005話 答えは聞かなくても
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
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「ラブビットねぇー……」
授業という苦しい時間から解放された生徒達が楽しく会話に花咲かせる昼休み。
惣菜パン片手に、1人屋上で携帯電話と睨めっこ。
「『今話題!ラブビット特集!』『海外でも流行中!ラブビットの謎に迫れ!』……ってまだあるのかよ」
インターネットでラブビットと検索を掛けると信じられない量の記事やまとめサイトが引っ掛かった。
勢いで大好きと言った以上、何も知識がないままでいるのは危険だ。
嘘とはいえ、基礎知識は押さえていなければ今後黒鳥と接触する上で矛盾が生じる。
ただ一夜漬けならぬ、日中漬けでどこまで覚えられるかは懐疑的な話だ。
知りたい事は多いのに脳のリソースが足りないからオタクという生き物は困る。
「見た目は確かに可愛いけどなぁー……。うーん……なんか、砂糖菓子みたいに甘ったるい可愛さだよな」
勢いで貰ってしまったラブビットのキーホルダーを眺めながら言葉が漏れ出た。
目と尻尾がハートになっていて、キャラデザインは若者向けのポップさがある。
着せる服やラブビットの色によって無数の組み合わせを生み出せるのが人気の秘訣の1つらしい。
刺さる人には刺さると思うけど、個人的には黒鳥羽音の好きな物として挙げられていなかったら縁のないジャンルだ。
「2010年に株式会社ハート&ハート&ハートから発売………って、あぁー!本当にこんな事してる場合か?直接、黒鳥の様子を見に行くべきだろ!」
居ても立っても居られなくなった俺は、屋上に設置されたベンチから勢い良く立ち上がり扉の方まで向かう。
彼女をあそこまで追い詰めた原因を解明する為には足で情報を稼がなければ。
ドアレバーの下げようとすると屋上に来た時よりもやけに軽い感触に気付く。
ドア1枚挟んだ向こう側に感じる人の気配。
日本人の美徳であり、悪習とも言える譲り合いの精神が発動して1歩後ろに下がり、中に入ろうとする人物を優先する。
「あっ………」
扉から出て来たのはやはり黒鳥羽音だった。
人の気配を感じた時点で何となく予想はしていたがやはり彼女はここに来るのか。
今はまだ顔見知りとすら呼べない関係性。
目が合うと気まずいそうな表情を浮かべて沈黙していた。
「今から昼食ですか?」
「は、はぁい!………そうです」
当然の質問に声が裏返った。
いきなり話掛けたのが、彼女の心臓に負担を掛けてしまったか。
手にピンクのハンカチに包まれた弁当箱ともう1つ青いハンカチに包まれた弁当箱を持っていた。
女性が2つも弁当を食べるのか気になる所ではあるが、今の問題はそこではない。
本当に昼食するだけなら安心だが、この場を俺が立ち去れば人目が無くなってしまう。
そうなれば昨日と同じ事が起こる可能性も考えられる。
どうにかして一緒に昼食を食べる方法を探したいが、俺の手にはゴミとなった惣菜パンの袋。
何と言ってここに留まれば良いのか。
「ここ静かで良いですよね」
ゴミとなったパンの袋をポケットに捻り込み、当たり前みたいな顔で彼女をベンチまでエスコートする。
扉の前で鉢合わせたのに、何故かもう1度ベンチへ向かう俺に違和感を感じる黒鳥。
一瞬指摘しようと口を小さく開けたが、性格上口に出すのは躊躇われたみたいだ。
明らかに邪魔な俺の存在を多少なりとも気にしながら、弁当の蓋を開ける黒鳥。
タコの形に切られた定番のウィンナー、焦げの1つもない綺麗な卵焼き、可愛いウサギの形に型取られた白米。
その全てが手の込んでいる手作り感溢れる弁当だった。
ぐぅーーーっ
今日の昼食は惣菜パン1つだけだったこともあり、目の前の食欲をくすぐる弁当に、わんぱくなお腹が反応した。
これでは人の食事を欲しがっているみたいで恥ずかしくなって顔が真っ赤になる。
黒鳥の箸が止まった。
俺のお腹を見た後に、もう1つの弁当を見る。
下を向き、目を閉じて唇を軽く結んで何か考えた後、勇気を出して話し掛けて来た。
「えっと………これ食べますか?多分、中身はぐちゃぐちゃになってると思うんですけど、捨てちゃうよりは食べてもらった方が嬉しいので。……あっ、いや!無理にとは言わないんですけど!全然……食べられたらで……」
単純な厚意だったはずなのに、途中から言葉が尻すぼみしていく所が彼女らしい。
「良いんですか!?ありがとうございます!」
青いハンカチの弁当を理由も聞かずに受け取る。
会ったばかりの人間に本人も話したくはないはずだ。
良く見ると分かる程度にハンカチには土が付着していた。
どこかで転んだか、2つ目を渡そうとしていた"誰か"にこんな酷いことをされたか。
辛そうな黒鳥の顔を見る限りは後者の可能性が高いだろうな。
パカッと蓋を開けると想像よりも食材が入り乱れている。
どれだけ乱暴に扱えば、こんな中身になってしまうのか。
想像するのも躊躇われるぐらい非人道的な行為だ。
「や、やっぱり……捨てます!こんなの食べたくないですよね!」
彼女もここで始めて中身の様子を確認したらしい。
驚いてから数秒で青ざめた顔に変わり、弁当の話は無かった事にして回収しようとする。
それよりも素早く黒鳥が作った弁当を掻き込む。
酷い事した顔も知らない相手への怒りと彼女の辛そう顔を見て生まれる罪悪感。
どちらもが箸を動かす速度を早めた。
「美味しい!めっちゃ、めっちゃ美味しいです!」
目を丸くして口を開けながら何も言えずにいる黒鳥。
また下を向いて俯きながら彼女も食事を続けた。
出会ったばかりの2人が並んで黙々と食べる不思議な空間。
鼻を何度も啜る音が響いていた。
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