002話 テンプレートな違和感
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ジリリッ、ジリリッ
掛けた覚えのない目覚ましの音で目覚める。
昨日の夢は何だったのか。
ぼんやりと頭に残った記憶が、起きたばかりの今も気になってしかたない。
「あっ!セーブデータは!?」
大事な事を思い出し、一気に目が覚める。
結局、あれが夢であるなら俺の大事な5時間はどこへ?
頼むから寝落ちする瞬間に無意識でも良いからセーブしていてくれと切に願う。
パソコンのある場所へ目を向ける。
いや、"あるはずだった"場所というのが正しい。
勉強机の上にあるはずのパソコンは消えてなくなっていた。
それどころかお気に入りのゲーミングチェアもヘッドフォンも、何もかも見覚えのない物にすり替わっている事に気付く。
1つの異変から部屋全体を見渡すと、徐々に違和感が増える。
本棚も、ポスターも、クローゼットも何もかも。
この部屋が俺の物ではないと主張していた。
夢……ではない。今はもう起きている。
ラノベの鈍感主人公でもあるまいし、起きているかどうかの違いくらい分かる。
だからこそ、驚いているのだ。
見慣れない部屋に突然いる経験なんて、酔っ払いでなければあり得ない。
18歳なので飲酒をしているはずもなく、これがただただ異常であると深く印象付けられた。
部屋の中を調べたい気持ちもあるが、他人の部屋を勝手に物色するのは躊躇われる。
倫理観のある範疇で情報を得られるとすれば、
「あの窓から外の景色を見るくらいか…」
爽やかなライトグリーンのカーテンから漏れ出る朝の日差しで思い付く。
それくらいであれば、他人の部屋でも問題ないだろう。
知っている地域であって欲しいと祈りながらカーテンを捲る。
すると、そこに広がっているのはどこか既視感はあるが、確実に自分の住んでいる街ではない景色。
知らない景色に不安もあるが、肩を落としてばかりはいられない。
既視感の正体を突き詰めれば、答えが見えてくるのではないかと思考を巡らせる。
「お兄ちゃーん!いつまで寝てんのー?早くしないと学校遅れるっての」
下の階から聞こえてくる女性声優のような可愛らしい声。
ま、まずい!
呼び掛けているのはこの家の人間で間違いないだろう。
部屋の中を見て察するに、ここがお兄さんの部屋なのも。
人の気配を感じて、上にはお兄さんがいると思っているらしい。
俺が返事をしてもおかしいし、黙っているしかないがそうなれば当然様子を見に来るだろう。
兄の部屋に知らない男、警察への通報待ったなしだ。
「世話の焼けるお兄ちゃんだなー!」
階段を登る度、木材が軋む音が耳へ届く。
近付くに連れて増していく心拍数が緊張感を煽る。
正座をしておくべきか、隠れるべきか、将又仁王立ちで出迎えるか?
異常事態に普通な精神でない事は本人である俺が1番良く理解している。
コンコンッとノックする音。
もう目の前にこの部屋の持ち主である人物の妹さんがいる。
「お兄ちゃんまだ寝てるのー?開けるよー?」
(こうなったら…どうにでもなれ!)
目を瞑って覚悟を決めた。
蝶番が動いたのは耳でも、気配でも分かる。
完全に相手は俺のことを認識したはずだ。
「何やってるのお兄ちゃん?」
「えっ?お兄ちゃん?」
思わぬ言葉に困惑して目を開ける。
目の前にはやはり知らない女の子が立っていた。
ボーイッシュなショートボブに、若さの象徴とも言えるニキビ1つないハリのある綺麗な肌。
ベージュのカーディガンとスカートの下から見えるスパッツがこの子のキャラを目立たせる。
「どうしたの?お兄ちゃん?そんな怯えた顔して」
「お兄ちゃん?俺が?…君の?」
「何言ってんの?なんか変なもの食べた?ちょっと真剣に心配しちゃうんだけど」
ハァッ!?まさかこれは異世界転生というやつか!?
やはり、昨日のは夢でなかったいうこと!
それなら全て合点がいく!
俺はこの家の子として生まれ変わったのか!
急いで部屋に置いてあった絶対に自分では買わない姿見を見に行く。
「あれ?やっぱり普通に俺じゃん」
どうやら見当違いだったらしく、容姿が変わった様子はない。
となると余計に話が見えてこなくなる。
「本当に大丈夫なんだよね?学校、休む?」
「学校、……学校?君と同じ学校ってこと?」
「当たり前じゃん。フウカと同じ私立英労学園でしょ」
!!?
この時、ようやく俺は異世界に来たのだと確信した。
決めては学校の名前。
英労学園と聞いて漢字までパッと思い浮かぶ。
元の世界でそんな学校がないことは知っている。
それにエロゲだからこの名前という安直さが製作陣の可愛らしいさを感じるだろ?
となるとあのカーディガンの下に来ている制服は!
本当にゲームの世界かもという興奮で、思わずフウカと名乗る妹(?)の服に手を伸ばす。
普段なら女の子相手にこんな積極的な行動は取れないが、今はアドレナリンとドバドバ止まらない。
ガバッと捲り上げるとやはりそこにはあの制服が。
やはり俺の憶測は…、
「何やってんの!変態馬鹿お兄ちゃん!」
「ぐはぁっ!!!」
プロレスラーもびっくりなビンタが頬を直撃。
当たり前といえば、当たり前か。
いくら家族だったとしても許される行為ではない。
流石に興奮し過ぎたと反省している。
それにしても変なアドレナリンは出ていても痛みはしっかり感じるんだな。
「もうっ!心配して損した!フウカ先に学校行くから!」
ぷんぷんというオノマトペが似合いそうな可愛いらしい怒り方で、妹(仮)は学校へ向けて家を出て行ってしまった。
またしても1人になった部屋の中。
ゆっくりと冷静さを取り戻してくる。
転生するというのは1度はオタクであるなら、誰もが夢を見る話だ。
実際、俺も嬉しさはある。あのゲームなら尚更だ。
ただ経験して分かるが、それだけでは無かった。
この先どうなるのか、元いた世界へ帰れるのか。
向こうの世界の両親は?友達は?
現状を手放しで喜べる程、肝の座った精神力はない。
拭えない不安をどうにか押し殺して、制服へと着替え始めた。
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