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太平洋の決戦

 第五話です。


 日下部の真価が問われる一戦です。


 今週もよろしくお願いいたします!


 日下部桜は船の上から見る、大海原を見て、感動を覚えていた。


「本当に海のど真ん中だ・・・・・・」


 ひゅうが級護衛艦の甲板の上でそう感嘆としていると、手塚が苦しそうな表情を見せていた。


「手塚、どうしたの?」


「・・・・・・船酔いだよ」


 うわぁ・・・・・・こんな時に船酔いかよ?


 まぁ、無理もないか?


 陸自の私たちは普段はこんな空母と言ってもいい、船の甲板の上に上ることもそうだが、こんな太平洋のど真ん中にいる事もあり得ない。


「良い景色でしょう? 艦長にも頼み込んだ甲斐があるよ」


 古谷水姫はコーヒーを片手に海を眺める。


 そして、一言「最高だぁ・・・・・・」と呟く。


 自分たち、陸自が何故、このような事をしているかと言うと、ハワイでの陸・海・空合同でのアメリカ軍主導の演習が行われるため、海自の船に乗って、ハワイまで向かっているのだ。


 後ろにはイージス艦や潜水艦も従えた、空母打撃軍を従えてだ。


 更にF35BライトニングⅡに限定した話だが、空自のエースパイロットもひゅうが級護衛艦に乗艦している。


 そして、私たち、陸自からは特殊作戦群や水陸機動団や第一空挺団などの名だたる、部隊に混じりながら、ソルブス歩兵連隊全隊も招集された次第なのだ。


「日米の選りすぐりのエースが揃ってくるそうだよ。さしずめ、私たちは日本の代表と言ったところかな?」


 今回は日米の精鋭が集まり、普段の陸自の訓練では考えられない、実弾を使うという諸外国の軍隊ではスタンダードな世界基準の訓練が出来る。


 軍人として、心踊るなと言う方が無理がある。


「一応は第二中隊全員に言ったけど、仮に向こうに挑発をされても、問題は起こさずに訓練の中でやり返そうねとは言ったけど、やる気はある?」


「あります! ジャパン・アズ・ナンバーワンです!」


「バブルかよ・・・・・・」


 自分は海外の演習には初参加だから、これから勉強だが、国を背負っている以上はエキサイトするだろうなとは思えた。


「まぁ、いいや。蓮杖君のところは相変わらず、外には出ないけど、第二中隊は第二中隊で、全員を喰うぐらいの気持ちで頑張ろう」


「はい!」


 そう日下部が目を輝かせていると、手塚がとうとう、我慢できずに海に大量の吐しゃ物を吐き出していた。


「おろろろろろろろろろろ!」


「あぁ、船酔いかぁ」


 愛しの古谷中隊長の前で失態をしたか、手塚?


 東京に異動になってから、不運続きだな?


 そう思いながら、海を見続ける、日下部は夜明けの日の出を見ながら、気持ちを高ぶらせていた。


「コーヒー飲む?」


「頂きます!」


 こんな状況で飲む、コーヒーは最高だ!



「第二中隊は楽しそうだな? えぇ?」


 村田がそう言う中で、蓮杖は珍しく、文庫本を読み進めていた。


 トルストイの戦争と平和だ。


「何、読んでんだ?」


「古谷から、昔、勧められた本さ」


 それを聞いた、村田は「あのデカパイの姉ちゃんは突破力はあるし、度胸もあるが慎重に策を練って、事を進めて、裏工作もいとわないお前とは対照的な指揮官だな。好きなのか、あいつのことが?」と意外そうな顔で見つめる。


「あいつは自衛官とは付き合わないのがポリシーだ。俺はあいつからしたら、論外だ」


「フラれたんだな?」


「・・・・・・・」


 無言を返事にして、相川が起きたのを見た、蓮杖は「良い夢は見られたか?」とだけ聞いた。


「第二中隊は気楽そうで、嫌いだ」


「そうか。日下部桜はどう思う」


「あの女のソルブスの操縦センスは天才的だが、故にウチに入れて欲しかった。亙、何故、第一中隊に日下部を入れなかった?」


「古谷のごり押しさ」


 それを聞いた、相川は「あの人は優秀なのか、ただの能天気な人なのかが分からない」とだけ言った。


「リーダーってのはな、下が優秀で本人はちょっと、抜けているぐらいが良いんだよ」


 そう言った、蓮杖の一言を聞いた、村田がひくひくと笑う。


「それよりも、亙?」


「何だ?」


「演習にはアメリカ軍がキッドを投入するだろう? 他にも精鋭が揃っている。どうすればいい?」


 闘志を抑えられないか?


 相川の静かな狂気を蓮杖は嗜めることにした。


「これは演習だ、いつもの実戦じゃない。暴走はするなよ、外交問題になるんだから?」


「・・・・・・分かった」


 まぁ、ここ最近は実戦が少ないから、俺もイライラしているんだが?


「本を読んで、船には酔わないのか?」


 相川が不思議そうに聞く。


「あいにく、俺は船酔いはしない質でね?」


「面白いか? その本は?」


「退屈だ。戦場のシーンはまだ、見られるが、社交界は下らなくて、下劣な感情論の世界だということがよく分かる」


 それを聞いた、相川が「読まなければいいだろう」と言い出す。


「教養の為さ」


 そう言う、蓮杖は戦争と平和を読み進める。


 退屈だ。


 蓮杖はつくづく、戦いを行いたいと思っていた。



 古谷は部屋で太宰治全集を読んでいると、日下部桜がやって来た。


「隊長、何か、御用でしょうか?」


「暇だから、話ししない?」


「・・・・・・私ばかり、贔屓にすると、隊員の不評を買いますよ」


「良いじゃない、女同士なんだし?」


 そう言って、古谷は太宰治全集をしまうと、コーヒーを煎れ始める。


「船の上は退屈ね。男どもは?」


「絶賛、船酔い中ですね。一部はバスケを始めていますけど」


「楽しそうね。私も加わろうかな?」


 日下部にコーヒーを渡す。


 日下部は「頂きます」と言って、飲み始めるが、猫舌なので、すぐに「あちっ!」と言い出した。


「一場分隊長はどうなっているかなぁ?」


「あぁ、そう言えば、韓国にもう、着いたんじゃないですか?」


「自衛隊が訪韓するのは国民感情的に許されないと言っても、さすがに心配だからねぇ? 第一小隊しか、残っていないんでしょう?」


「心配ですか?」


「韓国陸軍と韓国警察に国情院がサポートするけど、向こうの部隊の中にP&Kグループの私兵たちがいるのよ」


 P&Kグループとは韓国きっての財閥グループで様々な事業に手を伸ばしているが、軍需産業も例外ではない。


 韓国は知られてはいないが、ポーランドや東南アジアなどに武器を輸出する、隠れた、軍事大国なのだ。


 北朝鮮が崩壊した今も韓国軍や国防省は日本とは桁違いの額を使い込み、徴兵で頭数も揃い、財閥が軍需産業で東南アジアに兵器を売り込む。


 これだけで、日本の軍事は韓国にダブルスコアで敗北しているのは明瞭な事実だ。


 事実、陸自の幕僚たちも韓国軍、特に陸軍の実力は高く、評価している。


 ただ、欠点として、海空軍の近代化では自衛隊よりは劣るという点を指摘してはいる。


 そして、何よりも、韓国側が日本の警視庁と合同作戦を組んだ狙いとしては、ソルブスの技術の習得ということだろう。


 韓国にはソルブスが無いわけではない。


 ただ、レインズ社の関与の度合いが違いすぎて、メシアやレイザの様な自立志向型AIの導入が遅れているのだ。


 米韓同盟があるので、レインス社からの技術支援を受ければ、良いじゃないかと言われるかもしれないが、財閥が官公庁を牛耳る、韓国社会だ。


 自分たちの兵器を優先的に軍に購入してもらうために長年、政府に圧力をかけて、レインズ社からの技術支援を政府が断っているのだ。


 それに今の韓国は左派政権だ。


 米韓同盟がある中で、反米で中国寄りと言われている、今の政権の方針からして、中国を刺激する、レインス社の技術支援を受けるというのは考えられないのだろう。


 そんな中で一場分隊長たち、警視庁ISATは訪韓する。


 問題はP&K社が私兵と言われる、陸軍部隊を使って、メシアやレイザが使えない状態で尚且つ、人員が極端に少なくなった、彼らに何かをしなければいいのだが。


「心配なんですか?」


「日下部は心配じゃないんだ?」


「いや・・・・・・私たちの管轄外ですからね。一場分隊長ならば大丈夫じゃないですか?」


「日下部って、結構、クールな性格とか言われるでしょう?」


「そうですかね? 熱血漢ではないですけど、意外とお調子者ですよ?」


「そうは見えないな・・・・・・」


 そう言って、古谷もコーヒーを飲み始める。


「あぁ! まだ、ハワイ着かないの! バスケしちゃうよ!」


「暇を持て余すと辛いですからねぇ。スマホもスターリンクが無いと使えないですし?」


 海自の船は航海中はスマホが使えないという、若い隊員たちからすると、拷問のような課題があったのだが、それは船内にスペースX社製のスターリンクシステムを導入することにより、解決はした。


 しかし、全員のWiーFi端末をカバーは出来ないのが、現状だ。


 故に古谷と日下部はこうして、お茶会をするか、読書をするか、身体を動かすかのどれかでしか、暇を潰せないのだ。


 海自の連中は年中、こんなことをやっているのか?


 だとしたら、陸自は山の中が主戦場とは言え、何て、天国なんだろう?


 古谷は海自には入らないで良かったと思っている中で、日下部は「スマホ使いたいなぁ」と言い出す。


「日下部、スマホ中毒?」


「現代人は皆、そうですよ」


 そう言って、コーヒーを日下部は飲む。


 暇だ。


 何て、暇なんだ!


 古谷は段々と苛立ってきた。


 早く、ハワイに着かないだろうか?


 古谷は持ってきた、本を読み切るのではないだろうかという不安に襲われた。


 あと、何日、この暇地獄が続くかが、不安でしょうがなかった。



 アメリか海軍空母打撃軍の一角を担う、原子力空母ジョージワシントンではひっきりなしにF35AライトニングⅡ戦闘機が飛び立っていた。


 海軍の空母では当たり前の光景だが、今日は日本の新聞社から取材が来ている。


 だが、我々は普段通りにやっている。


 操舵担当のモニカ・ペーニャ伍長の操舵には問題は無いし、今のところ、敵の兆候は無いが、唯一の懸念事項があると言えば、横須賀からハワイへの道中があまりにも遠い事だろうか?


 まぁ、このぐらいは海軍であれば、どうということはないが、在日米軍の海兵隊のソルブス部隊を抱えているので、ソルブス戦闘も問題は無い。


 問題は連中が仕掛けてくるかというタイミングで新聞社の記者を入れた、参謀本部の神経だ。


 敵が来るのをわざわざ、見せつけるような物だ。


「アロウズ艦長」


 参謀本部から来た、テニーズ大将が海を見上げなら、こちらに話しかける。


「新聞社が気になるか?」


「奴らが来るというのにマスコミを入れますか?」


「だからだよ、日本のマスコミに我々が脅威に瀕していることを分からせる必要がある」


「日本のマスコミは感情に任せて、米軍叩きをするだけだと思われますが?」


「いや、帝国経済新聞という経済紙だからな、今回は。彼らは我々、米軍のプレゼンスは理解できるだろう。資本主義万歳ということさ?」


 冗談めかすなよ、大将殿。


 マスコミもそうだが、出来れば、戦闘を起こしたくないのだ。


 敵も早く、来てくれればいいのに。


「CIAは優秀だな? 連中が何を狙っているかまで分かるんだからな?」


 まさか、米軍が一枚噛んでいるということはないだろうな?


 ここまで、相手の出方を読めるという時点で、そういうことを考えてしまうが?


「自衛隊も関与させるんですか?」


「あぁ、例のライジングを使う、女の自衛官は興味深い。私がキャスティングしたつもりだが?」


 戦争をまるで、ショーのように楽しむか?


 この大将殿は?


「艦長! レーダーに機影!」


「敵か?」


「かなり、大型の・・・・・・これは何だ?」


「船か!」


「いえ・・・・・・これは! ソルブスです!」


 船ぐらいの大きさのソルブスだと?


 冗談だろう?


「総員第一種戦闘配置! ライトニングⅡを発進! ソルブス部隊も展開しろ!」


「総員第一種戦闘配置! パイロットはーー」


 こりゃあ、空母打撃軍全精力で相手しないと厳しいか?


 とりあえず、あいつらも呼ぼう。


「海自のひゅうが級に救難信号だ」


「ひゅうが級ですか?」


「あぁ、テニーズ大将がメン・クラッシャーの腕前を見たいらしい」


 メン・クラッシャー。


 それが日下部桜三曹の米軍での呼び名だ。


 男尊女卑の文化が蔓延る、自衛隊内部でことごとく、自身のソルブス操縦スキルと叩き上げの戦闘センスに戦闘IQの高さや運動神経を使い、権力に笠を来た、無能な男性隊員たちのプライドとキャリアを壊し続けてきた、恐ろしい女。


 年頃の娘を持つ、親としては、その八面六臂の活躍ぶりは胸のすく思いだが、この戦艦まがいのソルブス相手に最新鋭機と言えども勝てるか?


「救難信号を出しました」


「さぁ、ゲームの始まりだ。ゲテモノ食いと行こうじゃないか?」


 テニーズ大将は手を叩いて、喜ぶ。


 これだから、軍人が日本で戦争屋と言われるんだ。


 もっとも、こういう神経を持ち始めた、自分も日本の感覚に毒されてるとは思うが?


 甲板からF35Aが飛び立つ。


 さっ、本格的に仕事だ。


 妻よ、娘よ、パパの帰りを待ってくれ。


 今頃は横須賀でラーメンを食べていてくれたら、本望だ。


 アロウズは軍帽を被りなおして、目の前の海戦へと身を置いた。



 ひゅうが級護衛艦のドッグの中で陸上自衛隊ソルブス歩兵連隊第二中隊の面々は海自の面々とバスケで対決をしていた。


 古谷がドリブルで海自の男子隊員を追い抜くと、そこからパスを受けた、日下部が遠目からスリーポイントシュートを決めて、得点を決める。


 今日、十五得点目だ。


「日下部! ナイスシュー!」


「隊長?」


「知っているよ? 海自が私の胸ばかり見ているんだろう?」


「おかげで、簡単にスリーが入るから良いですけどね?」


 そう言って、相手のカウンターの速攻に応対をしようとした時だった。


(総員第二種戦闘配置! 総員第二種戦闘配置!)


 船の中にアラームが流れ始める。


「敵・・・・・・?」

 

 すると、それまでバスケをしていた面々はばらばらに走り始める。


「何ですか? 演習?」


「この様子だと、違うね? 私はブリッジに上がって、状況を見るから、日下部は待機」


「はい!」


 日下部はそう言った後に走り出す。


 戦闘か・・・・・・海の上で戦うのは初めてだからな?


 日下部はライジングに通信を繋げる。


 どこの誰がやったと思う?


 さぁな? だが、激戦になる。


 何で?


 予感だよ。


 それを聞いた、日下部は戦闘機に航空自衛隊のパイロットが乗り込むのを見て、桜は走り出した。


 何処に行くかは分からないが・・・・・・



 蓮杖亙と斎藤はひゅうが級のCICに上がり始める。


 谷川もそこにいて、海自と空自の現場幹部もそこにいた。


「古谷は?」


「さっきまで、部下たちとバスケしていたぞ? 着替えているんだろう?」


「あのバカ・・・・・・」


 蓮杖がそう言う中で、海自の三佐が「始めます?」と聞いてきた。


「まだ、全員、揃っていません」


 斎藤がそう苦言を呈した時だった。


「すいません。遅れました」


 古谷が陸自の戦闘服に身を包んでやって来た。


「バスケはどうだった?」


 谷川がそう言うと、古谷は「・・・・・・申し訳ありません」とだけ言った。


「まぁ、良い。全員揃いましたよ?」


 谷川がそう言うと、海自の一佐が「では、ブリーフィングを始めます」とだけ言って、ブリーフィングが始まった。


「現在、我々の空母打撃軍はアメリカ海軍原子力空母、ジョージ・ワシントンの救難信号を傍受。それにより、救援へと向かっている」


「敵の詳細は?」


「P-3C哨戒機から出された映像がある」


 ディスプレイに写された映像には大型のエビと思われる、巨大なメカが暴れている様子が流れていた。


 そこにF-35Aがミサイルを打ち込んだりしているが、相手の対空システムで応戦されて、撃墜されたところで映像は止まった。


「これはソルブスですか?」


「キメラではないな・・・・・・だとしたら、超大型の動物型のソルブスか。実用的かどうかは分からないが、革新的ではあるな?」


 谷川がそう言うと、蓮杖は「使えない兵器じゃあ、意味がありませんよ」とだけ言った。


「空自の方でも、F-35Bを発進できますが、懐に入るとなると、ソルブスの方が適切でしょうね? CQC(Close Quarters Battle 超近接格闘戦)ならば、断トツに人型のソルブスの方が良い。何よりもーー」


「小回りが効くでしょうね。連隊長、私と日下部で行きます」


 古谷がそう言うと、谷川は「貴様は中隊長だ。隊員にやらせろ」とだけ言う。


「日下部以外は弱いんですよ」


「お前、隊員が聞いたら、泣くぞ?」


 斎藤がそう言うと、蓮杖が「相川二曹も向かわせます。ゴウガはオーバーホール中なので、使えませんが、モスプレデターでも十分です」とだけ言った。


 それを聞いた、谷川は「そんなに前線に行きたいか? お前ら?」とだけ言った。


「分かった。部隊編成はお前らに任せるが、逐次報告しろ。指揮権は統合作戦司令部が担う。我々はその指揮下だ」


 それを聞いた、全員が敬礼で帰す。


「良い手はあると思う? 蓮杖君?」


「さぁな? だが、機動力で押すわけには行くまい? 口の中に巨砲を備えているが、これは陽電子砲じゃないか?」


「陽電子砲ねぇ?」


 古谷は意地の悪い笑みを浮かべる。


「大体、察しは付くが、かなり無理な作戦を考えているだろう?」


「やれるんじゃない?」


 蓮杖は頭を抱えていた。


「お前ら、仲良いなぁ」


 斎藤がそう言うと、古谷は「全然? むしろ、血で血を洗う関係だよ」とだけ言った。


「じゃあ、人員頼むよ」 


 そう言って、古谷がCICから降りる。


「頭の回転は速いんだがな?」


「常識人ではないな」


 そう言って、二人も続いた。



「隊長・・・・・・本気で言っているんですか?」


 日下部が戦闘機が飛び交う、甲板に登る前に古谷に苦言を呈す。


「マジのロンよ。相手の懐に飛び込んで、口にある陽電子砲を発射するタイミングで貴方も陽電子砲を撃つ。そうすれば、あのエビ野郎も自壊するでしょう」


 そんな上手く行くかなぁ・・・・・・


 隊長は楽観的なところがあるからなぁ。


「各員、準備は良いか!」


 蓮杖が第一中隊の面々を集める。


 全員が敬礼で答える。


「毎度のことだが、これは演習ではない。フォーメンションは各自に説明をした。第二中隊の日下部三曹のライジングのお膳立てだ」


 隊員たちは無言だ。


「行くぞ! 手はず通りにな?」


 そう言うと、蓮杖を始めとする、第一中隊の面々が「装着!」と言って、モスプレデターを着る。


 そして、ひゅうが級の甲板から飛び立つ。


「さぁ、私たちも行くわよ。みんな、戦術理解は出来ているね?」


 古谷がそう言うと、曹長の江草が「ライジングを懐に入れるために我々で注意を逸らすですか? 装備的に豆鉄砲でしかないですね?」と苦言を呈する。


「代わりをやるか?」


「彼女には敵いませんよ。なぁ、みんな?」


 そう言うと、部隊は笑いに包まれた。


「気合は十分だね? じゃあ、行くぞ、各員、装着準備」


「装着!」


 そう言って、日下部はライジングを着て、古谷以下第二中隊の面々はモスプレデターを着る。


「行くぞ! 各員、船を離脱後に編隊を維持して、作戦地帯へと向かう!」


「了解!」


 そう言って、古谷を先頭に第二中隊はV字型の編隊を組んで、作戦地帯へと向かう。


 リアルな戦場に向かうのに、この人たちは何て、余裕しゃくしゃくなんだ・・・・・・


 やっぱり、この中隊は精鋭の集まりだ。


 日下部はそう確信をした。


 しかし、海での戦闘か・・・・・・


 装備が解けたら、水没というか、水面に当たって、死ぬな?


 地上とは勝手が違う、ソルブスでは珍しい、海上戦に挑む、日下部は目を動かして、装備の概要を眺めた。


 不安か?


 ライジングが話しかける。


 まぁね・・・・・・


 生きて帰れば、良い。作戦順守とそれ以外は考えるな。


 そうライジングが言うと、日下部は気を引き締めた。


 勝つさ・・・・・・私がエースなんだもの。


 奥ではイルカの大群が見えたが、これから戦場に向かう中ではあまり、喜ばしい光景ではなかったが、戦場は確かに近づいていた。



 作戦地帯に到達すると、すでに米軍とエビ型のソルブスが戦端を開いていた。


「各員、手はず通りだ! 日下部三曹を懐に入らせろ!」


「了解!」


 そう言って、第二中隊の面々は散り散りになり、小銃を撃ち始める。


「豆鉄砲じゃねぇかよ!」


「うろたえるな! 作戦を順守しろ!」


 すると、エビ型のソルブスが口から何かを吐き出した。


「宝石・・・・・・」


 嫌な予感がしていた。


 エビ型のソルブスが口を開き、陽電子砲の掃射準備をする。


「早っ! もう!」


「日下部! 行け!」


 ライジング! 陽電子ライフルを準備!


 いや・・・・・・今から、コンマ0.2秒で間に合わない!


 そのようなやり取りを脳内で行っている時だった。


 エビのソルブスが宝石に向けて、陽電子砲を放った。


 すると、宝石から陽電子のエネルギーが反射して、四方八方にそれは拡散して、艦隊に直撃して、豪沈。


 ジョージ・ワシントンも深手を追い、流れ弾に当たった、第一、第二、第三中隊の隊員も撃墜された。


「隊長ぉぉぉぉ!」


「何だ・・・・・・これ」


 日下部は思わず、そう呟いてしまった。


 轟沈する艦隊。


 一瞬で戦死した、隊員たち。


 それらを見て、日下部は恐怖心を抱き始めた。


 これが戦争・・・・・・


 ゲームやアニメなんかじゃない。


 これはリアルな戦争なんだ。


 私は死んでしまうかもしれない。


「各員に次ぐ! 体制を立て直して、日下部三曹を・・・・・・日下部! 聞いている?」


「はぁ! はぁ! はぁ!」


「日下部! 返事をしなさい!」


 何が、何だか、分からなかった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 日下部は対艦刀を取り出すと、一気に相手に突貫した。


「バカぁ! 命令を守れ!」


 桜、落ち着け!


 ライジングや隊長の声が聞こえてくるが、まるで耳に入らない。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ただ、目の前にあるのは恐怖心だった。


 すると、そこに二発目の陽電子砲の発射準備に入る。


 これを突き刺して、離脱すれば、行けるはずだ!


 そう思った時だった。


 相手のハサミが桜を捉える。


「日下部ぇ!」


「あの野郎! 潰す気だぁ!」


 最悪だ・・・・・・・


 エースなんて、おだてられているのに、ここに来て、足を引っ張るなんて?


 私は死ぬのか?


 事実上の初めての戦場で臆病風に吹かされて、私は・・・・・・死ぬのか?


 桜! あの時は戦えたじゃないか!


 ライジングがそう言うが、桜は涙を流し始めた。


 あの時は・・・・・・・郡山や金沢の時は無我夢中で!


 装甲している間に胴体に激痛が走る。


 このままだと、身体が・・・・・・


 すると、その時だった。


 桜、ソニックシステムを使う。


 何だ・・・・・・それ?


 脳内で疑念を放つ。


 あれはまだ、桜の覚醒までは早いと思っていたが、このままでは死ぬ、使うぞ。


 何をするんだよ?


 脳の神経を俺に貸せ。


 ということはつまり、SFアニメでありがちな脳の神経系統と操縦機能を強制的に繋げて、駆動系を直感のまま、操る?


 でも、そんなことをすれば、最悪・・・・・・死ぬか?


 やるぞ! 少しでも、可能性にかけろ!


 そう言って、ライジングが準備を始める。


 生き残る可能性か。


 賭けるしかないか!


 行くぞ!


 ソニックシステム機動! モード! ゴールドフェニクス!


 そう言った、瞬間に日下部の意識は途絶えた。



「日下部ぇ!」


 古谷が突貫をしようとする中を蓮杖と相川が止めに入る。


「一人で突っ込むつもりか!」


「私が行かないと! 私が行かないと、あの子は!」


「これだから、新兵は・・・・・・」


 相川がそう言って、村田と共にM16A2を手にしたその時だった。


 ライジングの身体が怪しく光り始めた。


 そして、ライジングが自力でハサミを力づくで、押し返して、徐々に捉えられていた身体が少しずつ、動き出して、最終的には手でハサミを破壊した。


「何だ? あれは?」


 破壊された、エビのハサミを取り出した対艦刀で切り裂く。


「第五世代型の新装備か?」


「だとしても、あれは異常過ぎる」


 そして、エビのソルブスが再び、陽電子砲を放とうとする。


 そこにライジングが陽電子ライフルを放つ。


 さらに追い打ちをかけるように対艦刀を差し込んで、その場を去った。


 エビのソルブスが爆砕して、瓦解をした。


 その時の金属音がまるで、ヒステリックな悲鳴を上げているかのようにも古谷にも聞こえた。


「日下部は?」


 そう言って、辺りを探した時だった。


 上空から、生身で日下部が落下していく。


 装備が解けた?


 このままだと、海面に落下するじゃないか?


 急いで、救出に向かおうとするが、モスプレデターの出力では限界がある。


 ダメなのか・・・・・・


 そう思った時だった。


「メン・クラッシャーがこんな可憐な女の子だとはな? ごついゴリラみたいな女かと思ったけど、これは・・・・・・好きになっちゃいそうだな?」


 英語・・・・・・?


 その通信を聞いた、瞬間に猛スピードで接近した、あるソルブスが日下部を抱き抱えた。


「うん、可愛いね」


 米軍か?


 あれは確か、キッドとかいう、第四世代型じゃないか?


「いやぁ、救援には間に合わなかったかぁ? まぁ、俺が一番乗りだけどさ?」


 米軍の男は軽いノリでそう言いだす。


「米軍の方ですか?」


 そう言って、古谷は通信を繋げる。


「アメリカ海兵隊ジェネシスフォースチームトゥウェルブ所属、マディソン・ターナー大尉」


「陸上自衛隊ソルブス歩兵連隊第二中隊長、古谷水姫一等陸尉であります・・・・・・その・・・・・・彼女はーー」


「当然、返しますよ、ただ、中隊長殿? お願いがあります」


 嫌な予感が頭を過っていた。


「何でしょう?」


「彼女と寝たい」


「ツッ!」


 古谷は生身であれば、この男を思いっきり、はっ倒しているところだった。


 続く。





 次回、機動特殊部隊ソルブスアサルト 第六話 ISAT訪韓前編


 青年は近未来の韓国で何を見るのか・・・・・・


 乞うご期待!



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