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愛を語らう
「愛を歌うか?」
ベッドの中。
燃えるような熱にうなされながら、リリィはそんなことを言われた。
だから鼻で笑ってやったのだ。
涙で濡れる瞳で、荒い息をこぼす男に。
――この私に愛を歌うのか、と。
「――不要です。私が……欲しいのは、欲です。ただ燃えるように、求めて……っ、ください。……私は、それだけでいい」
愛なんてもの、全て捨て去ったのだ。
今欲しいのはただのぬくもり。
この不安をかき消すだけの快楽。
それだけをくれと腕を伸ばし、しっとりと汗ばむ首元を撫でる。
男は一瞬眉間に皺を寄せたかと思うと、すぐに余裕そうな表情でリリィを見つめた。
「……そうか。なら今は君の望むがままに与えてやろう。――だがいつか、その唇が愛を乞う日を楽しみにしている」
覆い被さってくる屈強な肉体。
頰を撫でる漆黒の髪に、この体全てを見つめてくるアメジスト色の瞳。
その瞳の奥に熱が灯ったとき、全てが始まったのだと思い出しつつ瞼を閉じた。
この男に出会い、やっと人生がはじまったのだ。
――だってリリィは一度、死んだのだから。