表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動特殊部隊ソルブスアサルト  作者: 日比野晋作


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

愛する者たちの帰還

 最終話です。


 夏になってしまいました・・・・・・春から、スタートしたのに。


 歴代最長できっちり、ワンクール行いましたが、皆さん、最後までお付き合いありがとうございました!


 最後の一話、よろしくお願いいたします!



 会敵して、まもなく、敵の黒紫色のソルブスがガトリングガンを放つ。


 日下部はすぐに回避をするが、そこに敵が潜り込んでくる。


「ワンセコンド」


 確かに敵がそう言い放ったのを聞いた。


「日下部! 援護する!」


 そう言って、古谷の装備するリバーンが人の形態になり、ガトリングガンを撃ち返すが、相手は即座にミサイルを放つ。


「ミサイル?」


 古谷はかわすが、すぐにそれは同人を追いかけてくる。


「ホーミングミサイルか?」


 そう言って、古谷はガトリングガンで迎撃をして、ミサイルを粉微塵にした、背後には敵がいた。


「背後に?」


「隊長!」


 そう言って、近づこうとした時だった。


 敵は古谷の右腕を掴むと、思いっきり捻った。


「うぅぅぅ! うぁ!」


 明らかに古谷は骨折をすることとなった。


「隊長!」


 そして、古谷のリバーンの左肩に備えられている、プロペラを捥ぐと、古谷の背後に回り、蹴り倒し、背後からガトリングガンを掃射し続けた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「古谷中隊長ぉぉぉぉぉぉぉ!」


 古谷は吹雪の中で地上に墜落した。


 古谷中隊長がやられた・・・・・・


 私の恩人で、親友の古谷中隊長が・・・・・・


 しかも、ガトリングガンの直撃を食らっている。


 この天候と落下の速度を見ると、早く、救出しないと、まずい。


 そう考えると、日下部は途端に敵のソルブスに対して、怒りが込み上げて来た。


「お前・・・・・・何した?」


 相手はロシア語で何かを言うが、そのニュアンスから、自分を嘲笑っているように聞こえた。


 若干、声音が幼い様に思えたが、そんなことは今の日下部には関係無かった。


「ぶっ殺してやるよ! ロシア野郎!」


 そう言って、日下部はライジングの対艦刀を転送して、装備する。


 敵はロシア語でそれを嘲った。


 時刻は午前〇時五四分。


 日下部の最後の戦いが始まろうとしていた。



「古谷と日下部が二人だけで突っ込んだか・・・・・・」


 戦線が落ち着いてきた時に蓮杖が第二中隊の面々から、古谷、日下部の二人が、港に向かってから、戻ってこないと聞いて、谷川や斎藤に各連隊の隊長とともに捜索班を出すかを審議していた。


「あの二人の独断専行か?」


 谷川が苦虫を潰した表情でそう言う。


「・・・・・・港ですか? 隊員は港の方で戦闘があったとして、二人で偵察に出たと?」


「しかし、戻ってこない・・・・・・捜索班を出すんですか? 二人のために?」


 司令部が判断に迷う中で、下士官の通信兵が「入電です。田口総理大臣充てにアメリカのシャロン副大統領から、日米安保条約第五条を適用して、北海道への在日米軍の展開することが決定したそうです。すぐに米軍が来ます」と報告をしだした。


 それを聞いた、幕僚は「あぁ・・・・・助かった」と言い出した。


 内心では、皆が皆、自衛隊だけでロシア軍に相対すのには自身が無いというのが本音だったが、土壇場で米軍が出てくるか?


 こうなると、ロシア軍がどう出るかが見物だな?


 そう、蓮杖が考えた後に「ロシア軍の現状は?」とだけ、聞いた。


「他の地域では戦闘が続いている状況ですが、米軍の展開によって、状況が変わるかとーー」


 すると、そこに通信が入る。


「在日米軍のクレメンツ中将から、通信です」


「すぐに通せ」


 そう言うと、眼鏡面の気難しそうな軍服姿の白人が目の前の画面に現れる。


 在日米軍司令官のクレメンツ中将だ。


「話は聞いてるかと思われるが、我々も参戦する」


 単刀直入に話を進める、クレメンツは立て続けに「先陣として、ジェネシスフォース小隊を送り込んだ。そちらのメン・クラッシャーにも因縁深い人選で、増援を送り込んだ次第だが、状況の確認をしたい」と言い出した。


 ナチュラルに性格の悪いことを言うな?


 日下部のストーカーの大尉を支援に送り込むのか?


 そう思っていた時だった。


「連隊長! アメリカの通信衛星の提供の結果、日下部三曹は現在、敵ソルブスと一対一で交戦中と判明しました」


「・・・・・・一対一だと? 古谷はどうした?」


「確認できていないそうです」


 場が静まり返る。


 古谷ほどの名手が負ける相手か?


 すると、斎藤が泣き出す。


「まだ、古谷がやられたとは限らない」


「だが・・・・・・敵のソルブスは相当、強いはずだ」


「こちらも米軍との部隊編成を考えないと、いけない。一対一ならば、日下部に任せて、こちらは反転攻勢のことを考えればいい」


 そう言った、蓮杖に対して、斎藤は「相変わらず、お前は冷たい男だよ」と言い出す。


「俺も同意見だ。敵の戦力が分からない以上は日下部にやらせた方が良い。それにだな?」


 谷川が苦笑いする。


「奴のストーカーが来るだろう?」


「しかし、古谷が!」


「奴は帰ってくる。そして、俺たちは持ち場を離れない。それだけだ」


 蓮杖がそう言うと、斎藤はその場を出る。


 あいつ、助太刀するつもりか?


 谷川に目配りすると、行って良いということだったので、追うことにした。


「命令違反は重罪だぞ?」


「黙れ! 仲間がピンチなんだぞ!」


「古谷と日下部、二名の犠牲で、戦争に勝利出来るならば、お釣りが大量さ」


 斎藤は蓮杖を睨みだすが、上空にはU.Sと書かれた、オスプレイが現れる。


「早いな? 即時に行動できるとは?」


 これで、戦況は変わるな?


 蓮杖はこの戦争の勝利を確信した。


 日付と時刻は一月五日、午前一時ちょうど。


 自衛隊側の戦力は米軍の参戦で、確実に増強されていた。



 日下部はライジングの対艦刀を振りかざすが、敵は三回連続でかわし続ける。


「桜! 冷静になれ! 相手の思うつぼだ!」


 ライジングがそう助言をする。


 気付けば、戦場での恐怖なんて、消えていた。


 こいつは・・・・・・古谷隊長をあんな目に合わせた、こいつだけは許さない!


 相手はガトリングガンを放つ。


「ソニック!」


 日下部はソニックシステムを起動して、それを交わし、対艦刀で相手のガトリングガンを切り倒す。


 相手は呆気に取られていたが、すぐに「トゥセコンド」と言って、懐に入る。


 ナイフを仕込んでいたようだが、日下部はそれを避け、対艦刀を振り上げるが、相手は器用にかわす。


「こいつ、何で、こんなにかわす!」


「桜、こいつは恐らく、心が読めるんだ」


 ライジングが日下部にアドバイスを始める。


「何で?」


「トゥセコンドやワンセコンドということは、一秒、二秒先を読んでいると見たほうが良いだろう? そして、思考が読めるから、こちらの戦術パターンも読める」


「相手はロシア人だから、日本語が分からないはずだけど」


「ビジョンで分かるんだろう」


 そうか、そうなると、それを利用すればいいか?


「それと相手は恐らく、子どもだ。十歳前後と言ったところだな? 声音の音声解析から推察した結果だが」


 それは驚きだな・・・・・・


 こいつに対する、不快感の正体としてはそれなのか?


 だが、それを利用しないわけにはいかない。


 相手はロシア語で何かを言っている。


 心を読んでいるから、何かをしでかすというのはバレているか?


 確かにこいつは十歳の子どもにしては、強過ぎる。


 だが、しょせんは子どもは子どもだ。


 お姉さんが、飛び切りのビジョンを見せて、地獄に送ってやるよ。


 そう言って、日下部は対艦刀を持って、敵に突貫した。


「ワンセコンド」


 その瞬間を狙った。


 日下部は年末に利用した、女性用風俗での情事の数々を思い起こしていた。


 すると、相手は「うぅ・・・・・・」と戸惑いを見せた。


 くたばれ! クソガキ!


 そう言って、日下部は動きの止まった、相手の心臓部めがけて、突貫をする。


 ついでに自分の喘ぎ声もビジョンに乗せておけ。


 それにしても、あの男はハンサムだったな・・・・・・


 おかげで何度も・・・・・・


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 相手が子どもの声音で叫び始める。


 それと同時に日下部は相手の心臓部を対艦刀で突き刺した。


 完全な私の勝利だ。


「桜、完全な即死だ。生体反応が消えたよ」


「子どもには酷なビジョンだったね?」


「・・・・・・子ども相手でも、容赦ないんだな?」


「だって、嫌いだもん、子ども」


 そう言って、日下部は対艦刀を引き抜くと、血が吹き上がった。


 とりあえず、日下部は対艦刀を転送して、相手の死体を蹴り倒して、捨てると、周囲を見渡した。


「隊長を探さなきゃ・・・・・・」


「桜・・・・・・」


「無駄かもしれないけど・・・・・・私は諦めきれないんだ」


 そう言った時だった。


「桜ぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そう言って、アメリカのヒーローよろしく、現れたのはターナー大尉だった。


「大丈夫かぁぁぁぁぁ! 桜ぁぁぁぁ!」


「大尉?」


「俺が来たからには安心だ! どこだ、ロシア野郎!」


「おい、もう、片付いたぞ」


 ターナーが装備する、キッドのAIが冷静に指摘する。


「・・・・・・倒したのか?」


「楽なもんでしたよ」


「・・・・・・本当に強いんだな、桜は」


 ターナーが通信を入れると、後から小隊規模でアメリカ軍のソルブスがやって来る。


 グレムリン数機とメシアストライカーとレイザダガーか。


「大尉・・・・・・古谷中隊長の捜索をしたいのですが?」


「古谷? あぁ、あのおっぱいのデカい隊長さんか? やられたのか?」


 何か、別の言い方があるだろう?


 こいつはとりあえず、女性の敵だな。


「右腕を骨折して、背後をガトリングガンで撃たれて、吹雪の中を墜落しました。早くしないと、手遅れになります」


「それはそうだな・・・・・・どうする? 衛星システムを使えば・・・・・・」


 その時だった。


「わた・・・・・・し・・・・・・は」



 通信?


 通信環境が悪いが、確実に通信が入っている。


「隊長! 隊長ですか!」


「くさ・・・・・・かべ・・・・・・」


「スターリンクに切り替えてください! すぐに救援に向かいます!」


 そうして、周囲を捜索している時だった。


「早く・・・・・・助けに来いよ・・・・・・」


 どうやら、スターリンクに通信を切り替えていたそうだ。


「・・・・・・元気そうでなによりです」


「どこ・・・・・・がだよ・・・・・・利き腕は骨折するし、背中はぐちゃぐちゃだ・・・・・・凍死寸前だから、美人が台無しだよ・・・・・・」


「いや、凍死寸前の人はそんな流暢に話せませんから。それにガトリングガンの直撃を受けているから、喋らないでください」


 そう言って、古谷が送った座標を見る。


 港の辺りで、海には落ちていないらしいな・・・・・・


 日下部がその地点へ行くと、倉庫があった。


「各小隊、警戒しろ」


 ターナーがそう言うと、小隊の隊員たちは「クリア!」と言いながら、進んでいく。


 そして、小屋のドアを開ける。


 そこでは血まみれになって、右腕が曲がらない方向に曲がり、背中からは出血をし、今にも凍えそうなほどに身体を震わせている、古谷水姫その人がいた。


「隊長・・・・・・生きていた・・・・・・良かった」


 日下部は泣き出した。


「遅いよ・・・・・・」


「喋らないください・・・・・・傷に触ります・・・・・・でも、良かった」


 古谷の息は荒い。


 早く、帰還しないと・・・・・・


「帰りましょう。この戦争は勝ちますよ」


 そう言って、二人は笑いあった。


 近くではオスプレイの轟音が聞こえていた。


 救援が近い。


 故に古谷は助かる。


 日下部は膝から崩れ落ち、号泣した。


「桜・・・・・・」

 

 ターナーが心配そうに声をかける。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 良かった・・・・・・本当に良かった。


 時刻は午前一時五十三分。


 救援部隊が古谷の救助を始めた。



「ニコライがやられただと?」


 ヤヌーコフは膝から、崩れ落ちる。


 孤児から、優秀な兵器として、育て上げた、私のニコライが日本人ごときに負けただと?


 ニコライが戦果を上げた、暁には、ロシア中の孤児たちに訓練を施し、兵器として、転用をする、私の計画が・・・・・・


「大佐、本国の上層部から通信です」


「・・・・・・カぺべトカを出せ」


 ヤヌーコフはまだ、事態を諦めきれなかった。


「大佐、命令に従ってください」


「私は負けていない! この戦争は勝ってみせる!」


 すると、部下のナターシャ・エリン大尉がこちらに銃を向ける。


「何のつもりだ? 大尉?」


「上層部から、あなたを監視するように命令されていた次第です。命令に従ってください。でなければ、射殺します」


 ヤヌ―コフは表情が引きつるのを感じていた。


 そして、上層部との回線を開く。


「大佐、とんでもないことをしてくれたな?」


「まだ、この戦争は勝てます・・・・・・」


「いや、我々は関与していない。全ては君の個人的なクーデターだよ」


 はっ?


 ヤヌーコフは開いた口が塞がらなかった。


「戦場への少年兵を使った、新兵器の投入計画を上層部に否定された、君はプロジェクトを諦めきれずに、部隊を独自に率い、マフィアと結託してまで、東北海道に侵攻した! これは到底、許される行為ではない!」


 何を言っているんだ・・・・・・こいつらは?


「子どもを兵器にするなどと・・・・・・下劣な戦争屋め! 貴様は軍人の風上にも置けん!」


 違う!


 私は軍の命令に従って・・・・・・


「早急に本国に戻りたまえ、軍法会議にかけた後、君は銃殺刑だ」


「罪深い男だ。自らの野心のために祖国ロシアの名誉を汚した。君は国の恥だ」


「我々は休戦協定で忙しい。二度と連絡をするなよ」


 そう言って、上層部との回線は途絶えた。


「大佐、あなたを国家反逆罪で拘束させて頂きます」


 ナターシャにそう言われた後にヤヌ―コフは再び、膝から崩れ落ちて、ただ、泣き崩れた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ロシア兵に両手を担がれて、手錠をかけられる。


 ロシアは・・・・・・祖国は私を生贄にして、日本やアメリカと事態を手打ちにしようとしているのか?


 私は・・・・・・生贄にされるような人間なのか!


 ヤヌーコフは深い絶望に叩き落されて、拘束された後もひたすら泣いていた。


 日本を襲った、短い戦争が終わった瞬間だった。



 テレビのニュースでは米軍が北海道での戦争に参戦をするということが伝えられていた。


 だが、そんなことよりも、偵察目的で任務に出た、警視庁ISATの安否が分からないことに瑠奈は自宅でヤキモキしていた。


 杏子の夜泣きがひどいのと、亜門の安否が心配で、眠れない夜が続いているが、仕事には行かないといけない。


 法医学教室での仕事も慣れてはきたが、それでも、睡眠不足は補えないというのが心境だ。


 亜門君・・・・・・早く、帰って来てよ。


 すると、呼び鈴が鳴る。


 亜門君?


 そう思った、瑠奈はダッシュで玄関へ向かうが、そこにいたのは父、秀雄だった。


「何だ、パパか」


「何だとは何だ? 大事な話があるぞ」


「何それ?」


 瑠奈がつっけんどんにそう答えると、秀雄が「亜門君が帰って来るそうだ。自衛隊機に乗って、横田基地に着いたらしい・・・・・・こちらに向かっているそうだが、どうする?」と言いながら、微笑む。


 亜門君が帰ってくる・・・・・・


 その一言だけで、瑠奈は崩れ落ち、泣き始めた。


「良かったな」


「亜門くぅん! 良かったよぉ!」


 瑠奈は父親の前で泣き続けた。


 杏子は不思議そうにそれを眺める。


 母親が後から、部屋に入ると「何! どうしたの!」と騒ぎ出すが、瑠奈はそれでも、泣くのを止めなかった。


 杏子が笑い出すのを瑠奈は知覚したが、瑠奈は泣き止むことはなかった。



 その後に米軍が東北海道戦線に参戦して、状況は一変し、ロシア軍は撤退。


 後に日本、アメリカ、ロシアの三カ国の間で、休戦協定が結ばれた。


 これにより、約数日に渡って、行われた、第二次日露戦争は終結をすることとなった。


 しかし、その後が問題であった。


 韓国政財界を揺るがせた、ピョンヤン・イェオンダエへの資金提供問題が日本の政官財界にまで、及んでいたのだ。


 これにより、警視庁公安部は与野党問わず、政官財界に巣くう資金提供者をまるで、粛正するかのように逮捕を続けて、企業トップ、官僚、与野党問わずに政治家などの多くの権力者が逮捕された。


 そして、その元締めとして、逮捕されたのはピョンヤン・イェオンダエに娘を誘拐されていた、羽川慶喜防衛大臣その人であり、長年、ピョンヤン・イェオンダエに資金提供をする、会社を斡旋していたことが判明。


 取り調べに対して、羽川は「娘が韓流に憧れて、韓国に留学した時の交際相手だった男から、娘のあらぬ姿の写真をばらまくと脅されて、資金提供に応じた。政治家として、娘の不貞は何としても隠さないといけなかった」と供述した。


 世論は防衛大臣としてはあまりにも脇が甘すぎるという論調もあったが、父親としての父性をテロリストに利用された、被害者として、見る向きもあり、同情から、ピョンヤン・イェオンダエ憎しという風潮に繋がってもいた。


 それにより、国会は与野党ともに大きく荒れて、国民の政治不信はますます、深化するばかりであった。


 ちなみに誘拐された羽川の令嬢である、優実は北海道の漁村の小屋で凍死寸前になるまで、放置されていたところを陸自の隊員が保護したが、各種SNSや週刊誌で叩かれ続けて、本人は引きこもり状態になってしまったとは聞いていた。


 しかし、自分には関係のないことだなと、古谷水姫は病室のベッドで、スマートフォンをいじりながら、そう思っていた。


 利き腕が使えないのは嫌だな・・・・・・


 スマホすらも満足に使えないじゃないか?


 ただ、連中、ピョンヤン・イェオンダエの狙いはどうあれ、ピースメーカーと呼ばれる、西洋社会を牛耳る秘密結社の存在が明るみになったため、各種SNSを始めとする、ネット上の言論空間は大いに荒れていた。


 しかし、テレビ、ラジオ、新聞、出版などの大手メディアは沈黙。


 政府も官房長官会見で、長官本人が「そのような組織は存在しないと明言いたします」と言い切ったが、それが国内の陰謀論者を中心に更に政治不信を高めて、国内の対米不信感と政府への反感にも繋がっていた。


 だが、野党は取るだろうか? 政権を?


 多分、取れない。


 というよりも取られたら、一番困るのは防衛省、自衛隊だ。


 リベラル政権になれば、間違いなく、国防予算が削られるのは目に浮かぶ。


 私の給料の減額だけでは済まないだろうな?


 古谷が自衛隊病院の病室の外を見ると、木は見事に枯れていた。


「古谷一尉、ご面会ですよ」


 看護師の自衛官がそう言うと、日下部桜がメロンを持って、現れた。


「豪勢ね」


「達也さんが千疋屋で、買ってきたんですよ。あの人、実家がボンボンなんですね・・・・・・」


 日下部がそう言うと、古谷は「タッちゃんが来るんだ・・・・・・切ってくれるんだったら、みんなで食べようよ」と言い出す。


「・・・・・・・どうです? 具合は?」


「最悪だね。噂には聞いていたけど、自衛隊病院は自衛官だとタダで、入院や診療を受け持ってくれるけど、臨床の機会が極端に少ないから、看護師が注射する手が震える有様だよ」


 自衛隊病院は慢性的な人員不足や医官不足に悩まされている。


 理由としては、防衛医大を卒業しても、医者としてのキャリアを形成する上での臨床の機会が民間の病院に比べて、極端に少ないのだ。


 つまりは、仕事が民間の病院に比べて、少ないから、経験値が低い。


 故に看護師が注射針一つもまともに打てないというのは自衛官の間では有名な話だ。


 当然ながら、医師としてのキャリアを考えるならば、別の病院への転職を考えて、自衛隊を辞める医官もいるが、中には生粋の軍オタで、医官を続ける、変り者がいる。


 実際に私の今の主治医がそれだ。


 ちなみに階級は私と同じ、一尉だ。


「娑婆は大変ですよ。防衛大臣は逮捕されるし・・・・・・自衛隊はどうなるんだろうって、みんな、言っていますよ」


「どうでも良いけど、ターナー大尉とはどう?」


 それを聞いた、日下部は「あぁ・・・・・・振ってやりましたよ」と胸を張る。


「偉い!」


「えぇ、最後は泣きながら、横田で手を振っていましたよ」


 古谷は笑いを堪えられなかった。


「私のいない部隊は大丈夫?」


「江草曹長が気を張っていますけどねぇ? 何か、蓮杖中隊長も介入していますけど、恐ろしいほどにスパルタなんですよねぇ、あの人」


 あぁ、それは辛いなぁ・・・・・・


「耐えられる? 骨折だったら、いるぐらいは出来るよ? ただ、背中がガトリングガンで撃たれたから・・・・・・」


 そう言って、動くと、身体に激痛が走る。


「痛い・・・・・・」


「隊長、病人なんですから」


 すると、その時だった。


 達也が現れた。


「タッちゃん!」


「水姫さん・・・・・・大丈夫?」


「タッちゃんの元に帰るために地獄から生還したよ」


 そう言って、古谷は自分でも分かる、満面の笑みを浮かべる。


「あぁ・・・・・・それとさ? 日下部さん、ちょっと、外してもらえるかな?」


「あぁ・・・・・・分かりました」


 そう言われた、日下部がニヤニヤと笑っているのが、何故かはよく分からなかった。


「・・・・・・新人賞取ったんだ」


 えっ!


 売れない、アマチュア物書きもどきのタッちゃんがとうとう、賞を取っただと!


 それは私の中では天変地異的な出来事だぞ!


「マジで・・・・・・でも、当面は仕事続けるでしょう?」


「当面はね? ただ、担当さんから、大きな仕事が舞い込んだら、躊躇なく、今の仕事を辞めるように釘を差されたよ」


 それ、かなり、期待されているじゃん・・・・・・


 もっとも、タッちゃんの小説は人によっては好き嫌いが分かれるけど、結構、独特の引き込まれるような力強い文章だから、私は好きなのだ。


 その、私にとっての無名の愛すべき天才がとうとう、日の目を浴びるのか・・・・・・


 先生になった、タッちゃんは何か、遠い人に見えるな・・・・・・・


 そう思った、古谷だが、達也は「でっ、ここからが本題なんだけど・・・・・・僕と結婚してくれないか?」と唐突に言い出した。


 えっ・・・・・・


 けっ・・・・・・結婚?


 いや、いや、唐突過ぎるだろう・・・・・・


 だが、タイミングとしては最高だろうな?


 私も言うて、今年で齢三十四歳で、少佐階級である、三佐への昇進も控えているから、幕僚連中からの見合い話もうるさくなって来るだろう。


 だから、タッちゃんと結婚できるならば・・・・・・


 でも、絶対に譲れない条件がある。


「良いよ。結婚しよう」


「本当・・・・・・ありがとう・・・・・・」


 達也は気の抜けたように座り込む。


「ただ、条件があるんだよ」


「えっ? 何? 怖いんだけど?」


「簡単なことだよ。自衛官を続けさせて欲しいんだ」


 それを聞いた、達也は「・・・・・・良いけど、また、負傷するかもしれないよ?」と言い出す。


「専業主婦をする私が想像出来るかい?」


 それを聞いた、達也は「無理だな・・・・・・水姫さんは生粋の軍人なんだから」と笑い出す。


「さっ、そうと決まれば、早く、怪我を直して、新居を探さないと。ちなみにタッちゃんは私の転勤には無条件で付いていくことになるよ? 良いね?」


「えぇと・・・・・・出版社って、大体が神保町とかにあるから、首都圏の方がーー」


「良いよね? 転勤で地方に行っても付いてくるよね?」


 若干、威圧気味にそう言うと、達也は「うん・・・・・・担当さんには遠征してもらうか・・・・・・」と納得してくれた。


 やっぱり、タッちゃんは扱いやすい。


 だから、大好きなのだ。


「じゃあ、メロン食べよう。日下部、聞き耳立てているならば、メロンをカットして」


 そう言われた、日下部は「あっ、バレていました? というか、ご結婚、おめでとうございます」と言って、拍手した。


「どうでもいいけど、部隊の隊員にはまだ言うなよ? 結婚式に押しかけられたら、話にならないんだから?」


「いや、多分、隊長が結婚すると知ったら、ショックで自衛隊辞めるか、自殺する隊員も現れると思いますけど、せめて、結婚式に呼んではーー」


「呼ばない。基本は親族とよっぽど、仲の良い同僚じゃないと呼ばない、日下部は呼ぶけどね?」


 そう言われた、日下部は照れ臭そうにはにかみながら「光栄っす・・・・・・」とだけ言った。


 メロンがカットされていく。


 かなり、良い奴だな・・・・・・これは?


 二月を少し超えたばかりの今日は病室にいながら、人生最良の日になったと古谷は感嘆していた。


 メロンがよけいに美味く感じてもいた。



 亜門が夕方に自宅のマンションに戻ると、瑠奈と自分のハコ(交番の通称)時代の上司である、三塚麗奈警部補が机に座って、談笑していた。


「あっ、お帰りー」


「何で、三塚部長が家に居るんだよ?」


「今は巡査部長じゃなくて、警部補で主任だから。それと、あんたには色々と教えないといけない情報があるからさ?」


 いや、いや、よりによって、三塚部長・・・・・・じゃなくて、今は主任だけど、その三塚主任が何で、来るんだよ?


「兵頭警部補は来ないんですか?」


「あんたさぁ? ウチの会社って、最大で六年ぐらいしか、同じ部署には連続でいられないんだよ? 上司がよほどの手練れでごり押しをしない限りはね。まぁ、兵頭主任も慣例として、捜査一課を離れて、今は鑑識課にいるから」


 えっ?


 兵頭警部補が鑑識課に回される・・・・・・


 大丈夫かな? 


 あの人はガサツなのに?


 というか、僕も軽く、六年以上は今の部隊にいるけど、そうかぁ・・・・・・


 小野隊長が上層部に無理を言って、みんなを異動させないんだな。


 自分の所属する部隊の異質性を感じながら、居間に座り込む。


 本当ならば、部屋着に着替えたいが、一応は三塚と言えども、来客なので、それは自重する。


「というわけで、本部捜査一課であんたとサシで話せるのは、今のところは私だけだけど? 何か、文句ある?」


 あっ、そっか、主任って言うぐらいだから、本部に異動になったんだ。


 所轄署だと、警部補は係長だからな・・・・・・


「で、瑠奈と茶を飲みに来たんですか?」


「いや・・・・・・ピョンヤン・イェオンダエに関する捜査情報の提供と言ったところかな?」


 そう言って、三塚はUSBを差し出す。


「連中、どさくさにまぎれて、全部隊を撤退させて、雲隠れしたらしいね」


「えぇ・・・・・・その点はしたたかと言いますか。ただ、この戦争は結局、彼らの勝利に終わったと思うんです」


「ピースメーカーの打倒だっけ? 奴らの目的は?」


 三塚には前に話したことはあるので、当人も理解していたが、彼らはアメリカや西洋社会の支配者である、秘密結社である、ピースメーカーの打倒を今の目的にしている。


 そのための土壌を整えたという点では、この戦争は彼らの勝利だ。


 ロシア軍は結局、マフィアに利用されていただけなのかもしれない。


「・・・・・・まぁ、この場合はハムが追うのかと思うけど、一応はめぼしい、事件とかもあったから、そこに乗せてあるけど、本当に調べるつもり?」


 三塚は不安気な表情を見せる。


「僕は李治道とレイチェル・バーンズの二人を逮捕します」


「・・・・・・友達なんだね」


「あの二人は本来は悪人にならなくても良かったんです」


「・・・・・・そう」


 三塚は席を立ち上がると、杏子の元へ駆け寄る。


「杏子ちゃんって、言ったっけ? お子さん」


 最悪だ・・・・・・


 三塚主任が僕の娘の顔を覗き込むなんて。


「あぁ・・・・・・美形だねぇ、母親似だよ」


「どういう意味ですか!」


 その一連の流れを聞いていた、瑠奈は笑いを必死で堪えていた。


 しかし、杏子が泣き出す。


「あぁ・・・・・・どうしよう? 泣いちゃったよ」


「三塚主任が僕の悪口を言うからですよ」


「あんた、子どもを使って、私をディスるなよ」


 そのやり取りを聞いていた、瑠奈が後ろから「ねぇ? 亜門君、今日は出前にしない? ピザにしようよ!」と言い出す。



「お客さんが来ているんだから、ちゃんとしたものを食わせないと。僕が作るよ」


「いやぁ・・・・・・瑠奈ちゃん、いいよ・・・・・・すぐに上がるから」


 それを聞いた、瑠奈は笑いながら「二人のやり取りが好きなんですよ」とだけ言って「三塚さん、何にします?」と言って、ピザ店のカタログを広げる。


「良い? 一場?」


「ご自由に・・・・・・ただ?」


「何?」


「凄く、怖いお爺ちゃんが帰ってきますね」


 すると、玄関から秀雄がやって来た。


「何だ? 来客か?」


「局長、今日はピザです」


「亜門君、誰か、来ているのか?」


「あのー・・・・・・ハコ時代の上司で、今は一課の主任をやっている、三塚麗奈警部補が来ていまして」


 三塚は秀雄を見ると、瞬時にNSS局長と気付いたらしく「あっ・・・・・・お邪魔しております・・・・・・」と瞬時に普段の強気の姿勢は鳴りを潜め、低姿勢になった。


「あぁ、君が例の新宿のトー横連続殺人事件の時の亜門君の相棒か? 瑠奈とも仲が良いそうだね?」


「いえ、恐縮です」


 そして、秀雄が「じゃあ、着替えて来るよ」と言った後に三塚が亜門を小突く。


「何で、元警視総監の現NSS局長がいるの?」


「そりゃあ、瑠奈の父親ですから」


「・・・・・・あんた、本当に性格悪いよね?」


「まぁ、ゆっくりしていてくださいよ」


「マジで、あんたは恨むよ・・・・・・」


 そういう亜門は自分の部屋へと行こうとするが、瑠奈が「嬉しそうだねぇ? 自分が攻め手に回ると? 後が怖いよ?」と言い出す。


「あぁ、お義父さん、ありがとう・・・・・・」


 そう言う、亜門に対して、瑠奈は笑みを浮かべて、三塚はただ、ひたすら睨みつけるだけだった。


 杏子もはしゃいでいたのを亜門は感じていた。



 季節は夏になった。


 参院選を前に田口内閣が袋小路になるか否かが、焦点となる中ではあるが、東京都議会選でも、自明党は新興政党に負けたので、はっきり言って、田口降ろしがよく、起きなかったなと、日下部は痛感していた。


 自明党が下野すると、防衛省と自衛隊にとっては非常に都合が悪いのというのが、全自衛隊員の共通認識だ。


 民人党が政権を取ると、リベラル色が強くなりすぎて、予算と政策面で国防が蔑ろにされるのは明白だ。


 最悪の場合は全くの軍事の素人が防衛大臣になって、偉そうに文句をつける事態になる。


 クーデターを起こさない、自衛官が圧倒的多数の時点で、驚愕を覚えるな・・・・・・


 そう思っていた最中に古谷から、中隊長室に呼ばれたのだ。


「来たか?」


「えぇ・・・・・・お話とは何でしょうか?」


 古谷はなまめかしく「ふぅん」とため息を吐く。


 その薬指には結婚指輪をしているのが、男子隊員にとっては残酷な事実。


 実際に何人かは泣いていたなぁ・・・・・・中隊長が結婚するって、知った時は?


 そう思っていた時だった。


「九月に大分で米軍と合同演習をする。その時にはターナー大尉が来日するから、君には彼を演習でコテンパンにしてもらいたい」


「・・・・・・構いませんが、それだけのために呼んだわけじゃあないでしょう?」


 それを聞いた、古谷は「察しが良いな? 私の秘蔵っ子だけはある」と言い出した。


「これは極秘の案件だが、米軍との演習を受けたければ、それはそれで構わない。だが、一方で君には再び、国家の大事にまつわる、任務に着くことも話としてはあるが、どうする? ターナーのバカと遊ぶか、世界を救うか、どちらを選ぶ?」


 そりゃあ、当然、バカよりも世界を救うだろう。


「後者で」


「良いだろう。ターナーは全力で我々が抑える。君は任務に全力を注いでくれ」


 よし、これで、あのバガイジンと会わなくて、済むぞ。


 ただ、問題は・・・・・・


「ちなみに任務の内容って、教えてもらえないですよね?」


 そう言われた、古谷は紙に何かを書き出した。


 盗聴を警戒しているのか?


 紙を見た、日下部だが、内容に驚愕した。


―政権へのクーデターが起きようとしている。自衛隊、警察内部にいる、対象者を事前に制圧する、任務に付け!ー


 終わり。



 というわけで、丸々、ワンクールを書いて、気が付けば、春から夏へ・・・・・・・


 私は燃え尽きた・・・・・・


 しばらくは休むのではないかと。


 まぁ、それ以外は・・・・・・・どうだろう?


 とにかく、今まで、連載にお付き合いいただき、ありがとうございました!


 感想等々は各種SNSや活動報告などでお待ちしております!


 皆様、最後まで、ご拝読ありがとうございました!


 次回作もよろしくお願いいたします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ