれどそんなことを言ってはマルクに怒られてしまう。

 だからじっと我慢するのだ。

 そうすれば、幸せな日々を送れるのだから。


「マルク――?」


 今日も夫を探す。

 彼がどこでなにをしているのか、リリィは知らない。

 同じ屋敷に住んでいるというのに。

 夫婦だというのに。

 二人は同じ部屋で眠らない。

 彼は用がある時だけ呼びつけては、朝を迎えることなく出てゆく。

 それでもいいと本気で思っていたのだ。

 いつか必ず、愛してくれると信じていたから……。


「マル――」


「まあ! 本当なの?」


「ああ。今度一緒に見に行こう。そのまま別荘でしばらく療養すればいい」


 伯爵家にある庭園には、可愛らしい花が咲き誇っていた。

 白、黄色、桃色。

 それらは全て、【彼女】が好きな色だ。

 この屋敷は全て【彼女】の好きで溢れている。


「あそこの別荘大好きよ。空気も綺麗で……とっても心地よいの」


「確かに。あそこにいればエラの咳もよくなる」


「ずーっとあそこにいられたらいいのに」


「それじゃあ俺がさびしいじゃないか」


 マルクはまるで恋人のように優しくエラの肩を抱く。

 エラもマルクの肩に頭を乗せて、ゆっくりと瞳を閉じる。

 庭園にある真っ白なベンチに座る二人は、はたから見ればまるで恋人同士のようだろう。

 これが二人の距離感なのだと、結婚してから見続けている。


「寒くないか? 風邪をひいたら別荘に行けないぞ?」


「大丈夫よ!」


 ぷくっと桃色の頰を膨らませたエラは、マルクのお腹を小突く。

 そんなやりとりにすら嫉妬しているなんて知られたら、きっと彼に失望されてしまうだろう。

 

『エラは妹のようなものだ』


 その言葉をなんども聞いた。

 結婚してはじめて伯爵家に来た時、まるで女主人が如く出迎えてくれたエラ。

 リリィのことを姉だと歓迎してくれた彼女を、マルクはそう紹介してくれたのだ。

 乳母の娘であり、兄妹同然に育ってきた大切な家族だと。

 だから彼女もともに暮らすのだと言われて、とても驚いたのを覚えている。

 この屋敷は二人の愛の巣になるのだと思っていたから。

 だがそんな夢は脆くも崩れ去り、朝から晩までマルクとエラはずっと一緒。

 どこかに出かけるのも三人で、というよりリリィはただのおまけだった。

 仲睦まじく腕を組む二人の後ろで、顔を伏せて歩くより他に選択肢はない。

 マルクにとってエラはリリィより大切な存在なのだ。

 だから今も、二人は一緒にいる。

 庭園の入り口。

 そこで立ち止まっているとは、ふとエラと視線が合う。

 すると彼女は花綻ぶように笑みを浮かべ、リリィに向かって手を振った。


「義姉さま! こっちで一緒にお花を見ましょう!」


 可愛いエラ。

 優しくて綺麗で美しくて……。

 透き通るような真っ白な肌も、白銀に輝くふわふわの長い髪も、深海のように深い青い瞳も。

 全てが羨ましかった。


「……ええ」


 リリィは足を進めエラの元へ向かう。

 真っ黒な長い髪が揺れ、茶色の瞳をマルクに向ければ、彼からは鋭い視線を向けられていた。

 明らかに不機嫌になっているのがわかり、リリィは案内されるがままエラの隣に座りつつも身を縮こませた。


「実はね、今度マーベラの別荘に行こうって話してたの! カモの子どもが産まれたんですって! だから義姉さまも一緒に行きません?」


「え? あ、そうね……」


「やったあ! また三人でおでかけね!」


「…………」


 反射的に答えてしまったが、ここは断るのが正解だったらしい。

 マルクの表情がさらに強張ってしまった。

 これはあとで怒鳴られるかもと覚悟していると、エラが小さくくしゃみをする。


「――エラ、もう戻ろう。風邪を引くぞ?」


「……ええ、そうね。残念だけれど……。義姉さま、別荘楽しみにしてますね」


 そうすることが当たり前のようにマルクの手をとったエラは、まるでパーティーでエスコートされる令嬢のごとく庭園を後にする。

 リリィは一人その場に残されて、二人の背中をぼうっと眺めていた。

 今着ていたドレスも、はじめて見たものだ。

 可愛らしい水色のドレスは、美しい宝石が散りばめられていた。


 ――だというのにリリィはどうだ?


 結婚の際実家から持ってきた数着のドレスを着回す日々。

 すっかり薄汚れてしまったけれど、これ以外着るものがないのだから仕方がない。


「――いっそ、お父様に……」


 と甘い考えが浮かんですぐに頭を振る。

 リリィは結婚して侯爵家を出て行ったのだ。

 だというのに実家を頼るなんて、そんなのマルクの顔に泥を塗ってしまう行為である。

 それだけは彼の妻としてやってはならないことだと心を強く持ち、ベンチから立ち上がった。


「…………帰りましょう」


 屋敷に帰っても居場所はないけれど、今は伯爵家がリリィの家だ。

 なら少しでも馴染めるように、努力するより他にない。


「…………」


 ため息はつかない。

 幸せを逃したくはないから……。

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