008話 推し、参上!
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
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昼休みが終わると普通の日常へ戻る。
昼休みの半ばまでしか進めなかった前回の続きがようやく動き出す。
自殺を阻止出来たという嬉しい感情も勿論あるが、それ以上に不安も多い。
この先の展開はまだ見たことのない領域。
俺のアドバンテージは"この世界を知っている"ことぐらいだけど、肝心なヒロイン達の知識が乏しい。
簡単なプロフィールをなんとか覚えているくらいではいずれ立ちはだかる壁に苦しむだろう。
聞く気になれない授業の中。
せめてもの対策と言わんばかりにノートを使って思い出せる事を書き殴る。
身長や体重、スリーサイズまで。
本当どうでも良い事は意外と記憶に残ってるんだよな。
でも、男ってそういう生き物だから許して欲しい。
記憶の隅々まで絞り出して情報を書き出す中で問題を挙げるとすれば3つ。
堂命という男の存在、学校のいじめ、低過ぎる自尊心。
全て早急に解決する必要があるけれど、全て手強い問題ばかり。
前半2つの外的要因は他者の介入によって解決出来る問題だが、最後の問題は特に厄介だ。
人間の内面というのは10歳でほぼ決まる。
成長するにつれて多少の変化はあるかも知れないが、根本となる部分が変わる事は滅多にないと言って良い。
どれだけ本人に変わりたいという意志があったとしてもだ。
となると優先順位で言えば、堂命といじめの件からだろう。
彼女を取り巻く環境が自尊心低下に拍車を掛けているのだとすれば、環境改善によって少しは変化を望めるかも知れない。
「けど、簡単じゃないよなー」
「確かにこの問題は簡単じゃないよな、賢崎。俺の授業中に考え事とは良い度胸じゃねーか。ほら、前に出てこい」
……やらかした、声に出ていたか。
しかも、やばい人に見つかってしまった。
考えることに夢中になって忘れていたが今は授業中。
担任である後藤が担当している数学の時間。
もっと警戒すべきだったかと反省するも後の祭り。
黒板に書かれた因数分解。
分からないという訳ではないが、わざわざ名指しで立たされてみんな前で解くという行為に気恥ずかしさを感じる。
だけど、俺が解くまでは授業が進行しない。
恥ずかしさと気まずさ、どちらを取るかの問題だ。
「早くしろー、これくらい解けるだろ」
そろそろ生徒の視線にも耐えられなくなって来た。
後藤と同じように早くしてくれという空気が伝わる。
ドンマイ、俺。こういう時は諦めるのが肝心だぞ。
さっと席を立ち、黒板に向かってスラスラっと答えを書く。
解き終えると手に付いたチョークの粉を軽く叩いて、完了の合図を告げる。
「はい、正解。このように───」
ちゃんと正解を導けていたので一安心。
これで違っていたら、余計に顔が真っ赤になってそのまま茹で上がるところだった。
偶然起こったハプニング……でも無さそうだ。
今日は誇張表現抜きに1日中黒鳥羽音について考えていた。
授業中だって例外ではない。
今回見つかってしまったが、それはどの授業でも起こりうることだ。
今後注意しなければとその場凌ぎの反省こそ出来るけれど、また同じミスをするだろうな。
時間は気付けば過ぎていく。
学生時代の1日なんて、授業が退屈過ぎて永遠にすら感じていたのに、今では足りないとすら思ってしまう。
もっと、もっと、時間が必要だ。
いずれ動き出す新たな絶望へのシナリオに向けての準備の為に。
放課後、生徒達はさっさと教室を出て部活動へと足を運ぶ。
残っている生徒は大体陽キャという種類に分類される煌びやかで眩しい生徒達だけ。
俺にとっては縁のない人達だと思い教室を後にした。
昇降口に向かう途中、何となく視線を移した2年C組の教室。
天峰優奈のクラスは確かここだ。
放課後だしいるはずはない、今はそれどころではないと分かっていても自然と確認してしまう。
「………い、いた」
反射的に体を隠す。
推しが目の前にいる興奮と感動、どうすれば良いのか分からないパニックで取り乱す。
まぁまぁ、落ち着けよ。
たかが1キャラクターじゃないか。
もう1度見れば目が慣れるはずだ。
無理、無理、無理。
やばいな、これは語彙力も低下する。
黒い髪にポニーテール、顔も良ければ、佇まいも優雅で清楚で完璧だ。
誰?このキャラ作った人。
じっくり話し合いたいんだけど。
「このクラスの誰かにご用ですか?」
「うわっ!?あっ!いや……」
馬鹿な考え事をしている内に、本人から声を掛けられた。
思わず、体が反応して反対側の壁まで移動して距離を取る。
近ッ!まつ毛長ッ!目綺麗!って、何か言い訳をしなければ。
考えては見たけど言葉が出ない。
天峰ちゃんは首を傾げる。
その小さな動作も可愛く感じる俺は末期だ。
「賢崎くんですよね?A組の」
無言に耐えきれなくなったのか天峰ちゃんの方から話題を振ってくれた。
し・か・も!俺の名前を知っているだと!
確かに彼女の交友関係は広く、他クラスの生徒の情報くらい把握しているだろう。
彼女にとってそれは何ら特別なことではなく、普通のことだ。
だけど、俺からしてみれば飛び上がる程嬉しい。
本人にこの感情が伝わっていないのが悔しい限りだ。
「そ、そうです!なんとなく視線を移したら、あの天峰さんがいたのでつい……」
これ以上、天峰ちゃんに気を遣わせたくない。
頭を使って言い訳するよりも早く、事実を伝える。
最後は眺めてしまったとは言えない。
なので、少し濁しておく。
気持ち悪いと思われたら心に来るからな。
元々、気持ち悪いと思われているという可能性は……この際考えないでおこう。
「ぷっ、ふふっ、面白いですね賢崎くん!…また、機会があればお話しましょう」
天使の微笑みを見せて後、綺麗な姿勢のまま立ち去っていった。
「可愛いな」
まだ少し彼女の背中が見えているのに、思わず漏れる言葉。
安直ではあるが、これ以上形容し難い。
画面で見る彼女も素晴らしいが、実際に会ってみると何倍も魅力が跳ね上がる。
切羽詰まり過ぎていた思考のリフレッシュとして、満足すぎる時間だ。
ここからまた頑張ろうという気持ちが湧いて来る。
今の俺の顔はだらしなく溶け切っているはずだ。
大事なのは気持ち切り替え。
ご褒美も十分貰えたのだから、その分人を助ける為に働こう。
力強く頬を叩く。
パチンッという痛々しい音と共に底知れぬ気合いが入った。
ご覧いただきありがとうございました。
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