012話 雨上がりのまたね
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「さてと、次はどうしますか?行きたい場所とかあれば付き合いますよ?」
まだまだ提案出来ることは多いけれど、彼女が行きたい場所はないのかと気になった。
普段は自分の意見など全く言わないだろう黒鳥先輩。
そんな彼女に行きたい場所があるなら今日はとことん付き合ってあげたい。
「行きたい場所ですか?えーっとですねー……ない訳でもなくて……というか、あるに近いというかー……」
突然のパスに戸惑いながらも受け止めようとする。
歯切れの悪さからは自分自身との葛藤が見受けられた。
手を差し伸べ、俺のプランを提案するのは簡単だ。
だけど、殻は少しずつひび割れ始めている。
後は、自分で殻を破れるか、破る決断が出来るかが問題だ。
この瞬間だけは他者からの手助けがあってはならない。
「……ンターに、……ゲームセンターに行ってみたいです!」
最初は雨音に負けるか細い声だった。
自分の気持ちを無意識の内に抑制しているのが伝わる。
でも、彼女も変わろうと足掻いた。
買ったばかりなTシャツをくしゃりと掴み、覚悟を決めて力強く言葉を紡ぐ。
本人は否定されるのではないかと不安でビクビクと小刻みに震えていた。
俺から聞いておきながら否定されるはずもないのに、彼女の人生経験が反射的に体に現れてしまっている。
「良いですね!ゲームセンター!特にこれがやりたいとかあるんですか?」
ちょっと話題を振ってみる。
俺の好奇心というより、コミュニケーションのリハビリだ。
相手に自分の考えを伝えるのは意外と難しい。
ましてや、彼女は今まで自分の考えというものを封印してきたのだから人の何倍も難しいと感じるはずだろう。
だから、絶対に先輩を傷付けない話し相手として俺が練習台になる。
「あ、あのですね!賢崎さんも好きって言ってたラブビットのぬいぐるみが、クレーンゲームであってですね!それで……って、す、すみません!いきなり喋り過ぎですよね」
「おっ!ラブビットですか!めっちゃ欲しー!どんな奴ですか?」
最初は嘘から始まったラブビットへの興味。
今ではちょっとだけ本心で気になる。
「ふふっ、そういうと思いました。これです、これ」
スッと差し出された携帯の画面にはラブビットの写真がずらりと並んでいた。
中でも目を引くのは黄色と黒の配色でサブカルっぽい服を着たラブビット。
黄色と黒の時点でカッコいいのに、服までオシャレなのは反則だ。
「これですか?気になってるのは?」
彼女が指差したのは全く同じラブビットだった。
どうして当てられたのか分からなくて思わず、目を見開いて驚く。
「えっ?なんで分かったんですか?まさか!?メンタリストとか目指してますか?」
「分かりますよ!だって、これだ!って顔に出てましたもん。他の子は見えてないって感じでしたね」
「えっ!?本当ですか!……気付かなかった」
「ほら、さっきコーヒー牛乳とフルーツオレ飲んでた時も!美味しいーーっ!って言うのが、顔だけで伝わりましたよ?」
まさかの新発見。
俺は顔と心情がリンクしているらしい。
素直という言い方をすれば聞こえは良いが、馬鹿正直という捉え方も出来る。
大事な場面で付いた嘘が表情でバレることだけは避けたい限りだ。
「……羨ましいです。素敵ですよ、感情を出せるって」
「黒鳥先輩もいずれそうなりますよ。俺が絶対保証しますから」
「……どうしてですか?」
彼女は静かに問いかける。
他にもお客さんがいる事も忘れて、目に大粒の涙を浮かべながら。
「どうして、私なんかを励ましてくれるんですか?今日会ったばかりなのに……。いっぱい……いっ……いっぱい助けてもらってばかりで」
初めて触れた優しさに彼女は戸惑いを隠せない。
安心と嬉しさの中に、拭えない不安がある。
だから、堪えきれずに涙を流す。
声を殺して静かに泣こうとするが、次第に嗚咽混じりなる。
「やめたんです、気付かない振りするの。困ってる人がいたら助ける。誰かの為じゃなくて、自分が後悔しない為に」
「優し過ぎですよ、賢崎さん」
優しい……か。
彼女は知らない。
今まで沢山"黒鳥羽音"を見捨てて来た事を。
笑顔になる彼女を見る度、グラグラに煮えたぎる怒りの感情が楽になろうとする俺をじわりと痛めつけて許さない。
ピロロン、ピロロン
2人の会話に割って入って、携帯が鳴った。
初期設定の着信音。
互いに自身の携帯に目を向ける。
暗いままのディスプレイを見たが、自分の携帯は鳴っていない。
となると鳴っているのは黒鳥先輩の携帯だ。
嫌な予感に固唾を飲む。
堂命からの電話でないことを祈った。
少しずつ歩み出した黒鳥先輩にとって、アイツは毒にしかならないから。
彼女の表情が少しだけ険しくなったのを俺は見逃さなかった。
それでも鳴り続ける着信音。
出ないのかとは言えなかった。
出来ることと言えば、早く鳴り止んでくれと祈る事だけ。
5コール目が終わった途端に、ピタッと鳴り止む。
鳴り止んだ事を確認すると、彼女は徐に荷物をまとめて立ち上がった。
「ゲームセンター、今日は行けないみたいです。今のお父さんからの電話だったので、早く帰らないと……。折角、ここまでしていただいたのに本当にすみません」
「あぁ、お父さんから。なんだ、そうだったんですね。気にしないでくださいよ。ゲーセンはいつでも行ける訳ですし」
あの時の険しい表情は思春期特有のものだったのかも知れない。
同じ思春期中である俺も親に反抗したくなる時はあるから気持ちは分かる。
親の保護下にありながら、その有り難みを忘れて些細な事で苛立つのだ。
いずれ親元を離れたら日頃の有り難みが身に染みて分かるというけれど、いつか俺にもそんな日が来るのだろうか。
「雨、止みましたね!」
外に出るといつの間にか雨が止んでいた。
ジメジメとした空気はまだ残っているが、それでも幾分心はスッキリとする。
「この傘一応あげますよ。また途中で降るかも知れないし」
「えっ!悪いですよ!雨降ったら自分で使ってください!」
「家、ここから近いので俺は大丈夫ですよ。それに先輩は沢山雨で濡れたので、これ以上濡れると風邪引いてしまうかも知れませんよ?」
「……じゃあ、お言葉に甘えてお借りしますね。絶対返しますから」
渡した傘を大事そうに握る。
柔らかな笑顔で傘を眺めている姿を見ると、あの時、公園で見つけられて良かったと心の底から思う。
結局、俺のした事は大した事ではないけど、それでも良い事をするのは気持ち良い。
だけど、ここで満足するな。
今日1日で終わりではない。
明日も、明後日も、時間は進んでいくのだから。
「賢崎さん、また明日学校で」
小さく手を振る彼女に、小さく手を振り返した。
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