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父、戦場へ行く

 第四話です。


 亜門が父親になります。


 そういうコメディ回です、珍しく・・・・・・


 今週もよろしくお願いいたします!


 レイチェル・バーンズはアーサーを着た状態で、上空から、レールガンを使って、警視庁ISATの面々を狙撃し続けて、周囲が爆砕する。


 フェンリルを逃がす為とはいえ、少し、やり過ぎたか?


 また、活動がしにくくなるな。


 そう思っていた、レイチェルに通信が入る。


 彼からだった。


(レイチェル! 離脱する!)


「陸自の最新鋭機に追われているんじゃない?」


(・・・・・・助けてくれるかい?)


「今、行くよ」


 急いで、フェンリルを着る、彼の下へ行くと、港から海に出る方向で、彼が陸自の最新鋭ソルブスである、ライジングに追われていた。


 私たちのアーサーとフェンリルが第四世代型のソルブスだとしたら、あれは最新鋭型の第五世代型か?


 少し、おどしておくか?


 レイチェルはレールガンを第五世代機に放つが、第五世代機はそれを避けて、対艦刀を片手にこちらに突っ込んでくる。


「テロリストがぁぁぁぁぁぁぁ!」


 若い女の声だった。


「正確にはマフィアよ? 陸自のお姉さん?」


「お前らのせいで! お前らのせいで! 香里がぁ!」


 激情家なのか?


 戦い方が感情的過ぎる。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 しかし、砲撃戦用のこの装備では埒が明かない。


 彼を使うか。


「治道!」


「俺たちの大将は守んなきゃな?」


 そう言って、彼・・・・・・李治道は第五世代機に格闘戦を仕掛ける。


「旧式でぇ!」


「戦いはセンスだよ! お姉さん!」


 そう言って、治道は右ストレートを放ち、対艦刀を折る。


「まだぁ!」


 そう言って、ライジングが右手からナイフを飛び出させる。


「くっ!」


 治道がそれを避けると、ライジングの手元が光ると同時に折れたはずの対艦刀が再び、現れた。


「えっ? 嘘!」


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」


「治道ぃ!」


 レイチェルはレールガンでライジングを狙撃すると、ライジングはそれを察知して、瞬時に避けるが、フェンリルを倒す、絶好の機会を逃した。


「離脱する!」


「ミンウは!」


「問題は無い。協力者の手引きで逃げたよ」


 そう言って、二人は飛行機能でその場を離脱しようとするが、ライジングがそれを追いかけようとする。


「まだ、終わっていない!」


「しつこい・・・・・・」


 そう言って、ライジングに再び、レールガンの銃口を向けた時だった。


 信号弾が地上から上がった。


 陸自側が上げたものだ。


「撤収・・・・・・」


「帰りなよ、今日は見逃してあげる」


 そう言って、レイチェルは治道を連れて、その場を離れようとしたが、ふと変な気が働いた。


「一応、名前、聞こうか? 私はレイチェル・バーンズ。ピョンヤン・イェオンダエの代表よ。あなたは?」


「陸上自衛隊ソルブス歩兵連隊第二中隊所属、日下部桜三曹! あんたは必ず、私が倒す!」


「あなたの戦い方は好きよ。敵であるのが惜しいよ」


 そう言って、今度こそ、レイチェルは治道と共に離脱をした。


「レイチェル、奴は・・・・・・」


「彼女はアムシュだよ。かなり、レベルが高い。貴重だよ」


「俺も父さんが保険用意していなかったら、普通にあの世だからな?」


「そうね? あなたを復活させるのも骨が折れたのよ?」


 そう言って、二人で会話したあとにレイチェルは「このまま、日本海にある船へ行く」とだけ言った。


「帰るか? 家に」


 そう言われた、レイチェルは心が暖かくなるのを感じた。


 時刻は日本時間、午前六時二六分。


 金沢港は壊滅的な打撃を受けていた。



 港での戦いから数日後、金沢港は壊滅的な打撃を受けたが、内容はコンテナの爆発と言う形で報道統制が敷かれていた。


「一場分隊長、ご飯食べてます?」


 古谷水姫一尉は軽く、そう声をかけるが、一場は俯くだけだった。


「仲間を失ったのは初めてですか?」


「・・・・・・地域課にいた時に先輩のサッカンが死んだとき以来ですかね?」


「経験済みか」


 古谷は団扇を扇いでいた。


 十月も近いが、まだ、残暑が続いていた。


 第一小隊の津上スバル巡査や第二小隊長磐木警部補、第三小隊長浜口警部補を始めとする多くの隊員たちの殉職が確認されて、全員、二階級特進の後、警察葬が行われることが決定した。


 そして、レイザドライブは幸い、陽電子砲の掃射を免れて、回収され、今はレインズ社の手に渡っていた。


「古谷中隊長は・・・・・・あるんですか?」


「訓練中の事故ではあります。実戦ではない」


 そう言ったきり、一場は黙ってしまった。


 陸自の駐屯地にISATの面々を待機させているが、第二小隊と第三小隊は全滅。


 唯一、残った、第一小隊も完全な敗北を喫して、警視庁の面々には重い空気が漂っていた。


「みんな・・・・・・ごめんなぁ」


 ここは黙っといた方が良いか?


「一場分隊長、お力添え出来るならば、私もお供します。組織の垣根を超えて、いつでもご相談ください」


「それは・・・・・・その?」


「ウチの新人の教育をお願いしたいんですよ?」


 亜門が目を点にする。


「新人?」


「今、いるはずだと思いますが、あっ、いた」


 控室に日下部桜三曹が入ってくる。


「隊長、男癖が悪すぎます」


「一場巡査部長は既婚者だから。人の物は取らない主義なの」


「貴様ら、亜門をオモチャにするんじゃない」


 メシアがそう苦言を呈するが、水姫は「日下部三曹は有能ですよ? 有能であるが故に敵が多いですが、私は彼女を最強の兵士にしたい。私はあなたに彼女のコーチをしてもらいたいけど、それは時間が解決してからですね?」とだけ言った。


「・・・・・・とりあえず、放っておいて、もらえませんか?」


「分かりました」


 とりあえず、辞去するか。


 そう思った後に海原千世巡査が走って、亜門の下へとやって来る。


「亜門君! 大変だよ!」


「・・・・・・何だよ」


 亜門は投げやりにそう答える。


「レインズ社から、連絡があって、私たちや陸自の人たちに第五世代機を大量に与えるらしいんだよ!」


 亜門は一瞬、目を見張るが「だから、何だよ・・・・・・みんなはもう戻らないんだぞ」と顔を曇らせる。


「死んだみんなの分も戦わないと! せっかく、最新鋭機が貰えるんだしーー」


「何が、警視庁の英雄だよ? みんなを守れなかったのに、僕は!」


 すると、次の瞬間に水姫は亜門をグーで殴っていた。


 亜門は鼻から血を流し始めた。


「えっ・・・・・・中隊長、グーですか?」


「これはコンプラ的に問題あるんじゃないかな? さすが、陸自・・・・・・」


「古谷中隊長・・・・・・」


 亜門が鼻を抑える。


「泣き言を言うな、分隊長。仲間を失った気持ちは私も分かる。だが、それでも前を向かないといけない。さらに犠牲を増やさないためにだ。そして、あなたには家族がいる。私にも守りたい存在がいる。どんなに失意の中であろうと、これ以上、失わないために私たちは前に進まないといけない」


「・・・・・・陸自の人にグーで殴られたのは初めてですよ」


 亜門はそう言って、そっぽを向く。


「私は蓮杖君と違って、情熱過多な性格でね。どうする、辞めるか? 新型機を受領するか?」


「隊長、いくら、何でもやり過ぎですよ! 一場分隊長はーー」


「やりますよ・・・・・・・今の僕はサッカンですから。津上の死も乗り越えないと行けないことは分かっているんですよ・・・・・・・」


 亜門は頭を抱える。


「時間が必要?」


「必ず、戻ると言えば、その拳は収めてくれますか?」


「分かりました。日下部、海原巡査長、小野隊長のところへ行くぞ」


「あぁ・・・・・・はい」


「亜門君、待っているよ、ご飯食べなよ」


 そう言って、三人は控室を出た。


「繊細でいて、前を向こうとする強さはある。葛藤するぐらいの人間臭さと普遍性を兼ね備えていて、エースだからな? モテるな、彼は?」


「えっ?」


 海原が水姫を凝視する。


「彼は既婚者だから?」


「そうですけど・・・・・・」


「隊長。男癖が悪すぎます」


「彼が警察官にしては魅力的過ぎるからだよ」


 そう言って、三人の女たちは廊下を歩いていたが、蒸し暑さが込み上げてきた。


 十月だと言うのに、鬱陶しい。


 あとで冷房を効かせよう。


 古谷はアイスコーヒーが飲みたい気分に駆られていた。



「新型の第五世代機ねぇ・・・・・・・」


 小野澄子はリモート通話でレインズ社の極東部長のラスティン・スミスと会議をしていた。


「少し、遅かったようですね?」


「えぇ、出来れば、もう一年は早く、新型機が欲しかったわね。第二小隊と第三小隊は全滅。レイザの装着者の津上スバル巡査も殉職。この状況で韓国遠征に出ないと行けないのは絶望的ね?」


 小野は頭を抱える。


「具体的な装着者の候補はいる?」


「警視庁は一場亜門、海原千世、岩月大輔、レイザの新たな候補者。陸自側は蓮杖亙、相川祐樹、古谷水姫を第五世代機を譲渡する対象として、残りの隊員にはレインズ社の最新鋭量産機を譲渡、警視庁向けに『クウザアルファ』を譲渡し、陸自には『コンバットモス』を分け与えるつもりです」


「何か、予算入った?」


 小野がそう聞くと、スミスは「えぇ」とだけ言った。


「自明党政権は現在、支持率が低迷しているので、左派政権への政権交代の可能性も視野に入れています。その前に軍拡路線を既定路線として、一気に警視庁と陸自への装備の更新を進めたのですよ。かなりの額は払ってもらいました」


「日下部三曹のライジングと同じ、スマートコンタクトを使った仕様ね?」


 スミスは頷く。


「我々、メーカーとしては頭が痛いですよ。ソルブスが量産機と言えども、高性能化と高コスト化がトレンドになっているので、開発費を捻出するのに一苦労です。上は自立志向型AIの量産を提唱していますが、生きた人間を量産型のAIにするのはコスト以前に倫理的な問題がありますから、富裕層の白人どもにはそれが分からない」


 そういうスミスも白人だが、確か、アイルランド系らしいので、そういう発言をするんだろうと小野には思えた。


 彼は家が貧しい中で陸軍士官学校を出た後にレインズ社に入社して、ずっと、開発部にいたらしいが、歴代で一番、好意に値する、レインズ社の社員だろうなと思えた。


「そうねぇ、メシアとレイザの人格は残るの?」


「そのつもりで、移行させるつもりです。しかし、移行には時間がかかるので、韓国遠征には使えないことはご了承いただきたい」


 小野はそれを聞くと、腕組をする。


「隊長? 何か、無茶を考えていませんか?」


「完成次第、韓国へ届けるのは不可能かしら?」


 スミスが天を扇ぐ。


「それは本気で言っているんですか?」


「マジのロンね」


 スミスが顔をしかめる。


 終いには「何を言っているんだ・・・・・・ここ最近の日本人は厳かさを失っているんじゃないかなぁ・・・・・・」とぼやき始める。


「ウチの庶務の富永を寄越して、受領しだい、そのまま韓国へ向かわせるから、ナルハヤかつ正確に新型への移行は出来るかなぁ? プロでしょう?」


「・・・・・・隊長はそういう無茶ぶりには程遠い人だと思っていましたが、今、あなたがとんでもない鬼のような人だということを思い出しましたよ」


「ごめんねぇ?」


「良いでしょう。ただし、レイザの欠員は早急に解消していただきたいのと、富永主任に韓国への輸送をお願いしてもらいます。我々も全力を尽くします」


「助かる」


 それを聞いた、スミスは不機嫌になりながら「では、これで」と言って、通信を無理やり、切る。


「津上君の欠員かぁ・・・・・・新型機を手に入れるけど、それがあるから、手放しでは喜べないのよね?」


 一人、執務室でそう言うと、小野は隊員たちと撮った、写真を眺める。


「みんな・・・・・・ごめんね」


 小野はそう言って、再び頭を抱える。


 これだけ、隊員を死なせたのだから、何かしらの懲罰があるだろうな?


 ハムはまさか、それが狙いで非協力的だったのか?


 だとしても、理由は何だ?


 私の更迭が理由になるのは・・・・・・・


 そう考えているうちに小野はついに寝てしまった。


 途中、起きようとするが。どうしても気力が沸かなかった。


 机のキーボードの上で寝るのはよくないのだが、止められなかった、小野だった。



「瑠奈さんとはどう?」


 亜門は神田の飲み屋で進藤千奈美と食事を共にしていた。


 しかし、そこには何故か、古谷水姫と日下部桜もいた。


「それよりも、警察葬は係長も出るんですか?」


「えぇ、その場合は久々に制服を着るけど、ちょっと、デスクワークが多くて、肥えたからね・・・・・・一場君は制服は大丈夫?」


「えぇ、まぁ・・・・・・それより、何で、陸自の人がいるんですか?」


「私は辞去するように言ったんだけどね?」


 進藤がノンアルコールビールを飲み始める。


 彼女は下戸なのだ。


 しかし、一方で何故か、同席している古谷と日下部はもうすでに生ビールジョッキ一杯を飲み干しそうな勢いだった。


「組織の垣根を超えて、巨悪に対するんですよ。共闘しましょう!」


「僕は陸自にはーー」


「あれは蓮杖君がやったことですよ。私たち、第二中隊は一場分隊長には友好的です」


 そう言って、古谷は「あっ、ネギマ追加で!」と店員に声をかける。


「じゃあ、話し戻すけど、瑠奈ちゃんとはどう?」


 進藤がそう、亜門の顔を眺める。


 相変わらず、キレイな人なんだけど、気苦労が絶えないんだろうな?


 少し、老け込んだように思える。


 JCIAの朝鮮半島局の係長になったはいいが、旦那さんとの間に子どもが出来ないのと、その同人が仕事ばかりで、しかも、家事を一切、手伝わない、超亭主関白らしいので、フラストレーションが溜まっているとは聞いていたが、そのような状況でありながら、自分を食事に誘うのだ。


 だからこそ、この余計な二人の存在が・・・・・・


「今、妊娠九か月目ですね」


 それを聞いた、一同が飲み物を一斉に吹く。


「はぁ?」


「信じられない・・・・・・奥さんが子どもが生まれそうなのに、こんなところで飲んだ暮れているんですか?」


「一場君、君の非常識ぶりは知っていたけど、さすがに奥さんが子ども生まれそうなのをほったらかして・・・・・・断りなさいよ。私たちもさすがにそれは加味するから?」


「いや、だって・・・・・・進藤さんが珍しく、食事にーー」


 進藤が机を叩く。


「君の奥さんは旧姓久光瑠奈、今の一場瑠奈だろう! さっさと帰りなさい!」


 自分から、誘ったんじゃん。


「幻滅・・・・・・・奥さん、大事にしないんだ?」


 古谷が蔑視の表情を自分に向ける。


「一場分隊長、マジで本当に子どもの出産に立ち会わないと、離婚の危機ですよ!」


 日下部もそれに加わる。


 僕、まだ、焼き鳥食べていないのに・・・・・・


「亜門、帰るぞ」


 メシアがそう言うと、亜門は「うぅぅぅ! 焼き鳥がぁ!」と呻くが、そう言った瞬間に女性陣三人の殺意を込めた目線が飛び込んでくる。


 だって、僕にはどうにも出来ないじゃないか・・・・・・・


 そう思った時だった。


 メシアドライブに着信が入る。


「亜門、局長からだ」


 ゲッ!


 瑠奈とデキ婚してから、疎遠になっていたけど・・・・・・嫌な予感がする。


 とりあえず、電話に出ることにした。


「一場です」


(今、進藤君と陸自の女どもと焼き鳥店にいるそうだな?)


「ご存じでしたか・・・・・・・さすが、局長・・・・・・瑠奈がマズい感じですかね?」


「すぐに警察病院に来い! このバカ者がぁ! 瑠奈が破水して、もう生まれそうだぞ!」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ! 行きます! すぐに行きます!」


「貴様ぁぁぁぁ! 臨月の妻を放っておいて、女と食事などぉぉ! 今度という今度はーー」


 とりあえず、電話を切って、店を出る。


「えっ? すごい・・・・・・急いでいる?」


「まさか?」


「一場君、まさかとは思うけど?」


「子どもが生まれそうなんです!」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 三人が一斉に驚いた。


 だが、そうこうしている場合じゃない。


 警察病院は中野にあるから、中央線で・・・・・・でも、今ならば!


「一場分隊長! 車に乗りますか?」


 えっ?


 古谷さん・・・・・・・お気持ちはありがたいけど、明らかに電車の方が速いのよ。


「亜門君」


 進藤が珍しく、自分のことを名前で呼ぶ。


「電車は遅延しているそうね? ここは古谷中隊長のご厚意に甘えたほうが良いと思うわよ」


 えぇ・・・・・・この人の車かぁ。


 背に腹は代えられないかぁ。


「お願いします!」


「そうと来たら、かっ飛ばしましょう! 日下部! 会計はカードで払う! 進藤係長との割り勘だ!」


「割り勘ですか・・・・・・まだ、そんなに食べていないので私がーー」


 進藤が軽く、カードで決済すると、古谷が車を呼び寄せる。


「えっ? 車を呼び寄せることが出来るんですか?」


「最新鋭の自動運転機能で、指定した場所にまで、来てくれるんですよ?」


「まさか、テスラですか?」


 古谷は微笑を浮かべる。


 すると、そこにはテスラのモデルYがやって来た。


 将校って、マジで金あんのね?


「さぁ、乗って!」


 亜門が助手席に乗ると、進藤と日下部も乗る。


「何で、みんな来るんですか?」


「・・・・・・出産に立ち合いたいからです」


 何で?


「いや、人の家の出産ですよ」


「一場分隊長、女子にとって、人の出産は感動の瞬間なんですよ!」


 古谷はそう言うと、モデルYをかっ飛ばし始めた。


「待って! 待って! 待って! 法定速度! 法定速度!」


「仮にも現職の警察官二名を乗せているんだからね!」


「それ、パトレイバーのセリフですよね! ていうか、隊長、リアルに捕まります!」


「事態は深刻よ! 一刻も早く、一場分隊長をパパにしないと!」


 そう言って、モデルYが赤信号を無視すると、案の定、後方から白バイがやって来た。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 僕ら、警察官なのに!」


「ちっ! 白バイか? 追いつけるかな? 私の運転スキルに!」


「待って! これ、立派な不祥事だから!」


 しかし、進藤は冷静に何かを考えている。


「係長も何か、言ってください!」


「いや、奥さんの出産が迫っているならば、警察も交通違反は考慮してくれるだろうと思うけど?」


 えっ?


 そうなの?


 でも、実際に追われているじゃん?


「まぁ、今は古谷中隊長のドライビングテクに身をゆだねて、後で白バイに説明しましょう」


 そういう問題!


(そこのテスラ! 止まりなさい!)


 そう言われる、古谷のモデルYだが、暴走した状態で首都高に入り、そのまま白バイとパトカーにまで追われる羽目になった。


 カーチェイスだぁ・・・・・・・


 これも全部、僕が瑠奈をほったらかして、飲みに出かけたのが原因か・・・・・・・


 局長に殺されるかもしれない・・・・・・・


 亜門は危険な運転、公務員としての立場、家族からの攻撃などの三点の面で死の恐怖を覚えていた。


 時刻は午後十九時一分。


 パトカーの数が多くなる中で、古谷のモデルYはフルスロットルでの暴走を止めなかった。



 そして、古谷のモデルYは警察車両とのカーチェイスをしながら、警察病院へ着いた。


「一場分隊長! 早く!」


「はい!」


 そう言って、亜門は急いで警察病院の中に入る。


「止まれぇ! 道交法違反だぞぉ!」


「その件については私がーー」


 進藤が白バイ隊の隊員とやり取りをしている。


 みんな、ありがとう!


 そう思って、病院に入ると、義父の秀雄が腕組と仁王立ちをして、立っていた。


「貴様、今度は道交法違反か?」


「瑠奈はどこです!」


「分娩室だが、今日という、今日はーー」


「お義父さん! 今、それどころじゃないです!」


 そう言って、亜門は分娩室へ急ぐ。


「貴様にお義父さんと言われる筋合いはない!」


 しかし、亜門はそれを聞かずに走って、分娩室へ行く。


「亜門、落ち着け」


 メシアがそう言うが、亜門は「落ち着けるかぁ! 子どもが生まれるのに!」と言って、分娩室に滑り込んだ。


 そこでは瑠奈が苦痛に耐えながら、ベッドでいきんでいた。


「うぅぅぅぅぅぅ! 痛いよぉ!」


「はーい、一場さん、落ち着いてぇ!」


「瑠奈、ほら、亜門君が来たわよ!」


 お義母さんがとりあえず、自分を招き入れる。


「瑠奈、大丈夫?」


「大丈夫なわけねぇだろう! 人が臨月の時に遊び歩きやがってぇぇぇぇぇぇぇ!」


 うぅぅぅぅ!


 面目ない!


「・・・・・・ごめん」


「あとで許さないから!」


 そう言った、瑠奈は「痛いよぉ! 痛いよぉ!」と言いながら、いきむ。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ! 生まれるぅ!」


「頑張れ! 瑠奈! あとちょっとだ!」


 そうだ、あとちょっとなんだ!


「メシア!」


「おう、ビデオは・・・・・・お義母さんが撮影していたようだが、一応は撮影しようか!」


「その必要はない!」


 秀雄が息を切らしながら、ビデオカメラを持ち始める。


「私の権限を使って、白バイ隊は帰らせた!」


「ありがとうございます!」


「あとで、とっちめる! 覚悟しろ!」


 そう言って、ビデオカメラを回す、秀雄は若干、滑稽に思えたが、事態は瑠奈の頑張りに左右される展開となった。


「痛いよぉ! もう嫌だよぉ!」


「瑠奈・・・・・・」


 弱気になっているのか?


 あの、瑠奈が?


 そう思った時だった。


 進藤がやって来て、瑠奈をひっぱたく。


「しっかりしなさい! あなたは私と違って、母親になれるんでしょう! ここで弱気になるな!」


「進藤さん・・・・・・」


「頑張れ!」


 進藤が手を握る。


「あなたも手を!」


 進藤に促されるまま、亜門は瑠奈の手を握る。


「進藤君、あとで覚えとけ」


「いくらでも。へたれた根性を叩き直すのは友達の役目なので」


 進藤さんが友達・・・・・・


 上司だと思うんだけどな?


 瑠奈とはどうかは分からないけど?


「一場分隊長、情けないですよ。奥さんの手も取れないなんて」


 そこに古谷と日下部もやって来る。


「これが出産の現場・・・・・・」


 日下部は泣き出す。


「うぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


「瑠奈ぁ!」


「一場さん、あともう少しですよぉ。 ほら、息吸ってぇ」


 そう言って、瑠奈が息を吸いだした時だった。


 赤ん坊の声が聞こえ始めた。


「あぁ、出たぁ! 一場さん、元気な女の子ですよぉ!」


「いやったぁ!」


「一場分隊長! パパになりましたよ!」


「あぁ、うん・・・・・・」


 凄い、怒涛の展開だなぁ?


 でも、どうしよう?


 俺、お義父さん、お義母さんと女性陣が思っているほど、父親としての実感が沸かない。


 おかしいのかなぁ? 僕?


 というか、冷静に考えれば、これだけ痛がるならば、無痛分娩とかも考えてもいいのに・・・・・・


「貴様、嬉しくないのか?」


 秀雄がこちらを睨みつける。


「おめでとう、瑠奈ちゃん」


「おめでとうございます! 奥さん!」


「凄いねぇ! 女の生命力って!」


「瑠奈、よくやったわ!」


 出産の歓喜に周囲が沸く中で瑠奈が「進藤さん・・・・・・何で、ここにいるんですか? ていうか、この人たち。誰ですか?」と言って、瑠奈が段々とこの世の物とは思えない、恐ろしい表情を浮かべる。


「おい」


 あっ、僕のことだぁ。


「はい・・・・・・」


「進藤さんは分かるよ、この女の人たちは誰?」


「仕事の関係でちょっと・・・・・・」


「私は臨月だって、言っていただろうぉ!」


 瑠奈が烈火のごとく、怒り出す。


「もう、許さない! 人が臨月の時にデカパイの姉ちゃんとスレンダー美女に絶世の美女の進藤さんと何を遊んでいたのかなぁ!」


「あぁぁぁぁぁぁぁ! ごめんよぉ!」


 亜門が俯き始めると、進藤が「亜門君、あなたたち、良い家族になるよ」と言って、肩を叩いた。


「じゃあ、私たちは飲み直すから、頑張って」


「えっ・・・・・・えぇと」


「奥さんの機嫌が悪いのも君のせいだよ」


「いやぁ、良いもの見れたなぁ」


「進藤係長、さっきの焼き鳥行きます?」


「そうだなぁ・・・・・・私、下戸なんだよね」


 そう言って、三人が分娩室を出た後に瑠奈が「楽しそうだね? 亜門君?」と圧のある声で言い放った。


「・・・・・・いかなる処分も受ける次第です」


「ぶっ殺してやるから、覚悟しろ」


 そう言う瑠奈だが、顔を見て見ると、満面の笑みを浮かべていた。


 何で・・・・・・


「良かったじゃないか? 機嫌が良くなって?」


「うぅぅん。まぁ、うん」


「私は許さんぞ?」


「私もね?」


 お義父さんとお義母さんはお怒り気味です。


 時間をふと見ると、深夜を超えようとしていた。


 父親になった、長い一日が終わろうとしていた。



 それから、数日後。


 亜門たち、警視庁ISAT第一小隊の面々は羽田空港にいた。


(まもなく、羽田発ソウル行きの便はーー)


 第二小隊と第三小隊の面々が全滅して、これから補充要員の選考が始まる最中に韓国への強行軍か。


 メシアは最新鋭の第五世代型へのアップデートを行うためにレインズ社の下に渡り、自分の手元には代替えとして、量産型の大石重工製のガーディアンサードがあるだけ。


 他のみんなも同様か・・・・・・


「亜門君、寝てないでしょう?」


 海原がそう言うと、亜門は「津上が死んで、その後に子どもが生まれて、睡眠どころじゃないな。機内で寝るよ」とだけ言った。


「いや、育休獲れば良いのに?」


「遠征が終わったら、たらふく取る」


 そう言った後に出口勝統括小隊長が「奥さんへの韓国土産は決まったか?」とだけ聞いた。


「検閲に引っかからない程度の食べ物ですかね? お義父さんが韓国ドラマが嫌いな中で瑠奈は韓国ドラマの大ファンだから、それ関連のグッズも指定されたけど、そんな時間は無いですよね?」


「俺はせっかくの韓国だから、焼き肉なり、サムゲタンとか現地のグルメを楽しみたいが、ウチの隊長がそんなことさせると思うか?」


 出口がそう言うと、第一小隊長の広重が「同感、現地の女の子のナンパすら出来ねぇよ」とだけ言った。


「止めてくださいよ。公然と日本の恥をやるの」


 そう言う中で、会話するがそこに津上がいないことが第一小隊の全員にのしかかる。


 津上がいたら、もっとガキ臭い会話になっていたな?


「全員、揃った?」


 小野がそう言うと、浮田と中道も同行する。


「あれ、副隊長たちはどうしたんです?」


「日本に残るわ。私たち、実行部隊で韓国へ行きます」


 確か、韓国に行って、現地の国家情報院が入手した情報を元に韓国警察と韓国陸軍と連携して、ピョンヤン・イェオンダエのアジトを強襲するらしいけど、ガーディアンサードじゃあ、返り討ちに遭うだろう・・・・・・


 戦略家の小野にしては随分と玉砕覚悟な判断だと思うが。


「ちなみに第五世代機は完成次第、富永主任が韓国まで持って行きます」


「えっ? 出来るんですか! そんなこと!」


 隊員たちが驚愕する。


「させます。強制的に。そうしないとこれは完全なインパール作戦になりますから」


 インパール作戦・・・・・・


 それこそ玉砕覚悟で散っていった、旧日本軍の悪名高い、戦いだよなぁ。


「今回は海外での戦いで、激戦が予想されるから、一応、殉職の可能性あるけど、何か、ソウル辺りで食べたい物があるならば、食べていいわよ」


 それは素直に喜んでいいのか?


 死ぬって、ハッキリと言っているじゃん。


「陸自は今回は出ないんですか?」


「韓国に軍隊を送ると、世論が敏感に反応するのよ。それに彼らはアメリカでの演習に参加するから、今は船の上よ」


 あぁ、だから、警察が行くんだぁ。


「気が重いだろうけど、これから、死地に行くわ」


「ソウルって、そんなに物騒でしたっけ?」


「ソウルは中継地よ。私たちが行くのは旧北朝鮮地区よ」


 旧北朝鮮地区?


 えっ? マジで?


 亜門はそれを聞いた瞬間に死を覚悟した。


 続く。


 次回、機動特殊部隊ソルブスアサルト 第五話 太平洋の決戦


 彼女の真価が問われる激戦・・・・・・


 乞うご期待!



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