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ISAT訪韓後編

 第八話です。


 最新鋭機登場です・・・・・・


 後は韓国ドラマ的な描写の回です。


 今週もよろしくお願いいたします。


 平壌上空ではレインズ社の輸送機が飛んでいた。


「日向巡査? 聞こえる?」


 富永の声が聞こえる。


「機嫌は直りましたか?」


「仕事中よ。ちゃんと、仕事をして」


 日向はそれを聞くと「通信には問題はありません。あとは降下して、レイザを装着するだけです」とだけ言った。


「レイザのコンディションは?」


「さっきから、デレデレですよ、こいつ・・・・・・面食いですね?」


 日向がそう言うと「あなた、底意地が悪いわね? 自分がハンサムだと自覚しているんだもの?」と珍しく、甘ったるい声を出す。


「僕は生身の女の子が好きなんだよ、レイザ」


「イケズねぇ」


 それは死語だよ。


 そう言いかけた時にレインズ社の宇佐鳴海が横に入る。


「通信は簡潔にしろ」


「無駄話が多いのは、今のISATの特徴ですよ、宇佐鳴海元巡査?」


 富永の声がトゲのある物になっていた。


「それが仮にもお願いする側の言うことか?」


「命令よ。日米両政府のね?」


 何で、この人たちは・・・・・・


 すると、そこに米軍のオペレーターから連絡が入る。


「通信は良好か?」


 東部訛りの英語だった。


「はい」


「同じく」


「現在、作戦行動は米軍が先行して行っている。米軍が先制攻撃をして、現地が混乱をしたと同時にターゲットの高層マンションへと宇佐以下レインズ社部隊八名が突入し、日向もこれに加わる。そして、人質の救助、あとは全てを破壊しても構わない」


「首領格のレイチェル・バーンズの逮捕は?」


「それはウチが行うらしい。部隊の連中は裏切り者の小娘をレイプする気満々だよ」


 日向はそれを聞いて、妙な不快感が沸いた。


 俺はどうやら、本当にこれから戦争を行うらしい。


「了解、一場分隊長にメシアを渡すのは?」


「本人は乗り気ではないが、宇佐が行うだろうな?」


 宇佐は舌打ちで返事を返した。


「目標地点へ到達!」


「さぁ、ここから、降下して、行かないと、SAMの餌食になる。行け、タイガー!」


 こいつ・・・・・・明らかに小僧っ子扱いしやがって!


 そう思いながらも、降下の準備を始める。


「米軍ではあれが普通だ。年功序列と実績がものを言う社会なんだよ」


 宇佐はそう言い出す。


「・・・・・・意外ですね。てっきり、僕らのことを嫌っているかと思っていた」


「俺が嫌いなのは一場だ。警視庁は好きだが、一場が嫌いなんだ。お前に罪は無い。レイザにもな?」


 宇佐がそう言うと、レイザは「人の好き嫌いは我慢しないとね? あの事件が無ければ、あなたの技量だと、かなりの手練れになっていたわよ?」とだけ言った。


 記録上はこの人が最初のレイザの装着者だよな・・・・・・


 二代目が今、人質になっている進藤係長で、三代目がこの前、殉職した津上スバル巡査長・・・・・・今度の警察葬で警部補になる人で、僕が四代目で、高久教官と島川教官に散々、しごかれた挙句にいきなり、戦争ですか・・・・・・


 そして、輸送機のハッチが開くと同時に宇佐は「装着!」と言って、第五世代型ソルブスのクウザ・青龍を装着して、上空から降下する。


 黒みがかった、ボディに青いラインの機体を見る間もなく、日向も「装着!」と言って、第五世代機のレイザ・白虎を装着する。


 青色のラインに純白のボディのこれは格闘戦主体とは言え、僕に扱えるか?


 明らかに僕にはオーバースペックだと思うが?


「日向君、剣道と同じだと思えば良いから。インカレの全国三位なんでしょう?」


 富永がそう言うと「剣道やっていて、まさか、北朝鮮で戦争をするとは思いませんでしたよ」とだけ言った。


「通信は切る」


 そう言った後に旧北朝鮮地区の森へと降下して、そこからホバリングで陸路を移動して、平壌へ向かう。


 時刻は午前二時五三分。


 暗視ゴーグルが無いと、何も見えないぐらいに旧北朝鮮地区の夜は暗かった。



 未明の平壌は寝静まっていた。


 そこでは確かに市民がいたが、いずれも皆、貧しく、ソウルの華やかな雰囲気とは全くの別世界がそこにあった。


 ターゲットとなる、高層マンションには事前にピョンヤン・イェオンダエに潜入していた、CIAの韓国系工作員が設置した、セムテックス爆薬が設置されて、時刻が午後三時三〇分になると同時に起爆をする仕組みだった。


 それまでは警邏の歩兵たちも気を抜いており、街は皆、寝静まっていたが・・・・・・時刻が三時三〇分になると同時に爆破が始まり、街中で火事が起きた。


 警邏の兵士たちがピョンヤンの騒乱に気を取られていると、そこに対戦車ミサイルが飛んできて、装甲車ごと兵士はふっとばされた。


 宇佐鳴海を始めとする、レインズ社の部隊の装備するクウザ・アルファが重装備型と突入型に分かれて、高層マンションへと突入する。


 街ではアメリカ陸軍特殊部隊デルタフォースがレイチェル・バーンズの捜索を行っていた。


 高層マンションにはすでにいないと踏んで、街の何処かから、平壌を脱出することを予測した上で、平壌の街中を捜索しているのだ。


「さぁ、ここからだ! 日向! 連中の奪還が主任務だ!」


 宇佐と日向たちは事前にCIAに教えられた、マンションへと向かい、侵入。


 部屋の一室に向かう。


 道中では警邏の兵士たちがいたが、それを全て、射殺する。


 そして、座標上の目標の部屋の前に付く。


 ドアを開けた。


 異常を察していたのか、全員が起きていた。


 そこに一場亜門がいた。


 宇佐は装備を解く。


「・・・・・・宇佐鳴海」


 かつての上司、小野澄子も目を見開く。


「ようやく、会えたな? 一場?」


 戦場での再会の最中でも、街では爆発が続いていた。



 亜門は眠気を感じる間もなく、呆気に取られていた。


 救援に来たのが、自分を嫌っていた、元警察官の傭兵、宇佐鳴海だからだ。


「米軍が救援に来るんじゃないんですか?」


「米軍はレイチェル・バーンズを血眼になって、探している。俺たち、レインズ社とお前らの部隊の新入り、一人でお前らの奪還を行うことにしたのさ? ほれ」


 そう言って、宇佐は亜門にケースを投げつける。


「開けろ」


 開けてみると、スマートウォッチとコンタクトレンズが入っていた。


「・・・・・・これが新しい、メシアですか?」


「試しに付けてみろ、感動の再会だろ?」


 宇佐さんも饒舌になったな・・・・・・


 そう思って、コンタクトを付けると、スマートウォッチへのペアリングが行われて、メシアが「よう、散々な韓国観光だったな?」と声をかける。


 周りの隊員やJCIAと国情院の要因と外務省の面々はレインズ社の兵士たちに保護される。


「冗談も言えない心境だよ、腹減った」


「あぁ、会話の内容は聞いていた。敵の施しを受けたくないのは心理的には分かるが、精神論極まりないな?」


「何で、それを知っているんだよ?」


「隊長の奥歯に発信機と盗聴器を仕込んでいた。だから、米軍にも筒抜けさ」


 あっ・・・・・・それがパンくず!


 通りでピンポイントで伝わるわけだ。


 そう思いながらも、亜門を含む、人質たちはレインズ社の兵士の先導で高層ビルの外へと出る。


「車はあるか?」


「ありますね・・・・・・キーは・・・・・・あった!」


 そう言って、兵士たちが車を動かし始める。


「数的には二台以上は必要だな?」


 そう思った時だった。


 大きな機械音が聞こえると同時に平壌の地下からいきなり、エビ型のソルブスが現れた。


「何だ・・・・・・あれ?」


「ロシア製の動物型ソルブスのカぺべトカだな? 三人揃って、脳味噌を回路に繋げて、駆動系にしている非人道的な兵器だ」


「そんなのをロシアが作っていたのか?」


「お前らが拘束されている間に太平洋のど真ん中で、米軍と自衛隊が演習中に奴と交戦して、倒したらしい。だから、お前にも出来るだろう」


 それを聞いた、亜門は「それって、日下部さん?」とだけ聞いた。


「そうだ。あの天才肌の小娘さ」


「そうか・・・・・・」


 そう聞いた、亜門は宇佐や日向と共に並び立つ。


「何をやっている? 早く、逃げろ」


「・・・・・・強襲作戦に出ている、米軍が心配です。それに街の人たちが潰される」


「・・・・・・何も食っていないのに戦えるのか?」


「第五世代機になった、メシアがどんなものかを試したいので」


 そう亜門が言うと、宇佐はため息を吐く。


「やっぱり、俺はお前のことが嫌いだ」


「僕もですね。意味無く、嫌われるので」


 宇佐は睨み返すが。日向と呼ばれる新人が「喧嘩する以前にあのデカブツを倒さないとダメでしょう!」と言い出す。


「行くぞ! 無駄口は後だ!」


 そう宇佐が言い出す。


 そして、三人は声を揃える。


「装着!」


 宇佐は黒色のボディに青いラインが入った、大きな装備を背負った、新しい、クウザ。


 日向が来たのは白いボディに青色のラインが入った、新たなレイザ。


 そして、亜門が着たのは機械で作られた、羽の様なバックパックを背負った、赤い色が目立つ、新型のメシアだった。


「亜門、これが最新鋭の第五世代型に進化した、メシア・朱雀だ」


「朱雀というよりは僕にはこれは不死鳥に見えるな・・・・・・」


 そう言うと、メシアは笑い始めた。


「俺たちは死なないし、死んだとしても、不死鳥のように蘇るということだな?」


 メシアがそう言った後に宇佐が「行くぞ! あのデカブツを倒す!」と言って、三人は平壌の街に聳え立つ、カぺべトカへと向かって行った。


 時刻は午前4時44分。


 まだ、平壌での夜明けは遠い。



 李治道とレイチェル・バーンズに部下のリ・ミンギ大尉率いるピョンヤン・イェオンダエの大群はジープで地下通路をひたすら、走っていた。


「大佐はどうなっている?」


「地上で待っているそうです。しかし、平壌で掘った地下道では、ロシア国境まで行くなんて・・・・・・無理があり過ぎます」


 部下のリ・ミンギ大尉がそう言う中でレイチェルは「下手に地上に出れば、アメリカの衛星に筒抜けになって、すぐに特殊部隊が私たちを殺しに来る。返り討ちには出来るけど、無駄な労力は使いたくない。北朝鮮があった頃の時代にロシアルートは掘ってあったんだ。北の将軍様のおかげさ」と言い切った。


 一応は中国の国境に向かうルートはあるが、旧北朝鮮時代から中国との関係は隙間風が吹いているものだった。


 それに連中はしたたかでアメリカとも対話できる。


 中国に逃げたとしても、どこかで売られる可能性がある。


 それならば、取引での上客のロシアに渡ったほうがいいだろう。


 ロシアこそ、マフィアには似合いの国だ。


 その上で幾重にも張り巡らされた地下網から、部隊を逃しているのだ。


 ロシアルートと韓国ルートに逃しているが、いずれにしろ、アメリカの衛星を避けなければいけない。


 後は協力者たち次第だ。


「平壌はどうなっている?」


「パク・ジョナムとP &Kのイ・ドンウとその他一名の不良な部下の脳味噌をカぺべトカに繋げて、時間稼ぎをさせている。米軍もそれに気を取られているさ?」

 

 パク・ジョナム中尉のあざが目立つ顔付きを思い出す。


 組織の金を横領していたのを把握していたので、素行の悪い部下と共にカぺべトカに脳味噌を繋げて、当面の時間稼ぎには充てたが、横領さえ無ければ、奴は優秀な士官だったので、惜しいことをしたと思っている。


 イ・ドンウは生理的に嫌いな人間なので、当然の措置を取ったと言いたいが、中尉は惜しいことをしたと治道には思えた。


「あの男は金遣いさえ、改めれば、優秀だったのに?」


「俺もそう思うけど、直らないよ。父さんが生きていてもこういうことはしていたと思うよ」


 そう言って、レイチェルとリ・ミンギと後ろを振り返る。


 追尾は無いか・・・・・・


「残りのカぺべトカは?」


「平壌に大量に残っているな・・・・・・場合によってはモスクワに着いたと同時にまた、買うか?」


「あの兵器は嫌いなの・・・・・・ロシアの非人道的な兵器を見るたびに自分がアメリカ人なのだと痛感するから」


「・・・・・・ごめん、俺が購入しようって、言ったから」


「必要悪だけどね? 今の私たちにとっては?」


 そう言って、走り出す。


 出口は・・・・・・出口はまだ遠い。


 治道とレイチェルにリ・ミンギを始めとする、ピョンヤン・イェオンダエの大群たちは暗闇の中をジープで走り続けていた。


 生き残る為に。



 カぺベトカの陽電子砲が同機が吐き出した物体に反射して、その粒子が平壌の街を焼く。


 亜門と宇佐、日向がそれを巧みに避けると、亜門は新装備のサイココントローラ―システムを起動して、無数のドローンからレーザーを掃射する。


「これは・・・・・・ガンダムだよね?」


「まぁ、ファンネルのもろパクだがな? レーザーの刃を作って、特攻させることも可能だし、シールドを作ることも可能だ。そしてだなぁ?」


 メシアがそう言うと、バックパックが外れて、ドローンが集まり、巨大な砲台が出来る。


「大型陽電子ライフルだ。これをぶつけたら、どうなるだろうな?」


 すると、日向が二刀流の対艦刀でカぺべトカの胴体を切り裂き始める。


 あんなデカブツなのに意外と脆いな?


 宇佐もクウザ・青龍のバックパックを外すと、それを装着して、戦闘機の形態へと変身した。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 カぺべトカがそれに気を取られ始めた。


 そして、そこに日向のレイザ・白虎の斬撃が切り刻まれる。


 胴体に大きな切り傷が出来た後に亜門は「行っけぇぇぇぇぇぇ!」と言って、大型陽電子ライフルのトリガーを引き、陽電子のエネルギーがカぺべトカのむき出しになった、内部を焼き尽くす。


 ロシア製の非人道的な兵器の呆気ない最後だった。


「・・・・・・もう、終わり?」


「デカいだけで大したことは無い。帰るぞ」


 そう言って、辺りを見回すと、在韓米軍の部隊が大挙して、やって来た。


「亜門君!」


「一場ぁ!」


 小野、出口、広重、海原、岩月、進藤を始めとする、ISATとJCIAの面々にアンを始めとする、国情院の面々、あれほどに対立をしていた外務省の面々も満面の笑みを浮かべて、こちらに手を振る。


「みんな、退避していたんじゃないですか?」


「あれだけの短時間で連中のテリトリーは脱せられないわよ、それより、新型はどう?」


「・・・・・・やり過ぎですけど、何で、新型機のコードが四聖獣なんですか?」


「それは開発したレインズ社のセンスよ、ちなみに玄武は自衛隊のゴウガになるわね」


「もろ、確かに亀って感じだもんな?」


 そう言った後に亜門は腹が鳴るのを感じた。


「腹減ったよぉ・・・・・・」


「同感ね? 飲まず食わずだもの」


 平壌の荒廃した街の中で、通信が続く。


 変形した、宇佐のクウザ・青龍の戦闘機形態が上空を旋回する。


「帰るか・・・・・・日本に」


「しばらく、お前は育休だ。家族サービスしろ」


 そう言われた、亜門は装備を解いていた。


 身体が赤い閃光に包まれて、生身の状態に戻る。


 そこに小野と進藤が抱き着きに走る。


 二人とも、満面の笑みだった。


 時刻は午後五時五六分。


 夜明けが街を照らしていた。



 ソウルのP&Kグループ本社前は騒然となっていた。


 辺りではマスコミも多くいて、テレビカメラも多くいた。


「兄さんが命からがら、掴んだ情報のおかげでショーが始まるよ」


 アン・ジェンウは平壌で日本警察の特殊部隊がテロリストと交戦をしたというニュースを聞いて、ほくそ笑んでいた。


「アンチーム長? また、お兄さんからの情報ですか?」


 副チーム長のパク・ミウがそう声をかける。


「自慢の兄さ。おかげで僕は大捕り物が出来る」


 そう言って、アンは車がP&K本社前で止まると、中から出る。


「アンチーム長! P&K会長を内乱罪で逮捕するというのは本当ですか!」


「政府と国際的なテロリストグループが繋がっていたとも言われていますが!」


 マスコミの質問には答えずにP&Kの本社内へと入る。


 そして、P&K社員の敵意と恐怖に満ちた顔付きを見ながら、アンは会長室へと向かう。


 そこでは会長のイ・シムが呆然とした表情で座り込んでいた。


「ソウル地検だ。イ・シム、内乱罪で逮捕状が出ている。ご同行願いたい」


 アンは思わず、恍惚の表情を浮かべてしまった。


 一人の人生を壊した。


 それも腐った金持ちのジジイの人生をだ。


 このカタルシスに表情が緩まない方が問題がある。


 アンは部下に声をかけた。


「証拠は全て、持ち帰れ。本丸は他にある」


 それを聞いた、イ・シムの表情が歪むのをアンは見逃さなかった。


 これが後に韓国社会を揺るがす、大きな政界スキャンダルの始まりであった。



 一場瑠奈は警察病院から退院した後に娘の杏子を抱き抱えながら、自宅のマンションへと向かっていた。


「パパは?」


「招集よ。亜門君が韓国で大暴れしたそうよ」


 母がそう言う中で、瑠奈は苦笑いした。


 韓国土産は期待出来ないな?


 そう思って、部屋に着くと、杏子が泣き出す。


「杏子、どうしたの?」


 杏子が泣き出す中で、テレビを点けると、韓国での騒動が報道されていた。


 官邸では官房長官が警視庁ISATが韓国で、極秘任務にあたっていたという事実に対して、マスコミ各社から追及と言ってもいい、トゲのある質問が飛んでいた。


(韓国で準軍事組織を展開させるのは法的に問題があるのではないかとーー)


(ご指摘には当たりません。韓国政府及び、在韓米軍とも申し合わせをした結果での作戦なので)


(隊員の作戦行動に対して、韓国国内でバッシングが起きていると聞いていますがーー)


(隊員の心配はしないんですか? 彼らは純然たる日本国民ですよ?)


(はい?)


(何故、外国人の心配、それも我が国に対して、バッシングを行うような相手を思いやらないといけないのでしょうか? あなた、説明できますか?)


(いや・・・・・・それはーー)


(質問は以上の様ですね。次です)


 三十三歳の若さで官房長官に選ばれた、西山梓衆院議員か?


 極右であることは有名だが、ここまで気持ち良く、マスコミを論破できるのは見ていて、気持ちが良いな?


 しかし、杏子は西山を画面から見ていると、泣きやまない。


「どうしたの? 杏子?」


 そして、その時に電話が鳴った。


「はい・・・・・・一場です・・・・・・はい、そうですけど?」


 母が電話を取ると「はぁ・・・・・・じゃあ、御電話番号だけ・・・・・・はい、080のーー」と電話番号を復唱する。


「まぁ、今更感はありますけどね? 孫が出来たんですから、主人にも・・・・・・はい、それじゃあ」


「ママ? 誰?」


「一場君のお母さんよ」


 それを聞いて、瑠奈はずっこけた。


「えぇぇぇぇぇ!」


「無理も無いわよね? 結婚式にも来なかったんだもの」


 意外だった。


 亜門が警察官になったことと大学を中退したことに反対して、それっきり、縁を切っていたとは聞いていたが、まさか、孫が出来たタイミングで・・・・・・


「ママは・・・・・・何で、そんな余裕なの?」


「それはやり取りをしていたからよ?」


 そうなの?


 知らない間に母親がしたたかになっていたことに驚きを隠せなかった。


「一応、今は東京にいるらしいけど、どうする? 瑠奈? 会いに行く?」


 瑠奈は心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。


 西山と記者とのギスギスとしたやり取りを見ていた、杏子はまだ、泣き止まなかった。



 その後にソウルへと戻った、亜門たちは病院に行った後で、本格的な治療は東京に戻ってからにすることをアン・セイエンに言った後に東京へ戻るために荷物をまとめていた。


 韓国では今、現政権がピョンヤン・イェオンダエに資金援助をしていたという事実が発覚して、保守派が退陣デモを行い、革新派と衝突をするなど、殺伐とした空気になっていた。


 アメリカや日本の政府は韓国の内政問題としながらも、両国の国民たちからは西側に居ながら、テロリストに与していた、韓国左派政権に対する、怒りの声がネット上で届き、日本のネトウヨは堂々と韓国は敵だとを主張するという、お決まりのパターンが出来上がっていた。


「荒れているなぁ? 特にXは?」


「いつものことだろう? しかし、韓国はここからが大変だ。アンチーム長の弟がP&Kを八つ裂きにして、公捜処(高位公職者犯罪捜査処の略、韓国でムン・ジェイン政権下で創立された、政府要人に対する捜査機関)が大統領府にも切り込みをかけるんだろう?」


 まさか、アンチーム長の弟さんが検察の若きエリートだとはな?


 韓国では検察はとてつもない権力を保有しているとは聞いていたが、それは日本人には韓国ドラマ程度でしか、理解できない物かもしれないなと亜門には思えた。


 瑠奈には土産話にはなるなぁ・・・・・・ただ、肝心なことを忘れていた。


 韓国土産を何一つ、買っていない!


 このままでは、瑠奈にしばかれる! どつかれる! 要するに総じて、言えば、ボコボコにされて、怒られる!


 これはどうしよう?


「どうした? 亜門?」


「韓国土産を買っていない・・・・・・」


「仕方ないだろう? お前もテロリストに拘束をされたりだ何だで、それどころじゃなかったんだからな」


「瑠奈にそういう慈悲の心があると思うかい?」


 メシアは黙り始める。


「無いな? あの女は鬼嫁だ」


「それ言っちゃうんだぁ・・・・・・」


 どうしよう?


 明日には帰国だしな?


 どう言い訳を考えようか?


 その時だった。


 亜門のチェックインしている部屋にノック音が響く。


 誰だ?


 一応、ドアにチェーンをかけて、開けてみる。


 アンだった。


「あぁ、一場分隊長」


「何だよ? 僕は土産が買えなくて、機嫌が悪い」


 すると、アンは口を尖らせて「買いに行けば、良いじゃないですか? 外出を制限されているわけでもないのに?」と言い出す。


「隊長が何を言うか、分からないだろう?」


「日本人と言うのは想像以上に他者の言い分を気にするようだ? とりあえず、一緒に酒でも飲みませんか? 私はこれから、大仕事があるので、壮行会をするんですよ」


 何で、僕となんだよ?


「嫌だよ。何で、あんたとサシで飲まないといけないんだよ?」


「私に友達がいると思いますか?」


「弟がいるだろう?」


 アンはため息を吐く。


「弟は財閥に攻め込むから、私と悠長に会食できる時間はありませんよ。どうです? 土産も選びますよ・・・・・・隊長にも進言しますし」


 まぁ・・・・・・土産を選ぶ手間が省けるならば、良いか?


「分かったよ、行っても良いけど、どういう魂胆なんだよ?」


「だから、言ったでしょう? 私は友達がいないと」


 えっ?


 じゃあ、僕は何なんだ?


 こいつの寂しさを紛らわすための存在か?


「僕はあんたの友達じゃない」


「冷たいですねぇ・・・・・・奥さんの土産は良いんですか?」


「・・・・・・行こうか! それが目的だからな!」


 アンは笑いながら「これが俗に言う、ツンデレですね」と言い出す。


「んだとぉ!」


 亜門がそう言うと、アンはフッと笑い出す。


 二人はそう言って、ソウルの夜の街に繰り出した。



 瑠奈は杏子に授乳をしていたが、とりあえず、テレビの画面は子ども番組にしていた。


 ニュースは当面、見られないか?


 まぁ、せめて、クラシック音楽の番組にしたいが、ダメだ・・・・・・


 子どもを持つということが初めて過ぎて、どうしていいかが分からない。


 杏子にも授乳こそしているけど、何か、胸がむずむずして、変な気分だから、全てが手探りの状態だ。


 まぁ、それ以前に医局に戻れるだろうか?


 自慢ではないが、研修医としては優秀であったであろう、私がデキ婚をしたというだけで、医局という白い巨塔からは完全な白い目で見られていたが、戻れるだろうか?


 完全に昇進のレースからは外れているな。


 しかも、手術の知見を得ることからも遅れている。


 手術の腕は場数と努力とセンスだ。


 故に杏子が生まれたことは嬉しいし、こうして、母親になれることは幸せなのだろうが、医者としては確実にキャリアが二六歳にして、曲がり角に差し掛かっている。


 ちょっと、結婚が早すぎたかなぁ・・・・・・


 せめて、三〇前半までは亜門君に待ってもらっても良かったか?


 いや、というか、そもそも論として、あいつが付けるもんを付けなかったから、デキ婚という形で結婚したんであって・・・・・・よし、決めた。


 あいつが帰国したら、殴ってやろう。


 韓国土産を買っても、許さないで、思いっきり殴ってやろう。


 ただでさえ、手探りの母親状態で仕事のキャリアがどうなるか、分からない状態であいつの母親とも話をしないといけないんだ。


 これは殴っても良い奴だろう。


 そうしよう。


 そう、瑠奈が不安な気持ちを収めようとしていた時だった。


 医局の上司である、松本部長から電話がかかってきた。


 嫌な予感しか、しないなぁ・・・・・・


「はい、久光です」


(あら、一場じゃないんだ?)


「苗字を変えるのは不本意でしたからね。現行の法制度では夫婦別姓が認められていないですから。旦那に配慮してやったんですよ」


(相変わらずだなぁ。お子さん、生まれたらしいけど・・・・・・まぁ、今日は大事な話があって」


 何だよ?


 地方の分院に行けとか言ったら、間違いなくキャリアが終わるぞ?


「外科になりたい?」


「はい」


「はっきりと言うねぇ・・・・・・外科にはさせないよ」


「はぁ? どういうことですか!」


 すると、松本はげらげらと笑い出す。


「君の旦那さんは警察官だろう?」


 何で、それを今、聞く?


「そうですよ・・・・・・あれ? もしかしてですけど?」


「うん、察しが良いね」


 まさか・・・・・・・


「法医学教室に行けとか言うんじゃないでしょうね?」


 松本は「ご名答ぉ!」と言い出す。


「はぁ!」


 終わった・・・・・・


 膝から崩れ落ちる自分を知覚した。


 瑠奈は医者としてのキャリアが終わったことを痛感した。


 杏子が何故か、その時に笑っていたのが、母親ながら癪に触っていた。



「へっくしょい!」


 亜門が大きなくしゃみをすると、メシアが「海外まで来て、風邪か?」と聞いてきた。


「誰かが噂しているんじゃないですか?」


 アンがそう言うと、亜門は「ウチのかみさんだな・・・・・・」とだけ言った。


「一場分隊長は愛妻家ですね・・・・・・相当、奥さんは魅力的な女性らしい」


「まぁ、僕には不釣り合いな程に魅力的な人だよ。それよか、スンドゥブチゲが美味いね・・・・・・」


 亜門はスンドゥブチゲを食べた後にチャミスルをグイっと飲み始める。


 その後にアンと今日、何度目かは分からない、盃を傾けての乾杯の動作をする。


 韓国では酒を飲む時に苦楽を共にするという意味で、毎回、日本で言う、乾杯の動作をするらしい。


 それと、さっき、言われたが、一応はアンの方が先輩だから、本来であれば、若年者の自分は誠心誠意、尽くさないといけないらしい。


 アン自身は別に構わないから良いとは言われたが、韓国社会では気を付けろと言われた。


「一場分隊長は酒飲むんですね?」


「まぁ、こういう時とかだったらね。アンさんは酒強いよね?」


「酒でしか、ストレスが発散できないんですよ」


 そう言って、アンはチャミスルを飲み続ける。


「まぁ、また、韓国で事件が起きたら、頼みますよ。最早、我々はウリの関係です」


「ウリ?」


「韓国では身近で親しい人の意味で使われますが、中々、外国人にはこの概念が理解されない」


 そう言って、また、乾杯をする。


 日本で言うところのマブかなぁ・・・・・・それ。


「いや、韓国の警察を頼れよ。僕らだと、外交問題になるよ」


「韓国の警察が財閥とずぶずぶなのは知っているでしょう? あなた方が良い」


 そう言われてもなぁ・・・・・・戦闘なんて、経験したから、当面は韓国はいいかなぁ?


 まぁ、瑠奈が行きたいと言えば、行かざるを得ないのだが?


「進藤係長には情報を渡しました。朝鮮半島における、ピョンヤン・イェオンダエに関する情報の共有を進めるつもりです。恐らく、大統領は・・・・・・」


 すると、アンのスマホに着信が入る。


 アンが韓国語で応対する。


 すると、アンが笑い出す。


 そして、切った。


「大統領が自殺したそうですよ。一場分隊長」


 えっ・・・・・・自殺?


 韓国の歴代大統領が自ら、命を断つことは珍しいことではないが、まさか、在任中に?


 それだけ、ピョンヤン・イェオンダエとの関係が深かったということなのか?


「これで大統領選ですよ。だが、本丸が早々にあの世に行くとはな?」


「何か、楽しんでいないか?」


 亜門がそう言うと、アンは「正直に言えば、楽しいですよ。人が私のシナリオ通りに死んでいく様子は?」とだけ言った。


「そのセリフは嫌いだぞ。僕らも存分に痛めつけられたから、気持ちは分からなくはないが、基本、僕らはサッカンだから、あくまで生け捕りが原則なんだよ。諜報機関の君らとは違う」


「つれないですねぇ。まぁ、韓国はこれから、大騒ぎですよ。一場分隊長は帰国したら、育休でしょう?」


 亜門は人を殺しておいて、それを楽しむ、アンに疑念を抱きながらも、チャミスルを飲み続けた。


「強制的にね・・・・・・働き詰めだから」


「後で、韓国土産を選ぶので、酒はほどほどに」


 アンが笑いながら、そう言うが、亜門のアンに対する疑念は払拭は出来なかった。


 僕にはやはり、政治は無理だ・・・・・・


 諜報機関の若きエースと一兵卒とではやはり、考え方が違うのだと、痛感した。

 

 そういう奴と僕はウリという関係らしいが・・・・・・


 今日、何度目か分からない、乾杯を亜門はアンと酌み交わした。


 ソウルでの夜はまだ、終わらない。


 続く。









 次回、機動特殊部隊ソルブスアサルト 第九話 新たなる暗雲。


 水面下で悪意が進む。


 乞うご期待!



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