004話 救えるなら、今度こそ
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ジリリッ、ジリリッ
アラームの音が聞こえた。
ガバッと勢い良く目覚める。
気分の悪い目覚めだ。
呼吸が荒く、心臓の動きが速くなっているのが分かる。
黒鳥羽音が屋上から飛び降りた。
地面に落ちて確実に死んだ。
広がっていた血溜まりと、死体となった彼女の笑みが頭から離れない。
そこまでの記憶はあるが続きはどうなったのか。
助からないと分かっていても助けようと動き出したはずなのに。
不自然な睡魔と共に薄れゆく意識の後、気付けば自室にいた。
思い出そうとすればする程、全身を撫でる寒気。
気持ちの悪い酸っぱさの胃液が込み上げてくる。
取り乱していても僅かに残された理性が、今は吐き出せないと言っている。
嫌悪感を我慢して飲み込むしかなかった。
目の前で人が死んだ。
血の通っている人間が突如として。
それも全く持って知らない人間ではない。
ゲームの中とはいえ、ヒロインとして存在して認識していた少女だ。
あのゲームのバッドエンドが目の前で実現された。
彼女の絶望に染まった表情を思い出すと、困惑と罪悪感で心臓を鷲掴みにされたと錯覚する程の心の痛みを覚える。
今まではただのシナリオとして存在していた黒鳥羽音の死。
知っていたはずなのに、浮かれてしまっていたせいで気付けなかった。
「いや、言い訳だよな。気付こうと……しなかっただろッ!」
行き場のない拳が布団へと沈み込む。
不甲斐ない自分への苛立ちは、物に当たったくらいでは消えない。
この世界の1人として、彼女と同じ世界を生きている人間として。
他人事みたいに死にましたねだけでは済まされない。
もっと俺が動いていれば、1人の少女として見てあげていれば、
「死ぬこと以外でも笑っていられたかも知れないのに……」
あれが彼女にとって唯一の救いだったと思うと悔やまれるばかりだ。
「お兄ちゃーん!いつまで寝てんのー?早くしないと学校遅れるっての」
この言葉、昨日も。
「世話の焼けるお兄ちゃんだなー!」
寸分違わず同じ階段を上がる音。
家族の仲にも感じる礼儀としてのノック。
学校に行く時間なのに返事をしない俺へ一言、
「お兄ちゃんまだ寝てるのー?開けるよー?」
(お兄ちゃんまだ寝てるのー?開けるよー?)
デジャヴ、なんて言葉で片付けるのは難しい。
一言一句同じ言葉、行動で起こしに来たフウカ。
何が起こっているのかよりも、もう1度同じ昨日を繰り返しているかもしれないという僅かな望みに賭ける。
「今日って何月何日?」
「え?どうしたの?いきなり」
「良いから早くッ!」
「4月20日だけど…。どうしたの?お兄ちゃん?大丈夫?変な物でも食べた?」
4月20日…は確か昨日の日付と同じだ!
携帯のロック画面も黒板に書かれていた日付も4月20日だったはず。
朧気な記憶だが、そうであって欲しいという気持ちから強く思い込む。
「本当に大丈夫なんだよね?学校、休む?」
「いや、大丈夫だよフウカ。早く学校へ行こう」
「う、うん。お兄ちゃんがそういうなら」
神が与えてくれたチャンスかも知れない。
あの時と……違うか、今までと同じように見捨てるという選択肢を取るのはやめよう。
救えるかも知れない命がそこにある。
なのに、手を伸ばさなけばまた同じ後悔を繰り返す。
偽善だと思われて良い。
自分勝手な感情だと思われて良い。
それでも俺は助け出す。
覚えたばかりの制服の場所へ向かいテキパキと着替えを済ませる。
黒鳥が同じ行動を繰り返すならタイムリミットは今日の昼まで。
限られた時間の中でどうにかして未来を変える必要がある。
今度こそ後悔しないように。
家の扉を開けてからは一心不乱に走った。
地図アプリなんて無くても頭の中にある道順を辿って。
本気で走ったのなんていつぶりだろうか。
学校の授業だって手を抜いているのに。
「はぁ……黒鳥は……」
疲れながらも到着した昇降口。
周りを見渡して彼女の姿を探す。
生徒達からは前回と同様に変な奴を見る目で見られているが気にしていられない。
「なんでどこにもいないんだよ!…絶対にまだいるはずなんだ。………そうだと言ってくれよ」
前回はこのくらいのタイミングだったはずだろ。
同じ日を繰り返しているなら必ず生きている。
それだけは間違いないんだ。
「あ、あのー、ここ3年生の靴箱ですよ?」
その声を聞いて思わず泣きそうになった。
生きている……それだけで言葉に出来ない喜びが込み上げてくる。
本人に伝えることの出来ない喜びだ。
彼女の困らせない様に必死に溢れ落ちそうな涙を拭って振り返る。
「えっ?あっ、あぁ!?どうして泣いてるんですか!?」
昨日と同じ窶れた顔と酷いクマ。
目の光も心無しか薄い気がする。
節々から感じる壊れかけの悲痛なSOSのサインはこの時には既にあったのか。
拭ったばかりなのに溢れる涙。
目の前死んだはずの人間がこうやって生きているのは嬉しいので仕方ない。
ここにあるのはまだ救える命なんだ。
あたふたする黒鳥。
自尊心の低い彼女には何がストレスになるか分からない。
これ以上困らせない為にも何か会話の種を探さないと。
必死に攻略サイトの情報を思い出す。
一応全員のページに目を通しているのだから、思い出せる情報があるはずだ。
「あっ、そうだ!そのぬいぐるみ!好きなんだ…じゃなくて、好きなんですよ、俺も」
彼女の鞄に視線を移した時に目に入ったキーホルダーサイズの兎のぬいぐるみ。
それを見た瞬間、脳全体に強い衝撃が走る。
好きな物一覧に羅列してあったワードの1つにこのぬいぐるみのキャラが好きって書いてあった。
半信半疑でこちらを見ている黒鳥。
信用してもらう為には絶対に思い出せ!
ありとあらゆる記憶の引き出しを開けろ!
えーっと、確か名前は………。
ハート目の兎で安直な名前だったような…愛兎、ラブ兎、ラビット、……思い出した!
「……ラブビット。そう!ラブビット!好きなんですよ!同じキャラを好きな人見つけて感動のあまり」
「そ、そうなんですか?……ふふ、良いですよねラブビット。あっ、いや、今のは馬鹿にした訳ではなくて、ほ、本当に私もラブビット好きで……」
やばいっ、唐突すぎた。
これじゃ、ラブビットの強火オタクにしか見えないだろ。
完全に話の入り方を間違えた気がする。
微笑んではくれたみたいだし、変な奴として距離を置かれなけば良いんだけど。
「……なら、あげますよこのストラップ。私には必要無くなるので」
好きなはずのラブビットのキーホルダーを簡単に手放すなんて。
それに必要無くなるって、やっぱり今日死ぬつもりなんだ。
どうにかして止めないと。
考えろ、このまま彼女が立ち去ってしまう前に。
「あっ!じゃあ!今日の放課後お礼させてください!」
「お礼ですか!?そんな!気にしないでください!」
「俺、他にラブビット好きな友達いなくて話せる友達もいなくて。だから、絶対ッ!絶対に今日の放課後お礼させてください!」
「えっ!?えぇーっと、わ、分かりました。……そこまで言うなら」
半ば強引であったが変に手を打つよりは、これで未来が変わってくれる可能性に賭けるしかない。
頼まれたら断れない彼女の性格に付け入るようで悪いけど、今はこれしか思い付かなかった。
ひとまずは安心したが念の為、昼間は屋上で過ごすことにしよう。
立ち去る彼女の背中を見ながら、今後の作戦を練り始めた。
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