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007話 俺の担任は女性ではない

誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。

面白いと思っていただけたら評価やコメントお待ちしております!

昼休みも残り15分くらいになった。

時間的にはまだ屋上にいても問題は無かったが、如何せん天気が悪い。

急に雨が降る可能性だって十分に考えられるので、とりあえず教室の方へと向かう。


扉を開けると、静かな屋上が騒然たる世界へと徐々に混ざり合っていく。

校舎へ入った途端、雨が降り出した音が聞こえた。

濡れなくて良かったと楽観的には捉えられない。

どうしても嫌な予感にしか感じなかったから。


階段を降りていくたび、変わり映えのない日常が溶け込む。

廊下を走りながら奇声を上げる男子生徒。

教室にいるのにここまで届く女子生徒の絶え間ない笑い声。

今までなら俺もその内の1人に過ぎなかっただろう。

だけど、どうしても今は彼らを呑気な生き物だと思う。

すぐ隣には苦しみ悶える生徒がいる事を知らないのだ。


それが悪だとは言わない。

同じ学園にいるからと言って全ての事柄を知っておけというのは無理な話だ。

だけど、少なくとも俺は知っている。

知っているからこそ、体が、頭が、……自然と動き出すのだ。


「おっ、丁度良い所にいたな賢崎(けんざき)!」


お酒とタバコで掠れた声が聞こえて振り返ると、そこには俺のクラスの担任が立っていた。

酒とタバコもそうだが、他人の視線をまるで気にしていない無精髭もだらしないという印象を加速させる。


「先生、どうかしましたか?」


出会って1日と数時間、名前も覚えていないので先生という曖昧な呼び方で誤魔化す。


「ちょっと面貸せや」

「どこの不良ですか!生徒に対して今時そんな言葉吐く人いないですよ!」

「乳クセーガキがいちいち文句言ってんじゃねー。こっちは税金払ってんだ、子供より偉いに決まってんだろ」

「んな、ご無体な」


人が悩んでいるというのに、そんな事はお構いなしだなこの人は。

付いていくか迷うけど、相手は担任。

生徒という立場である以上、逃げ場なんてどこを探してもあるはずがない。


アイロンの掛かっていないシワだらけのシャツを眺めながら大人しく連行される。

勿論、行き場所は1つ。

漢字3つで職員室と書かれた生徒にとっての処刑場。

誰もが出来る事なら近寄りたくないと願っている。

ただ彼にはその願いも届いていないようだ。


担任がスライド式の扉を豪快に開けると同時に集まる視線。

誰が入って来たか確認すると興味を失った様に各自の仕事に意識が戻っていくのを感じる。

注目を浴びていないとはいえ、ここは教師陣のテリトリー。

アウェーな空間であるのは言うまでもない。


「まぁー、そうだな。回りくどい話は無しにして本題に入るか」


だらしないお腹のせいで腰掛けた途端にギシギシッと悲鳴を上げる。

当の本人はそんな事お構い無しに話続けた。


「さっき、お前の妹さんが来てな。おかしな様子は無かったか?って聞かれたんだ。一応、担任としてみる限りは大丈夫だと言っておいたが、本人と話をしてみようと思ってな」

「フウカも心配性なんですね。全然、俺はいつも通りですけどね」

「そうか、……本人がそういうなら大丈夫だろうな」


意外とあっさり信じてくれた。

もっと話は拗れるかと思ったが、俺にとっては有難い。


「話は変わるが、俺の苗字はなんだ?」

「えっ?苗字ですか?いきなりどうしたんですか?」

「世間話みたいなもんだ、良いから答えろっての」

「………まだ、覚えられてないですけど」

「そうかそうか。んー、じゃあ、音楽室の場所は?」

「いや、それもまだ」


探るような質問に冷や汗が止まらない。

絶対に転生したなんて答えを導けるはずはないが、なくとも今日より前の記憶は存在していない事を見抜かれているように感じる。


「お前の妹が言ってたんだ。兄がまるで別人のようになったって。それを踏まえた上で聞くが………お前、何者だ?」

「何者って、賢崎頼太ですけど……?」


しばらくの沈黙。

耐え難い空気が心臓をそっと撫でる。

生きた心地のしないこの時間を早く終わらせてほしい。


「……なんてなっ!どうだどうだ?俺のセリフ?人生で1回くらいは言ってみたいよな!かぁー、まさかこんなタイミングで言えるとはな!」

「や、やめてくださいよー!冗談キツいですよ」

「アハッハッハ!まるで本当に別人だったみたいな反応しやがって!お前もやるな!」


ほっと一息安堵した。

しかし、それも束の間、またしても担任は真面目な顔になる。


「とは言え、家族心配させてんのも事実だ。帰ったらちゃんと説明してやれよ。僕ちゃん、思春期でキャラ変しただけでちゅーってな!」

「うわぁー、結婚とか出来なそうー」

「ぶっ飛ばすぞ!こちとら、ゴリゴリの既婚者じゃ!」


左手の親指には高そうな結婚指輪が嵌められている。

勝手に独り身だとばかり思っていたが、まさか結婚していたのか。

奥さんに会ったら、なんでこんな男と結婚したのか絶対に聞いてやろう。


「ったくよ、最近の若者と言ったらすぐこれだ」

「知ってますか?先生、それエイジハラスメントって言うですよ?」

「ハラスメント、ハラスメントってなんでもハラスメント付ければ良いってもんじゃねーぞ。後、さっきも覚えてないって言ってたけど担任の苗字くらい覚えろ!後藤だ、ご・と・う!勘弁してくれよ全く」


どうやら担任の名前は、後藤というらしい。

黒鳥のことばかり考えすぎて、教師の名前なんて覚えるつもりも無かったが、後藤の名前だけはスッと頭に残る。


「後藤先生ですね、インプットしました」

「ロボットか、お前は」

「なりますか?後藤先生もロボットになれば、サービス残業で疲れることも、モンスターペアレントのクレームで心を削られることもなくなりますよ」

「微妙に羨ましい提案してくんな。本気で明日からロボットになんぞ?」


大人の疲労というのも闇が深いと思わされる。

こんな一生徒の様子もちゃんと気に掛けないといけないのだから。

それが仕事と言えばそれまでだが、1クラスはだいたい40人。

全員に同様の事をしていれば、過労死へまっしぐらだ。


「話は以上だ。戻って良いぞ」


拘束時間は10分。

周りの事を知る良い機会だったと思えば、その10分間も有意義だったと思える。

最も最初の5分間みたいな経験は2度としたくないけれど。

足早に立ち去る俺の事を後藤は最後まで見続けている。


「……本人が言いたくないなら仕方ないよなー」


職員室の扉が完全に閉まる。

姿が見えなくなったのを確認すると、缶コーヒーを一口飲んだ後に後藤がそう呟いた。

ご覧いただきありがとうございました。

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