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ISAT訪韓中編

 第七話です。


 えぇ、韓国に統一された、北朝鮮を書いていますけど・・・・・・まぁ、フィクションなので。


 今週もよろしくお願いいたします。



 ソウルから陸路でパンムンジョムへ向かう最中で亜門は昨日の大使館での進藤との会話を思い出していた。


「P&Kは敵よ」


 やはり、そうか・・・・・・


 最初から敵意剥き出しだったからな。


「会長さんが旧北朝鮮地区出身でね。故郷の復興の為に同地を拠点にして、金を落としているのよ。ピョンヤン・イェオンダエの資金源になっているわね」


「それは・・・・・・大スキャンダルですよね?」


 それに対して、小野は「韓国の大財閥が裏で世界的なテロリストに資金提供ね・・・・・・JCIAはこれをネタに韓国をゆするつもり?」とだけ聞いた。


「我々が仕入れたというよりはアメリカのCIAが調査したんですよ。これをネタに韓国左派政権に踏み絵を強いるんです」


 うわぁ・・・・・・踏み絵とか可哀そう。


 アメリカを本気で怒らせると同盟国にすらも諜報活動を行って、こういうことをするんだなぁ。


「JCIAはまだ、若い組織ですから、ハッキリ言って、実力としては韓国の国情院以下ですよ。悔しいことにね? CIAの支援が無ければ、こういう事実にも辿り着かなかった」


「今の日本政府はアメリカとは関係が良好ですからね・・・・・・米韓関係は過去最悪とか言われていますけど? どうせならば、P&Kじゃなくて、在韓米軍に助っ人に来てもらいたいぐらいですよ。あの財閥どもが裏切るのは確定らしいですし」


「あぁ、その件だけど、在韓米軍は参戦するわよ。新型になったメシアを連れてね? それともう一人、後輩君と最新鋭機もね」


 それを聞いただけで、だいぶ、気持ちは軽くなったけど、在韓米軍参戦のタイミングが分からないのと、あの財閥どもが明確に敵と分かった時点で、奴らとはまともに目も合わせられなくなったな。


 ていうか、韓国陸軍も来るのに、堂々としているよな?


 離反を働くなんて?


 そう思いつつ、パンムンジョムに近づくと、韓国警察が軍に警護を引き継ぐ。


 しかし、その時だった。


 韓国警察の警察官の一人が自分たち、ISATに対して、首を掻っ切るポーズをする。


「何だ! あいつ! あの野郎! ちょっと、来い!」


「出口統括小隊長・・・・・・私が言えたことでは無いけど、これ以上の面倒は止めた方が良いわよ。外務省どものクソどもも来ているし?」

 

 小野は堂々と、外務省の悪口を本人たちを目の前にして、言い放つ。


「クソどもですか? 我々は?」


「人の盟友をセックスレスだとか言うし、韓国側にここまで挑発されても、言い返せない、やり返せない、あなたたちをクソと言わずして、どう表現すればいいの?」


 外務省の面々は「外交問題ということを考えてください・・・・・・我々はーー」と米明するが、小野は「喧嘩も満足に出来ない奴の言い分なんか、聞きたくない」と拒絶を始める。


 外務省の面々はそのまま、黙り始めた。


 もう、同じ日本人相手でもここまでの険悪ぶり。


 僕、胃が痛くなってきた・・・・・・


 パンムンジョムって、トイレあるかな?


 ていうか、旧北朝鮮地区はトイレが劣悪らしいからなぁ。


 そのような心配をよそに韓国陸軍先導の下で、車列はパンムンジョムを過ぎて、旧北朝鮮地区に入る。


「何か、寂しいところだね?」


 海原が外を見ながら、そう言う。


 すると、小野が「アンチーム長から言われたけど、外眺めない方が良いわよ。どこにスナイパーがいるかもしれないから、頭撃たれるわよ」と忠告をする。


 それ、もう、もはや、メキシコの麻薬カルテルの話しじゃん!


 多分、北朝鮮が崩壊して、韓国に吸収統一されて以降は、この辺りの地区の統制が取れていないんだろうな。


 韓国は基本的にソウル偏重主義とか言われているぐらいに都会大好きだから、北の貧乏な地区なんか、興味ないだろう。


 軍が警護しているから、手を出さないんであって、これが記者とかだったら、身包み剥がされているだろうな。


 そう思っていたが、同乗する警視庁の面々と外務省の面々の気まずい空気に耐えられなかった。


 大体、あの桜井の眼鏡も監視名目で、ウチの部隊が乗る車に外務省の職員を乗せるとかやるから、小野隊長が不機嫌になるんだよ。


 小野隊長がどんだけ、気難しいかを分かっていない人と一緒の車に乗るのが嫌なんだけどなぁ・・・・・・


 車が走るが、舗装されていない道路を走るので、途中で車が飛び跳ねる。


「それと、この辺は地雷が埋まっているから、間違っても車から出ないでね?」


「じゃあ、小便は出来ないですね」


 小隊長の広重がそう言うと、海原は「汚い、最低」と言い出す。


 外務省の面々は笑い出すが、小野がそれを睨みつける。


 もう、止めてくれよ・・・・・・仲良くしようよ、お願いだから。


 亜門はこれほどに皆に仲良く、仕事をして欲しいと思った時はなかった。


 時刻は午前七時ちょうど。


 また、車が飛び跳ねた。



 旧北朝鮮地区に入ると、平壌までの道のりが遠い事に並行した。


 そりゃあ、いくら旧北朝鮮みたいな田舎でも、平壌以外の都市はあるのだが、通った町という町がどこなのかは分からないままだった。


「何も無いな・・・・・・」


「アンチーム長が韓国の情景を見て、戦場へ行けとか言っていたけど、それって、ソウルが凄く、開発が進んでいる一方で、旧北朝鮮地区は取り残されているってことを肝に命じておけということかね?」


 出口が日本から持ってきた、おにぎりを頬張りながら、そう言う。


「出口統括小隊長」


「何だ、おにぎりはそこにあるぞ」


 じゃあ、遠慮なく。


「全員、スマホは機内モードにしとけよ」


 まぁ、自爆ドローンとかでズドンはマズいよなぁ。


 外務省の面々はスマホを機内モードに切り変えるがISATの面々はとっくの当に切り替えていた。


「増援は来ますかね?」


 小野に亜門と出口がそう問いかけると「パンくずは残しておくものよ」と言って、目をつぶりだす。


「寝るんですか?」


「私は常に寝不足なのよ」


 そう言って、小野は本当に眠ってしまった。


「本当に寝たよ」


「よく、こんな状況で寝られますね?」


 外務省の職員が異常な物を見るかのような目でそう言う。


「まぁ、この人は戦争が職業ですからね・・・・・・」


「警察官なのに・・・・・・まるで、戦争屋だ」


 まぁ、文官には分からない境地だよな。


「武人の境地って奴ですよ。この人は生粋の軍人ですから」


 そう言って、亜門はおにぎりを頬張り始める。


「海原、茶はある?」


「トイレ行っても、知らないよ?」


 外務省の面々は食事を取り始める、亜門たちに呆気を取られていた。


「猿が・・・・・・」


 そうは言ってもねぇ?


 惑星によっては猿の方が賢いからな?


 そういう、差別発言は考えて言えよと。


 まぁ、エリートの外務省には言っても、出ちゃうか?


 そういう発言は?


 警視庁側と外務省側の溝が更に深まったのを亜門は感じ取っていた。



「イルボンどもは飯を食っていますよ」


 イ・ドンウを始めとする、P&Kの財閥部隊は失笑を漏らした。


「大した、タマだなぁ。若干、舐めてかかっていたが、日本であれだけのテロに相対してきた、部隊だからな? まぁ、あいつらには半殺しにされたけどな?」


 ドンウがそう大声でひくひくと笑うと、コ隊員が「次の中継地点に着き次第、作戦を開始する予定です」とだけ言った。


 それでいいんだよ。


 次の中継地点で事を起こして、後は連中を相手に引き渡すだけだ。


 そうすれば、俺も父さんに認められて、P&Kの次期会長になれる!

 

 そう考えると、ドンウは笑いを堪えられなかった。


 隊員たちは呆れかえっていたが、ドンウにはそれすらも気にならなかった。


 もうすぐだ。


 もうすぐ、俺は父さんに認められ、地位と名誉を手に入れられる。


 そして、父さんの夢だって、叶えられるんだ。


 今日は良い日になる。


 いや、そうさせてみる。


 俺はP&Kのソルブス部隊隊長のイ・ドンウだ。


 欲しい物はこの手で掴む。


 ドンウが笑う先にはアン・セイエンの乗る国情院の車列もあった。


 親日派のお前には耐えがたい、地獄を味わせてやるよ。


 ようこそ、北朝鮮へ。


 ドンウたちの作戦が決行されるまでの時間が近づいていた。



 おにぎりを食べだしてから、三十分。


 気が付けば、古びたガソリンスタンドで護衛の韓国軍とP&Kも揃って、休憩を取っていた。


 一応はスナイパーの狙撃を警戒して、カウンタースナイプの用意をして、韓国陸軍のマークスマンが警戒しているが、基本は皆が車内の中で、食事を取っていた。


「アンチーム長は弁当ですか?」


 アンが弁当箱に詰められた、白飯の上に目玉焼きとキムチが乗った弁当をかき回す。


「シンプルに美味そうですね?」


「韓国の学生風情の弁当ですよ。時間が無いから、こういうのしか用意できなかった」


 アンがそう言いながら、簡易的な自作の韓国弁当を頬張る中で、海原が「えぇ~、美味しそう!」と声を張り上げる。


「そうですか? 僕はおにぎりの方が良いな?」


「余っているから、食べます?」


 何か、皆、気が緩んでいないか?


 ここは敵陣のど真ん中だと思うんだけどな?


「隊長、ちょっと、周辺を警邏した方が良いですかね?」


「韓国軍がやっている。あなたはガーディアンサードしか持っていないけど、戦える?」


「メシア抜きでもやれますよ」


「無理しないことよ。私はスッキリ寝たけど、あなたも・・・・・・」


 その時だった。


 韓国軍の装甲車が爆砕した。


「隊長!」


「自爆ドローンか・・・・・・スマホは切っていたわよね?」


 外務省の面々は「本当に戦闘が起こったんですか?」としどろもどろの表情を浮かべる。


「皆さん、スマホ切っていますよね?」


「それはもう・・・・・・」


「となると、これが徹底されている中で考えられるのは、財閥ね?」


 小野はほくそ笑む。


「随分と余裕ですね! 明らかに絶体絶命ですよ!」


「パンくずがあるからね、問題無し」


 小野はますます、ほくそ笑む。


 外務省の連中は財閥が裏切ることを知らないからなぁ。


 すると、P&Kの部隊が韓国軍に攻撃を始める。


 ハングル語が辺りに入り混じる中で、イ・ドンウがこれでもかと勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて、こちらに銃口を向ける。


 そして、ISATを部隊が包囲する。


 そして、上空から、ソルブスが数機やって来る。


 韓国製ソルブスのセサウムだ。


「あれは・・・・・・」


 そして、着地すると、装備を解き、顔に染みの出来た、三十代ぐらいの男がこちらに歩いてくる。


「全員、その場で動くな。動いたら、殺す」


 日本語か・・・・・・


「隊長?  包囲されていますけど?」


「お縄頂戴ね。パンくずは残したから、投降よ」


 無血開城ですか・・・・・・


 確かに今の装備で、連中と戦うのはマズいなぁ。


 頼みの韓国軍は身内の造反で不意を突かれて、押されている状況だ。


 拘束されて、救援を待つしかないか?


「ちなみに言っとくけど、手荒に扱わないでね? 外交問題になるわよ?」


 小野がそう言うと、染みの男は「我々はマフィアなんですがねぇ? 小野隊長? まぁ、スポンサーの関係があるから、手荒なことは出来ませんがね?」と下品に笑い出す。


「さぁ、皆さんを我が本拠へとお誘いしましょう、平壌へようこそ」


 韓国軍の部隊が殲滅されていく。


「隊長・・・・・・」


「黙りなさい。我慢の出来ない男は嫌いよ」


 そうして、銃口を突き付けられて、装備を全て、解かれ、男、女構わずにパンツの中まで手を突っ込まれて、服は着ているが、丸腰の状態にされて、手錠をかけられて、奪われた護送車に乗り込む。


 警察官が犯罪者相手に手錠をかけられるなんて・・・・・・


 屈辱だ。


 亜門は小野が言う、パンくず。すなわち、在日米軍が救援に駆けつけるであろう、サインの存在を知らなければ、今にも恐怖で発狂しそうだった。


 父親になったばかりなんだけど・・・・・・


 旧北朝鮮地区の気温は日本の秋よりも寒く感じられた。



 韓国在韓米軍司令部がある、京義道平沢市のハンフリーズ基地の廊下で、富永警部補はその一報を聞いた。


「小野隊長以下、第一小隊の面々と外務省の外交官五名、進藤朝鮮半島課係長以下、JCIAの要員五名がピョンヤン・イェオンダエに捕縛されたそうだ。国家情報院の連中も同様で、護衛の韓国陸軍は全滅、P&Kの部隊が寝返ったことが確認された。あんたたちの隊長はそこまで、予期していて、俺たちに指揮権を委ね、あんたを韓国まで、送って来たのか?」


 ティム・クルーザーは手を広げて、大げさなポーズをする。


 彼は六年前の横田基地襲撃事件で、警視庁ソルブスユニットを基地内に招き入れた、責任を取って、閑職送りになっていたが、今は韓国での連絡要員を行っているらしい。


 何故かは知らないが?


「韓国政府には通告しますか? しない方が良いと思いますけど?」


「妥当だな? 連中が財閥の部隊を送り込んで、結果、敵への裏切りを招いた。しかも、俺たち、アメリカの脅威と言える相手にだ。米軍の強制介入に向けて、現在、ホワイトハウスが韓国大統領府を脅しているよ。見物だな? ところで、レインズ社からは新装備は貰ったか?」


 ティムがそう言うと、富永は「あなたたちの輸送機に乗って、送るのよ。新人君はひょうひょうとしているけど、事実上の実戦を最新鋭機で行うから、期待と不安で一杯ね」と言って、ほくそ笑む。


「余裕しゃくしゃくだな?」


「いいえ? 内心バクバクよ?」


「しかし、韓国は左派政権とは言え、何で、ここまで、引き延ばしを図るんだ? 自分たちのチョンボで、俺たちが尻拭いに出るんだろう?」


「旧北朝鮮地区への配慮でしょう。P&Kグループの会長のピョンヤン・イェオンダエへの支援とその背後にいる、韓国政府高官の北朝鮮好きをスキャンダルの餌にして、アメリカに従順にさせる。もしくは政権を崩壊させて、日米双方にとって、都合の良い、保守政権への政権交代を起こす。どっちみち、韓国の現大統領の心は折れるかな? でも、自分がいけないからね?」


 ティムは富永を見て、意外そうな顔をする。


「富永警部補と言ったか? 若い女性が韓国批判とは、骨があるな?」


「ウチの若い隊員が韓国好きだけど、私はアメリカの映画の方が好きかな。あんまり、男を顔で選ばないタイプなんだよね・・・・・・」


「一場亜門が本命かい?」


 それを聞いた、富永は笑い出す。


「これだから、スパイはね? 心理戦においては敵わないけど、嫌いかな? そういうのは? ただ、亜門君は本命よ。結婚して、子ども出来ちゃったけど?」


「嫌われたついでに言うが、不倫は万国共通でマズいぞ?」


「私は上手くやるわよ? 奥さんには悪いけど」


 ティムはため息を吐く。


「聞かなかったことにしよう。だが、連中の奪還作戦は米軍主導で行う。日本の対応は?」


「本国のNSS局長と警察庁長官が訪韓をして、ソウルで韓国政府に交渉と抗議、すなわち、脅しをかけている状況ね? まぁ、大体、向こうは開き直って、感情的になるんだけどね?」


「韓国がここまで、先祖返りするとは思わなかったな・・・・・・保守政権下では日本と準同盟関係まで結んだのに、政権交代するとそれを破棄するなどという破廉恥な行為を行ったのは俺には理解に苦しんだよ」


「まぁ、韓国の若い世代は日本には抵抗が無いとは言われているけど、反日は票田になるからね、未だに? それに日本のことを悪く言うのは、何も海外だけじゃなくて、自国民であるはずの日本人にもいるからね。ちなみにそういう輩は現行の日本の社会を壊して、新世界を作るのが目的だから、当然、警察の敵」


「あんたが韓国以前に左翼が嫌いなのがよく分かったよ。だが、俺はどちらかと言うと、リベラル派だから、呪詛の様な左翼批判を聞かされると院隠滅滅としてくるから、仕事の話ししないか?」


「東洋の左翼と欧米の左翼はかなり、違うと思うけど?」


「市井の連中の意識は何処の国でも根本は変わらんよ。違うのは権力を握った側が現実を見るか、理想に固執するかだ。アメリカの現リベラル政権は現実を見て、理想を捨てている。その辺が理想に固執して、現実に対処できない、韓国の現左派政権とは違うところだよ・・・・・・まぁ、と言っても、韓国の左派は日本と違って、軍事では現実路線だがな」


 そう言う、ティムはベンチに腰掛ける。


「日本の自明党は腐っていると言われているが、安全保障は現実的で、国内の内政と経済は欧米からすれば、完全な社会主義の政策を取っている。俺からしたら、病気だ。こんなに平等が大好きなんて・・・・・・頼むから、政治の話は止めないか? 特にあんたとは早く、仕事の話がしたい」


 ティムは両手を広げて「嫌だ、嫌だ」と言い出す。


「その割には饒舌ね?」


「いいかな? 仕事の話をして?」


 彼は足を組み始める。


「部隊編成は明かせないが、その新人さんとやらを投下させるんだろう?」


「・・・・・・出来る?」


「レインズ社から頼めば、出来るかなぁ・・・・・・それにレインズ社の部隊も今回は使うから、必然的にあんたたちには因縁が深い、奴も使われるだろう?」


「あいつかぁ・・・・・・私は直接、会ったこと無いけど、亜門君の敵は私の敵よ」


「だが、奴は彼を嫌っているが、同時に彼の命の恩人だからな? 皮肉なことに」


 富永はその傭兵のことを好きになれなかった。


 過去に何があったかは資料で見たが、そんなのは逆恨みだ。


 亜門君は何も悪いことをしていないのに、ふざけるなと思うのが本音だ。


 恨むならば、自分の能力不足を恨め。


「まぁ、あんたは警部補なのに、かなり実権が与えられているのは確かだ。だが、俺はあんたと話ししたくない。とりあえず、今はあんたから離れたい。いいか?」


 そう言って、ティムは離れた。


「富永主任? 韓国批判は干されますよ?」


 新たにレイザの装着者になる、新人、日向直樹巡査が軽口を叩く。


「警察はテレビ局じゃないから。そして、今の私はかなり機嫌が悪い。そういう軽口は聞きたくないな? しかも、新入りのあなたの?」


「拗らせてますねぇ? 主任、今時の女子で韓国嫌いでアメリカの映画の方が好きとか、かなり世の中に逆行をしていますよ」


 富永は日向を睨みつける。


「マスコミとか文化人と言うのはね、日本を動かせない理屈屋の集まりだから? 私はそういうのが大嫌いで、警察官になったんだから、軟派なことを言うならば、マジで殺すよ?」


「主任、それパワハラですよ? そんなにご自分のご両親が嫌いですか? 俺はファンなんですけどね? 著書は全部ーー」


 日向がそう言い終わる前に富永は同人の胸倉を掴む。


 文化人で浮世離れした、両親の話をされるのが、今の私には一番、癪に障ることなのだ。


「部下からのパワハラも存在するって知っていた?」


「・・・・・・韓国まで、来て、喧嘩は止めましょうよ?」


「あんたが険悪にしているんでしょう?」


「・・・・・・・謝罪はしませんが、一場分隊長は俺が奪還します」


「あんたみたいなひよっ子に命運を託さないといけないのが、歯がゆいわよ。任務失敗したら、墓場に唾吐くけど、いいよね?」


 そう言って、富永は基地の食堂へと向かった。


「主任! 食事、行きませんか! 韓国料理とかーー」


「基地のハンバーガーが良い」


「・・・・・・じゃあ、俺はそこで食べますよ?」


 勝手にしろ、ド新人が。


 富永は亜門が拘束されたこととケツの青い、新人以下の巡査に自分の嫌いな親の話をされたことで圧倒的に機嫌が悪くなっていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 富永の叫び声に基地内のアメリカ人が全員、驚いていた。



 手錠をかけられて、、目隠しをされた状態では護送車のエンジン音しか聞こえない。


 亜門たち、ISAT第一小隊の面々はピョンヤン・イェオンダエとP&Kの部隊に護送されて、そのまま何処かへと連れられて行った。


 そして、護送車が止まる。


「降りろ、代表が特別にお出迎えをしてやるそうだ」


 代表?


 まさか、彼女がここにいるのか?


 亜門たちが目隠しを解かれると、そこは古びた高層マンションだった。


 辺りでは武装した私服姿の男たちとP&Kの部隊が警邏をしている。


 亜門は小野、海原、出口、広重、岩月、進藤以下五名、アン以下五名、外務省の以下五名の面々を見て、安堵を覚えた。


「無事なようですね?」


「どうかな? 女の身からすれば、性的暴行をされる可能性があるから、それだけは心配なのよね?」


「そこは計算していなかったんですか?」


 すると、後ろで小銃を突き付けられ「私語を慎め」とハッキリとした日本語が聞こえた。


「あぁ! 亜門さんじゃないか!」


 すると、目の前には金沢で交戦をした、黒づくめのスーツを着ていた、少年が手を振りながら、やって来た。


 亜門はその少年の距離の近さに戸惑っていた。


「俺だよ! 俺! 外見は変わっちゃったけどさ?」


 まさか・・・・・・


「李治道?」


「そうだよ! いやぁ、気付いてくれたかぁ!」


 そんなバカな?


 李治道は山口県のアメリカ軍岩国基地を襲撃して、現地のアメリカ軍をたった一人で全滅させた後に自衛隊のスナイパーによって、脳を狙撃されて、即死したはずだ。


 それが何で、生きている?


 だが、外見が違う。


 これに何か、からくりがあるのか?


「治道君なのか?」


「あぁ・・・・・・何で、生きてんのかって、不思議な感じだよね? それはレイチェルが説明するかなぁ・・・・・・結構な企業秘密なのよね? ラーメン屋で言ったら、秘伝のスープみたいな奴で漏らしちゃあいけないのよ」


 治道が軽い調子で話を進める。


「それと、あんたたちには世話になったからとしての措置だけど、こいつらには男、女構わず、拷問はするなと命令はしておいたから安心しなよ。仮にそういうことを働く奴がいたら、俺が殺す。だから、ちゃんと、伝えてくれ」


「治道君・・・・・・治道君なら、教えてくれ! 何で、こんなことをするんだ! 君は僕らの仲間を殺したんだぞ! 何でなんだ!」


 治道はため息を吐く。


「そりゃあ、あれだよ。向かってきた敵だからだよ。だって、戦争じゃん? しょうがないよ」


 そう言われた、亜門は絶望的な感覚を覚えた。


 本当に治道君なのか? こいつは?


 外見も変わったこともそうだが、依然と比べて、格段に残虐性が増している。


「俺たちは目的のために動いている。それを日本に帰ったら、お偉いさんに伝えてくれないか?」


「ちょっと、待って! 治道君、私たちを返すの?」


 小野がそう問いかける。


「返すよ。レイチェルの意志なんだから」


 何なんだ、こいつら?


 明らかにおかしいぞ?


「とりあえず、ぼろいけど、スイートルームは用意したから、そこで休んでいてくれ。手錠は解けないけどね? あんたたちの反逆が怖い」


 そう言って、治道が大部屋へと案内する。


 そこは豪華絢爛と言ってもいい、部屋だった。


「じゃあ、そこで待っていてくれ。ちなみに話はして良いけど、盗聴はされているし、監視もされている。余計なことはするなよとだけ言うよ」


 治道は部屋を出た。


「どういうことなんですか? 隊長?」


「知らないわよ。しかし、連中が私たちを返す前提と言うのは想定外ね?」


 すると、外務省の面々が「まぁ、でも、暴行はされずに日本に返してもらえるのは僥倖ですよ。そうすれば、軍隊だってーー」と言った瞬間に外交官が自分の失言に気付き、青ざめた表情を浮かべる。


「あなたたち、本当に勉強しか出来ないのね? 生物学的にはあなたたち、かなりバカよ」


「・・・・・・それは!」


「言い訳無用! 官僚の悪いところは自分たちに非があってもそうやって、屁理屈をコネて、絶対に認めないところよ! 私はそういう連中に何度も自尊心を踏みにじられたから、あんたたちが最初から嫌いだったのよ! この上、何をごねるつもりなの! 足手まといの頭でっかちのガリ勉の分際で! これ以上、足を引っ張らないでよ!」


 小野がそこまで、言うと、進藤が「とりあえず、黙っていた方がいいんじゃないですか? 文官のあなたたちよりも危機管理に関しては武人の私たちの方が分がありますしね?」と諭すような口調で言った。


「・・・・・・」


 外交官は顔面を真っ赤にして、体を震わせていた。


 典型的な悪しき官僚が追い詰められたパターンだ・・・・・・


 すると、治道が「おまたぁ! レイチェルが謁見を許すって」とだけ言った。


 そう言われた、亜門たちは兵士たちに連れられて、部屋を出る。


「あ・・・・・・外務省だっけ? マジで使えないから、殺して良い?」


 治道は亜門にそう聞く。


「よせ。誰にも手を出さないんじゃないのか?」


「俺は在日の出身だから、こういうボンボンで勉強が出来るだけのバカが大嫌いなんだけどね? まぁ、一場さんが言うならばと」


 そう言って、治道は亜門たちの前を先導する。


 アメリカ軍が来ることはバレたな?


 亜門は再び、絶望感に襲われていた。



 大きな、恐らく、食堂と思われる場所に通されると、中央にピョンヤン・イェオンダエの代表となった、レイチェル・バーンズが座っていた。


 そして、立ち上がる。


「初めましてと言った方がいいですかね?」


「初めて会った気にはならないのが不思議ね?」


 レイチェルと小野がそう言葉を交わす。


「独立武装組織、ピョンヤン・イェオンダエ代表のレイチェル・バーンズです。食事、用意しときましたよ? 平壌冷麺です」


 飯が食える心境ではないが、おにぎり以降は飲まず食わずだからな・・・・・・


「毒は入っていませんよ?」


 レイチェルがそうにこやかに話しかけるが、小野が「あなたたちの最終的な目標と李治道が何故、外見を変えて、生存しているのかを知りたい」と固い口調で言った。


「そうかぁ・・・・・・良いでしょう、話しましょう」


 そう言って、レイチェルは立ち上がる。


「治道に関しては、岩国での戦闘に関する記憶は無く、後に強奪したフェンリルの中にある、映像で事態を知ったというのが現状です」


 どういう意味だ・・・・・・


 亜門には理解が出来なかった。


「ピンと来ないでしょうね?」


「全くもってね。まさかとは思うけど、記憶と精神を別媒体にコピーしたとでも言うの?」


 それを聞いた、レイチェルは「ご名答ですよ。P&Kグループ社製の電脳ナノシステムです」とだけ言った。


「まさか、攻殻機動隊みたいなことじゃないでしょうね?」


「隊長は結構なオタクですね? まぁ、原理としては一緒です。とりあえず、治道君の当時の記憶をコピーして、データに落として、人工の脳とストックをしてあった、クローンの身体を使って、治道君のクローンを作ったんです」


 そんな非人道的なことを・・・・・・


「人間のクローンは違法よ?」


「旧北朝鮮は核兵器以外でもサイバーや色んな技術に手を付けていたんですよ。人間のクローン技術は中国に一利がありましたが、当時の北朝鮮の技術では敵わなかったところにP&Kの支援があったんですよ。その後に崩壊後の北朝鮮地区で人のクローンの研究は行われていたんです。ちなみに韓国はクローン技術に関しては日本よりもはるかに進んでいますよ」


 レイチェルは流暢な日本語でそう話すが、罪悪感など微塵も無いという感じだ。


 何で、ここまで非人道的なことが出来るんだ?


「クローンの兵士でも作るつもり?」


「実用段階には入っていますね。我々の最終的な目的はアメリカの背後にいる、ピースメーカーの存在を世に明かし、殲滅することにあります」


 ピースメーカー・・・・・・


 今までの事件を裏で操って、アメリカや日本すらも手玉に取る、世界的な秘密結社。


 その破壊が目的なのか、こいつら?


「世界の支配者相手に戦争をしかければ、テロリストによる第三次世界大戦が起きるわね?」


「これは正義の戦争ですよ、小野隊長? 彼らがいなければ、治道君もこんな目に遭わなかった。私も米軍在籍中の恥辱を受けることも無かった。彼らが諸悪の根源なんですよ」


 レイチェルは「食べないんですか? 冷麺?」と言ってきた。


「そんなことはさせない・・・・・・たとえ、腐った世界でもそこに暮らす、民間人も巻き込むつもりか?」


 亜門がそう、レイチェルを睨みつける。


「自分たちは戦争とは関係無く、のうのうと生きて、動画三昧の中で政治のせいにして、逃げる人間は何も変えられない。愚民ですよ・・・・・・彼ら、彼女らは」


 全員に沈黙が走る。


「皆さん、我々の同志になりませんか?」


「正気なの・・・・・・あなたは私たちが、国家を裏切るとでも思っているの?」


 小野の声音には静かな怒りが宿っていた。


「あなたたちは旧ソルブスユニット時代に横田で米軍相手に反乱を起こしたじゃないですか? 記録上はたまたま、その場にいた民間人が基地内で通報してきたから、現場に急行はしたけど、日米地位協定の影響下で基地前で立ち往生とありますが、そこにいる、一場分隊長、当時は学生で階級は特務巡査でしたが、その奪還に動くために小野隊長とCIA職員が横田で戦闘をしたというのは知っています。あなたたちにはアメリカを憎む素養がある。私たちとは良い同盟を組めるはずですよ」


 あの横田基地での事件の真相は警察内部でも極秘の上を行く、カク秘案件だから、外部には漏れないはずなのに・・・・・・


「日本の政治家にあなたたちのシンパがいるというのは事実のようね?」


「与野党共に多くいますね。与党側は金で動き、野党側は自己満足な夢に動く。我々としては金を持った、良い駒です」


 レイチェルは冷麺に手を付ける。


「アメリカ人だから、啜ることが出来なくてね」


「段々、振る舞いがウチの父親に似てきたぞ」


 治道とのそのやり取りが、あまりにも緊迫感に欠けていた。


「答えは否よ。我々は国を裏切ることはしない」


「そうですか・・・・・・では、保安上の問題がクリアされれば、お帰り願いましょう。とりあえず、私たちの目的を日米両政府にお伝えいただければ」


 そう言って、レイチェルは席を立つ。


 そして、ハングル語で何かを言い放つ。


「部屋で冷麺を食べるよ。せっかく、美味いのを用意したのに・・・・・・まぁ、明日、返すから、それまでに食いたい物はーー」


「無いわね。この状況で敵の施しを受ける神経になると思う?」


 小野を始め、ISATやJCIAや国情院の面々はレイチェルと治道に敵意の目線を向ける。


「とりあえず、部屋には新しいのを持っていくよ」


 そう言って、治道は部屋を出た。


「部屋に戻れ」


 ピョンヤン・イェオンダエの構成員が日本語でそう言い出す。


「隊長」


「うん・・・・・・」


 小野と亜門を始めとする、隊員やJCIAに国情院の面々は確実にピョンヤン・イェオンダエを敵として、認識して、米軍の救援が来るまでは徹底的に施しを受けないと、口にはしないが、目線で連帯を確認した瞬間だった。


 外務省の面々は腹を鳴らせていたが。


「食べたければ、良いんじゃないですか? その代わり、助けませんよ? これからは?」


 海原が珍しく、冷たい口調でそう言い放つ。


 そうしている間にも部屋へと連行されるが、構成員たちは何故か、私語を咎めなかった。


 治道君に何かを言われているらしいな?


 意図的に喋らせて、情報収集をしているのかもしれない。


「しかし、食事を取らないと、死にますよ」


「じゃあ、あんたたちは野垂れ死ね。俺たちは絶対に取らないね」


 出口がそう言うと、外交官は「それは精神論ですよ・・・・・・」と閉口する。


 そして、気が付けば、大部屋へと着く。


「・・・・・・寝なさい。全員、余計なことをせずに」


 小野の命令は今回はシンプルだった。



「米軍がここに攻め入ってくるようね、治道」


 代表執務室で、レイチェルは治道が生けた薔薇の花を見ながら、そう言い出す。


「花を生けることも出来るのは意外ね?」


「父さんの教育の成果だよ」


「まぁ、それはそうと、連中が話ししていたそうだけど、米軍が攻め入ったら、敵わないわね? ここを放棄しよう」


「行先は?」


「モスクワとかどう?」


 治道は口笛を鳴らす。


「ウチは最近、ロシアとも取り引きが盛んだからな? 多分、拠点移転のためにモスクワへの訪露を受け入れてくれるだろうな? そうなると、日米は攻め入れないだろうし」


「決定ね。出発は明日よ」


 治道は「はっ?」とだけ言った。


「何?」


「明日?」


「明日には攻めて来るよ、連中は」


「えぇ、マジかぁ? まぁ、ちょうど、お客さんとして、大佐が来ているからな?」


 ピョンヤン・イェオンダエの作戦行動にオブザーバーとして、ロシアからミカエル・ヤニ―コフ大佐が参加している事実はCIAが気付いているだろうが、その大佐に頼んで、ロシア軍に救援に来てもらえるだろうか?


 治道は思案した後にレイチェルの顔を見上げる。


「・・・・・・大佐に掛け合ってみるか。ただ、ウチの社員からは凄く、非難されると思うぞ?」


「何と言われても構わないわね。組織の為だもの」


 そう言って、レイチェルは薔薇を眺め続ける。


 素人が生けた花をそこまで、恍惚の表情で見てくれるとありがたいな・・・・・・


 治道はすぐに部隊のモスクワへの明日までの移転に取り掛かることにした。


 平壌の秋は冷え込むのだと、知覚をしてもいた。


 続く。 



 次回、機動特殊部隊ソルブスアサルト 第八話 ISAT訪韓後編


 青年は因縁の相手と再会する。


 乞うご期待!


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