018話 彼女、やっと歩み出す
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「そうだ。賢崎さんの事、頼太くんって呼んでも良いですか?こう見えても私一応年上ですし。それに、さん付けだとちょっと距離があるかなって。もっと仲良くなりたいので……ダメですか?」
一瞬、躊躇った。
まさか黒鳥先輩の方から踏み込んでくるとは思わなかったから。
「確認なんて取らなくてもそれくらい良いですよ」
「本当ですか!頼太くん、……頼太くん、ふふっ」
ただ俺の名前を呼んだだけなのに、嬉しそうに笑った。
それくらい今の彼女にとって俺という存在が大きくなり始めている。
「頼太くんにもう1つ言っておく事があったんですけど、聞いてくれますか?」
黒鳥先輩の改まった態度に思わず背筋が伸びる。
「堂命くんとは別れることにしました」
どんな事を言われるのか、ある程度想定していたはずなのに言葉を失った。
堂命という存在が黒鳥先輩にとって枷となっていたのは事実だ。
別れるというのであれば、それ以上に素晴らしい話はない。
問題があるとすれば、その意思決定に至った理由だ。
どうしてもあれやこれやと、後ろ向きに考えてしまうのは悪い癖だな。
きっと彼女は自由になるために歩み始めた。
今はそう思うしかない。
「理由は色々とあるんですけど。私、堂命くんに頼り過ぎてたんだなって。生きる理由を彼に押し付けてたんだって気付いたんです。自分に自信が持てないから、誰かに求められる事を必要としていた。ただそれだけだったんです、きっと」
「それでも別れるって決めたんですよね。なら、先輩は強いです。俺が保証しますよ」
「そんなことはないですけど、頼太くんに言われるとちょっとだけ強くなった気分になれますね」
頬を掻きながら照れる黒鳥先輩が、昨日より明るい雰囲気を身に纏っていることに気付く。
……心から安心した。
昨日、今日の心配も、必死に足掻いた俺の行動も。
全部無駄じゃなかったと言われている気がして。
「今日の放課後、彼を屋上に呼びました。ちょっと複雑なんですけど、これで良かったんだと思います」
「そう……ですか」
呼び出したという言葉を聞いてドキッとした。
別れるとなると直接会う可能性だってある。
少し考えれば分かるのに失念していた自分が憎い。
付いていくと言うべきか迷った。
ここで手を差し伸べるのは野暮なのではないか。
それどころか、1人で立ちあがろうとしている彼女の邪魔になるだけかも。
「頼太くん、まーた顔に出てますよ。大丈夫、……私は大丈夫ですから」
先輩は優しい目をして笑っていた。
俺の思考など完全に読み切った上での笑顔に、不安は助長される。
何を考えているのか分からない。
本心はどうなのか分からない。
優しいからこそ包み隠した嘘なのではないかと勘繰ってしまう。
分からないなら聞いてしまえば良い。
聞けばきっと先輩も答えてくれる。
先輩の口から助けを求めてくれたら……俺が…一緒に……。
あぁ、気付いてしまった。
俺は俺に酔いしれていたのだと。
不遇な運命を唯一知っていて、寄り添ってあげられて。
それで彼女は俺がいないとダメで。
俺が…俺が…俺が。
いつからこんなに醜くなったのだろうか。
最初は純粋に助けたいと思っただけなのに。
ヒーローみたいに助け出すことで高揚して、可愛いヒロインに好意を抱かれるのが快感で。
自分は誰もが憧れるレールの上に立っていることに気付いて。
他人を言い訳にして、悦に浸って。
1番弱いのは"俺"だった。
「もしも何かあったらコレ食べてください」
彼女が1人でも立ち向かえる為に錬賀から貰ったオーバーガムを手渡す。
俺が行く必要なんてどこにもない。
これさえあれば、堂命が暴力を振るって来ても大丈夫なのだから。
「ガム?ですか?」
先輩は渡したガムをじっくり観察している。
見た目はただのガムなので困惑するのも無理はないが、信じて受け取ってもらうしかない。
「勇気と力を与えてくれるガムなんですよ」
「ぷっ……あはは!なんですか、それ!……でも、気持ちは嬉しいですね」
冗談だと思われたみたいだけど、貰ってはくれるようだ。
「勇気と力……か。別の所で使う事になりそうです」
「別のところってどこですか?」
「それはヒミツですよ。今はまだ……ね」
ベンチから立ち上がった彼女は、人差しを唇に当ててそう言った。
春の昼下がり。
雲から溢れでる日差しがスポットライトの様に彼女を照らす。
その姿に魅入られた時、やはり彼女はヒロインなのだと思い知らせた。
「またね、頼太くん。次会う時はさっきの話の続きから始めようね」
彼女は屋上を後にした。
1人になった屋上で、やけに五月蝿い日差しを顔に浴びながら黄昏る。
意外にもあっさりと黒鳥羽音の問題は解決したな。
彼女はもう誰かの手助けが必要な程弱くはない。
他のプレイヤーの反応から察するにもっと苦労させられるものとばかり思っていたんだけど。
まだ何かあるのではないかと変に勘繰ってしまう。
いや、きっと本当にここで終わりなんだろうな。
さっきの表情がそれを物語っていた。
……となると俺の役目もここまでか。
「後は頑張ってください。黒鳥先輩」
最後に出来る限りのエールをまだ消えない日差しに向かって呟いた。
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