001話 電子の世界からの誘い
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
面白いと思っていただけたら評価やコメントお待ちしております!
暗い部屋の中でポツリと光るモニター。
PCを冷やす為に全力で回っているファンの音と、マウス特有のクリック音だけが部屋の中で鳴り響く。
本人は学生にしては購入を躊躇う金額のヘッドフォンをしているので気にならない。
時間は深夜0時を回ったくらいか。
彼にとってはここからが活発に活動出来る時間帯。
特に親が出張でいない今夜は、俺のお気に入りのエロゲをプレイ出来る絶好のチャンス。
近隣の家に迷惑の掛からないように細心の注意を払いながらもストーリーを進める。
「今日で、『愛の性で私は』の天峰ちゃんルート完全攻略だー。ここまで長かったなー」
エロゲとしての良さもさることながら、それを抜きに見ても感動出来るストーリーとなっている。
早くクリアしたいと毎日毎日思い馳せていた。
それも今日で1つのシナリオが終わりかと思うとしみじみするな。
「他の負けヒロインが悲惨な運命を辿ることを除いては完璧だな、このゲーム」
どんな物にも多少思う所はあるように、『愛の性で私は』にもマイナスな点はある。
負けヒロインがバットエンドになる方式がその1つだ。
色々な層を取り込むための策として設定されているみたいだが、一般的な癖の俺にとっては心が痛むばかり。
選んだヒロインとのシナリオ、キャラデザやシステム、操作性は完璧だから多少は目を瞑るけど。
「ん……?あれおかしいな。そんなはず……」
完全にフリーズしたパソコンの画面。
クリックを何度押しても反応する気配はない。
「ここまでやって来た5時間が………水の泡だ……」
エロゲに限らずゲームをやった事のある人間なら1度は経験したことのあるであろうゲームデータの消失。
この時の絶望感は序盤に出てくるラスボスよりも遥かに印象的だ。
落ち込んでいる暇はない。
頭の中では既に逆算が始まっている。
今までに掛かった5時間を最速且つ、正確に復旧する為の計算。
どのルートを選んだか頭の隅から隅まで探し、同じルートを辿りながら1度見たテキストやムービーを飛ばせば1、2時間くらいは短縮出来るか。
覚悟は決まった。
勿体ない気もするが勇気を振り絞って強制終了のショートカットキーを押した。
「さよなら、俺の5時間。………ってあれ?これもダメ?」
あの強制終了すらも効かないフリーズってどんなバグだよ。
新手のウイルスなのではないかと思い、焦りが高まる。
このままの画面から一生動かないとなるとまずい。
親に見られたらトラウマになる。
「こうなったら電源を直接落とすか」
パソコンに負担が掛かるし、故障の原因にもなると聞くので出来ればやめておきたいがこうなれば仕方ない。
最初のウキウキとしたテンションはどこへやら。
完全にお通夜ムードになりながらも電源ボタンを押す。
「これもダメ?そんなことある?」
電源ボタンは確かに押したはずなのに、何故か消えない画面。
普通のパソコンの仕組み上、そんなはずは……。
この辺りから自分の身に起こっている現象が異常である事に気付いた。
オカルト的な何かなのかとも真剣に考える。
怖い、とにかく怖い。
なんとか電源を落とさねばという衝動がより強まる。
複雑に絡まり合ったコードを辿りながらコンセントの位置を確認。
どれがどの電源プラグか曖昧ではあるが、恐らくはこれだろうというものを抜いた。
視線をテーブルの下から戻す。
消えていない画面。
あのプラグでは無かったかと別の物も抜いてみることに。
「どうなってんだよ、これ」
電子的な光を放ち続けるパソコン。
全て抜かれたコンセントを見れば、電気が供給されていないのは明らかだ。
最早、説明の付かない状況に夢ではないかとすら疑う。
[選ばれた貴方にしか救えない物語がある]
固まった画面が動き始めた。
1文字、1文字丁寧に表示されている謎の文。
電源プラグを抜く前であれば嬉しい話だが、今となっては心臓が止まりそうだ。
[転移しますか? はい/いいえ]
……、なんだこの質問は。
これは俗に言う転生物の導入に酷似していた。
自分がオタクである点も、夜中であるという点も。
全てがテンプレに沿った状況だ。
先程の恐怖は妄想を膨らませるテキストメッセージによってスッと消えてなくなる。
「いやいやいや!まさかそんなはずは」
言葉ではそう言いつつも視線はモニターに釘付けだ。
あり得ないとは分かっていてももし本当だったらと思うと口角が上がってしまう。
エロゲの世界は男のロマン。
あんなことやこんなことまで。
グヘッ、グヘヘ!
おっと、涎が溢れそうになっていた。
冷静になれよ、俺。
説明不能な超常現象が起こっていると言うことは、これは夢だ。
深く考えるのはやめて、そういう事にしてしまおう。
そうした方が一層楽になる。
息を飲みながらマウスを握った。
やけにリアルな感触が現実の可能性と夢であると信じたい気持ちを揺らがせる。
1回だけのクリック。
パソコンから出ていた光が強くなる。
眩しいはずなのに直視出来てしまう心地の良い光から目が離せない。
現実かと思っていた先程と違い、夢であってくれと願うならこれくらいのことでは動揺しない。
視界が徐々に真っ白になり、ぼやけ始める。
「待ってろよ!俺の楽園!」
その一言を最後に彼の姿は消えていた。
人のいなくなった部屋の中、誰に語り掛かるでもなくまたしても動き始めるゲーム内のメッセージ。
[賢崎頼太、貴方が救えなかった彼女達を今度こそ必ず救ってくれると信じています]
その切実な願いはひっそりと映し出されていた。
ご覧いただきありがとうございました。
よければ評価、ブックマーク、いいねお願いいたします。めっちゃモチベーションに繋がりますのでどうか、どうか!!!