悪夢の再来
第三話です。
とうとう、戦いますよ、亜門君・・・・・・
そして、今回の主たる敵が出て来ます。
今週もよろしくお願いいたします!
1
東シナ海の台湾沖でアメリカ海軍所属の「ブルー・リッジ」は随伴しているミサイル艦と共に中国海軍艦船と相対していた。
「こちらは中国人民解放軍海軍である! 旗艦らは我が国の領海内を侵入している! 速やかに海域から離脱せよ! 台湾は我が国固有の領土である! 速やかに領海を離れなさい!」
ファッ●ンチャイニーズどもめ。
フロー・アグネル大佐は目の前でソルブスを展開しようとする、中国海軍を見ながら、東洋人への蔑視を抑えるのが耐えられなかった。
「こちらはアメリカ海軍第七艦隊所属、ブルーリッジである! 現在、本艦は航行の自由作戦展開中の為ーー」
台湾有事が起きて、アメリカ軍と自衛隊が総出で台湾を防衛しても、今なお、中国は台湾を狙っている。
故にこうして、海軍が台湾を防衛する為にこうして長旅をしているのだが、来年には保守派政権が生まれるかもしれないので、台湾防衛の消極論が圧倒的多数になったのが今日の状況だ。
今回は台湾防衛を口実に中国を刺激しない程度に新型兵器の実験を行うのが目的だ。
新型兵器と言っても、鹵獲したソルブスを我々が再び使うだけだが?
「敵ソルブスの発進を確認! 艦長!」
とうとう、しびれを切らしたか?
「ドッグファイトはするなよ? 各員に通達、ソルブス部隊発進用意! そして、対空戦闘用意!」
「対空戦闘用ぉぉぉぉ意!」
「対空戦闘用意! 総員! 対空戦闘用意!」
陸軍が作り上げた、ソルブスシステムを海上での戦闘に使えるか?
長年、各国の軍隊が議論していた問題は台湾有事で解決したが、元々が市街地戦闘用に作られた、兵器だ。
海の上では街中と勝手が違う。
アグネルは内心、ヤキモキしていたが、中国軍のシーバオ4000が現れると、こちらのグレムリン数機がブルー・リッジから飛び立つ。
「交戦はするなよ! 外交問題になるぞ!」
そう指示を飛ばしていた時だった。
「後方から熱源!」
オペレーターがそう言うと、すぐにブルーリッジの後部に爆発が起きて、衝撃が走る。
「何だ! ミサイルか!」
「この速度はミサルではありません! これは・・・・・・レールガン?」
レールガンだと?
どこのどいつがそんな物を・・・・・・
「更に後方から熱源」
「今度は何だ!」
「ソルブスだ・・・・・・」
そして、三体のソルブスが現れると、ブルーリッジの爆破された後部に入り込み、何かを探し始めた。
「あれは・・・・・・アーサーじゃないか?」
アーサーだと?
ピョンヤン・イェオンダエとかいう、クソコリアンどものマフィア組織に強奪された、陸軍の新型ソルブスか?
それが来るという事は我々が積んでいる、新型機を強奪するつもりだ。
悪名高い、たった一人の高校生による米軍への反乱を招いた曰くつきの機体、フェンリルを強奪しに来たのだ。
「艦長! フェンリルが! フェンリルが奪われます!」
「ファッ●!」
「艦長・・・・・・」
最悪だ。
ファッ●ン・チャイニーズどもに笑われるばかりか、最新鋭機まで強奪される。
俺はどんな顔をして、横須賀に帰ればいいんだ?
アグネルにとっては悪夢としか思えない光景だった。
だが、アグネルはこう思った。
また、米軍を悪夢が襲うのか?
アグネルだけではなく、ブルー・リッジにいる全員が再び襲来する、悪魔の襲来を恐れていた。
2
「ぐふぅ!」
サルのキメラが腹を殴られて、倒れたところを古谷が着るモスプレデターがナイフで首を掻っ切り、緑色の血が流れる。
周囲ではその様子を人々がスマホで撮影していた。
「あれ、警察?」
「あれって、陸自のモスプレデターじゃないか?」
「えっ、嘘? 自衛隊が何で、街中であんなことをしているの?」
「でも、キメラ倒してくれるんだぜ!」
「もっと、やれぇ!」
奇跡的に人々は危機に瀕しているので、古谷を全面的に応援しているが、これは特殊部隊という性質上は避けなければいけない事態だ。
どうする? 私も出るか?
桜がそう判断を迷う。
水姫に手出し無用と言われただろう?
ライジングがそう声をかける。
でも、心配だよ。
大丈夫だ、彼女は強いから。
理由にならない・・・・・・
すると、古谷は一体目のキメラを倒した後に二体目のキメラを一本背負い投げで投げると、即座にシグザウエルP220を取り出し、キメラを足蹴にして、顔面に銃弾を撃ち放った。
射殺だ。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 許して!」
サルの状態のキメラが失禁をする。
相当な恐怖だったのだろう。
「死ね。チ●カス野郎」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
銃声が響く。
キメラは全員、殺害された。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 全滅だぁ!」
「ありがとう! 姉ちゃん!」
そう言って、古谷の体をモスグリーン色の閃光が包む。
装着を解いたのだ。
「水姫さん、やり過ぎ」
「はぁ、ノンアルバーがパーだよ!」
そう言う中でパトカーが数台やって来る。
そして、制服姿の警察官達がリボルバーの拳銃を取り出して、日下部や古谷に達也を囲む。
「警察だぁ! 動くなぁ! 撃つぞ!」
とりあえず、全員、手を挙げる。
「午前十一時三十七分。銃刀法違反でーー」
「その必要は無いわ!」
そう言って、警察官たちを跳ね除けて、若干の違いがある警察の制服を着た女がこちらへとやって来る。
「あなたは・・・・・・」
「警視庁ISAT隊長兼全国同部隊総司令の小野澄子特務警視長です。あなたたち、装備を見ていれば分かるけど、彼女は陸自の関係者よ?」
警察官たちが目を見やる。
「ここで拘束すれば、防衛省との間で問題になるけど、あなたたち、一介のサッカン(警察官の通称)にそれ、耐えられる?」
警察官達が苦虫を潰した表情の中で小野と名乗った女は「一場分隊長、彼女たちをトレーラーへ。防衛省に引き取りに来させます」とだけ言った。
「あの、隊長・・・・・・SNSはどうします?」
「防衛省と政府に任せましょう。行くわよ、古谷一尉?」
「お久しぶりです。小野隊長」
二人とも、知り合いなのか?
「今は昔話の時間じゃないわよ、水姫? 状況分かっている?」
「・・・・・・分が悪いですね?」
「好きな男のことになると、熱くなるのは相変わらずだけど、身柄は預かります。皆、乗って」
そう言って、警視庁ISATのトラックに乗る。
トラックの中なのに冷房が効いていて、涼しかった。
「このまま、大手町へ」
小野がそう言った後にトラックは発進した。
最悪だ・・・・・・
二日酔いなのに、事件に巻き込まれるなんて・・・・・・
日下部には悪夢のような瞬間だったが、今は横になりたい心境でどうにかなりそうだった。
「ありがとう! おかげで助かったよ!」
「あんたたち、英雄だよ!」
「警察! お巡りさん! 穏便な形で済ましてくれよ!」
そう、渋谷の人々が声を上げて、手を振るのがせめての救いだった。
3
一場亜門は別車両に乗る自衛官たちに興奮する、津上スバルをなだめていた。
「止めろ、野郎付きだぞ?」
「あの自衛官の一尉さん、すげぇ、美人でスタイル良すぎだろう! 絶対、お近づきになりたい!」
「俺も同感だ! あんなデブよりも俺たちの方があのデカパイの一尉さんの相手に相応しい!」
小隊長の広重警部補もそう言い放つ。
こいつら、これだから、モテないんだよ!
亜門がそう言おうと思った中で海原千世巡査長が「最低・・・・・・そんなんだから、あんたたち、モテないんだよ」と言い放つ。
「んだとぉ! やってみねぇと分かんねぇよ!」
「そうだ! 俺たちの方が凄い!」
「いや、というか、一介のサッカンと将校さんとじゃあ、釣り合わないでしょう?」
海原がそう笑いながら、言い放つと津上が「じゃあ、あのデブは何だよ!」と逆切れを始める。
「それは・・・・・・個々人の趣味の問題じゃない?」
「はぁ? 意味、分かんねぇんだけど?」
「だったら、俺たちにもチャンスが・・・・・・」
「ねぇな。包容力の違いじゃないか?」
そこに統括小隊長の出口勝警部補がやって来る。
亜門の巡査部長昇任による、分隊長就任に伴い、ISAT全部隊の統括小隊長という新設ポジションに収まったのだ。
「えぇ・・・・・・そりゃあ無いですよ」
「諦めろ。というか、今回はミッションが無いんだから、休め、お前ら」
そう言って、出口はベンチで寝始める。
「育ちが悪い・・・・・・」
海原がそう言うと、出口は「お前らも寝とけ」とだけ言った。
だよなぁ・・・・・・僕には教えてもらっているけど、近々、大きなミッションがあるみたいだからなぁ?
僕も寝ようかなぁ。
「亜門、局長が来るそうだ」
メシアがそう言い放つ。
「えっ・・・・・・局長が?」
「あぁ、防衛省との調整に入るらしい」
「うわ、一場! お義父さん来るじゃん!」
「奥さんとの夜の生活を報告しろよ!」
「あんたたち、最低なんだけど! さっきから!」
「うるさい! お前ら! 寝かせろ!」
あぁ・・・・・・全員、仲良く、おねんねも出来ないのか!
亜門はこのようなわちゃわちゃ具合の中で、本格的に大きなミッションが終了したら、陸自への転職を考えようかという考えを再燃させ始めた。
トラックは大手町へと着いた。
4
久光秀雄は公用車から降りて、大手町のISAT分庁舎へと向かうと、ロビーのソファで陸上自衛隊ソルブス歩兵連隊の蓮杖亙一尉が腰をかけているのを見かけた。
私が来たというのにこいつは立ちもしないのか?
そう、苛立ちを募らせていると、蓮杖も気付いたのか「あぁ、局長。いらしたんですか?」と声をかける。
こいつは仮にも将校だろう?
こんな非常識な奴を何故、防衛省は重宝するんだ。
「君が古谷一尉と日下部三曹を引き取りに来たのか?」
「えぇ、待機中だったので。ところで台湾沖で米軍艦艇からフェンリルが強奪されたそうですね? ピョンヤン・イェオンダエに?」
その話題か?
喫緊の課題とも言えるが、こいつは警察側の情報をどこまで仕入れているんだ?
「警察もピョンヤン・イェオンダエを追っているんでしょう? 我々と共同戦線を張りませんか?」
「唐突だな・・・・・・見返りは?」
「古谷と日下部両名、部外者一人の釈放とSNSの規制に報道統制。そうすれば、我々の知っている情報はどう使っても、構いません」
こいつらは知っているな・・・・・・警視庁が金沢でのキメラの改造機器の取引を強襲した後にそれの製造を行っている拠点があると言われている、韓国の旧北朝鮮地区への越境捜査の件を。
しかし、海外での軍事的な情報となると、別班やJCIAを関与させた方が良いか?
春の人事異動でJCIAには今、彼女がいるはずだ。
そう簡単には主導権は渡さんよ。
「JCIAの朝鮮半島局を介入させても構わないかね?」
「あぁ、あそこには進藤千奈美警部が出向していますからね? 我々の好きなようにはさせないと?」
「文句があるならば、この話は無かったことにしても良いんだが?」
蓮杖はふと笑う。
「一向に構いません。一度、本心として、警視庁ISATと仕事をしてみたかったので」
意外だな?
てっきり、嫌っているものかと思ったが?
そこに小野が現れる。
「局長、先日はーー」
「件の自衛隊員はどうしている?」
「元気そのものですね。何を話していたんです?」
「共同戦線の話だ。後で話し出来ないか?」
小野は怪訝な顔をする。
蓮杖は不敵に笑うが、それは相変わらずに人を不快にさせるものだった。
5
大手町のISAT分庁舎の一室で、古谷水姫はいびきをかいて寝る、日下部桜の寝顔をひたすら見ていた。
可愛いなぁ・・・・・・
「水姫さんは百合の趣味あったけ?」
達也が恨めしそうにこちらを見つめる。
「部下としては可愛いけど、私はタッちゃん一筋よ」
そう言って、水姫は達也の頬を掴む。
「止めろよ、外なんだから・・・・・・」
「暇なんだから、多少はイチャイチャしようよ」
すると、後ろから席払いが聞こえる。
振り向くと、蓮杖亙一尉がそこに立っていた。
「ご盛んだな? 古谷一尉は?」
「蓮杖君が迎えに来るとはな・・・・・・斎藤の方が良かったな」
「達也君、久しぶりだな? どうだ、搾り取られていないか?」
それを聞いた、達也が赤面する。
「いや・・・・・・あの!」
「変な事を聞くんじゃない!」
「こいつはキン●マが枯渇するまで、止めないからなぁ。よく持つよ、君も」
こいつ・・・・・・ぶっ殺す。
そう思った矢先だった。
「お前らがイチャイチャしている間に台湾海峡で米軍がピョンヤン・イェオンダエの襲撃を受けた。そして、フェンリルが強奪された」
フェンリルか。
高校生がたった一人で岩国基地の米軍を全滅させた事件で使われた、試験機で拿捕された後にアメリカ軍の仕様を前提とした調整が行われる予定だったそうだが。
「というか、ここ盗聴されていると思うけど、良いの? そんな話して?」
蓮杖はニタリと笑う。
織り込み済みか。
恐らく、警視庁も抱き込むつもりだな?
「釈放だ。戻ったら、訓練の準備だ」
蓮杖はぶっきらぼうにそう言うだけだった。
6
警視庁ISAT分庁舎のミーティングルームでは副隊長の稲城がホログラムを使って、作戦概要を説明していた。
「今回は陸上自衛隊全面協力の下で、金沢港で行われる、ピョンヤン・イェオンダエによるキメラ製造機器を巡る取引にガサ入れを行う。我々はソトサン(公安外事三課の略)の指揮下で動くが、ソトサンの捜査員がタイミングを伝え次第、現場を強襲する。それでは蓮杖一尉」
そう言われた後に陸上自衛隊の蓮杖亙一尉が壇上に上がる。
「蓮杖です。今回の強襲事案においては我々は砲撃支援と作戦の戦術立案などの観点で参加する予定です。歩兵戦においては警視庁さんがメインで行ってもらいます。我々はピョンヤン・イェオンダエの要員である、コ・ミウンを確保できればいい。公安部とウチの別班が追っている、この男から強奪されたフェンリルの所在を吐かせてもらう。そして、韓国の旧北朝鮮地区にあると言われている、ピョンヤン・イェオンダエのアジトを突き止める。これが我々と警視庁、共通の目的です」
フェンリルが強奪・・・・・・
治道君の機体がアメリカ軍から再び、彼女の下へと渡ったか?
亜門はピョンヤン・イェオンダエの首領と化した、かつてのアメリカ陸軍特務少尉のレイチェル・バーンズの整った顔付きを思い出す。
彼女は一体、何を狙っているんだろうか?
「作戦内容としてはヘリボーンを想定しています。陸自のUH―60J、いわゆるブラックホークに乗り込んでもらい、そこから空中で降下。ソルブスによる飛行機能で犯罪者どもを蹂躙するという形を取ってもらいます」
「敵の詳細としてはソルブス三体があって、後は生身だ。RPGも装備していないということだ。ここまで何か、質問があるか?」
「簡単すぎる。奇妙だ」
メシアがそう口を開く。
「貴様! 何が不満だ!」
「確かにその通りだ。あまりにも簡単すぎる。何かしらのトラップを仕掛けられていると踏んだほうが利口だと思うよ」
蓮杖がそう言い放つと、稲城は開いた口が塞がらないという形になった。
小心者め。
「だが、そのトラップの内容が分からないんだろう?」
「そうだ、だから、質が悪い。あんたらのハムとやらは何を掴んできたんだ?」
蓮杖がそうハムの面々に挑発的な目線を浮かべるが、ハムの面々は薄ら笑いを浮かべるだけだった。
何だ?
何かがおかしい。
ハムは今回は協力しないのか?
「狙撃の配置は?」
海原が質問する。
「金沢港はそりゃあ、港だから開けていてね? 狙撃ポイントが中々、見つからないが、現地調達だな?」
極めて、危険極まりないな?
「現地で狙撃ポイントを拾えと?」
「マークスマン(軍隊において、部隊に同行するスナイパーの意)の経験は無い様だな? 海原巡査長殿は? 他、何か無いか?」
「キメラの割合は?」
津上が口を開く。
「その件に関しては私が。JCIAの進藤千奈美です。恐らく、大半の構成員がキメラ化出来るでしょう。言いたい事としては、コ・ミウンを逮捕出来れば、それで良しです」
つまり、それ以外は全員、皆殺しか?
だが、このトントン拍子の簡単さは何かの罠が仕掛けられているとしか思えない。
何だ・・・・・・これは?
亜門は魚の小骨が喉に引っかかったかの様なスッキリとしない感覚を抱いていた。
「まぁ、要するに俺たちは罠と分かっていても、任務に興じなきゃあいけない。何があると思うか?」
蓮杖が意地の悪い、笑みを浮かべる。
「蓮杖中隊長! 私も行かせてください!」
年端のいかない長身の少女のような自衛官がそう口を開く、すぐに昨日の一尉さんが強制的に座らせる。
確か、古谷水姫と日下部桜とか言ったか?
中々に良いコンビだな?
「余計な事を言わない!」
「私のライジングがあれば、どんな罠だって、突破できます!」
「警視庁に任せなさい」
まさかとは思うが、自衛隊が後方支援に留まるのは、法制的な問題もそうだが、ウチの部隊に捨て石になれと言っているのだろうか?
だとしたら、これはかりそめの同盟関係だ。
「亜門は考えすぎるなよ、その時が来たら、その時だ」
「その時って、何だよ」
「死ぬんじゃないか? だが、俺はお前にはそうはさせない」
「それはありがとう。でも、僕も死なないつもりだ。家族がいるから」
そう言って、亜門は妻の瑠奈とデートした時の写真を見つめた。
子どもの名前を考えないとな?
ミーティングルームには重苦しい空気が漂っていた。
7
作戦当日、深夜の金沢港で陸自のUH―60Jに乗り込んだ、警視庁ISATの面々が上空から近づく、取引現場へと向かう。
(ウォーリアーワンからISATアクチュアルこれから、砲撃を行う。各員、巻き込まれるなよ、 オクレ)
港への損害はどう説明するんだろうか?
恐らく、適当な爆発事故とか火災で片づけるんだろうな?
亜門がそう思っていると、上空から見える、黒いバンを始めとする車の数々と東洋系の男たちが現れる。
(砲撃開始、オクレ)
そう言われてから、数十秒後に周囲に砲弾が着弾する。
(作戦開始! 目標、対象の捕獲!)
そして、ISATの各員がUH―60Jから飛び降りる。
「装着!」
そこから、ソルブスを装備して、飛行機能を使い、空中戦へと移行する。
至る所から朝鮮語が聞こえるが、武装した構成員たちを銃撃して、蹂躙する。
「なぶり殺しじゃないか? こんなの!」
「亜門、確実に何かがある! 気を引き締めて行け!」
まさか、毒ガスとか爆弾じゃないだろうな?
亜門は想定されるであろう、罠に警戒しながら、金沢港を飛び回る。
とりあえず、コ・ミウンを逮捕しないと、どんどん港の損害が・・・・・・
そう思っていた時だった。
コンテナの上にスーツを着た少年がいた。
黒いネクタイに黒いスーツ。
まだ、残暑が残る中では暑苦しいそれはこちらを見ると、笑い出した。
「こうして、戦うの・・・・・・というか、会うの楽しみにしていたよ?」
何だ? 敵?
「装着!」
そう言って、少年が装着したのはフェンリルだった。
罠って、こいつのことだったか・・・・・・
「メシア!」
「想定していたよりは罠の難易度が低いな? 毒ガスや爆弾なら皆殺しの惨事が待っていたが、強敵ならば答えは簡単だ・・・・・・ただ、倒すだけ!」
メシアがそう言うと、亜門はシグザウエルP228を取り出して、フェンリルに相対する。
未明の金沢港が戦場と化している。
8
「メシア、敵ソルブスと交戦!」
「アルファチーム! 聞こえるか! それ以上は踏み込むな! 同士撃ちになる!」
現場近くに止めたトラックでは警視庁の面々や陸自の面々がウェアラブルカメラの様子と電子戦用の航空管制機からの情報を元に何やら、試案をしていた。
「日下部、焦らないでね?」
古谷水姫がコーヒーを飲みながら、そう語り掛ける。
そんな悠長な暇は無いはずだが?
大体、あのマフィアどもはキメラの改造手術に関係している。
香織をあんな目に遭わせた奴をこの手で成敗出来ないなんて・・・・・・
「いや、ウチから出ているのは相川二曹のゴウガからの砲撃支援だけですよね? ウチからの部隊は最小限に抑えるとか、何か裏があるんじゃないですか?」
「まぁ、需要と供給の問題よ。それより、一場巡査部長の戦いは一見の価値はあるよ。何せ、ライジングは本来、彼が受領する予定だったもの」
それを聞いた日下部は「えっ? じゃあ、何で、私が・・・・・・」と呆気に取られてしまった。
「だから、言ったじゃん、需要と供給の問題って? とりあえず、ライジングの元祖である、メシアと警視庁の英雄である一場亜門の戦いを学習しなさい、あなたは」
そう言って、古谷は「だけど、よりによって、奪った機体をこの短期間で日本での実戦に使うなんて? 輸送経路もそうだけど、また、内通者というのを疑わないといけないね?」と言い出した。
「内通者ですか?」
「ピョンヤン・イェオンダエには日本国内の協力者が多いんだよ。左翼系の議員や市民活動家に資産家だけではなくて、今の政権与党にも北朝鮮が存続していた頃のルートの名残で未だにねんごろな議員がいるからね。自衛隊内はどうかは分からないし、私たち、実行部隊は知らないけど、あちらさんは気が気ではないと思うよ」
水姫が見つめる方向ではJCIAの面々がどこかしらと連絡を取りながら、戦況を見守っている。
進藤千奈美警部と言ったか?
心労絶えないだろうな?
「再三、聞きますけど、私はーー」
「出なくて結構。勉強だけしていなさい」
そう言って、水姫は何処かへ消えていった。
そして、画面上に移る、一場亜門とメシアが奪われた機体であるフェンリルと交戦する様子を眺める。
「一場亜門か・・・・・・」
本心ではピョンヤン・イェオンダエ討伐に加わりたかったが、とりあえずは警視庁の英雄と言われている男の戦いをとりあえず、見守る事にした。
9
シグザウエルP228を謎の男が着る、フェンリルに向けて、、放つが一気に間合いを詰められて、格闘戦へと持っていかれるが、瞬時に距離を取る。
相手は丸腰と言っても、素手でキメラの胴体を貫くことが出来る。
詰められたら、死ぬ。
亜門はシグザウエルP228をリロードして、構える。
「こっすいやり方すんなぁ? その自慢の日本刀で格闘戦付き合えば良いじゃん?」
フェンリルを着た、男がそう言う。
「あいにく、相手の得意分野では戦わないのが僕の基本戦術なんだよ?」
亜門が銃口をフェンリルに向ける。
「レイチェルが言っていたけど、あんたは特異点が無い、偏差値で言うところのオール4だらけだが、バランスの取れた能力と判断に戦術と経験値を重ねているから、何故か、負けないとかさ?」
「事実だな? 戦場では負けが許されないだろう?」
海原からの合図が来る。
いつでも行けるそうだ。
「俺とフェンリルは格闘戦では五であとはダメなんだけどなぁ・・・・・・・」
その調子だ。
上手く、狙撃に引っかかってくれよ。
「まぁ、俺は後はあんたに負ける点と言えば・・・・・・」
銃声が鳴り響く。
しかし、あり得ないことにフェンリルは海原が狙撃した弾丸を素手で掴んでいた。
「あぁ、そういうことかぁ? まんまと罠に引っかかったわぁ?」
「マジかよ・・・・・・バケモンか? お前?」
亜門は驚愕という言葉を覚えた瞬間だった。
「それとあんたはこういう共闘が出来る友達がいるかぁ・・・・・・この時点で、あんたは俺よりも多くの点で優秀。だがなぁ・・・・・・」
フェンリルが空手のサンチンの構えを見せる。
「一芸に秀でた人間の方が最終的には強いということを教えてやるさ?」
フェンリルは一気に加速する。
シグザウエルP228で銃撃するが、フェンリルはそれをかわす。
「マズい・・・・・・」
「楽しかったよ、英雄さん。終わりだ」
瑠奈・・・・・・ごめん。
死を覚悟した、その時だった。
「とぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
津上スバルが着た、レイザがフェンリルに切りかかる。
「一場ぁ! お前、パパになるんだろう!」
「あっ、あぁ・・・・・・」
「こんなことで死ぬんじゃねぇ! 倒すぞ! こいつ!」
「へぇ・・・・・・二対一? こっすいなぁ? 警察は? 犯罪者相手にマンパワーで攻めるのが警察のやり方だと、レイチェルから教わったがーー」
津上が着る、レイザが一気にフェンリルと距離を詰める。
「よせ! 津上!」
「格闘戦上等!」
迂闊すぎる!
そう思った、瞬間だった。
「兄ちゃん、良い度胸してんなぁ? 嫌いじゃないよ? でも・・・・・・」
次の瞬間には津上の胴体をフェンリルの右ストレートが貫いていた。
「えっ?」
「相手が悪かったな?」
「津上ぃぃぃぃぃぃ!」
フェンリルが手を抜くと、津上の体からは鮮血が飛び散った。
「あっぁぁぁ、あっ!」
「いやぁ、ごめんなぁ? あんたの友達、死にそうだけど、大丈夫?」
「お前ぇぇぇぇ!」
気が付けば、シグザウエルP228を連射していた。
「一場分隊長! 亜門君! よしなさい!」
小野の声が聞こえるが、怒り・・・・・・いや、恐怖だ。
怒りを伴った、殺意を心に宿せば、非情なほどに冷静でいられる。
しかし、今の自分はこの男に恐怖心を抱いている。
故に怒りとないまぜになって、発狂しているのだ。
「ダッサ。警視庁の英雄殿がさ?」
そう言って、間合いを詰められる瞬間に青色と金色の色をしたスタイリッシュなフォルムのソルブスが現れる。
「へぇ? 陸自が介入するか?」
「あんたたち! 何が目的なんだよ!」
「春の時の演説を聞いていないかなぁ? レイチェルの目的は復讐だよ」
日下部桜か?
桜は対艦刀でフェンリルに突っ込むが、フェンリルは逃亡を始める。
「一場分隊長。コ・ミウンは逃亡しました」
古谷一尉がモスプレデターを着た状態で、亜門に話しかける。
「作戦はーー」
「失敗です。コ・ミンウを補足した、ブラボーチームとチャーリーチームは全滅です」
ブラボーとチャーリーが全滅?
じゃあ、磐木小隊長と浜口小隊長は・・・・・・
「何で・・・・・・・ウチは精鋭部隊だぞ!」
「レイチェル・バーンズのアーサーがいます」
それを聞いた、亜門はピョンヤン・イェオンダエの首領がここにいることに驚愕した。
罠って・・・・・・・ストレートに返り討ちにするってことかよ?
ハムに嵌められたか?
「亜門、上空からエネルギー反応!」
「一場分隊長! 離脱しますよ!」
そう言われた、亜門はとっさに古谷と共にその場を離れたが、そこにレールガンの狙撃が放たれる。
「こんなものまで・・・・・・」
「一場君、飛べる?」
「脱出ですか?」
「撤退戦だね。陸自が全面的にフォローする」
そう言った後に陸自のモスプレデターが多く現れる。
「中隊長! 敵は!」
「無駄だ! あいつらには敵わない! 逃がしておけ!」
亜門は気が付けば、放心状態になっていた。
津上は・・・・・・磐木小隊長に浜口小隊長はどうなったんだ?
「亜門! 気を確かにしろ! 亜門!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
この日は悪夢のような一日だ。
仲間が多く、死んだのだから。
続く。
次回、機動特殊部隊ソルブスアサルト 第四話 父、戦場へ行く
青年が父親になる・・・・・・・
来週もよろしくお願いいたします!