006話 繋がれた鎖
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「貴方のお名前聞いても良いですか?」
「名前?………なんでなま……あっ!自己紹介してなかったか!うわぁー、やらかしたー」
初対面でいきなりラブビットの話。
次に会った時は人の弁当を食べ漁る。
その上、自己紹介がまだと来たか。
我ながら失礼な行動のオンパレードだな。
焦りがあったからとは言え、黒鳥の視点に立って考えると相当不審だっただろう。
「2年の賢崎頼太です。よろしくお願いします、黒鳥先輩」
「私の名前…知ってたんですか?」
またしてもやらかしてしまい冷や汗が止まらない。
失敗を取り戻そうとして、また別の失敗を運んでくる。
馬鹿の永久機関かよ……。
「いやー……。……!靴箱!そう!そこで名前が見えたんですよ」
「あっ、そうだったんですね。改めまして、私、黒鳥羽音って言います。よろしく?お願いします」
初対面から距離を詰められて戸惑いはあるものの、強引さが功を奏したのか顔見知りくらいの関係へと昇格した。
ただ、最後に聞こえた疑問符。まだ拭いきれない戸惑いを感じる。
これ以上のやらかしは、進歩した関係性を振り出しに戻すものだと強く心に刻んでおこう。
「それでですね賢崎……さん。あの、学校の中ではですね。あまり私に話し掛けない方が良いですよ」
「話し掛けない方が良い?それはどうしてですか?」
またしても顔に暗い影を落とす。
この性格を今までは表面上でしか見て来なかったが、間近で見ると可哀想なんて言葉では収まらない程に心が痛む。
どうしてこんなにも彼女を苦しめる要因が多いのか。
本来であれば、あのゲームの中に答えがあったはずだけど、当然俺が知っている訳もなく。
こうなるくらいならちゃんと他のルートも調べておくべきだった。
「私、そのイジメられてるので。……一緒にいる所見られたら、賢崎さんも何されるか分かりませんよ?あっ、勿論私は大丈夫ですよ?慣れっこですから、…えへへ」
大丈夫なんてそんな訳がないッ!
口に出してしまいそうになるが、彼女の笑顔を見たら何も言えなくなってしまう。
あの笑顔は俺にではなく、自分に向けた大丈夫だと言い聞かせる笑顔。
このまま残りの学園生活を大人しく過ごせば、荒立てる事なく卒業出来ると考えているのだろう。
今始まったことではない。
きっと何年も何年も耐え来たのだ。
その彼女の前で堂々といじめを止めると宣言するのは自己満足に過ぎない。
彼女の積み上げて来た過去を否定するのと同意義なのだから。
黒鳥羽音は知らなくて良い。
彼女はもう既に壊れ掛けた心を保つ事だけに集中すべきだ。
後のことは誰も知らない所でひっそりと解決させておこう。
「じゃあ、偶にはここで一緒に昼食食べても良いですか?」
「あ、えっと。その大丈夫……ではないかも知れないです」
はっきりとしない返事。
遠回しに断られてはいるみたいだが、その理由を知りたい。
理由によっては今後の動きが大きく変わってくる。
「堂命くんに見られたら……怒られるかもです。いや、かもというより、怒られてしまうので。あっ、でも、それは勘違いさせる私がいけないのであって…」
堂命という恐らくは男の名前。
ここでもう1つの自殺の要因も見えて来た。
あの青いハンカチに包まれた弁当は、本来堂命に作った物だったのだろう。
彼氏なのかどうかはこの際置いておき、人が頑張って作った弁当を平気で乱雑に扱える奴に少なからず好意があるということか?
男を庇っている様子からしても、脅されているようにも見えない。
やめとけと言える立場にいないけど、恋は盲目とはよく言ったものだ。
「ですので、放課後のお話も無かった事にしてください。お気持ちだけでもすごい嬉しいですが、本当にあれは不要になる物だったので……」
「気にしないでって言われても………」
お礼なんて言うのはただの口実で、どうにか仲を深めて自殺を阻止するのが目的だ。
1歩目の足掛かりとしては良い作戦だと思ったのだが、こんな形で出鼻を挫かれるとは。
あれだけ頑張って覚えていたラブビットも水の泡。
「それに私の方が賢崎さんにはすごく感謝しているんです……」
感謝?
そんな事されるような覚えはない。
まだ彼女の心を救い出せた訳でもないのだから。
それでも黒鳥は言葉を続けた。
「お弁当、褒められたの初めてでした。いえ、そもそも誰かに褒められたのも久しぶりかも知れません。だから、……嬉しかったです。明日も頑張ってみようって思えました」
微笑みながらも語る彼女は今どんな気持ちなのだろうか。
分からない自分が悔しい。
ただ、嬉しいという感情に嘘偽りがないのだとしたら、それは非常に"危険"だ。
彼女を取り巻く環境の劣悪さと、あまりにも希薄な賛美への耐性。
触れてしまば、砂のようにさらさらと消えてしまいそうな脆さを心の中に有している。
「ラブビットのキーホルダーも貰っておきながら悪いですけど、もう1つお願いを聞いてもらえませんか?」
「お、お願いですか?…私に出来ることであれば」
「何か辛…いや、相談したいことがあったらここにまた来てください。昼休み、大体はここにいると思いますから」
「ありがとうございます……。何かあったらここへ来ますね」
黒鳥は立ち上がり、深く頭を下げて立ち去っていく。
顔を上げた瞬間に見えた表情は朝に出会った時より、多少柔らかくなっているのを感じた。
だから、屋上の出入り口へ向かう黒鳥をこれ以上は引き留めない。
とりあえず、前に見た自殺を止められただけでも大きな成果だ。
加えて、彼女のキャパシティを想定すると、現段階で詰められる距離はここまでが限界だろう。
「だけど、問題はまだまだある……か」
普段使わない頭を使って考えた。
この先、何をすれば彼女を"本当"の意味で救い出せるか……。
今にも降り出しそうで不吉な曇り空の下で。
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