019話 薄れゆく意識の中で
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時間的には昼休みも終わる。
そろそろ教室に戻るか。
午後から授業への憂いに耐え、重い腰を上げようとした。
ただそれと同時に開かれた屋上の扉によって阻止される。
誰が入って来たのか興味本位で確認したくなるのは、人間として仕方ない話だ。
「……お前、本当に阿呆だな」
「出会って早々罵倒から始まるのはどうかと思うぞ、錬賀」
「そんな冗談を言ってる場合じゃない」
また先程みたいな掛け合いなのかと思ったが、そうではないようだ。
扉近くの壁に背を預け、途切れた話を続けた。
「全部見てたぞ」
「ぜ、全部?ってことは、弁当の所から?だとしたら、結構趣味悪いな」
「この際、お前が黒鳥羽音とイチャイチャしている所はどうだって良い。本来の目的さえ、忘れなければな」
「本来の目的だと?お前、それどういう意味だ」
錬賀は何かを知っている。
確定的な要素はないが、直感がそう告げていた。
「……黒鳥羽音にオーバーガムを渡したな」
「おい、俺の質問に答えろよ」
はぐらかそうとする錬賀の胸倉を掴む。
壁に強く押し付けて、身動きを取らせない。
暴力的になるのは自分らしくないと分かっている。
だけど、逃がす訳にはいかない。
俺についての事も、この世界の事も、知っている事は全部ここで吐かせる。
「殴らないのか?」
錬賀の鋭い目が、冷ややかにこちらを見つめてくる。
心の奥底まで覗かれているような恐怖と羞恥に、シャツを握る力は失われていく。
「……クソッ!」
最後の抵抗として、乱暴に握る手を外すしか今の俺には出来ない。
「心を乱す気持ちは分かるが、それだと耐えられないぞ」
「何にだよ」
錬賀が携帯に表示された時計を一瞥する。
そして、深い溜息を一回。
「……次で何回目になるだろうな。まぁ、今度こそ上手くやれよ」
「お……まえ………で……それ───」
視界が段々とぼやける。
酷い睡魔に襲われている感覚に近い。
次第に全身からも力が抜けていく。
倒れ込みそうになる身体を必死に支えるが、抵抗虚しく鈍い音と共に固いコンクリートで出来た地面へと倒れ込む。
この感覚、あの時と同じだ。
1番最初に黒鳥先輩が屋上から飛び降りた時と。
つまり、またしても黒鳥先輩はバッドエンドを迎えたのだろう。
でも、どうして?
あんなにも前向きになっていたのに。
あれは自殺をする人間の顔とは思えない。
そして何故、錬賀は俺がこの世界をループしている事を知っている。
疑問は増えていくばかりだけど、答えを誰かが教えてくれるはずもなく。
歯切れの悪い眠りについた。
───
なんだ、この感覚は……。
視界は一人称視点なのに、身体は自分の意思で動かせない。
分かりやすく言えば、VRの映像を見ているようだ。
視線でたまに映る服装から察するに女子生徒の視点か。
……頭に浮かぶのは黒鳥先輩の姿。
そうと決まった訳ではないけど、何となくそんな気がする。
体育館裏に着くと1人の男子生徒が待っていた。
彼女は小さく手を振りながらお待たせと呟く。
男子生徒はそんな素振りに反応する事なく黙って携帯を見続けていた。
「呼び出してしまってごめんなさい、堂命くん」
「……だるっ。そんなのいらねーんだけど。さっさと本題に入れよ」
視線は変わらず携帯に向けられたままだけど、小さく聞こえる溜息と舌打ちから苛立つ気持ちは伝わって来る。
これが堂命という男か。
名前は何度かあがっていたが、顔を見た事は1度も無かった。
まさかこんな形で見る事になるとは誰が想像出来たか。
「……別れましょう」
「あぁ?何馬鹿な事言ってんの?また殴られたいの?」
「どれだけ殴っても考えは変わらないよ?」
「何それ?俺が言葉だけで何もして来ないと思ってんの?だから、そうやって言ってんだろ?……女とか関係なく殴れるからな」
ようやく携帯をしまったと思ったら、そのまま空いた拳を振りかざして黒鳥先輩を殴った。
思わず抵抗しようとしたが、思いに反して身体は動かない。
直立不動で殴られる事を受け入れている。
「痛いーか?痛いよな?ほら、もう1度言ってみろよっ!」
「別れましょう」
「コイツッ!」
暴力という人間が恐る行動に対して、一切屈さずに黒鳥先輩は同じく別れを告げた。
その強さが余計に堂命の力を強める。
力み過ぎて浮き出た血管が見ているだけの俺にも恐怖を与えた。
もう1発殴られて倒れ込むと、すかさず馬乗りになって気が済むまで殴り続ける堂命。
彼の手には血が付着している。
つまり、黒鳥先輩は出血しているのだ。
涙が出るほど痛いはずなのに、それでも弱音の1つも漏れない。
「お前さ、自分の方が立場下って分かってんの?俺が!わざわざ!付き合ってやってんだよ。それなのになんでお前からフッて来てんだ…よッ!」
今度は腹部に蹴りを入れる。
堂命からは、人として必要最低限の道徳の心を全く感じられない。
どうして無抵抗の人間にここまでの仕打ちが出来るんだよ。
どんな形であれ、自分自身を黒鳥先輩の彼氏だと言い張るのであれば話し合いで全てを解決させるべきだろ。
「……頼太…くん」
弱々しくなった声と共に、手に握られていたオーバーガムを見つめている。
最後の頼みの綱として渡していたお守りみたいなものだったが、このタイミングで包装は破られた。
そして、堂命も気付かぬ間に反撃の狼煙が上がっていく。
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